辺鄙な田舎町で華麗に着飾る女たち(映画「リベンジャー 復讐のドレス」)

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※2021年8月18日更新

リベンジャー 復讐のドレス

The Dressmaker

(オーストラリア2015年公開、日本2019年WOWOWにて放映の後同年DVD化/119分/M/コメディ・ドラマ)

監督:ジョスリン・ムーアハウス
出演:ケイト・ウィンスレット/ジュディ・デイヴィス/リアム・ヘムズワース/ヒューゴ・ウィーヴィング/サラ・スヌーク

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 オージー女性ベストセラー作家ロザリー・ハムが2000年に発表したデビュー小説を、「キルトに綴る愛(How to Make an American Quilt)」(95)などで知られるオージー女性監督ジョスリン・ムーアハウスが映画化、“婦人服の仕立て屋”を意味する原題のヒロイン役に「タイタニック」(97)の主演で世界的に大ブレイクし「愛を読むひと(The Reader)」(08)で米アカデミー主演女優賞を受賞したケイト・ウィンスレットを英国から招き、だがウィンスレット以外はオスカー候補女優ジュディ・デイヴィス、リアム・ヘムズワース、ヒューゴ・ウィーヴィングなどなど、ほかもほぼすべてオール・スターのオージー男女優が一堂に顔をそろえ、全編メルボルンが州都であるヴィクトリア州で撮影されたコメディ・ドラマ映画。同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞では作品、監督、撮影、編集、音響、作曲、美術賞など12部門13候補となり(助演女優賞にデイヴィスとサラ・スヌークがダブル・ノミネイションを受けた)、主演女優(ウィンスレット)、助演男優(ウィーヴィング)、助演女優(デイヴィス)、衣装デザイン賞と観客選出賞(お気に入りのオーストラリア映画)の5部門受賞に輝いた。海外でも各国で封切られたほかカナダのトロント国際映画祭でのワールド・プレミアを筆頭にチューリヒ映画祭、釜山国際映画祭、伊トリノ映画祭、米シアトル国際映画祭などに出品された。日本では4年後の19年にまずWOWOWにて「復讐のドレスコード」という邦題でオンエアされ、同年「リベンジャー 復讐のドレス」とタイトルを変えてDVD化された。

ティリー(ケイト・ウィンスレット:左)に引かれていくテディ(リアム・ヘムズワース:中央)はティリーとその母モリー(ジュディ・デイヴィス:右)を映画に誘い…
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 1951年のヴィクトリア州の架空の田舎町ダンガターを舞台に、その25年前にそこで起こった小学生男児の不審死の犯人と見なされ町から追い出された同級生の少女マートルが、ヨーロッパの一流ファッション界で婦人服の仕立ての経験を積み洗練された美しい大人の女性になりティリー(ウィンスレット)と名を変えて25年ぶりに戻り、田舎者ばかりの町を騒然とさせるというところから映画は始まる。主な見どころとしては、25年前の事件で男児が死亡した際マートルただ一人がその場にいたことは確かなのだが事件のショックからティリー(=マートル)自身にその時の記憶がなく、果たして自分が本当に彼を殺害したのかがまず1つ目。マートルの実母モリー(デイヴィス)はマートルと引き離されて以来ゴミ屋敷と化した家で半ば世捨て人のように暮らしてきたせいか実の娘マートルのことを覚えていない(または覚えていないふりをしている)というのが2つ目。一方で町の人々は皆がマートルのことを覚えていて彼女が殺人犯だと信じ込んでおり最初はティリーによそよそしいが、幼馴染だった食料品・雑貨店の娘ガートルード(スヌーク)にティリーが目の覚めるようなドレスを仕立ててやったことにより町の女性たちからティリーにドレスのオーダーが舞い込む中、25年前に亡くなった男児の父親でそれを快く思わない町長が別の女性デザイナーを町に呼び寄せティリーに対抗させ、というのが3つ目。そして次第に引かれ合っていくティリーとこちらも幼馴染テディ(ヘムズワース)の恋の行方が4つ目。全体的にはコメディなのだが男児が殺害された当時のマートルの回想シーンが幾度となく挿入され、そこは一転してサスペンス・タッチだ。物語が一応の決着を見せそろそろエンディングだろうと思われるシーンから映画はさらに30分以上も続き、そこからが本当の意味でのクライマックスでもある。ちなみにマートルが真犯人かどうかの鍵を握る短い一言が、とある登場人物の口から何度も出てくる。また、日本では北海道など酪農が盛んな土地以外では馴染みのないサイロと呼ばれる農産物専用の大型の貯蔵庫も本作の重要な“大道具”の役割を果たす。

