※2023年1月6日更新
「イースト・ウエスト101(シーズン3)」
(連続ドラマ)
East West 101(Season 3)
(オーストラリア2011年オンエア、日本未公開/1話50〜53分・全7話/MA15+/刑事ドラマ/DVDで観賞可能なほか、SBSの公式配信サイトSBSオン・ディマンドで無料配信、全話無料観賞可能!→ sbs.com.au/ondemand/tv-series/east-west-101)
監督:ピーター・アンドレキディス
出演:ドン・ハニー/スージー・ポーター/アーロン・ファーオソ/マット・ネイブル/ロバート・マモーン
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
国営TVラジオ局SBS製作の下、2007年末から2008年初めにかけて全豪オンエアされ人気を博したオーストラリアの連続刑事ドラマ「イースト・ウエスト101(※数字の読みは“ワン・オー・ワン”)」シーズン1、2009年のシーズン2に続くシーズン3であると同時に最終シーズンとして2011年に放映された作品。シーズン1・2と同じくピーター・アンドリキディス(「パルス」)が全話監督したほか、主人公の刑事でドン・ハニー演じるゼイン以下、主要キャラクターもほぼ全員シーズン1・2と同じ顔ぶれだが、シーズン2同様シーズン3でも6人の刑事たちのうち1人だけ入れ替えがあり、シーズン2のみに出演したリチャード・スケリット(ジェラルド・レプコウスキ)が抜け、マット・ネイブル演じるニール・トラヴィスが捜査班に仲間入り。やはりシーズン1・2同様、高視聴率を記録しただけでなく作品としても高い評価を受け同年度オーストラリア・アカデミー賞TVドラマ部門において作品、主演男優(ドン・ハニー)、助演男優(ゼインの相棒刑事ソニー役のアーロン・ファーオソ)、助演女優賞(5話にマオリ系のメリ役でゲスト出演のリーナ・オーウェン)の主要4部門にノミネイトされ、作品賞を受賞した。ドン・ハニーは3シーズンとも主演男優賞候補となったものの残念ながら一度も受賞には至らなかったが作品自体は3シーズンすべて(合計3回)作品賞に輝くという快挙を果たしたことになる。ちなみに豪アカデミー賞はシーズン1と2の時はAFI賞という名称だったが、シーズン3はAACTA賞に名称が変わっての第1回目でもあった。
主人公の刑事ゼイン役で3シーズンすべて(計3回)豪アカデミーTVドラマ部門主演男優賞にノミネイトされたドン・ハニー(手前)
主要キャラ6人の刑事のひとりとしてシーズン3で新たにマット・ネイブル演じるニール・トラヴィスが仲間入り
シーズン3では前述のマット・ネイブルに加え、オーストラリア陸軍のオリヴァー・トロイ大佐役でロバート・マモーン(「ザ・プリンシパル」)が新登場、ネイブル同様、全話に出演。ネイブルもマモーンもオーストラリア国外での知名度はさほど高くないが、ネイブルはメル・ギブソンが監督した「ハクソー・リッジ」(16)にクーニー中佐役で出演、またマモーンは「マトリックス」シリーズの2作目と3作目でともに2003年に公開された「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューション」にAK役で出演したので同シリーズのファンなら分かるかもしれない。俳優になる以前のネイブルは元プロ・ラグビー選手で、25歳でラグビー界を引退した後は俳優業だけでなく作家、スポーツ・コメンテイターとしても活躍する多才ぶり、俳優デビューは30代になってからだが演技力も抜群で出演作品が途切れることなく現在に至る。
相棒刑事として常に行動をともにするソニー(アーロン・ファーオソ:左)とゼイン(ドン・ハニー)
シーズン3で初めて登場するその男性キャラ2人だが、どちらもシーズン1から続けて登場している2人の主要女性キャラと付き合うという設定になっており、トラヴィス(ネイブル)はレネー・リム(「パーム・ビーチ」「パルス」)が演じる中国系刑事ジュンと、トロイ大佐(マモーン)はスージー・ポーター(「しあわせの百貨店へようこそ」「パルス」「リトル・フィッシュ」「タップ・ドッグス」「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」)扮する刑事局長パトリシアと関係を持つ。パトリシアはシーズン1でも2でも男に不自由しない、ある意味本作における“恋多き女”だが、ジュンはファイナル・シーズンにして初めてその性格まで描写されるキャラクターに“グレイドアップ”した。
