全豪映画史上最も格調高い恋愛映画「わが青春の輝き」

My_Brilliant_Career_poster1807.jpgわが青春の輝き

My Brilliant Career

(オーストラリア1979年、日本1982年公開/100分/G/恋愛ドラマ)

監督:ジリアン・アームストロング
出演:ジュディ・デイヴィス/サム・ニール/ウェンディ・ヒューズ/ロバート・グラッブ

 

 パース出身の女優ジュディ・デイヴィス、ニュー・ジーランド出身の男優サム・ニール(「ハウス・オブ・ボンド」「リトル・フィッシュ」)、そしてメルボルン出身の女性監督ジリアン・アームストロング、この3人の出世作として知られる映画で、同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)9部門11候補となり見事、作品、監督、脚色、美術、衣装デザイン、撮影賞の主要6部門を制覇。残念ながら受賞を逸したのはいずれも演技部門の5人で、ヒロイン、シビラ役のデイヴィスが主演女優賞にノミネイトされたのは驚くことではないが、助演女優賞のカテゴリーになんと本作から3人もの女優(シビラの祖母、大叔母、叔母役)が、そして男優では唯一、シビラに思いを寄せる(が相手にされない)フランク役のロバート・グラッブが助演男優賞候補となった。海外でも高い評価を受け、デイヴィスが英アカデミー(BAFTA)主演女優賞と新人賞のダブル受賞に輝いたほか、カンヌ映画祭パルム・ドール、米アカデミー衣装デザイン賞、米ゴールデン・グローブ外国映画賞にもノミネイトされた。

主演のジュディ・デイヴィスとサム・ニール
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 原作は20世紀前半のオーストラリア文学界を代表する女性作家マイルズ・フランクリン(1879~1954)のデビュー作として1901年に出版された半自叙伝的同名小説で(日本でも95年に岩波少年文庫より邦訳本が出版された)、つまりは別のオージー映画でこちらも高く評価された「アリブランディを探して(Looking for Alibrandi)」(00)と同じく原作・監督・主演いずれも女性である。前述の通り豪アカデミー賞におけるデイヴィスの主演女優賞候補以外に助演女優賞にも3人もノミネイトされ、本作で美術賞と衣装デザイン賞を受賞したのもそれぞれ女性である。21世紀の現代においてなお、映画界における女性の地位向上を当の人気女優たちが公の場で声高に訴えているが、1970年代当時からこうして女性中心の作品で脚光を浴びた映画もちゃんと存在するのだ。全くの余談だが映画界の衣装デザイナーにはなぜか女性が多く、というより女性の活躍が際立って目立ち、いずれもオージーではないが米アカデミー賞に生涯で35回もノミネイトされ受賞自体も8回という驚異的な記録を誇る故イーディス・ヘッドを筆頭に、同候補9回・受賞4回のミレーナ・カノネロ、候補11回・受賞3回のサンディ・パウエルなどがいて、カノネロとパウエルはともにまだ現役。この3人の候補・受賞作品も絢爛豪華なライン・アップなので、興味を持たれた人はぜひ検索を。いずれにしても通常のファッション界では女性デザイナーの数が少ないのと比べて興味深い事実だといえるだろう。

牧歌的な描写も随所に散りばめられている
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 冒頭で触れた3人だが、まずデイヴィスは本作の5年後に主演した「インドへの道(A Passage to India)」(84)でオスカー主演女優賞賞にノミネイトされ演技派女優の地位を確立、その後はウディ・アレン監督のお気に入り女優としてアレン作品に何本か出演、2度目のオスカー候補作(助演女優賞)もアレン監督の「夫たち、妻たち(Husband and Wives)」(92)だった。デビュー前はシドニーの国立演劇大学(NIDAの頭文字を取って通称ナイダと呼ばれる)でメル・ギブソンと学んだ仲。

田舎の貧しいファームに生まれ育ちながらもいつか小説家になることを夢見るシビラ(ジュディ・デイヴィス)
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 ニールは本作を機にA級ホラー映画「オーメン/最後の闘争(Omen III: The Final Conflict)」(81)の主役の座を射止めハリウッド・スターの仲間入りを果たし、一方でデイヴィス、ニールともに現在に至るまでオーストラリア映画にも律儀に出演している。ただデイヴィスと違ってニールの場合、本作は別にして脚本選びが下手なのか、豪アカデミー賞こそ過去7回ノミネイトされ、うち1度受賞したものの、オスカーには一度もノミネイトされていないのが気の毒。

シビラのまた従兄弟でハンサムな青年に成長したハリー(サム・ニール)
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 アームストロング監督は本作の後、メル・ギブソンとダイアン・キートン主演の「燃え尽きるまで(Mrs. Soffel)」(84)でハリウッド進出、ウィノナ・ライダー主演版「若草物語(Little Women)」(94)、「オスカーとルシンダ(Oscar and Lucinda)」(97)、「シャーロット・グレイ」(01)など、本作もそうだが19世紀後半から20世紀前半を舞台にした“時代モノ作品”を得意とし、いずれも世界的な評価を得ている。

