新郎が本当に愛しているのは結婚相手か元カノか?(映画「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)

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※2023年2月1日更新

サンクゴッドヒーメットリズィー

Thank God He Met Lizzie
(※アメリカでのタイトルは「The Wedding Party」)

(オーストラリア1997年公開、日本未公開/91分/M/ロマンティック・コメディ)

監督:シェリー・ノウラン
出演:リチャード・ロクスバラ/ケイト・ブランシェット/フランセス・オコナー

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 後に2度のオスカー受賞に輝くオージー女優ケイト・ブランシェット(「リトル・フィッシュ」)がハリウッド進出作「パラダイス・ロード」と、同作以上に海外で話題を集めた「オスカーとルシンダ」と同じ1997年に出演したオーストラリア映画。ブランシェットは97年当時まだ28歳だったとはい映画女優としてはどちらかというと遅咲きの部類に入るが、いずれにしても本作の翌年の98年には「エリザベス」のタイトル・ロールを演じ彼女初のオスカー主演女優賞候補となり海外での人気と知名度を揺るぎないものにした。

ガイ(リチャード・ロクスバラ)はリズィー(ケイト・ブランシェット)と出会い結婚式当日を迎える
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 映画のタイトルを日本語に訳すと、第三者が“彼”の幸福(この場合、結婚)を喜んで言う「彼がリズィーに出会えてよかった」となり、ブランシェットはタイトル・ロールのリズィーを演じるが、主人公はリズィーではなく“彼”、リチャード・ロクスバラ(「ブレス あの波の向こうへ」「ムーラン・ルージュ」)演じるガイである(※日本では“Roxburgh”という綴りからか彼の名字を“ロクスバーグ”と書かれるが、エディンバラ<Edinburgh>と同じ発音でロクスバラが正解)。生涯の伴侶を求めていたガイがリズィーと出会い互いに恋に落ち結婚することになり、映画は主に二人の結婚式当日のさまざまなドラマやハプニングを、リズィーと出会う以前のガイの回想シーンを絡めて展開する。ガイとリズィー、そしてガイの回想シーンに登場するガイがかつて同棲していた元カノでフランセス・オコナー扮するジェニーとガイという新旧2カップルの姿を描いた恋愛ドラマだが、混乱させられたり急に現実に引き戻されて興醒めしたりすることなくどちらのシーンにも引き込まれる演出に脱帽。

ガイにはかつて同棲までしていた元カノのジェニー(フランセス・オコナー)がいて…
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 結婚式のシーンにも回想シーンにも大勢のキャラクターが登場するが、ロクスバラを中心にブランシェットとオコナーの3人が主要キャラクターで、同年度オーストラリア・アカデミー賞ではオコナーが主演女優賞枠で、ブランシェットが助演女優賞のカテゴリーで候補となったほか、美術、衣装デザイン、編集賞にもノミネイトされ、ブランシェットが見事受賞した。ブランシェットが映画賞を受賞したのは本作が世界初で、同年度豪アカデミー賞では「オスカーとルシンダ」で主演女優賞候補にもなっていた。同じくオコナーも同じ年に別のオージー映画「キス or キル」で本作と同じく主演女優賞に、つまり2作品で同賞同部門にノミネイトされていた。

タイトル・ロールのリズィー役で豪アカデミー助演女優賞を受賞したケイト・ブランシェット
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 ロクスバラ、ブランシェット、オコナーの3人のオージー男女優(オコナーはイギリス出身のオージー女優)は演技力が文句なしに素晴らしいのはもちろん、3人ともとてつもなく魅力的で、それだけでも本作は成功している。ガイ(ロクスバラ)とジェニー(オコナー)はごく普通の中流家庭出身でリズィー(ブランシェット)はお金持ちのお嬢様という設定だが、ガイは知的で洒落た料理も器用にこなし、リズィーへのプレゼントをラッピングする際にプレゼントそのもの以外にポプリをしのばせその香りでリズィーをうっとりさせるなど、女心をくすぐる洗練されたセンスも持ち合わせており、この二人が引かれ合ったのも自然な流れとして受け入れることができる。

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 ケイト・ブランシェットの“お嬢様役”は本作の2年後に出演したハリウッド映画「リプリー(The Talented Mr. Repley)」(99)でも証明されたが誰が見てもごく自然で、育ちの良さからくる邪気のない性格が一層その持って生まれた美貌を際立たせる典型的なキャラクターを体現。一方、フランセス・オコナーは“庶民派”という役どころになるのだろうがブランシェットとは対照的な親しみやすい美人でもあり、本作では特に顔立ちや髪型・髪の毛の色に至るまで、アメリカ人女優ジェシカ・ハーパーがダリオ・アルジェント監督の大ヒット作「サスペリア」(77)でヒロインを演じた若いころと瓜二つと言っても過言ではないほど似ていて驚き。