一方、シーズン2の撮影中、実生活でも妊娠中だったダニエラ・フェリナッキ(「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「ランタナ」)演じるギリシャ系の刑事ヘレンはシーズン2の終盤で無事出産したものの、シーズン3ではパートナーの女性と既に別れており(ヘレンはレズビアンという設定)、実母の助けを借りつつシングルマザーとして仕事と育児の両立を頑張っている様子が時折盛り込まれる程度だが、シーズン3第1話の冒頭で起こる現金輸送車襲撃事件の場に居合わせるという見せ場がある。
刑事局長パトリシア(スージー・ポーター)はシーズン3に新登場のレギュラー・キャラクターでオーストリア陸軍のトロイ大佐(ロバート・マモーン)と恋に落ち…
上記主要キャラ以外では、まず3、4、5話にアーロン・ジェフリー(「パーム・ビーチ」「ストレンジ・プラネット」)が犯罪者ハンター役でゲスト出演。ジェフリーは日本でもオンエアされたオーストラリアの連ドラ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」をはじめ、オーストラリア国内では01年から09年まで8シーズン続いた高視聴率の連ドラ「マクレオズ・ドーターズ」にメイン・キャラクターの一人としてレギュラー出演するなど正統派のイケメン男優としてオージー女性たちの間で絶大な人気を博した。本作で演じる役柄は見るからに悪人だがハンサムぶりは健在。
ハンサムな悪役といえばもう一人、5話と6話にケンドリック役でエイデン・ヤング(「ザ・プリンシパル」「ハーモニー <1996年版>」)もゲスト出演。そしてこちらはいわゆる世間一般の基準でいうとイケメンの部類には入らないが4話に出てくる酔った女性客をレイプするタクシー運転手役の性格俳優ヤセック・コーマン(「ブレス あの波の向こうへ」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)が、観る者にも嫌悪感を抱かせる極悪非道なレイプ犯になりきっていて見事(※日本では“Jacek”という綴りから彼のファースト・ネイムを“ジャセック”と書かれるが、ポーランド出身のオージーであるためヤセックが正解)。また、シーズン2でパトリシアの父親かつ元刑事ミック・ディーキン役で重要な役どころを演じたリチャード・カーター(「華麗なるギャツビー」「タップ・ドッグス」)は、シーズン1でも1話だけチラッと出ていたが、シーズン3でもやはり5話に顔を出している。
エイデン・ヤングも悪役でゲスト出演
女優のゲストではシーズン2にもゲスト出演していたニュー・ジーランド出身の大女優リーナ・オーウェンが、同じ役柄で5話に再度登場(※オーウェンの経歴についてはシーズン2で解説)。
キャスト以外では、シーズン2から衣装デザイナーとなった、ジャパラリア誌上グルメ・コラム「オージー・レシピ」でお馴染みのネヴィちゃんことネヴィル・カー(「ハーモニー <2018年版>」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「バッド・コップ、バッド・コップ」)がシーズン3でも引き続き衣装デザインを担当。ネヴィちゃんは主役のドン・ハニーを含み何人かの出演俳優と本作以前にも一緒に仕事をしたことがあり、そうでない俳優もネヴィちゃんいわく、とてもフレンドリーで楽しく仕事できたとのこと。
ドラマ自体の概要や流れについては本コラム紹介記事「イースト・ウエスト101(シーズン1)」「イースト・ウエスト101(シーズン2)」を読んでいただくとして、シーズン3では冒頭でいきなり現金輸送車が覆面強盗団に襲われ3,600万ドル(※感覚として30億円以上)もの現金が奪われ、輸送車に乗っていた3人と強盗団の1人が命を落とすというショッキングなシーンで始まる。その事件と時を同じくしてゼインの妻でタズニーム・ロック(「キャス&キムデレラ」)演じるアミーナが長男アミールを乗せて車を運転中、標識を無視した別の車に突っ込まれ息子ともどもケガを負い、ぶつかってきた車の運転手はそのまま車で走り去るという事件も起き、この2つの事件が実はリンクしており全話を通しての大きなテーマとなる。
