「アートでは食べていけないんじゃないか」
とかいうのは後から考えればいいこと」
画家
佐藤礼(れい)さん(52歳)
Rei Sato
「物心ついたころから絵を描くのが好きで、自宅の壁に描いていたのを親に相当叱られたことを今でも覚えています(笑)。一人っ子だったせいもあるんでしょうか、テレビから流れてくる音楽だったり家の外から聞こえてくる雨や風の音なんかを自分の空想で色や形にする、ちょっと変わった子だったかもしれません(笑)」
ウロンゴン在住の画家の礼(れい)さん。東京出身で高校卒業後は美大に進学したかったが高校生ながらに将来アートで生計を立てることの難しさを自覚し、グラフィック・デザインの専門学校へ進学するも、やはり絵画の道へ進みたいという夢を諦めきれず専門学校を中退し二十歳の時に来豪、西オーストラリア州パースのエディス・コーワン大学(ECU)で3年間、その間アメリカの大学への交換留学も経験し、豪米でみっちり油絵を学んだ。
5月に開催されたボウラル・アート・ギャラリー主催のアート賞兼展覧会に出品され風景画部門入選を果たした礼さんの作品「ノスタルジア」(油絵/46 x 64cm)
「大学卒業後シドニーに移り住んだところ、シドニーは物価も高くアートじゃやっていけないなと思い日系の会社に就職しましたが、ここでもやっぱりアートに関連した仕事がしたいという思いが強くなり(笑)、アート・セラピーのセラピストになるという選択肢にたどり着き、セラピスト養成講座を受講しアート・セラピストになりました」
礼さんはちょうど10年前にも本誌「輝く女性たち」に登場してくれたことがあり、その際はアート・セラピストとしてだった。記者も当時、礼さんのセッションを受け、その場で涙が流れたほど深い気づきと癒しがあったことを10年後の今もはっきり覚えている。そんな礼さんだったが…。
「アート・セラピーは相談者の方に絵を描いてもらってそれぞれの相談者の悩みなどを相談者自身に分析・解決させるというもので、それはそれでやりがいのある仕事でもあったのですが、やっぱり自分で描きたい!と思うようになり(笑)」
礼さんがパートナーを描いた肖像画「ピーター」(油絵/29 x 24cm)
シドニーで出会ったパートナーのオージー男性とウロンゴンへ拠点を移した2013年から礼さんは絵だけでやっていくことを決意、単に趣味として描くだけではなく精力的にオーストラリア国内の数々のアート賞に作品を出品し、これまでに入賞4回、残念ながら入賞は逸したもののファイナリストに選出された数は7回に及び、そこから徐々に作品が売れたり絵のオーダーが入るようになった。グループ展への参加も積極的に行っていて、8月にサリー・ヒルズで開催される“発散(Divergence)”がテーマの下記のグループ展へも参加が決定している。ここに掲載の礼さんの作品からも分かるように、どちらかといえば影のある作風が特徴なのは、実は礼さんはまだ高校生だった時に相次いで両親を、しかも実母は自殺により亡くしたこととも無関係ではないかもしれないと思いきや、屈託なく笑う。
「パーッと明るい絵も描きたいんですけどね(笑)。私自身は子供のころから少し影のある絵が好きで、両親の死がそこまで画風に影響を与えているとは思いません。心から楽しんで“暗い絵”を描いています(笑)。絵だけでやっていくことを決めるまで紆余曲折あった私ですが、例えば今アートを学んでいる学生さんに言いたいのは、『アートでは食べていけないんじゃないか』とか、そういうのは後から考えればいいということ。せっかく好きなことを学べるチャンスに恵まれたんだから、好きなことを思いっきり頑張ってほしいです」
■礼さんのインスタグラム:rei.s.art
■礼さん参加のグループ展「ダイヴァージェンス(Divergence)」- info
●会場:m2ギャラリー(m2 Gallery, 450 Elizabeth St., Surry Hills) ●期間:2022年8月11日(木)〜16日(火) ●開館時間:12pm-7pm ●料金:無料 m2gallery.com.au
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