Google Earthが起こした21世紀の奇跡「LION/ライオン ~25年目のただいま~」

lion_poster1808.jpgLION/ライオン25年目のただいま~」

Lion

(2016年に第41回トロント国際映画祭でプレミア上映後、オーストラリア・日本ともに2017年公開/118分/PG/ドラマ)

監督:ガース・デイヴィス
出演:サニー・パワール/デーヴ・パテール/ニコール・キッドマン/デイヴィッド・ウェナム/ルーニー・マーラ

 

 実話を基にした豪英米3カ国合作の感動のドラマ映画「LION/ライオン ~25年目のただいま~」は2016年、第41回トロント国際映画祭にてプレミア上映された後、世界各国で封切られ大反響を巻き起こし、1,200万ドルの製作費の10倍の1億2,000万ドル以上もの興収を弾き出す大ヒットを記録した。アクション巨編などのブロックバスターではなく純然たるドラマ作品としては近年稀に見る巨額の売り上げで、オージー監督ガース・デイヴィスの劇場映画監督デビュー作にして大出世作となった。同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞では作品、監督、主演男優(主人公サルーの幼少時代を演じたサニー・パワール)、助演男優(同・大人時代のデーヴ・パテール)、助演女優(ニコール・キッドマン)、撮影、美術、編集、音楽、衣装デザイン、音響、脚色賞という主要12部門にノミネイトされ、12部門すべてを受賞するという快挙を果たした。米アカデミー賞ではいずれも受賞を逸したとはいえこちらも作品、助演男優(パテール)、助演女優(キッドマン)、脚色、撮影、音楽賞の主要6部門にノミネイトされた。オージー・オスカー女優キッドマンにとっては4度目にして初めて主演ではなく助演女優賞枠でのオスカー候補作となったが、あえて脇役に徹したことでその演技力がさらに際立ち、キッドマンの女優根性が報われた助演女優賞ノミネイションといえるだろう。

可愛らしさと天才的な演技力を併せ持ち、前半部分だけでなく映画そのものを成功へと導いた幼少時代のサルー役のサニー・パワール
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 原作はインド系オーストラリア人サルー・ブライアリーが2013年に出版したノン・フィクション本で、日本でも邦訳版が出された「25年目の『ただいま』/5歳で迷子になった僕と家族の物語(A Long Way Home)」。インドの片田舎で生まれた著者が5歳の時に迷子になり孤児院に入れられ、ほどなくしてオーストラリア人夫妻に養子縁組されオーストラリアで何不自由なく暮らし立派な青年となるが、20年も前の5歳の時の記憶だけを頼りに、Googleが開発した一般無料公開のヴァーチュアル地球儀Google Earth(グーグル・アース)を使ってインドの生まれ故郷を探し当てるという実話だ。Google Earthが初公開されたのは2005年だから21世紀ならではの奇跡といえるが、それにしたところでインドの国土面積は日本の9倍近くもあるのだ。幾千、いや幾万もの町や村が存在するであろう中から5歳だった20年前に自分が住んでいた場所を特定できたのは、まさしく奇跡にほかならない。

弟思いの兄グドゥ(アビシェーク・バラト)と貨物列車から石炭を盗み、町で牛乳2袋に換えてもらったサルー(サニー・パワール)
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 映画は5歳のサルーが迷子になって養子縁組されるまでを前半、その20年後、大人になって以降を後半とし、撮影は前半部分がインド、後半はタスマニア州ホバートとヴィクトリア州メルボルンで行われた。前半では貧しいながらも実母や兄の愛情をたっぷり受け、幸せなサルーの幼少時代が非常に丁寧に描かれている。幼少期のサルーを演じたサニー・パワールは顔立ちや表情だけでなくあどけないしゃべり方や動作に至るまで驚きの可愛らしさで、同時に天才的な演技力を併せ持ち、撮影時には既に7歳だったが誰が見ても自然な5歳児を体現している。

ホームレスになってしまい、レストランで食事する男性の仕草を羨ましそうに真似するサルー(サニー・パワール)
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 サルーの美しく優しい実母役のプリヤンカ・ボセ、そしてサルーがよくなついている弟思いの兄グドゥ役のアビシェーク・バラトも素晴らしい演技を見せる。実の親兄弟と離れ離れになる前のサルーがインドで幸せだったからこそ、その後20年が過ぎてもどうしても母と兄にもう一度会いたいと自分の故郷を必死に探し求める姿が真に迫るわけで、前半部分あっての後半である。

採石場で石拾いをして細々と子供たちを養っているサルーの実母(プリヤンカ・ボセ)
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 前半のインパクトが圧倒的に大きいながらも、サルーを養子に迎え実の子のように愛情を注ぐ育ての親であるスーとジョンの夫婦役に、ニコール・キッドマン(「虹蛇と眠る女」「オーストラリア」)と「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや「300〈スリーハンドレッド〉」シリーズのオージー男優デイヴィッド・ウェナム(「オーストラリア」)、そしてサルーのガールフレンド、ルーシー役に「ドラゴン・タトゥーの女(The Girl with the Dragon Tatoo)」(11)と「キャロル」(15)で2度のオスカー候補歴を持つ米国人女優ルーニー・マーラ、と後半の俳優陣も演技派ぞろい。かつ前半がインド国外ではさほど知名度がない俳優たちたちばかりだったのに対し、後半は世界的に有名なハリウッド・スターたちで固めている。特にキッドマンに関しては、なぜサルーを養子に迎えたかを大人になったサルー本人に乾いた声で淡々と語る独白的なシーンが見事で、さすがオスカー女優と唸らざるを得ない。ちなみに本作のガース・デイヴィス監督は本作の次に手がけた映画「メアリー・マグダレン」(18)で再度ルーニー・マーラを起用、マーラはタイトル・ロールであるヒロイン、マリア役を射止めた。