シーズン3のもう一つのテーマは、捜査班に仲間入りしたトラヴィス(マット・ネイブル)が、刑事になる以前はオーストラリア陸軍の兵士でアフガニスタン紛争の際にイラクに派遣され現地で従軍した過去を持つというもの。トラヴィスには誰にも知られたくない過去があるのが明らかで、兵士時代の経験がオーストラリアへ戻り刑事となった後もトラウマとなり悪夢にうなされることもある。トラヴィスがイラクで体験したのは何だったのか、回を追うごとに観る者の緊迫感を盛り上げながら徐々に明らかになっていく事実にも注目。
中東での紛争だけでなく、2話では東アフリカのソマリア内戦の戦火を逃れて難民としてオーストラリアへ移住してきたアフリカ人姉弟もフィーチャーされる。命からがら祖国を離れ、やっと安全な国オーストラリアで住めるようになったものの、今度は人種差別という壁が立ちはだかる。その姉弟だけではなく移民全般にいえることだが移民たちにはさらに言葉の壁もあり、いい仕事に就くことが難しく結局犯罪に手を染めてしまう負のループに陥りやすいのも事実だ。多民族国家オーストラリアが抱える深刻な問題の一つをさまざまな角度から描いた本作は、3シーズンすべてが作品賞を受賞したにふさわしい深いテーマを持ち、そういった問題には直接関係のない、オーストラリア全人口の圧倒的多数を占めるアングロサクソン系の視聴者たちにも訴えかけたに違いないと確信させてくれる点で、非常に意義のある連続ドラマだったといえるだろう。
ちなみに多民族国家オーストラリアならではの、本作のように非英語圏からの移民2世・3世の姿を描いた映画・TVドラマに、ゲイであることをカミング・アウトしているギリシャ系オージー作家クリストス・チョルカス原作のどちらもギリシャ系ゲイ青年が主人公の映画「ヘッド・オン!」(98)と「デッド・ユーロップ」(12)、同じくギリシャ系2世が主人公だがこちらはコメディの「ザ・ウォグ・ボーイ」(00)、イタリア系3世の女子高生が主人公の青春映画「アリブランディを探して」(00)、レバノン系が主人公の連ドラ「ザ・プリンシパル」(15)などもあり、機会があればそちらも観てみることをおすすめ。
【セリフに出てくるアラビア語】ゼインが父親のことを“ババ(baba)”と呼ぶのはアラビア語で“お父さん”。同様に妻アミーナに“ハビブティ(Habibti)”と呼びかけるのは女性に対する“愛しい人”、英語でいうスウィートハートやマイ・ラヴなどと同じで、男性に対しての場合は“ハビビ(Habibi)”。
【セリフにおける英語のヒント(その1)】2話で殺人事件の犠牲者となるソマリア移民の若い男性の所持品として出てくる学生証の学校名“テイフ”とは、オーストラリア各州・地域に展開する国内最大の専門学校・高等職業訓練学校の頭文字“TAFE”の英語読みで、全国的にこの略称で一般にも知られている。
STORY
シドニーで現金輸送車が覆面強盗団に襲われ、3,600万ドルもの現金が奪われ、輸送車に乗っていた4人のうち3人が命を落とし、残る1人は車外に出て応戦、強盗団の1人を射殺し自身も腹部を撃たれるものの、かろうじて一命を取りとめた。輸送車襲撃の様子をとらえた路上監視カメラの映像から、強盗団が軍隊経験者のように組織立った動きを見せていること、射殺された強盗団が中東出身者で実際に過去に従軍歴があったことからアフガニスタン紛争との関連性が浮上してきた。イラク系ムスリムの刑事ゼイン・マリク(ドン・ハニー)は新たに捜査班に加わった同僚刑事ニール・トラヴィス(マット・ネイブル)らと事件の捜査に当たるが、トラヴィスは実は自身も刑事になる以前はオーストラリア陸軍の兵士としてイラクに派遣された時期があったことを周囲の仲間たちにも隠しており…。
※連続ドラマ「イースト・ウエスト101」は全3シーズン、SBSの公式配信サイトSBSオン・ディマンドで無料配信、全話無料観賞可能!→ sbs.com.au/ondemand/tv-series/east-west-101
【本コーナーでの紹介記事】
「イースト・ウエスト101(シーズン1)」
「イースト・ウエスト101(シーズン2)」
「イースト・ウエスト(シーズン3)」(最終シーズン)
「イースト・ウエスト101」予告編