自分に熱心に言い寄る誠実なテディ(リアム・ヘムズワース)に次第に心を開いていくティリー役で豪アカデミー主演女優賞に輝いたケイト・ウィンスレット
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 物語の伏線として、モリーは町の誰一人として名前はおろかその存在すら知らない男の子供を身ごもり最初からシングルマザーとしてマートルを生み育てたため心ない町の住人の間からはふしだらな女として蔑まれていること、25年前に死亡した男児は子供ながらにそのことを大人たちの噂話から聞きかじっていてマートルが彼から陰湿ないじめを受けていたことが挙げられ、邦題の「リベンジャー 復讐のドレス」は理不尽だった町の人間に対するティリーの怒りを指している。

ティリーの母モリー役で豪アカデミー助演女優賞を受賞したジュディ・デイヴィス
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 ウィンスレットは洗練されて故郷の田舎町に戻ってきたティリーをオスカー女優の余裕の演技で体現し、それ自体には文句のつけようがないが、本作公開時の実年齢が40歳であるのに対し、ティリーの幼馴染2人はというとテディ役のヘムズワースは同25歳、ガートルード役のスヌークが28歳と、どちらもウィンスレットより10歳以上若いため、この3人が同世代という設定は観客に感情移入させるにはやや難ありで、不必要に混乱させられる点が残念(町を追い出された時マートルは10歳だったので、25年後ということは35歳だから、ウィンスレットが歳を取りすぎているというより、むしろヘムズワースとスヌークが若すぎるということになる)。

 だがそれを抜きにするとウィンスレット以外の俳優陣も全員安定した演技を見せ、中でもティリーの実母モリー役のジュディ・デイヴィス(「台風の目」「わが青春の輝き」)は、さすが本作出演の俳優の中ではウィンスレットを除き唯一、それも2度のオスカー候補歴を持つ大女優の貫禄で、ゴミ屋敷のような家で長い間風呂にも入らず町の住人たちとも交流なく暮らし変人扱いされている、いってみれば汚れ役を面白おかしく、時にシリアスに見せてくれる。

町の巡査部長で女装癖を持つ異色のキャラクターをコミカルに演じ豪アカデミー助演男優賞を受賞したヒューゴ・ウィーヴィング(左はケイト・ウィンスレット)
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 アメリカ映画「ハンガー・ゲーム(The Hunger Games)」シリーズのゲイル役が有名なリアム・ヘムズワースもハンサムなだけでなくティリーを誠実な気持ちで愛するようになる町のフットボール・チームの花形選手テディ役にぴったりだし、町の巡査部長で女装癖を持つという異色のキャラクターをヒューゴ・ウィーヴィング(「虹蛇と眠る女」「リトル・フィッシュ」「ストレンジ・プラネット」「プリシラ」)がコミカルに演じ、垢抜けない田舎娘だったのがティリーのドレスのおかげで片思いしていた町のエリート青年の心をつかむガートルード役のサラ・スヌーク(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」)もコケティッシュな魅力を振りまく。

