1950年代の羊の毛刈り職人たちの苦労とユーモア(映画「サンデイ・トゥー・ファー・アウェイ」)

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Sunday Too Far Away

(オーストラリア1975年公開、日本未公開/94分/M15+/ドラマ)

監督:ケン・ハナム
出演:ジャック・トンプソン/レグ・ライ/マックス・カレン/ピーター・カミンズ

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 1950年代半ばのオーストラリアのシープ・ファームで働く羊の毛刈り職人たちの姿を描いたヒューマン・ドラマで、同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)において作品、主演男優(ジャック・トンプソン)、助演男優賞(レグ・ライ)の3部門にノミネイトされ3部門とも受賞したほか、カンヌ映画祭にも出品され絶賛を博したオーストラリア映画。1970年代当時では妥当な27万ドルという予算の下、全編南オーストラリア州で撮影され、オーストラリア国内だけで製作費の5倍の135万ドルの興収を記録、これは当時としては立派なヒットである。

腕利きの毛刈り職人フォリーを演じ、同年度豪アカデミー主演男優賞を受賞したジャック・トンプソン
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 本作のタイトルもそのまま盛り込まれたキャッチ・コピーは「金曜の夜はクタクタ、土曜の夜はベロンベロン、日曜はまだまだ遠い先(Friday night too tired, Saturday night too drunk, Sunday too far away)」で、週末の休みだけを楽しみに汗水流して働く毛刈り職人たちの心情を表している。毛刈りシーズンになるとオーストラリア各地から人里離れたアウトバックのシープ・ファームへやってきて出来高制の期間契約で雇われる毛刈り職人たちは、契約期間中、ファーム内の粗末な宿舎に寝泊まりしながら仕事をこなすが、週末が楽しみといっても近所にはパブがある程度の田舎だ。三度の食事は支給され専用シェフが用意するが、これがすこぶるまずいときている。過酷な労働条件といい、見ていて気の毒になる。だがその一方で、「週末になれば何かいいことがあるさ」といったイージー・ゴーイングなオージーならではのユーモアのエッセンスもふんだんに盛り込まれている。映画自体は全編ほとんど同じ場所、つまり同一ファーム内での単調な日々を描いていくわけだが、不思議と悲壮感は漂わない。おそらく本作のために書き下ろされた、カントリー・ミュージック調の同名主題歌をはじめとする音楽の効果も大きい。ちなみにとても印象的なこの主題歌を歌っているのは主演のジャック・トンプソン。

ジャック・トンプソン
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 女優がほとんど登場せず、男の世界を描いた映画であるにもかかわらず、また、その描写は十分むさ苦しいと例えられるべきはずのものなのに、カラッとしているのも本作の魅力だろう。コメディではなくあくまでドラマ、そして男ばかりの映画でも、さすがに生死にかかわる状況を描いた戦争モノとはその点で大いに異なる。

 さらに、戦後オーストラリア史を語る上でも本作は貴重な映画だといえる。本作の正確な時代設定は1955年。この年、あまりにも非人道的な労働条件に憤慨した毛刈り職人たちは、ついにストライキを起こす。当時の時代背景が映画の中で流れる当時のラジオ番組のニュースなどによっても忠実に再現されていたりするので、そのあたりの“効果音”もできるだけ耳を澄ませて聞き取る努力をすれば、よりいっそう楽しめるはず。

 そしてもちろん、日本人が最も興味を持って見ることができるのは、50年代当時の羊の毛刈りシーンだろう。どこまでが俳優本人で、どこからが本物の毛刈り職人による“スタント”なのか区別がつかないほどリアルで、本作の撮影中、実際に毛を刈られた羊はかなりの数に上るはず。

