“ゆるすぎる”工場の経営は立て直せるのか?(映画「スポッツウッド・クラブ」)

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スポッツウッドクラブ
(別邦題:「ホワイトプレジデント 敏腕経営コンサルタント」)

原題:Spotswood
(アメリカでのタイトルはThe Efficiency Expert

(BFIロンドン映画祭で1991年ワールド・プレミアの後、オーストラリア1992年公開、日本2002年DVD化/85分/M/ドラマ/DVD、Amazonプライム、Googleプレイ、Foxtel、YouTubeムービーで観賞可能なほか*ABC iviewiview.abc.net.au/video/ZW4393A001S00*SBSオンディマンドsbs.com.au/ondemand/watch/2275351619637*Plex:watch.plex.tv/ja/movie/the-efficiency-expertで無料配信!

監督:マーク・ジョフィ
出演:アンソニー・ホプキンス/ベン・メンデルソーン/トニ・コレット/ラッセル・クロウ

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 イギリス出身の大御所ハリウッド・スター、アンソニー・ホプキンス主演の1991年のオーストラリア映画。共演者陣がこれまた豪華で、いずれも海外ではまだ無名だったラッセル・クロウ、ベン・メンデルソーン、本作が劇場映画デビュー作となったトニ・コレット、そして後にサイモン・ベイカーと結婚・離婚するレベッカ・リグという(当時の)若手が顔をそろえ、原題にある通りメルボルンに実在する工業地帯のサバーブ、スポッツウッドのモカシン工場を主な舞台として繰り広げられる。全豪映画界で最も権威ある第33回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では作品、主演男優(メンデルソーン)、助演女優(コレット)、助演男優(工場のオーナー役のアルウィン・カーツ)、脚本、編集賞など主要9部門にノミネイトされ、美術、衣装デザイン、撮影賞の3部門を受賞した(当時はまだ“外国人”はAFI賞の候補対象外だったと思われ、ホプキンスが主演男優賞候補に選ばれなかったのは気の毒な限り)。なお、アルウィン・カーツは受賞できなかったがラッセル・クロウもヒューゴ・ウィーヴィングと共演した別のオージー映画「証拠」で同年度AFI賞助演男優賞候補となりクロウが見事受賞した(クロウもオージーではなくオーストラリアのお隣ニュー・ジーランド出身だが俳優として初期の活動の場はもっぱらオーストラリアだった)。

ボールズ社の従業員ケアリー(ベン・メンデルソーン:左)は、同社の経営コンサルタントとして雇われたエロール・ウォレス(アンソニー・ホプキンス)のアシスタントとなる

どちらもハリウッド進出を果たす前のラッセル・クロウとトニ・コレットも共演

 前述の通り、本国での劇場公開当時、アンソニー・ホプキンス以外に日本でも有名だった俳優はひとりもいなかったが、ラッセル・クロウ(「人生は上々だ!ハーケンクロイツネオナチの刻印ブライズオブクライスト」「証拠」)は2000年に「グラディエーター」でオスカー主演男優賞を受賞、トニ・コレット(「ジャパニーズストーリー」「ハーモニー(1996年版)」)は本作の3年後、別のオージー映画「ミュリエルの結婚」(1994)でゴールデン・グローブ賞ミュージカル・コメディ部門主演女優賞にノミネイトされハリウッドに進出、ブルース・ウィリスと共演した「シックス・センス(The Sixth Sense)」(1999)でオスカー助演女優賞にノミネイトされ、ベン・メンデルソーン(「アニマルキングダム」「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男<Darkest Hour>」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)もクリス・オドネル主演のアメリカ映画「バーティカル・リミット」(2000)で主要キャラのひとりを演じるなど3人の若手も日本でもそれなりに知名度を持つようになったことを受けてだろう、オーストラリアでの公開から10年も経った2002年に初めて日本で「スポッツウッド・クラブ」の邦題でDVD化、そのさらに12年後の2014年には「ホワイト・プレジデント 敏腕経営コンサルタント」と邦題を改め再度DVD化、ただし、そちらの日本版パッケージの原題はオーストラリアでの「スポッツウッド」ではなくアメリカでの「ジ・エフィシェンシー・エキスパート」が使用され、当然のようにどちらもパッケージ・デザインは異なるから、知らずに両方買ってしまった日本の映画ファンもいたかもしれない。やはり日本版DVDはどちらもアンソニー・ホプキンスとラッセル・クロウの名前のみ大きく記載され、あたかもラッセル・クロウが主役級の役を演じたように見えるが、クロウは主要キャラのひとりではあっても準主役でもない脇役で、本作でホプキンスに次ぐ準主役といえる役柄を演じたのはベン・メンデルソーンである(なお、本作ではラッセル・クロウが珍しくイヤ〜な営業マン役を演じるのでそちらにも注目を)。

