自分のことがもっと好きになれる映画「ミュリエルの結婚」

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※2023年1月6日更新

ミュリエルの結婚

Muriel’s Wedding

(オーストラリア1994年、日本1996年公開/101分/M15+/コメディ・ドラマ)

監督:P.J.ホーガン
出演:トニ・コレット/レイチェル・グリフィス/ビル・ハンター/ジーニー・ドライナン/ソフィー・リー

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 ジュリア・ロバーツ主演の「ベスト・フレンズ・ウェディング(My Best Friend’s Wedding)」(97)でハリウッド進出を果たしたP.J.ホーガン監督の出世作として、その3年前の1994年に劇場公開されたオーストラリアとフランス合作のコメディ・ドラマ映画。ストーリーの核となるのはタイトルにもある通り主人公ミュリエルの結婚、それも純白のドレスをまとった花嫁が登場するお馴染みの華やかな挙式で、同じテーマがそのまま「ベスト・フレンズ・ウェディング」にも受け継がれたとみられる。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)で主要10部門11候補となり(助演女優賞にヒロインの親友役と母親役がダブル・ノミネイションを受けた)、作品、主演女優(トニ・コレット)、助演女優(ミュリエルの親友ロンダ役のレイチェル・グリフィス)、音響賞の4部門受賞に輝いた。ちなみに残念ながら受賞を逸したのは監督、助演男優(ミュリエルの父役のビル・ハンター)、脚本、美術、衣装デザイン、編集賞。翌年には全米でも公開されヒットし、本作を機にハリウッドに進出したのは監督だけでなく、タイトル・ロールである主人公ミュリエルを演じたトニ・コレット(「ハーモニー <1996年版>」)は本作で米ゴールデン・グローブ賞主演女優賞候補となり、その後「シックス・センス(The Sixth Sense)」(99)で、ミュリエルの親友ロンダ役のレイチェル・グリフィス(「ケリー・ザ・ギャング」「ハーモニー <1996年版>」)も「ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ(Hilary and Jacky)」(98)でそれぞれ米アカデミー助演女優賞にノミネイトされる大出世ぶり。映画の公開から20年以上を経た2017年にミュージカル舞台化、シドニーで初演の幕を開け、ミュージカル版も絶賛を博した。

映画の宣材写真用と思われ実際の映画の中にはこんな和やかなスナップ撮影をするシーンはないが…(左からレイチェル・グリフィス、ダニエル・ラパイン、トニ・コレット、ビル・ハンター)
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ミュリエル(トニ・コレット:写真左)は旅先で再会した高校時代の同級生ロンダ(レイチェル・グリフィス)と意気投合し…
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 撮影はゴールド・コーストなどクイーンズランド(QLD)州とシドニーで行われ、ホリデイのシーンのハイビスカス島は海外ロケではなくQLD州ハミルトン島で、そして意外なことにQLD州にあるという設定のミュリエルの実家のシーンはシドニー郊外ナラビーンで撮影された。

 ストーリーそのものは、極端な例えであるがブライアン・デ・パルマ監督の76年の有名なアメリカのホラー映画「キャリー」のコメディ版といったところ。ブスで根暗な女子高生キャリーが学園祭の女王に選ばれてクライマックスを迎える「キャリー」に対して、こちらはブスでデブのミュリエルが、父親や周囲の女友達など自分を馬鹿にしてきたすべての人を見返す最高の手段として、誰もが羨む男性とついに結婚することでクライマックスへと至る。両作品ともそこからの展開がさらなる見どころである点も共通している。

ミュリエルを馬鹿にする女友達のグループを演じる女優陣もピッパ・グランディソン(左)やソフィー・リー(中央)など豪華キャストだった
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ミュリエルの母親役を演じたジーニー・ドライナンも本作で同年度オーストラリア・アカデミー助演女優賞候補に
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 その後“演技派女優”としての地位を確立したコレットとグリフィスはそれぞれ主役、準主役として映画をグイグイと引っ張る見事な演技力を見せる。ほかもミュリエルの両親役でそれぞれ豪アカデミー助演男女優賞にノミネイトされたビル・ハンター(「オーストラリア」「プリシラ」「ダンシング・ヒーロー」「誓い」)とジーニー・ドライナン(「ペイパーバック・ヒーロー」)を筆頭に全豪映画TVドラマ界のオール・スター・キャストをそろえ、ミュリエルを馬鹿にするビッチな女友達集団のリーダー格タニア役にソフィー・リー(「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラフェル・イン・ヒズ・ハンド」「タップドッグス」「ザ・キャッスル」)、タニアの親友の一人でありながらタニアの男を寝取るニコール役にピッパ・グランディソン(「月に願いを」「ブライズ・オブ・クライスト」)、それら女友達のグループが旅先で知り合う男の子たちの一人として本作と同じ94年公開の「プリシラ」の監督ステファン・エリオットが出演しており、これがなかなかのイケメン。ほかにもミュリエルに思いを寄せる青年ブライス役のマット・デイ(「月に願いを」)、ミュリエルの弟でミュリエル同様、両親の家でだらしないパラサイト生活を送るペリー役のダン・ワイリー(「アニマル・キングダム」「バッドコップバッドコップ」「ハーモニー <1996年版>」「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」)、ミュリエルの父ビルが半ば公然と浮気している不倫相手ディードレ役のジニー・ネヴィンソン(「バッドコップバッドコップ」)などが印象に残る演技を見せる。ディードレはミュリエルが両親や弟・妹たちとともに外食しているレストランに毎回「なんて偶然なのかしら」と白々しく現れ、ビルにうながされちゃっかり同席するだけでなく、「素敵だわ(Lovely)」が口癖で、かつ自分が関心のない相手の話はろくに聞いておらずミュリエルがドレスを盗んで逮捕されたと聞いても「素敵だわ」と言う天然ぶり。そしてミュリエルが出会い系広告を通して知り合う理想の男性である水泳選手デイヴィッドのコーチ役には実に500本近い映画やTVドラマに出演しているだけでなく舞台での活躍も目立つ大御所クリス・ヘイウッド(「シャイン」「英雄モラント傷だらけの戦士」)。水泳選手デイヴィッド役のダニエル・ラパインも本作で重要な役どころを演じるが、2000年代以降は活動の拠点をロンドンに移しオーストラリア映画への出演はほとんどないのが残念。さらに、こちらは1シーンだけの登場だがブライダル・ショップのオーナーでミュリエルの作り話に同情してミュリエルのウエディング・ドレス姿の写真を撮ってあげる女性役に日本でもオンエアされたオーストラリアとポーランド合作の人気SF連ドラ「対決スペルバインダー(Spellbinder)」シリーズで主要キャラ、アシュカ役を演じたヘザー・ミッチェル(「パーム・ビーチ」「華麗なるギャツビー」「台風の目」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)が扮している。