 そんなブランシェットとオコナーの美貌もさることながら、スラリとした長身のロクスバラは昨今のハリウッド・スター男優の主流である肉体派ではないし当然、男臭さのようなものもないが、かといって草食男子でもなく、肉体派にはない知性と包容力を感じさせる正統派のハンサムで、こういう男性の方がタイプという女性も少なくないはず。ちなみにロクスバラはハリウッド映画「ヴァン・ヘルシング」(04)のドラキュラ伯爵役のほか、バズ・ラーマン監督、ニコール・キッドマン主演の「ムーラン・ルージュ」(01)でキッドマン扮するヒロインを我が物にしようとする公爵役、別のオージー男優サイモン・ベイカーの初監督作品「ブレス あの波の向こうへ」(17)の、主人公の少年の優しい父親役でも知られる。

 3人以外の出演者はいずれも脇役にすぎないが、ガイがジェニーと出会うきっかけとなった共通の友人シェリル役にシリア・アイルランド(「ゴデス」「マイ・マザー・フランク」)、リズィーの父親役にジョン・ゲイデン(「台風の目」)、ジェニーの父親役にはロイ・ビリング(「ハウス・オブ・ボンド」「マニー・ルイス」「バッド・コップ、バッド・コップ」)、披露宴の招待客役にヘザー・ミッチェル(「パーム・ビーチ」「華麗なるギャツビー」「台風の目」「ミュリエルの結婚」)やヤセック・コーマン(「ブレス あの波の向こうへ」「イースト・ウエスト101 ③」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」)、デボラ・ケネディ(「しあわせの百貨店へようこそ」「ザ・プリンシパル」「マイ・マザー・フランク」「人生は上々だ!」「ティム」)、披露宴当日の会場コーディネイターの担当女性役にジェイン・ターナー(「キャス&キムデレラ」)、婚活中のガイがカフェで“お見合いデイト”するちょっとイッちゃってる若い女性役でルーシー・ベル(「ウォグボーイ」)が、さらにはもっとチョイ役でフェリックス・ウィリアムソン(「パーム・ビーチ」「華麗なるギャツビー」「ストレンジ・プラネット」)にヘレン・トムソン(「バッド・コップ、バッド・コップ」)といった具合に、特にジェイン・ターナーは全豪TV界を代表するスター級のコメディエンヌでもあるので、いわゆる中堅どころのオージー俳優たちは端役でも律儀にさまざまな映画に出演する傾向が強く、そこらへんも好ましい限り。

 結婚式を迎えたガイが、華やかな披露宴の会場で結婚相手のリズィーではなく元カノであるジェニーとの過去を懐かしく振り返るほろ苦い回想シーンのフラッシュバックは説得力があり、映画の中の状況とは全く違っていても、観る者それぞれが自らの過去の恋愛体験を重ね合わせることができるという点でも優れた秀作といえる。

【“リジー”ではなく“リズィー”と記載した理由】本作のタイトルでもあるケイト・ブランシェト演じたキャラクターの名前は、カタカナだと本来“リジー”と書くのが一般的だろう。記者がまだ日本に住んでいた若かりしころ、イギリスを舞台にした日本語の本の中にカタカナで“リジー”と書かれた女性キャラクターが出てきて、イギリス人の知人にこの名前は英語ではどう綴るのか聞いたことがあったが、相手にはどうしても記者の発音を理解してもらえず、それもそのはず、リジー(Lizzie)の“リ”を記者は“L”ではなく“R”で、さらに“ジ”も“Z”ではなく“G”で発音していたから。結果、その相手には、Lizzieとは全く別の女性名である“レジーン(Régine)”だろうと言われたのだが、日本語だとリジーとレジーンは完全に別人だし腑に落ちなかった。本作を観て初めてLizzieという綴りの女性名が存在することを知り、せめてより正確な発音に近いカタカナで記載しようと思った次第である。ちなみにLizzieは本名ではなくエリザベス(Elizabeth)の愛称のひとつ。エリザベスにはリズィー以外にもリズ、ベス、ベティなど非常に多くの愛称が存在する。

STORY
 32歳の独身男ガイ(リチャード・ロクスバラ)は積極的に女性との出会いの場を求めて出かけるが、これといった相手と巡り会えずにいた。そんなある日、偶然リズィー(ケイト・ブランシェット)と出会い二人は恋に落ち、急展開で結婚話がまとまる。お嬢様であるリズィーの両親の財力によって用意された華やかな結婚披露宴の席で、ガイはリズィーと知り合う以前に同棲までしていたジェニー(フランセス・オコナー)のことを思い出す。燃えるように激しく愛し合ったジェニーとの関係をすべて過去にして、実はまだ互いをよく知らないリズィーと落ち着いた結婚生活を営むことが本当に自分の欲していたものだったのか。次々にシャンパンが空けられリズィーも招待客も楽しそうに歓談する中、ガイだけが戸惑いの気持ちを深めていき…。

「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」予告編

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