シビラの叔母(ウェンディ・ヒューズ:左)と祖母(アイリーン・ブリトン)役の女優が豪アカデミー助演女優賞候補に
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シビラの大叔母役のパトリシア・ケネディ(中央)も助演女優賞候補に
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 撮影は全編ニュー・サウス・ウェールズ州の田舎で行われ、物語の舞台である19世紀後半のオーストラリア植民地時代を正確な時代考証の下に再現している。ファームで働く人々の貧しさ、それに対して英ヴィクトリア朝時代の生活様式をオーストラリアで忠実に踏襲した上流階級の人々の豊かさ…。主人公シビラはその両方を体験する。

シビラ(ジュディ・デイヴィス:右)に思いを寄せるが相手にされないフランク役で豪アカデミー助演男優賞にノミネイトされたロバート・グラッブ
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 シューマン作曲のピアノ曲集「子供の情景(Childhood)」の第1曲「見知らぬ国と人々について(Foreign Lands and People)」が本作の主題歌といってもよく、劇中、シビラ自身が2度ピアノで演奏するだけでなく、サウンドトラックとしても何度も効果的に登場する。シビラはファーム時代に1回、祖母の家に引き取られてから1回この曲を弾くが、同じ曲でもみすぼらしい田舎娘が調律の狂ったピアノで弾くのと豪奢な祖母の邸宅で着飾ったレディとして弾くのとでは受ける印象も全く異なり、このあたりのコントラストも見事。

 今でこそ大御所の貫禄たっぷりのデイヴィスとニールだが、二人とも本作で見せるみずみずしさ、美しさ、そして若さは眩しいほど。特に縮れ毛の本作でのデイヴィスは、ニコール・キッドマンが二十歳前後だったころを思い起こさせ、といってもデイヴィスのほうがキッドマンより12歳年上だからデイヴィスが“元祖”ということになるが、中年以降のデイヴィスとニールしか知らない人が本作を観たら新鮮な驚きをもたらしてくれるだろう。

多感なシビラをジュディ・デイヴィスが好演
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 貧しいファームで生まれ育ったシビラ自身、辟易しているように、観ているだけでゲンナリしてしまうファームでの現実的な生活描写もリアルだが、裕福な祖母の家にシビラが単身引き取られてから環境がガラリと一転、観賞者もシビラ同様、豊かな人々の暮らしぶりに目を見張りつつ、再会したまた従兄弟のハリー(ニール)とシビラが牧歌的な風景の下で子供時代のように舟遊びや追いかけっこをしながら互いに少しずつ引かれていく恋の行方に自然に引き込まれていく。全豪映画史上最も格調高い恋愛映画といってもよく、必ずしもハッピー・エンドではないかもしれないが、観終わった時にきっと、ラスト・シーンでシビラが見せる表情と同じすがすがしい気持ちになれるはず。

【シーンに見るオージーライフスタイル】シビラ(ジュディ・デイヴィス)が祖母の大邸宅に引き取られた初日、晩餐の席でメイドがシビラの脇に立ってうやうやしく皿ごと差し出した肉料理の付け合わせの野菜をシビラがほんのちょっとだけ自分の皿に取ると、祖母に「(遠慮しないで)もっとお取りなさい」と言われるシーンがある。このシーンでの付け合わせはそれぞれゆでた(または蒸した)ニンジンとインゲンで、現代でもこの組み合わせはマッシュポテトと並んでオーストラリアにおける肉料理の付け合わせの王道的存在。田舎から出てきたばかりのシビラがぎこちない動作でそれらを取る一方、メイドがその次に皿を差し出したフランク(ロバート・グラッブ)は英国から来た上流階級の青年として非常に上品な手さばきで取る点にも注目。

Story

 1890年代のオーストラリア。田舎の貧しいファームで生まれ育ったシビラ(ジュディ・デイヴィス)は小説家になることを夢見ているが、家計が苦しいため母から家を出て使用人として働くことをすすめられ大反発。幸いなことに遠く離れた母方の実家は裕福で、今も健在な祖母がシビラを自分の屋敷に引き取って面倒を見てくれることになった。祖母の家にはシビラの母の妹で出戻りの美しく優しい叔母ヘレン(ウェンディ・ヒューズ)と、英国から来た資産家の遠縁フランク(ロバート・グラッブ)が住み込んでおり、シビラは祖母を取り巻く上流社会の人々とその上品で豊かな暮らしぶりに目を丸くする。フランクはシビラに一目惚れし、祖母も似合いのカップルだとすすめるが、シビラは全くその気になれない。そんなある日、シビラは祖母の姉であるガシー大叔母の孫息子でシビラのまた従兄弟に当たるハリー(サム・ニール)と再会する。見違えるようなハンサムな青年になったハリーにシビラは引かれ…。

「わが青春の輝き」予告編

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