無性にチョコレートが食べたくなる2時間ドラマ「ドリッピング・イン・チョコレート」

posterドリッピング・イン・チョコレート
(TV映画)

Dripping in Chocolate

(オーストラリア2012年TV放映、日本未公開/90分/M15+/クライム・サスペンス)

監督:マーク・ジョフィ
出演:デイヴィッド・ウェナム/ルイーズ・ロンバード

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「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのファラミア役や「300〈スリーハンドレッド〉」シリーズのディリオス役でハリウッドでの地位を築いたオージー男優デイヴィッド・ウェナム(「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」)主演の英豪合作TV映画。相手役に日本でも人気を集めた米国の連ドラ「CSI:科学捜査班(CSI: Crime Scene Investigation)」シリーズのソフィア・カーティス役で知られるイギリス人女優ルイーズ・ロンバードを招き、「ミュリエルの結婚」(94)のトニ・コレットとレイチェル・グリフィスが再度共演した別のオージー映画で日本でも劇場公開された1996年版「ハーモニー(Cosi)」などのヴェテラン、マーク・ジョフィ(「ハウス・オブ・ボンド」)監督の下、全編シドニーで撮影された。デイヴィッド・ウェナムの人気と知名度を踏まえるとせめてDVD化されてもよかっただろうにと思えるが、本国オーストラリアでも2012年のTV放映から一度もDVD化されず、現在のところ英米豪などのAmazonプライムでのみ観賞可能。

デイヴィッド・ウェナムとルイーズ・ロンバードが共演
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 本作の衣装デザインを担当したのはジャパラリアのグルメ・コラム「オージー・レシピ」でお馴染みのネヴィちゃんことネヴィル・カー(2018年版「ハーモニー」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」)で、ネヴィちゃんの名前はオープニング・クレジットにも登場。本作ではルイーズ・ロンバードがほとんどのシーンでロング・ブーツを履いていることにやや違和感を感じるが、あれはロンバード本人がロング・ブーツを履くことを強く希望したためとネヴィちゃん。また、当初はタイトルにもあるチョコレートのようなリッチな衣装をというのがネヴィちゃんに求められた作品全体のテーマになっていたそうだが、クランクインの直前になってプロデューサーがその考えを180度変更、奇抜でないごく自然な衣装にと指示を出され、それまでに用意していた1万5,000ドル分の衣装が無駄になったというエピソードをこっそり教えてくれた(主要登場人物がさほど多くない現代ドラマである本作のような2時間ドラマにおける予算を考えると、無駄になった衣装代としては結構な金額だといえるだろう)。そんな事情があったにもかかわらず、ネヴィちゃんの仕事ぶりは芸術監督と並び主要紙「ジ・オーストラリアン」が掲載した本作のレヴューの中で名前を挙げて特筆される高評価を受けた。

何度か会ううちに互いに気になる存在となる二人
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 ストーリーは、とある雨の夜、シドニーの人気のない通りで若いブロンド女性が絞殺されるところから始まる。事件を捜査する刑事ベネット・オマラ(デイヴィッド・ウェナム)は、殺害現場で被害者が着ていたコートのポケットからチョコレートの包み紙を発見し、それが量産の大衆ブランドではなくシドニーで1店舗のみ展開する、その店手作りのチョコを売るいわゆるブティック・ショコラティエ「ラヴィース」のものであることを突き止め、同店オーナー・ショラティエ、ジュリアナ・ラヴィース(ルイーズ・ロンバード)を訪ねる。捜査が進むうち、被害者と繋がりのあった何人もの人物が「ラヴィース」のチョコレートを所持していたことが分かり…というもの。

