多民族国家ならではの連ドラ「イースト・ウエスト101(シーズン1)」

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※2021年9月11日更新

イースト・ウエスト101(シーズン1)」
(連続ドラマ)

East West 101(Season 1)

(オーストラリア2007〜08年オンエア、日本未公開/1話52分・全6話/MA15+/刑事ドラマ/DVDで観賞可能なほかSBSの公式配信サイトSBSオンディマンドで無料配信されて全シーズンの全エピソードが無料観賞できるようになっていましたが現在配信停止中のようでまた配信再開されることを祈ってURLはこちら!sbs.com.au/ondemand/program/east-west-101

監督:ピーター・アンドレキディス
出演:ドン・ハニー/ウィリアム・マッキネス/スージー・ポーター/アーロン・ファーオソ/タズニーム・ロック

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 国営TVラジオ局SBS製作の下、2007年末から2008年初めにかけて全豪オンエアされた1話1時間、全6話の刑事モノ連続ドラマで、オンエアと同時に人気と話題を集め、その後2009年にシーズン2、2011年にシーズン3、と3シーズン続くヒット作となった「イースト・ウエスト101(※数字の読みは“ワン・オー・ワン”)」の、ここで紹介するのはシーズン1。通常オーストラリアのTVドラマ界では連ドラは同一シーズンでもエピソードによって何人かの監督が起用されることが多いが、本作は3シーズンすべてピーター・アンドリキディス(「パルス」)が監督した。やはり3シーズンともそれぞれの年度のオーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)TVドラマ部門にノミネイトされ、シーズン1は作品、監督、主演男優(主人公の刑事ゼイン役のドン・ハニーと、ゼインと仲の悪い同僚刑事レイ役のウィリアム・マッキネスが同時候補に)、助演男優(ゼインの父親役を演じたタフィ・ハニー)、脚本賞の5部門6候補となり、見事作品賞を受賞した。

主人公の刑事ゼイン役で同年度豪アカデミーTVドラマ部門主演男優賞候補となったドン・ハニー
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 本作が通常の刑事ドラマと一線を画すのは、実際のオーストラリア刑事たちの経験を基にしたフィクション・ドラマであるだけでなく他民族国家オーストラリアならではのテーマを持ち、殺人や麻薬密売などの重大犯罪事件を扱う捜査班の刑事たちでオープニング・クレジットに名前が出てくるレギュラー・キャラクターの6人が、まず主人公のゼインはイラク系、ゼインの相棒ソニーはアイランダー系、そしてギリシャ系と中国系が1人ずつ、残る2人がアングロサクソン系、とそれぞれのバックグラウンドが異なり、毎回のエピソードで犯罪に巻き込まれる、または犯罪に関与しているのもアラブ、アボリジニ、アイランダー、ヴェトナム、カンボジア、セルビア、ボスニア、中国系、ともともとの国籍も、そしてイスラム教やキリスト教など宗教もさまざまな“エスニック・コミュニティ”に生きる人々を描いている点にある。アングロサクソン系以外のバックグラウンドを持つかつての移民たちの多くはシドニー西部に広がる、総称して“ウエスタン・サバーブ”と呼ばれるエリアに散らばって住み着き、ウエスタン・サバーブには現在でも例えばヴェトナム人街として知られるカブラマッタや、アボリジニ系の人口が多いレッドファーンなどのサバーブがあり、あまり治安が良くないとされるエリアもウエスタン・サバーブに集中している。本作の舞台となるのはそんなウエスタン・サバーブが主で、ドラマの中で実際に出てくる地名はいずれも実在(※チャイナタウンも出てくるが、チャイナタウンはシドニーのビジネス中心街に隣接した位置にあるので必ずしてもウエスタン・サバーブだけでドラマが展開するわけではない)。主人公ゼインとその家族がイラク系であると同時にムスリムという設定もあって、イスラム教の教会モスクが何度も象徴的に出てくるし、ガイ・グロスが手がけたテーマ音楽も中東をイメージしたエキゾティックな旋律をスリリングな現代風のビートでアレンジしたもので効果的だ。ちなみにガイ・グロスはTVドラマだけでなく「プリシラ」や「ア・フュー・ベスト・メン」など劇場映画の音楽も作曲している。

ゼインのことを嫌っている部長刑事レイ役でこちらも豪アカデミーTVドラマ部門主演男優賞候補となったウィリアム・マッキネス
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 1話ごとに新たな事件が起こり主要キャラである刑事たちがそれを捜査し犯人を追うというのが毎回のエピソードのメインではあるが、1話目から順に観ないと全体のストーリーが理解できないようになっている。例えば主人公ゼインは12歳の時に目の前で父親が覆面強盗に頭部を撃たれ、父は一命は取り留めたが脳機能に障害が残り、ゼインにとってもその事件がトラウマとなっている。そんなゼインが刑事となってから、とある事件で20年前に父が撃たれた時に使用されたのと同じ銃が発見され、そこから銃の持ち主、つまり父を撃った犯人をゼインが個人的に突き止めていくというのがシーズン1では重要な伏線となっている。ほかにもゼインと同じ部署で働く部長刑事レイが警察内部の不正を調査するインターナル・アフェアーズ(IA)に目を付けられたりといった具合に。

