オール・セットの絢爛たる世界(映画「ムーラン・ルージュ」)

1

unnamed

※2023年5月13日更新

ムーラン・ルージュ

Moulin Rouge!

(オーストラリア、日本ともに2001年公開/122分/MA15+/恋愛ミュージカル)

監督:バズ・ラーマン
出演:ニコール・キッドマン/ユアン・マクレガー/リチャード・ロクスバラ/デイヴィッド・ウェナム/カイリー・ミノーグ

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 ハリウッド女優となって久しかったニコール・キッドマン(「虹蛇と眠る女」「オーストラリア」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が挑戦した初のミュージカル映画で、前夫トム・クルーズとの離婚の翌年、こちらも初の米オスカー主演女優賞候補となった作品。豪米合作映画として両国出資の5,000万ドルの予算に対し1億8,000万ドル以上の興収を弾き出し、「バットマン・フォーエヴァー」(95)や「アクアマン」(18)など助演作ではなく純然たる主演作としてもキッドマンの最大のヒット作として有名(※数字だけを見ると実際には興収2億ドルを突破した08年のキッドマン主演作「オーストラリア」の方が上だが、「オーストラリア」は製作費も1億ドル以上投じられている)。豪米合作映画とはいえキャストもスタッフもほとんどがオーストラリア人で占められ、全編シドニーのフォックス・スタジオにセットを組んで撮影されたから、“アメリカも出資したオーストラリア映画”と例えてもいいだろう。オリジナル楽曲のほかマドンナやエルトン・ジョン、ビートルズなどのヒット曲を盛り込んでいる点も話題を集めた。

互いに引かれ合うサティーヌ(ニコール・キッドマン)とクリスチャン(ユアン・マクレガー)
1_blog

 監督は日本でもヒットした「ダンシング・ヒーロー」(92)やレオナルド・ディカプリオ主演版「ロミオ+ジュリエット」(96)のバズ・ラーマン(「エルヴィス」「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」)で、その2作と本作までを合わせてラーマン監督の“ミュージカル三部作”と呼ばれている(※「ダンシング〜」と「ロミオ〜」はミュージカルではないが音楽が重要な位置を占める)。ラーマン監督夫人で夫が監督したすべての映画の美術監督を務めているキャサリン・マーティンが本作でも美術監督と衣装デザインを担当、同年度オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では作品、監督、主演男優(ユアン・マクレガー)、主演女優(キッドマン)、助演男優賞(公爵役のリチャード・ロクスバラ)など10部門にノミネイトされ、衣装デザイン、音響、編集、美術、撮影賞の5部門受賞に輝いた。米オスカーでもキッドマンの主演女優だけでなく作品賞を含み8部門で候補となり、美術、衣装デザイン賞の2部門を受賞した。ちなみにキャサリン・マーティンは本作と「華麗なるギャツビー」で2度オスカー受賞(両作品とも美術賞と衣装デザイン賞の2部門を制覇)、「エルヴィス」「オーストラリア」「ロミオ+ジュリエット」を含めこれまでに合計5作品(つまりハリウッド進出後のすべてのラーマン監督作品)でオスカーにノミネイトされている。

米豪の権威ある映画賞で衣装デザイン賞と美術賞を受賞した華麗な衣装やアクセサリー、セットにも注目(右はサティーヌに言い寄る公爵役のリチャード・ロクスバラ)
2

 キッドマンは本作の翌年、「めぐり会う時間たち(The Hours)」(02)で再度オスカー主演女優賞候補となり見事受賞、史上初のオージー・オスカー女優となったが、キッドマン最大の当たり役という意味では圧倒的に「ムーラン・ルージュ」のインパクトの方が強い。観終わった時に、さてキッドマンの演技は上手だったのか下手だったのか、そんなことなどどうでもいいと思わせるほど、本作におけるキッドマンの美貌は光り輝いている。歌って踊れるという隠れた才能を発揮した点でも高く評価されるに値する。

 スコットランドから招かれて撮影参加のもう一人の主人公を演じたユアン・マクレガーも本作の出演者の中で一番の歌唱力を披露、また、キッドマン演じるサティーヌを我がものにしようと狙う公爵役のオージー男優で「ヴァン・ヘルシング」(04)のドラキュラ伯爵役が有名なリチャード・ロクスバラ(「エルヴィス」「ブレス あの波の向こうへ」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)も好演(※日本では“Roxburgh”という綴りからか彼の名字を“ロクスバーグ”と書かれるが、エディンバラ<Edinburgh>と同じ発音でロクスバラが正解)。特にロクスバラは本来正統派のハンサムかつ知的な雰囲気の役柄が多い中、本作では裏声も使ったりして情けない公爵を違和感なく演じて笑わせてくれる。