スー(ニコール・キッドマン)とジョン(デイヴィッド・ウェナム)のオーストラリア人夫妻に養子に迎えられ、インドから夫妻の住むホバートにやってきたサルー(サニー・パワール)
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 もちろん、後半の主人公である大人時代のサルーを演じたデーヴ・パテールの存在も忘れてはならない。「スラムドッグ$ミリオネア」(08)で世界的な注目を集めハリウッド俳優の仲間入りを果たしたことでお馴染み、英国から招かれて参加のパテールは、インド系英国人ながら完璧に近いオージー・アクセント、それもコテコテのオージー・イングリッシュではなく日本人にも聞き取りやすい都市部のオージーたちの発音を巧みに操り、インドの故郷とともにオーストラリアで自らのアイデンティティも探し求めるサルーを好演。

 ほかにもサルーの大学のクラスメイトの男女役に、本作ではあまり出番がなかったが翌17年、それぞれオーストラリアの連ドラ「パルス」でメイン・キャラクターとして出演したアーカ・ダスとパラヴィ・シャーダが扮している。

育ての親であるスー(ニコール・キッドマン)とジョン(デイヴィッド・ウェナム)夫妻に実の子のような愛情を注がれ立派な青年へと成長したサルー(デーヴ・パテール)
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 1986年当時のインドの貧困層の描写は、これがほんの30年ちょっと前、日本がバブル盛期を謳歌していたのと同じ時代とはとても思えないほど壮絶で、インド国内における貧富の差がいかに激しいかを改めて考えさせられる。迷子になったサルー自身、人買いに狙われたり、引き取られた孤児院でもサルーが受けるわけではないがそこで働く大人たちによる孤児への性的虐待があったりする(映画の中でも触れられるが、インドでは毎年、実に8万人もの子供たちが行方不明になっているという)。救いは、前述の通りサルーが愛情溢れる家族に恵まれたこと。これは映画の後半部分にも通じるが、家族愛の素晴らしさが本作のもう一つのテーマといえる。どれほど貧しくとも、または血が繋がっていなくとも、揺るぎない家族愛に育まれて大人になった人間は、強く、そして優しくなれることをサルーとその家族は教えてくれる。

成長したサルー(デーヴ・パテール)は大学のクラスメイト、ルーシー(ルーニー・マーラ)と恋に落ち…
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 できれば一度だけでなく何度か繰り返し観賞したい秀作で、実際、感動させられるシーンが観るたびに変わるのが不思議だ。前回観た時には泣けなかったのにというシーンで泣けたり、といった具合に。ところでタイトルの「ライオン」とは何を意味するのか?それは映画の一番最後、オージー女性ミュージシャン、シーア(Sia)が本作のために手がけた壮大なスケイルの主題歌で歌詞の内容も主人公サルーの思いをそのまま代弁した「ネヴァー・ギヴ・アップ」のインド風のイントロとともに、エンド・クレジットが流れる直前に初めて種明かしされる。登場人物の誰かの演技やセリフではなくスクリーンに映し出される一言の文字によってだが、そこも鳥肌が立つ感動ポイントのひとつである。

ニコール・キッドマンが迫真の演技を見せる注目シーン!
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【セリフにおける英語のヒント】成長したサルー(デーヴ・パテール)がタスマニア州ホバートの実家を出てヴィクトリア州メルボルンの大学に進学する門出を祝って両親とレストランでランチを取るシーンで、母スー(ニコール・キッドマン)がスパークリング・ワインを一口飲んで「これ美味しいわ」と言うと、父ジョン(デイヴィッド・ウェナム)が「そうだね、地元産のやつだよ」と答える。ワインの一大産出国オーストラリアの中でタスマニア州も美味しいワインの産地として知られる。

Story

 1986年、インドの小さな田舎町で暮らす5歳の男の子サルー(サニー・パワール)は、貧しいながらも美しく優しい母(プリヤンカ・ボセ)と弟思いの兄グドゥ(アビシェーク・バラト)の愛情に包まれ幸せに暮らしていた。ある夜、サルーは駅に停車していた無人列車の中に入って眠ってしまい、目覚めた時には列車は全速力でどこかに向けて走っており、数日後、やっと停車したのは故郷から1万キロも離れた大都市コルカタだった。ホームレス生活を送るようになったサルーは人買いに狙われたりしながらもなんとか難を逃れ、心あるインド人青年のおかげで警察へ連れていかれるが、サルーは自分の名字はおろか母親の名前も知らないため身元が分からず孤児院へ入れられる。3カ月後、サルーを養子に迎えたいというオーストラリア人スー(ニコール・キッドマン)とジョン(デイヴィッド・ウェナム)夫妻の写真を見せられ、サルーは付き添いの女性に伴われ夫妻が住むタスマニア州へと飛ぶ。英語もほとんど話せないサルーだったがスーとジョンに実の子のように愛情を注いで育てられ、20年後、立派な青年へと成長したサルー(デーヴ・パテール)は親元を離れ、メルボルンの大学へ進学。インド人のクラスメイトの家での食事会で、インドの伝統的な揚げ菓子「ジャレビ」が用意されているのを見たサルーの脳裏に、遠い昔、兄グドゥにジャレビを買ってくれとせがんだ記憶がよみがえり…。

「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」日本版予告編

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