リアルな羊の毛刈りシーンも満載
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 本作の5年後、ブルース・ベレスフォード監督による別のオージー映画「英雄モラント傷だらけの戦士」(80)でカンヌ映画祭助演男優賞を受賞することになるジャック・トンプソン(「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」「人生は上々だ!」)の最高傑作ともいわれていおり、35歳にして豪アカデミー主演男優賞初候補となり初受賞したのもなるほどと納得の演技により毛刈り職人の中でも最も腕の立つ主人公フォリー役を好演している(給料は羊1頭につきいくらの出来高制のため、それぞれの職人が何頭の毛刈りをこなしていくかが毎日カウントされる)。すっかり大御所となった現在では考えられないが、35歳当時の本作では作業着を洗濯するシーンでプルンとしたお尻も披露、作業着をゴシゴシ洗う動きに合わせてお尻もプルプル揺れるのがコミカル。ちなみにトンプソンは「英雄モラント傷だらけの戦士」でも豪アカデミー賞のこちらはカンヌと違って助演ではなく再度主演男優賞枠で候補となり見事受賞。カンヌ受賞を機にハリウッドに進出、大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス(Merry Christmas Mr. Laurence)」(84)にも出演しているほか、「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃(Star Wars: Episode II Attack of the Clones)」(02)のクリーグ・ラーズ役などでお馴染み。米オスカー作品賞と監督賞を受賞したスティーヴン・スピルバーグ監督の93年のアメリカ映画「シンドラーのリスト(Schindler’s List)」は、トンプソンが主人公シンドラー役でほぼ決まりかけていたが最終段階でリーアム・ニーソンが起用され、トンプソンは後年、当時を振り返って「残念だった」と語っている。

 トンプソンだけでなく、アルコール依存症の職人ガース役でこちらは助演男優賞を受賞したレグ・ライ、フォリーのライヴァルとなる腕利き職人ブラック役のピーター・カミンズ(「少年と海」)、毛刈り職人たちを取りまとめるファームの請負業者役のマックス・カレン(「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」)など、いずれも非常にいい味を出している。

フォリー(ジャック・トンプソン:右)のライヴァルとなるこちらも腕利き職人ブラック(ピーター・カミンズ)
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 パブの気のいい中年女性スタッフを除き、いわゆる若く綺麗なキャラとしては“紅一点”と呼べるシープ・ファームのオーナー令嬢シーラ役のリサ・ピアースは、若いころのオリヴィア・ハッセーを彷彿させる美女だが、今ひとつストーリーの中にきちんと組み込まれておらず、中途半端な役どころなのが残念。もう少し彼女のキャラクターがトンプソン演じるフォリーと接近するようなシーンがあってもよかったのではと思われる。

 ファームの宿舎でアルコール依存症の老人ガースと同室のフォリーは、飲んでばかりのガースにほとほとあきれ、ある日、彼を心ない言葉で罵倒する。だが、ガースはフォリーの数十年後の姿そのものなのではないだろうか。給料も不安定な出来高制の季節労働者として各地を転々とし、帰る家はおろか自分を待つ妻子もいない独身中年男が自分の将来を思ったら、ガースのように酒でも飲まないとやってられないだろうと誰もが思うはず。そういった毛刈り職人たちの実際の心の内が描かれるわけではないが、彼らを思い、ちょっぴり切ない気持ちにさせてくれる映画でもある。

【羊の毛刈り職人の過酷な実態】記者は以前、シドニーから車で1時間ほどのシープ・ファームをツアーで訪れたことがあり、その際、実際の羊の毛刈りを目の当たりにした(毛刈り作業は本作で見る1950年代当時と全く同じで、毛刈り用の電動式バリカンを使うやり方だった)。その際受けた説明によると、プロは羊の腹の部分だけは別にして1頭分、一枚にきれいに広げられるように刈り、1頭分で男性のスーツ1着分のウールが取れるそう。プロの場合1頭につき所要時間3分、1日実質8時間労働で160頭分の毛刈りをこなす。160頭もこなせばかなりの収入になるかと思いきや、なんと1頭につきもらえるのはたったの$1.67(2003年当時)、つまり160頭でも$267にしかならない。1日の稼ぎとしては当時、決して悪くはないが、羊の毛刈りは羊を股で押さえ込んで90度以上前かがみになって行う作業のため腰を痛めやすく、通常は10年程度で引退せざるを得ないというから、本作に出てくるガースのように高齢になっても仕事を続けられる毛刈り職人はほとんど存在しなかったことになる。

STORY
 1955年のオーストラリア。羊の毛刈りシーズンになると、出来高制の期間契約でシープ・ファームに雇われ、ファーム内の宿舎に寝泊まりし、早朝から夕方までひたすら羊の毛を刈り続ける男たち。今年も腕利きの毛刈り職人フォリー(ジャック・トンプソン)を筆頭に、個性豊かな男たちが集まった。毛刈り職人たちを取りまとめるファームの請負業者はいけすかないし、唯一の楽しみのはずの食事もまずい。まるで人間として最低の扱いを受けるかのような過酷な労働条件に、次第に男たちの怒りが募り…。

「サンデイ・トゥー・ファー・アウェイ」予告編

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