ウェンディ(トニ・コレット)はケアリー(ベン・メンデルソーン)に幼馴染みとして以上の気持ちを抱いているが…

ケアリー(ベン・メンデルソーン)は社長令嬢シェリル(レベッカ・リグ)に一目惚れし…

 マーク・ジョフィ監督(※彼が監督したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)はテレビドラマでの活躍が主だが本作の5年後、再度ベン・メンデルソーンとトニ・コレットを起用して別の劇場映画「ハーモニー(1996年版)」を監督し、どちらも共通しているのはヒューマン・コメディであるという点。クライマックスでは見る者を自然にホロッとさせるという展開でも両者は似ている。ホプキンス演じるエロール・ウォレスは、スポッツウッドのモカシン工場ボールズ社の経営を立て直すコンサルタントとして同社のボール社長から依頼を受ける。その他の主要登場人物は全員同社の従業員だから、ウォレスだけが“よそ者”という役どころで、いざ工場を訪れて初めて、あまりにも“ゆるすぎる”従業員たちの働きぶりを見て唖然とする。冷静沈着に、そして時に冷徹に社長に大幅な人員削減をすすめるウォレスだったが、次第に従業員たちの優しさに心を動かされ…というのが物語の主軸だ。

野心家の営業担当キム・バリー(ラッセル・クロウ)はウォレスに近づき…

 本作と同じ1991年に公開されたハリウッド映画「羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)」で最初の米アカデミー主演男優賞を受賞するアンソニー・ホプキンスは、設定は異なるもののブラッド・ピットと共演した、だがピットではなくホプキンス主演の映画「ジョー・ブラックをよろしく(Meet Joe Black)」(1998)で演じた大企業の社長役を彷彿とさせるような、やり手のビジネス・パーソンではあるが周囲や家族に対する愛情もちゃんと持つウォレス役を好演する。

ウォレスと妻キャロライン(アンジェラ・パンチ・マクレガー)は最近、夫婦仲がギクシャクしており…

 準主役のベン・メンデルソーンを筆頭に、ラッセル・クロウ、トニ・コレット、レベッカ・リグの3人も初々しい魅力に溢れ、印象に残る演技を見せる。それ以外の出演者で日本人に馴染みのある俳優はいないが、本作でAFI賞助演男優賞候補となったヴェテラン・オージー俳優アルウィン・カーツはメル・ギブソンが出世作「マッドマックス」と同じ1979年に主演した「ティム」でギブソン演じるティムの父親役を演じAFI賞助演男優賞に輝いている。また、ベン・メンデルソーン演じるケアリーの同僚かつ友人フランク役に、本作の3年後、トニ・コレットの出世作となった「ミュリエルの結婚」(1994)でコレット演じたタイトル・ロール、ミュリエルの弟役に扮したダン・ワイリー(「アニマルキングダム」「バッドコップバッドコップ」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が、ケアリーの父親でやはり同じ工場で働くロバート役にブルーノ・ロウレンス(「恋に走って」)が、アンソニー・ホプキンスの妻キャロライン役でアンジェラ・パンチ・マクレガー(「バッドコップバッドコップ」「恋に走って」)が起用されている。ダン・ワイリーにとってもコレット同様、本作が劇場映画デビュー作となり、やはりコレット、メンデルソーンとともにジョフィ監督の映画「ハーモニー(1996年版)」にも起用された。

モカシン工場のボール社長役でAFI賞助演男優賞にノミネイトされたアルウィン・カーツ

ケアリー(左)とその同僚かつ友人のフランク(ダン・ワイリー:中央)