 とそれだけ聞くと、単に主要キャラであるジュリアナが怪しいと思うだろうが、ジュリアナが犯人でないことはドラマの最初から誰の目にも明らかで、実際、冒頭の殺害シーンはブロンド女性が何者かに首を絞められているまさにその瞬間、ジュリアナは店でチョコを作っていて両者のカットが緊迫感を持たせながら交互に出てくるし(推理ものでは基本、そんなカットを盛り込んで実は犯人はジュリアナでしたという騙しは許されない)、続く第2の殺人現場の最初の遺体発見者はジュリアナであることがはっきりと描写されるから、ジュリアナは犯人ではあり得ない。ただ、ジュリアナが店を構えている建物を含みその一帯は近々取り壊され高級ホテルとして生まれ変わる開発計画が進行中で当然ジュリアナの店も立ち退きを迫られており、その開発計画の広告に起用されている人気モデル、セリーヌが冒頭、最初に殺される犠牲者だったり、ジュリアナもセリーヌが自分の店にチョコを買いに来たことがある、つまり犠牲者と面識がなかったわけではない事実を認めてはいるが、ジュリアナというよりも殺されたセリーヌを巡って一人、そしてまた一人と増えていく人間関係が交錯し、二転三転していくストーリー展開が見どころ。

 捜査上、ベネットとジュリアナは何度か会ううちに互いに引かれ合っていくが、その描写は一切あざとくなく、引かれ合うというよりもなんとなく気になる存在になっていくと例えていいほどさり気なく、両者を演じるウェナムとロンバードの演技もごく自然で好感が持てる。刑事としてのベネットの公の顔のスーツ姿がバシッとしているのはもちろん、家で愛犬を飼っている以外は一人暮らしのベネットのプライヴェイトのシーンでもウェナムの魅力は抜群で、ウェナム・ファンを楽しませてくれる。ロンバードもかつてのフェイ・ダナウェイ似の美貌が印象的。

 怪しい人物が何人も登場し、クライマックスではあっと驚く真犯人が用意されているあたりは高度なプロットだが、せっかくだったらハラハラさせられるようなミステリアスな演出がもう少しあっても、という点が残念(全くないわけではない)。

ベネット(デイヴィッド・ウェナム:中央)とともに殺人事件を調査するベネットの部下のカール(リック・ドナルド)とレベッカ(チェルシー・プレストン・クレイフォード)
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 犯人探しとは無関係だが、ウェナム扮するベネットが3週間のデトックス中で、ジャンク・フードやコーヒー、アルコール、もちろんチョコレートにも手を出さず、事件現場や職場では周囲の刑事たちがコーヒーを飲んでいる中、自分だけは真緑色のドリンク(おそらく当時オーストラリアで流行ったスーパーフード、スピルリナ)を飲み、家ではスープと徹底している。通りですれ違いざま、若者が美味しそうにサンドウィッチにかぶりついているのを横目で見る時のベネットの複雑な表情がある意味、微笑ましい。

 ベネットもジュリアナも、それぞれが過去にパートナーとのことで何かしら心に傷を負っているのも、犯人探しと並んで気になるところ。中盤以降に明らかにされるが、特にベネットの場合、20代前半と思われる実の娘から電話がかかってきて、「もうすぐママの誕生日なのよ。パパも来るわよね?」というセリフがどういう意味を持つのか、こちらも犯人探しとは別の意味で観る者に「そういうことだったのか!」と思わせるその後の展開に注目されたし。

 ショラティエ、ジュリアナが自分の店で売る手作りチョコを作るシーンがオープニングだけでなくその後も出てきて、その描写がどちらも実に丁寧で、チョコレート好きはもちろん本作を観たら誰もがチョコを食べたくなること間違いなし。なので本作の観賞に当たっては、お気に入りの、それでもできれば本作に出てくるようなブティック・ショラティエのとっておきのチョコをポップコーンの代わりに用意しておくことをおすすめ。

静かな夜にチョコレートを作ることで自身も癒されているかのようなジュリアナ(ルイーズ・ロンバード)
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【余談】本作の衣装デザイナーがジャパラリアのグルメ・コラム「オージー・レシピ」担当でもあるネヴィちゃんだった関係から、シドニーで開催された本作の完成記念パーティに記者も参加させてもらい、主演のデイヴィッド・ウェナムと挨拶する幸運に恵まれた。握手して短い会話を交わしただけだが、映画で見るままのルックスと飾らない人柄の持ち主という好印象だった。パーティでのウェナムとネヴィちゃんの2ショット写真も掲載のジャパラリア・ブログ記事はこちら

Story(※本作のストーリーについては上記本文に掲載!)

「ドリッピング・イン・チョコレート」予告編

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