※2023年3月2日更新
「ケリー・ザ・ギャング」
Ned Kelly
(オーストラリア2003年公開、日本2004年DVDソフト化/110分/PG/歴史ドラマ)
監督:グレゴール・ジョーダン
出演:ヒース・レジャー/オーランド・ブルーム/ジェフリー・ラッシュ/ナオミ・ワッツ/ジョエル・エジャトン
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19世紀後半のオーストラリアに実在した、だが同時に伝説的な存在でもある盗賊ネッド・ケリー(1855~1880)の生涯を描いたオーストラリアの歴史ドラマで、オージー作家ロバート・ドリューが1991年に出版した小説「アワ・サンシャイン(Our Sunshine)」の映画化。別のオージー映画「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」(99)でまだ無名だったヒース・レジャー(「キャンディ」)を主役に抜擢したグレゴール・ジョーダン監督が再度レジャーとコンビを組み、本作公開の時点では既にハリウッド・スターとなっていたレジャーがタイトル・ロールである主人公ネッド・ケリー役を演じた。脇を固めるのはオージー・オスカー男優のジェフリー・ラッシュ(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」「台風の目」「キャンディ」「ランタナ」「シャイン」)と、こちらも本作と同じ03年の「21グラム(21 Grams)」でオスカー主演女優賞候補となったオージー女優ナオミ・ワッツ(「ペンギンが教えてくれたこと」「美しい絵の崩壊」「ストレンジ・プラネット」「ブライズ・オブ・クライスト」)、さらにオーランド・ブルームを英国から招くという豪華キャストが顔をそろえたおかげかオーストラリアだけでなく英米仏の3カ国も出資(※ワッツは英国出身だが14歳の時に家族とオーストラリアへ移住し、初期の女優活動の場はもっぱらオーストラリアだった)。ラッシュに関しては本作の7年前のオージー映画「シャイン」(96)で米オスカー主演男優賞を受賞していたから歴史モノである本作に風格も添えると期待されたはずで、それ自体は間違いではなくラッシュの出演は確かに後半における本作の雰囲気を引き締めたが、興収はわずか660万ドルに留まり、日本では劇場公開すらされず翌04年にDVD化されたのみだった。とはいえ、同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)においては監督、主演男優(レジャー)、助演男優(ブルーム)、撮影、脚色、編集、音響など主要9部門にノミネイトされ、美術賞並びに衣装デザイン賞の2部門を受賞した。ネッド・ケリーがヴィクトリア州出身だったからだろう、撮影は全編メルボルンを含む同州各地で行われた。
実在の名高い盗賊ネッド・ケリーをヒース・レジャー(右)が好演(左はネッドのギャング団の仲間ジョー役のオーランド・ブルーム)
町の名士夫人ジュリア(ナオミ・ワッツ)は2人の子供たちにも恵まれ何不自由なく暮らしていたが、ネッド(ヒース・レジャー)の誠実さに引かれ…
組織立った作戦でネッドたちの一味を追いつめていくヘア警視長官(ジェフリー・ラッシュ)
劇場公開に先立つ宣伝ポスターはここに掲載のレジャーの顔のアップ版のほか、前述のラッシュ、ワッツ、ブルームの単独アップの3枚も用意され、つまりはこの4人が非常に重要な役どころを演じるのだろうと思われたが、蓋を開けてみると本作は一にも二にもレジャーのための映画で、ほか3人の描かれ方はどうでもいいとはいわないまでもかなり薄っぺらい。レジャー演じるネッド・ケリーと恋心を通わせる町の名士夫人ジュリア役のワッツに至っては非常に中途半端な出番しかなく、不完全燃焼もはなはだしい。要するにネッド・ケリー以外のキャラクターにさして“見応え”がないのだ。レジャー以外の3人も演技派なので、“見せ場”を与えられなかったのはつくづくもったいない話である。ヒットしなかった要因はおそらくそこ(脚本)にあるだろう。