ティリー(ケイト・ウィンスレット:右)の幼馴染ガートルード役で豪アカデミー助演女優賞候補となったサラ・スヌーク
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 そのほかの出演者陣は、テディの弟で発達障害を持ちながらも兄テディはもちろん家族から愛情を注がれて育ったバーニー役のガイトン・グラントリー(「ハウス・オブ・ボンド」「イースト・ウエスト101 ②」)をはじめ、女優ミランダ・オットーの実父で大御所男優バリー・オットー(「オーストラリア」)がモリーとマートル母子に意地悪だった町の薬剤師役、その妻でこちらは夫と違って同母子に常に優しかったアーマ役にジュリア・ブレイク(「わが青春の輝き」)、町長がティリーに対抗させるために町に呼び寄せる別の女性デザイナー役にサシャ・ホーラー(「マイ・マザー・フランク」)、マートルが通っていた小学校で25年前に不審死した男児のことをえこひいきしてマートルには冷たかった女性教師役にケリー・フォックス(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」)、といった具合にオール・スターがいずれも重要な役どころで出演している。ティリーのライヴァルとなるもう一人のデザイナー役は当初エリザベス・デビッキが演じることになっていて(※本作の撮影開始前に連ドラの主演が決定したため降板)、デビッキに代わって起用されたサシャ・ホーラーはウィンスレットとは対照的にかなりふくよかな体型で、それはそれで結果的にはとても良かったが、ウィンスレット同様スラリとしたクール・ビューティのデビッキが演じていたら2人の美人デザイナーのバトルが別の意味で際立っただろうとも思われる。

ティリーの対抗馬として町長が町に呼び寄せたデザイナー、ウナ(サシャ・ホーラー:右から2人目)は上品なサロン形式の作品発表会で町の女性たちの心をつかんでいき…
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 作中ウィンスレットが着た衣装はマーゴ・ウィルソン、それ以外はマリオン・ボイスという2人の女性衣装デザイナーが手がけた衣装は見事で、同年度豪アカデミー衣装デザイン賞受賞も当然のこととうなずける。ディオール風のハイ・ファッションで颯爽と故郷に舞い戻ったティリーに影響され、町の女性たちも我先にティリーが手がけたドレスを身にまとい、広大な穀物畑以外は何もない辺鄙な田舎町で華麗に着飾った女たちというコントラストも見どころ。野暮ったい田舎娘丸出しだったガートルードの“ビフォーアフター”には誰もが驚くはず。

 ちなみに本作と同じように原作・監督・主演がいずれも女性のそのほかのオージー映画に本作にも出演のジュディ・デイヴィスがデビュー間もない若かりしころに主演した彼女の出世作でもある「わが青春の輝き」(79)や、ナオミ・ワッツ主演の「美しい絵の崩壊」(13)、グレタ・スカッキがヒロインの母親役で出演している「アリブランディを探して」(00)などもあり、機会があればそちらもぜひご観賞を。

豪アカデミー衣装デザイン賞を受賞した華麗なファッションにも注目
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【セリフにおける英語のヒント(その①)ティリーのことを覚えていないモリーに、ティリーが「私があなたの娘であることを思い出してほしいのよ」と言うと、モリーが冷たく「あり得ないわね(Fat chance)」と言い放つ。“fat”は“太った/脂っぽい”という意味だけでなく“実り豊かな/豊富な”という意味も持ち、“fat chance”をより日本語に近い表現に訳すと皮肉たっぷりに「可能性大ねえ」、つまり皮肉なので“見込みなし/見込み薄/あり得ない”という意味。

【セリフにおける英語のヒント(その②)町長エヴァン・ペティマンの妻の名はマリゴールドだがエヴァンは妻に対して“ペット(Pet)”と呼びかけている。これは彼らの名字である“ペティマン(Pettyman)”とは何ら関係がなく、“ダーリン”や“ベイビー” “ハニー”“スウィートハート”などと同じで恋人や配偶者に対する愛称のひとつだが、現代では“ペット”という呼び方は動物のペットと同じだと嫌悪する人もいてあまり使われなくなった。

【セリフにおける英語のヒント(その③)ティリーのライヴァル、ウナがデザインしたドレスを気に入らないガートルードがモリーとティリーの家まで駆け込んで来るのを玄関のポーチに座って見ていたモリーが家の中にいるティリーに「エリザベス王女のお出ましよ」と言い、ガートルードが家の中に入ると今度はウナがそれを追ってくるのが見え「グロリア・スワンソンのお出ましよ」と言う。エリザベス王女とはこの映画の設定の翌1952年にイギリス女王に即位した、まだ王女時代のエリザベス2世のことで“うら若き女性”という意味、一方のグロリア・スワンソンは後述の【映画に登場する実在のあれこれ(その④)】にも出てくるサイレント映画時代からのハリウッドの大女優で“怖い年増女”という皮肉。