ゼイン(ドン・ハニー:左)の相棒として常にゼインと行動をともにする刑事ソニー(アーロン・ファーオソ:右)
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 出演者陣はほとんどが映画よりTVドラマでの活躍がメインだが、いずれも存在感ある演技を見せる。中でもイラク系の主人公ゼイン役で自身もイラク人の父とハンガリー人の母の下に生まれたオージー男優ドン・ハニーと、同じ部署にいる仲間でありながら反目し合う部長刑事レイ役のウィリアム・マッキネスの2人のキャラクターは、仕事を離れたプライヴェイトでのそれぞれの苦悩なども描写され、正義感に溢れ家では両親や妻子を大切にするゼイン、刑事なのに実は裏で悪事を働いていそうなレイという対照的なキャラクターを好演し、同年度豪アカデミー賞で2人ともTVドラマ部門主演男優賞の同時候補となった事実もうなずける。ゼインと常に行動をともにする相棒刑事ソニー役のアーロン・ファーオソもボディビルダー並みに屈強な見た目ながら心根は優しく、ゼインと同じように家族思いなソニーを自然な演技で見せる。女優陣ではゼインたちの上司に当たる刑事局長パトリシア役のスージー・ポーター(「パルス」「リトル・フィッシュ」「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」)が圧倒的に光る。ブロンドの髪をアップにした黒のスーツにハイヒール姿のクールな女性刑事ぶりが見事なほどサマになっており、マドンナが30代だったころを彷彿とさせる美貌も印象的だ(※さすがに事件の現場にもハイヒールで行く女性刑事は現実にはいないだろうが、そのへんはご愛嬌、というかスージー・ポーターは一般的なオージー女性と比べてもかなり背が低いため、男性キャラと並んだ際に彼らの上司としては少々奇異に見えることもあってあえてハイヒールを履かせたそう)。仕事一筋の未婚のパトリシアだが、とある男性と一夜をともに過ごし、後日その男性からまた言い寄られた際、「あれは一度きりの出来事だったのよ」と答えるシーンもクール。

 6人の刑事役の残りの2人は上記4人に比べるとシーズン1ではあまり見せ場がないが、ギリシャ系ヘレン役のダニエラ・フェリナッキは日米を含み世界中で大ヒットしたオージー映画「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」(16)で大人になった主人公が通う大学の講師役というチョイ役でも出演。また中国系の巡査ジュン役に中国/マレイシア系オージー女優レネー・リム(「パーム・ビーチ」「パルス」)が扮しており、リムは全豪映画TVドラマ界で端役ではなく主要キャラ級の役柄でコンスタントに出演している数少ないアジア系女優の一人として知られる。

オープニング・クレジットに名を連ねる6人の刑事役の俳優たち(左からレネー・リム、アーロン・ファーオソ、ドン・ハニー、ウィリアム・マッキネス、スージー・ポーター、ダニエラ・フェリナッキ)Group shot

 刑事以外ではもっぱらゼインの家族が頻繁に登場し、ゼインの父親役を演じ豪アカデミー助演男優賞候補となったタフィ・ハニーは実生活でもゼイン役のドン・ハニーの実の父親である。ゼインの妻アミーナ役のタズニーム・ロック(「キャス&キムデレラ」)も、時に命の危険にもさらされる刑事という仕事を持つ夫を信じて支えつつ2人の子供を育て、かつ同居するゼインの両親とも良好な関係を保つ良妻賢母ぶりが好印象だ。

 レギュラー・キャラクターのほかにゲスト出演する俳優では、20年前にゼインの父を撃った覆面強盗かもしれないとゼインが疑うジョン・ハント役で4、5、6話に続けて登場するジョン・ブランプトン(「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」)が最も重要な役どころを演じる。また、4話の犯罪者ウォーレン・ジョンズ役にリドリー・スコット監督の「エイリアン:コヴェナント」(17)のハレット軍曹役のナサニエル・ディーン(「ワイルド・ボーイズ」「キャンディ」)が、5話で起こる殺人事件の鍵を握るセルビアからの移民母子の娘の方を演じるエルヴィラ役に日本でも人気を集めたアメリカの連ドラ「HAWAII FIVE-O」シリーズでの主人公の元妻役が有名なクレア・ヴァン・ダー・ブーム(「パーム・ビーチ」「パルス」)が扮している。さらに、2話の冒頭ですぐ殺害されてしまう弁護士アダム・キング役のアーロン・ピーダソンは、ハンサムなアボリジニ系俳優として知られ本作以前に彼自身の主演ドラマもあったほど人気なので、チョイ役にすぎない役で登場したのが意外ではあるが、本作のプロデューサーとそれ以前の作品で組んでいたこともあっての“友情出演”のようなものだろう。