だが一方で19世紀後半のオーストラリアを衣装やセットで忠実に再現、豪アカデミー賞で美術賞と衣装デザイン賞を受賞したのも十分うなずける重厚感が全編に漂う。また、流刑民の子供たちが、親が犯罪者だったという理由でどれだけ不当な扱いを受けていたかなど、当時の社会情勢をおそらく誇張することなく正確に今に伝えた点は評価に値する。レジャーは、そんな流刑移民たちの怒りを体現するヒーロー、ネッド・ケリーをこちらも見事に体現している。レジャーの魅力は全編を通して絶大で、何をやらせても、どんなセリフを言わせてもかっこいい。ここ数年、現代オージー男性たちの間で髭を思いっきりモジャモジャに伸ばすのが流行っているが、レジャーがやるとなんとサマになることか! また、本作は終始大真面目なドラマではなく、笑えるシーンも随所に盛り込まれている。
前述の4人の主要キャラ以外の俳優陣では、「スター・ウォーズ」エピソード2(02)と3(05)のオーウェン・ラーズ役が海外でも知られるジョエル・エジャトン(「華麗なるギャツビー」「アニマル・キングダム」「シークレット・メンズ・ビジネス」)と、オスカー候補歴を持つレイチェル・グリフィス(「ハーモニー <1996年版>」「ミュリエルの結婚」)というこちらも2人のオージー男女優も出演しており、グリフィスは1シーンだけだが非常にコケティッシュな魅力を振りまくキャラで登場している(※ジョエル・エジャトンの名字は日本では“エドガートン”と記載されるが“エジャトン”が正解)。また、エジャトンやグリフィスに比べるとチョイ役にすぎないが、町の警官役でダミアン・ウォルシュ・ハウリング(「イースト・ウエスト101 ②」「マクベス ザ・ギャングスター」「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラフェル・イン・ヒズ・ハンド」)やピーター・フェルプス(「ランタナ」)、キリ・パラモア(「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」)も顔を出している。パラモアは俳優としては芽が出ず、本作を最後に俳優業からは遠ざかったが、2006年になんと東大で博士号を取得し、現在はオランダのライデン大学で日本史学の助教授として働いているというからそれも驚き。
ジョエル・エジャトン(左)とオーランド・ブルーム
レイチェル・グリフィス(右)も出演
ネッド・ケリーが処刑されたのはわずか25歳の時だったが、レジャーも本作の5年後、28歳の若さで急死した。レジャーは豪アカデミー賞には20代にして5度、いずれも主演男優賞にノミネイトされ(※純然たるオーストラリア映画だけが対象となる豪アカデミー賞にて3度、国を問わず対象年度にオーストラリアで公開されたすべての映画が対象となる豪アカデミー国際賞で2度)、うち「ブロークバック・マウンテン」(05)と「ダークナイト(The Dark Knight)」(08)で2度受賞(※どちらも豪アカデミー国際賞で「ダークナイト」は死後受賞)、米オスカーでも両作品で候補となり「ダークナイト」がこちらは助演男優賞を死後受賞と、その演技力を高く評価されていた。ハリウッド・スターとなってからも本作だけでなく律儀にオーストラリア映画にも出演していたし、生きていればオーストラリア映画界のさらなる発展に大いに貢献しただろう。死刑の判決が出た後、8万人もが助命嘆願書に署名したほど民衆に愛されたネッド・ケリーと、映画ファンだけでなく映画界そのものに深く愛された俳優ヒース・レジャーに乾杯!
【シーンに見るオージー・ライフスタイル】ネッドが母と大勢いる幼い弟や妹たちと家で夕飯を囲むシーンで、弟の一人が「今日のシチューは何なの?」と問うと、妹が「ウォンバットよ」と事もなげに言う。食用としてのカンガルー肉はさほど珍しくないオーストラリアだが、カンガルーと同じく有袋類のウォンバットも19世紀当時、食されていたのだ。
STORY
19世紀後半のオーストラリア・ヴィクトリア州。ネッド・ケリー(ヒース・レジャー)は幼いころ、溺れかけた子供を救い、その際にもらった表彰代わりの腰紐を大切にしながら成長した誠実な青年だったが、アイルランド系流刑者の子として生まれ育ったばかりに常に不当な差別を受け、16歳の時に馬泥棒の濡れ衣を着せられ投獄されてしまう。出所後、ネッドは弟2人と親友ジョー(オーランド・ブルーム)とともにギャング団を結成、やむなく殺人まで犯してしまうが、ネッドたちが盗みを働くターゲットは富裕層のみだったため、支配階級への不満を募らせる一般民衆からは熱狂的ともいえる人気を集めた。町の名士夫人ジュリア(ナオミ・ワッツ)も、夫と子供たちがいる身だがそんなネッドに引かれていき…。
「ケリー・ザ・ギャング」劇場予告編