【映画に登場する地名のヒント】舞台となる田舎町ダンガターとその隣町ウィンヤープはどちらも架空の地名だが、シドニーが州都のニュー・サウス・ウェールズ州にはもともと先住民族アボリジニが名付けていたガンダガイ(Gundagai)という似たような地名の田舎町が今もその名で現存、またシドニーには街中にウィンヤード(Wynyard)という電車の駅があり同駅周辺をその名で呼ぶほか、タスマニア州にも同じ綴りのウィンヤードという町が存在する。

【映画に登場する実在のあれこれ(その①)冒頭で夜中に故郷の町に到着したティリーがバスを降りて地面に置くスーツケース風のものの表面に“SINGER”とあるのは“歌手”という意味ではなく大手ミシン・ブランド、シンガーミシンのロゴで、なのでそれはスーツケースではなく携帯用ミシンの箱。

【映画に登場する実在のあれこれ(その②)ガートルードの母でダンガターの町の食料品・雑貨店オーナーの妻が店の外で歌っているハンサムな町の青年レジーを惚れ惚れとした表情で見て「レジーはダンガターのペリー・コモといったところね(I call Reggie the Perry Como of Dungatar)」と言うのは当時フランク・シナトラと並んで絶大な人気を誇ったアメリカ人歌手ペリー・コモ(1912〜2001)。

【映画に登場する実在のあれこれ(その③)ティリーが持っていた手のひらサイズの楕円形の額縁に入っている女性の写真をモリーが「これは誰なんだい?」と聞くとティリーが「マダム・ヴィオネよ。私が働かせてもらったデザイナーで、バレンシアガを紹介してくれた人でもあるわ」と答えるのはどちらも20世紀を代表するファッション・デザイナーでフランス人のマドレーヌ・ヴィオネ(1876〜1975)と、フランスで活躍したスペイン人クリストバル・バレンシアガ(1919〜1972)。ちなみに映画の冒頭に名前が出る日本人にもお馴染みのフランス人デザイナー、クリスチャン・ディオール(1905〜1957)は1947年にパリで最初のコレクションを発表し、翌48年に初の海外進出をオーストラリアで果たしており(日本進出は53年)、パリからマヌカン(モデル)を招き一流百貨店デイヴィッド・ジョーンズでディオールのパリコレの雰囲気を再現した。

【映画に登場する実在のあれこれ(その④)エディがティリーとモリーを誘って3人で観に行く映画はグロリア・スワンソンとウィリアム・ホールデン主演の1950年公開の白黒ハリウッド映画「サンセット大通り(Sunset Boulevard)」で、同映画の実際のシーンが使われている。

【映画に登場する実在のあれこれ(その⑤)モリーの家にあるLPレコードで何度か実際に映画の中で流されるのは、後に映画化もされたブロードウェイ・ミュージカル「南太平洋(South Pacific)」のサントラ盤で1949年に発売されたもの(「南太平洋」が映画化されたのは本作の設定の後の1958年なので、本作で使用されたのは舞台版のサントラ)。

【映画に登場する実在のあれこれ(その⑥)フットボールの試合観戦に来ていたモリーが手にしていたビスケット菓子をテディに差し出し「アイスト・ヴォヴォ(Iced VoVo)食べる?」と言うのはティム・タムなどで知られるオーストラリア最大手のビスケット・ブランド、アーノッツが1906年に販売開始したお菓子の名称で現在もオーストラリアのどのスーパーでも売られているほど人気。…なのだが、ウソかホントか記者のメルボルン出身のオージーの友人いわく、メルボルンではアイスト・ヴォヴォは友人が子供だった1970年代のメルボルンでは売られていなかった(またはあまり見かけなかった)とのことで、それが事実だとすると1951年のヴィクトリア州が舞台の本作で小道具として用いられるのはおかしいということになる。

Story(※本作のストーリーについては上記本文に掲載!)

「リベンジャー 復讐のドレス」日本版予告編

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