 他民族国家オーストラリアとはいえ、人口の圧倒的多数を占めるのはアングロサクソン系で、それ以外の人種に対する偏見や差別は21世紀の現在でも残っている。国際紛争に関与せず日豪関係も安定していることから在住日本人に世間一般の矛先が向けられることは(捕鯨問題の論争を除いて)ほとんどないが、過去に従軍したすべてのオーストラリア兵のための記念日である4月25日の祝日アンザック・デイには第二次世界大戦時の敵国であった日本に対しての怒りが再燃するのか(※日本軍は戦時中パースを空襲したほか、シンガポールなどで日本軍の捕虜となりひどい扱いを受けた豪軍人も少なくない)、アンザック・デイに通りを歩いている日本人が横を通り過ぎる車の中から生卵を投げられるという被害が現在でもオーストラリア全国で毎年のように起こっている。自分自身もイラク系ムスリムというマイノリティに属するゼインが、だが確固たる正義感を持って悪に立ち向かう姿を描いた本作は、単なる犯人探しだけでなく毎回のエピソードで観る者それぞれに訴えかけ、考えさせ、余韻を残してくれる。

【シドニー住宅事情本作の舞台となるウエスタン・サバーブはその名の通りシドニー西郊全体のことを指し、前述の通りさまざまな国からの移民たちが多く住むエリアでもある。対するイースタン・サバーブ(東郊)とノース・ショアと呼ばれる一部北郊は逆にアングロサクソン系、それも富裕層が多い。これはシティ(ビジネス中心街)から近いほど住宅価格が高いというだけではなく、シドニーは東海岸に位置するためハーバー・ヴュー(海景色)が見えるエリアほど高いせいでもある。ウエスタン・サバーブは内陸なので海景色がなく、また、かつての移民たちの多くは自国の内乱や貧困を逃れてオーストラリアに移住してきたため経済的事情もあって住宅価格が安価なウエスタン・サバーブに住み着いたことが理由だと思われる。日本人の場合は西オーストラリア州の真珠養殖に従事した人々などを除き、最初にシドニーに住むようになったのはシドニーに支社・支店を構える日本企業の駐在員とその家族が圧倒的に多く、経済的に恵まれていたため市街地から近く治安も良いとされる北郊が居住地区として好まれ、その名残から今もシティを除くと日本食レストランの数が最も多いのはノース地区にあるいくつかのサバーブである。

【セリフに出てくるアラビア語ゼインが父親のことを“ババ(baba)”と呼ぶのはアラビア語で“お父さん”。同様に妻アミーナに“ハビブティ(Habibti)”と呼びかけるのは女性に対する“愛しい人”、英語でいうスウィートハートやマイ・ラヴなどと同じで、男性に対しての場合は“ハビビ(Habibi)”。

【セリフにおける英語のヒント(その1)ドラマの中で出てくる“レボ(Lebo)”はレバノン人、“ムジー(Muzzie)”はムスリムに対するそれぞれ蔑称のオージー・イングリッシュ。一方、こちらは蔑称ではないが“ブリジー(Brizzie)”はブリスベンを意味するオージー・イングリッシュで、オージーたちも日本人と同じように言葉を短縮するのが得意。

【セリフにおける英語のヒント(その2)日本では馴染みがないが本作に出てくるCCTC(Centre for Counter-Terrorism Coordination)とはテロリズム対策など専門のオーストラリア政府機関のこと。

Story

 イラク系ムスリムの両親とともに幼いころ移民としてオーストラリアに来たゼイン・マリクは1986年、シドニー西郊ラケンバで父親(タフィ・ハニー)が営む小さな食料品店の店番をしていた12歳の時、銃を持って店に押し入ってきた覆面の男から金を出せと要求され、店の奥から騒ぎを聞きつけた父が出てくると、男は父の頭部を撃ち逃走、父は幸い一命は取り留めたが脳機能に障害を持つ身体になってしまった。あれから20年、大人になったゼイン(ドン・ハニー)は刑事として日々犯罪事件を追い、家では愛情溢れる美しい妻アミーナ(タズニーム・ロック)と長男と長女にも恵まれゼインの両親と一家幸せに暮らしているが、父が撃たれたのは覆面強盗が金を出せと言った際に自分が「ノー」と答えたせいだと自責の念に駆られていた。職場でのゼインは常に行動をともにするアイランダー系の相棒刑事ソニー・コア(アーロン・ファーオソ)とは息の合ったコンビぶりだが、部長刑事のレイ・クローリー(ウィリアム・マッキネス)は事あるごとにアラブ系ムスリムであるゼインを小馬鹿にしたような言動を取り…。

【本コーナーでの紹介記事】
イースト・ウエスト101(シーズン1)」
イースト・ウエスト101(シーズン2)
イースト・ウエスト101(シーズン3)」(最終シーズン)

「イースト・ウエスト101」予告編

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