ミュリエルがついに見つけた理想の男性である水泳選手デイヴィッド(ダニエル・ラパイン:左)とそのコーチ(クリス・ヘイウッド)には実はある思惑があり…
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 ミュリエルはABBAの大ファンという設定で、90年代半ば当時でも若い女性が憧れるグループとして既にABBAは流行遅れだったが(※後述)、それがミュリエルの野暮ったい性格を物語るだけでなく、きらめきたるABBAのヒット曲の中にこそミュリエルの理想の世界があるというキャラクター設定にもなっていて効果的。ABBAの曲は本作に何曲も登場するが、中でも最大のヒット曲「ダンシング・クイーン」は3回も、だがいずれも非常に印象的に流れる。特に2回目は壮大なオーケストラ・ヴァージョンで、ミュリエルが初めて憧れのウエディング・ドレスを着た自分自身を鏡の中に見るシーン(映画を観てのお楽しみだが、決して結婚が決まったから着るわけではないところもポイント)で感動的に使用されている。

旅先のホテルで開催されたモノマネ大会でABBAに扮し、クチパクでABBAのヒット曲「恋のウォータールー(Waterloo)」を披露するロンダ(レイチェル・グリフィス:左)とミュリエル(トニ・コレット)
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シドニーに移り住んだミュリエル(トニ・コレット:左)に思いを寄せる青年ブライス(マット・デイ)
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 ミュリエルには弟が1人、妹が2人いるがまだ義務教育課程の末の妹を除きミュリエルを含み3人とも成人しているにもかかわらず実家でパラサイト生活。ミュリエル自身はそんな状況に満足しているわけではないが、では自分に何ができるのかともがく姿に共感できる人も少なくないだろう。高校時代の同級生ロンダと旅先で再会したことにより、実家を飛び出しロンダを頼ってシドニーに行くことがミュリエルのターニング・ポイントとなり、誰もが認めるブスでデブだったミュリエルが、話が進むにつれて少しずつ綺麗な女性に見えてくる。実際、コレットは前半のシーンのために7週間で体重を増やし(しかも18キロも!)、おそらく脚本に沿った順撮りに従って体重を元に戻すという驚異的な女優魂で撮影に取り組み、メイクも徐々に洗練されたものに変えていったことからくる明らかな外見の変化もあるが、それだけではないミュリエルの内面の美しさがスクリーンを通して観る者にも伝わってくるからだろう。観終わった時に“自分のことがもっと好きになれる”映画だ。

【セリフにおける英語のヒント(その1)ミュリエルがABBAのファンであることを女友達に時代遅れだと馬鹿にされるシーンで、女友達の一人が「私たちはニルヴァーナとかベイビー・アニマルズを聴くのよ」と言うセリフがある。ニルヴァーナは日本でも知名度の高い米国のグループで、ベイビー・アニマルズ(Baby Animals)は本作が公開されたのと同じ90年代前半にオーストラリア国内で一世を風靡したオージー・ロック・バンドのことである。

【セリフにおける英語のヒント(その2)再会したロンダに自分は婚約していると嘘をついたミュリエルは、フィアンセの名前を聞かれ、とっさに思いついたティム・シムズだと答え、ロンダもそれ以上は突っ込まないが、ゴロとしては飲茶の点心の複数形を意味する“ディム・シムズ(Dim Sims)”と酷似しているというジョーク。

STORY
 ビーチ・リゾートとして観光客で賑わうオーストラリア・クイーンズランド州のとある町に住むミュリエル(トニ・コレット)は、妹と弟ともども成人しても両親の家で仕事もせずのパラサイト生活の毎日で、父親をはじめ女友達のグループからも馬鹿にされている。そんなある日、旅先で高校時代の同級生ロンダ(レイチェル・グリフィス)と再会し意気投合、旅行から戻った直後、ロンダを頼ってシドニーに移り住む。名前もミュリエルからマリエルに変え、いつかきっと純白のウエディング・ドレスを着ることを心に誓い…。

「ミュリエルの結婚」予告編

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