 オージー男優ではほかにも、二枚目から三枚目まで何でもこなすデイヴィッド・ウェナム(「エルヴィス」「LION/ライオン 〜25年目のただいま」「ドリッピング・イン・チョコレート」「オーストラリア」「ハーモニー <1996年版>」)が本作では女装キャラクターで登場、ファンでもしばらくはそれがウェナムだと気づかないかもしれない。さらにもう一人、性格俳優ヤセック・コーマン(「ブレス あの波の向こうへ」「イースト・ウエスト101 ③」「オーストラリア」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)が野太い声の野性味溢れる男臭い魅力を持つアルゼンチン人に扮しているのが印象的(※日本では“Jacek”という綴りから彼のファースト・ネイムを“ジャセック”と書かれるが、ポーランド出身のオージーであるためヤセックが正解)。そして、役柄としては大きくないものの実在の作曲家エリック・サティ役のマシュー・ウィテット(「バッドコップバッドコップ」)は本作で初めてバズ・ラーマン監督に起用され、その後「オーストラリア」(08)、「華麗なるギャツビー」(13)、とヤセック・コーマンと並び3作続けてラーマン監督作品に出演。もうひとり、こちらは端役にすぎないがサティーヌを診察する医師役で出演のギャリー・マクドナルド(「バッドコップバッドコップ」「ピクニックatハンギングロック」)はコメディアンとしてオーストラリアではかつて国民的人気を誇った存在でもあり、自身が生み出した“ノーマン・ガンストン”というキャラクターの名を冠したTVコメディ番組もあったほど。

 マクレガー以外ではムーラン・ルージュのオーナー役にスコットランドからジム・ブロードベントが、実在の画家ロートレック役にアメリカからジョン・レグイザモが招かれたほか、後述のカイリー・ミノーグが登場するシーンで彼女の悪魔的な笑い声をオジー・オズボーンが吹き替えているという話題も。

デイヴィッド・ウェナムは女装の作家役(中央)で前半の数十分のみ登場(右はマシュー・ウィテット)
4

ムーラン・ルージュの一座の愉快な仲間たち(右端がニコール・キッドマン、その隣がユアン・マクレガー、その左隣がジム・ブロードベント、左端にマシュー・ウィテット、前列中央にヤセック・コーマン、その真後ろにジョン・レグイザモ)
5

 キッドマン以外の女優で一番美味しい役どころを演じたのは1シーンだけ登場のカイリー・ミノーグ(「恋に走って」)で、出番こそわずかながらコケティッシュな魅力を振りまき、フレッシュな印象を残すことに成功している。本作とは関係ないが、キッドマンとミノーグといえば、UKミュージシャンのロビー・ウィリアムズのシングルでそれぞれデュエットしたオージー女性アーティストという共通点を持つ。ほか、ムーラン・ルージュの踊り子たちの世話をする、踊り子たちにとっての母親的存在のマリー役にヴェテラン・オージー女優ケリー・ウォーカー(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」「オーストラリア」「アリブランディを探して」「ハーモニー <1996年版>」「ベイブ<声>」)。そして、“売春婦”という役柄でチラッとだけ出てくるチョイ役にすぎないが、本作のラーマン監督の監督デビュー作にして出世作でもある「ダンシング・ヒーロー」(92)でヒロインを演じたタラ・モーリス(「キャンディ」)も登場。

1シーンだけ登場のカイリー・ミノーグ
3

このシーンのように明らかに背景が絵だったりと、あえてオール・セットと観客に分かるよう意識されたセットはすべてシドニーのフォックス・スタジオに組まれた
6

「椿姫」を題材にしたストーリー自体は決して新鮮ではないが、ラーマン監督の斬新な手法によって、圧巻のカンカン・シーンを含み絢爛たるパリのムーラン・ルージュを非常にシュールに、デカダンの要素たっぷりに描いている。ドタバタ・コメディ調の前半から、俄然大きな盛り上がりを見せるドラマティックなクライマックスまで、観る者の目をとらえて離さない。きらめきたる衣装やセットも含み、恋人やパートナー同士はもちろん、アクション巨編顔負けの圧倒的なカメラワークは普段あまりミュージカルや恋愛映画に興味がない男性が観ても十分楽しめ、幅広い層におすすめ。

 ちなみにオーストラリア映画界ではミュージカル作品の存在自体が珍しいが、本作以外に「ゴデス」(13)というロマンティック・コメディ・ミュージカル映画もあり、興味がある人はそちらもぜひ観賞をおすすめ。

【シーンに見るライフスタイル】クリスチャン(ユアン・マクレガー)が仲間たちと緑色の飲み物を飲み、幻覚として目の前に現れるグリーン・フェアリー(カイリー・ミノーグ)を見るシーンで出てくる“アブサン(Absinthe)”は1900年当時、広く愛飲されていた非常にアルコール度数の高い実在のリキュール。

STORY
 1900年、花の都パリへやってきた作家志望の青年クリスチャン(ユアン・マクレガー)は、ひょんなことから高級ナイトクラブ、ムーラン・ルージュで行われるショウの台本を書くことになり、ムーラン・ルージュいちの売れっ子スターであるサティーヌ(ニコール・キッドマン)に一目惚れ。一方のサティーヌは、クリスチャンのことを彼女に思いを寄せる富豪の公爵(リチャード・ロクスバラ)と勘違い。公爵の愛人になって手っ取り早くムーラン・ルージュから足を洗い大女優になりたいと思っていたサティーヌは、クリスチャンの正体が作家の卵にすぎないことを知り失望するが、徐々にクリスチャンに引かれていく。公爵の目を盗んで束の間の幸せを噛みしめる二人だったが、人気絶頂のサティーヌは血を吐くようになり…。

●ニコールキッドマン出演のその他のオージー映画:「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「虹蛇と眠る女」「オーストラリア「ムーラン・ルージュ」デッド・カーム/戦慄の航海」「BMXアドベンチャー」「ブッシュ・クリスマス

「ムーラン・ルージュ」予告編

「オージー映画でカウチ・ポテト」トップに戻るoz_movie_top