 興味深いのはレトロな車や雑誌、社長令嬢シェリル役のレベッカ・リグの1960年代ファッションとヘアスタイルなどが出てくる一方、トニ・コレットが扮したウェンディは映画が製作された1990年代の現代ファッションであること。セリフに1960年代前半のそれぞれ異なる特定の年が3回も出てくる上、細かい点ではあるがアンソニー・ホプキンスが初めてモカシン工場へ向かうシーンで、運転中のホプキンスが道を訪ねる相手が「あっちの方に向かって5マイルくらいだよ」と教えてくれるが、オーストラリアでは1974年にそれまで使っていたマイルから現在のキロへと変更したから、やはり設定は1960年代後半あたりかと思いきや、ラスト・シーンで夕暮れ時、主要キャラ2人の後ろ姿の向こうに見えるのはメルボルンのウエスト・ゲイト・ブリッジで、この橋が開通したのは1978年だから1960年代には存在しなかったことになる。だが、それこそがジョフィ監督の狙いで、観客の時空の感覚を歪ませることによって、観終わった後により印象に残る映画として観る者の脳裏に焼き付けることに成功している。

【セリフにおける英語のヒント】モカシン工場の経営難を受け、ボール社長がモカシン以外に開発している商品として“アフターティー・ウェア(After-tea wear)”、いわゆるナイトガウンが出てくる。アフターティーの“ティー”という言葉は、日本人にとっては“お茶”という意味以外ではほとんど知られていないが、イギリスではもともとは19世紀の労働者階級の人々が仕事から帰宅した後に取る食事をティーと呼ぶようになったのが基となっており、オーストラリアでも普段の家での夕食をティーと呼ぶ人も少なくない。つまり、アフターティー・ウェアは“夕食の後に着る服”=ナイトガウンのことである。

【シーンに見る実在のお菓子】どちらも日本ではあまり一般的ではないが、やはりどちらのシーンでもアンソニー・ホプキンスがボール社長から「いかがですか?」とすすめられるお菓子が2つ登場し、まず最初の“アンザック”は、第一次世界大戦時に遠い異国の地に出征していたオーストラリア・ニュー・ジーランド軍団(ANZAC)兵士の妻や母親たちが腐りにくい素材を用いて焼いたビスケットを戦地の兵士たちのために送ったことからその名で知られ、現在も人気の素朴な美味しさのビスケットである。次に出てくるフェアリー・ケーキはイギリス生まれの小型のカップケーキで、“妖精のケーキ”という名の通り通常のカップケーキより小型なだけでなく上部を可愛らしいアイシングなどでデコレイションされたもの。

STORY
 メルボルンの敏腕経営コンサルタント、エロール・ウォレス(アンソニー・ホプキンス)は工業地帯スポッツウッドのモカシン工場「ボールズ社」のボール社長(アルウィン・カーツ)に依頼を受け、傾きかけた同社の経営を立ち直すことになり、同社の工場を訪れるが、若手だけでなく38年前の創業当時からいる何人もの高齢の従業員も含め全員が効率の悪い仕事ぶりなのを見て唖然とする。互いに幼馴染みのケアリー(ベン・メンデルソーン)とウェンディ(トニ・コレット)はボールズ社の従業員で、家も近所の二人は仲良く自転車で通勤しており、ウェンディはなんとなくケアリーに対して友達以上の感情を抱いているが、社長令嬢シェリル(レベッカ・リグ)が短期的に同社で働くことになり、ケアリーはシェリルの美しさに一目惚れする。社長本人も含め、ゆるすぎるスタッフばかりの中にあって唯一、営業担当で野心家のキム・バリー(ラッセル・クロウ)はウォレスに近づき…。

●マーク・ジョフィ監督のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「ハウスオブボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「ハーモニー(1996年版)」「スポッツウッド・クラブ」ニコール・キッドマン in シャドウ・オブ・ブロンド
●ベンメンデルソーン出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「美しい絵の崩壊」「アニマル・キングダム」「オーストラリア」「サンプル・ピープル」「シークレット・メンズ・ビジネス」「エイミー」「ハーモニー(1996年版)」「泉のセイレーン「スポッツウッド・クラブ」君といた丘
●ダンワイリー出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「アニマル・キングダム」「バッド・コップ、バッド・コップ」「ハーモニー(1996年版)」「ミュリエルの結婚ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印「スポッツウッド・クラブ」

「スポッツウッド・クラブ」予告編

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