ニコール・キッドマン全裸シーンありの体当たり演技(映画「虹蛇と眠る女」)

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※2022年12月11日更新

虹蛇と眠る女

Strangerland

(オーストラリア2015年、日本2016年公開/112分/MA15+/心理サスペンス)

監督:キム・ファラント
出演:ニコール・キッドマン/ジョセフ・ファインズ/ヒューゴ・ウィーヴィング/マディソン・ブラウン/ニコラス・ハミルトン

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 オーストラリアとアイルランド合作映画で、オージー・オスカー女優ニコール・キッドマン(「LION/ライオン 〜25年目のただいま」「デッド・カーム/戦慄の航海」「BMXアドベンチャー」「ブッシュ・クリスマス」)が実に24年ぶりに本国オーストラリアの映画に主演したことで話題を集めた心理サスペンス・ドラマ。日本では“25年ぶり”と報じられたが、日本での劇場公開が本国に1年遅れたためで、正確には91年の「ニコール・キッドマンの恋愛天国(Flirting)」以来だから24年ぶり。さらに厳密にいえばキッドマンは「ムーラン・ルージュ」(01)や「オーストラリア」(08)などオーストラリアで撮影されただけでなくこちらも合作とはいえ“オーストラリア映画”に出演しているが、ハリウッド色が強いそれらを除きオーストラリア映画界が全面的に主導権を握って製作された作品としては24年ぶりという意味である。TVドラマで経験を積んだ女性監督キム・ファラントの劇場映画監督デビュー作となった。

 共演に「マトリックス」三部作と「ロード・オブ・ザ・リング」三部作でお馴染みのオージー男優ヒューゴ・ウィーヴィング(「リベンジャー 復讐のドレス」「リトル・フィッシュ」「ストレンジ・プラネット」「ベイブ<声>」「プリシラ」)に加え、ともに98年公開の「エリザベス」と「恋におちたシェイクスピア(Shakespeare in Love)」でスターダムを築き上げたジョセフ・ファインズを英国から招き、ほぼ全編シドニーが州都であるニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州内陸部のアウトバックにある小さな町ブロークン・ヒルと、オレンジ(※NSW州に実在する地名)やカウラ近郊のこちらも田舎町キャナウンドラで撮影(風景描写に北部準州アリス・スプリングスなども含まれる)、2015年度米サンダンス映画祭とシドニー映画祭公式参加作品に選ばれた。

夫婦役で初共演のニコール・キッドマンとジョセフ・ファインズ
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“見知らぬ土地(Strangerland)”という意味の原題からかけ離れた「虹蛇と眠る女」という邦題は、おそらくキッドマン主演で過去にヒットした映画の邦題である「冷たい月を抱く女(Malice)」(93)と「誘う女(To Die For)」(95)を意識して付けられたと思われるが、3作品とも単に最後に“女”という言葉を付けただけでなく、それぞれの物語の伏線を踏襲したなかなかのセンスの邦題だ。

 映画はキッドマン演じるキャサリンの娘リリー(マディソン・ブラウン)の囁くようなモノローグで幕を開け、それはある意味、オーストラリア映画界が世界に誇る不朽の名作「ピクニックatハンギングロック」(75)のオマージュとも受け取れる。「ピクニック~」も登場人物の一人でアン・ルイーズ・ランバート扮する美少女ミランダの静かなモノローグで始まるが、どちらのモノローグも短いながら意味深かつミステリアスな内容で、やはりリリー、ミランダともに映画の前半で失踪してしまうという共通点がある。

キャサリン(ニコール・キッドマン)の子供たちの失踪事件を追う地元警官デイヴィッド・レイ(ヒューゴ・ウィーヴィング)
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 高い評価を得た別のオーストラリア映画「ランタナ」(01)に通じる淡々とした心理サスペンスで、淡々としていながらも中だるみすることなく観る者を最後まで引きつける秀作といえる。主要登場人物は多くなく、もっぱらキッドマンとファインズ演じるパーカー夫妻と、地元警察官デイヴィッド・レイ役のウィーヴィングの3人にフォーカスしてストーリーが展開する。そもそも舞台となる砂漠地帯にある架空の町自体、本当に規模が小さく、知り合いではなくとも誰もが町の住人全員のことを知っているような状況で、よそから最近その町に引っ越してきたパーカー夫妻と2人の子供たちは町の人々の好奇の視線にさらされながら、なんとなくまだほかの住人と打ち解けられないでいる、しかもそれは町の住人からよそ者扱いされているからではなく、むしろパーカー夫妻がなぜかあえて地元住人たちとの間に距離を置いているからというのが物語の基本設定となっている。

町の不良少年スティーヴ(ショーン・キーナン)に挑発的な態度で接し、誘われるままついていくパーカー夫妻の娘リリー(マディソン・ブラウン)
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 突然あっと驚かす演出も残酷描写も一切ないのに、全編に静かな怖さが漂う。パーカー夫妻の2人の子供たちがある夜、こつ然と家から姿を消してしまい、2人の行方を知る鍵を握るのは誰なのかを探るのが主軸だが、パーカー夫妻を含み誰もが何か秘密を持っていそうな“ヒント”があちこちに散りばめられ、一ひねりや二ひねり以上のものが脚本に盛り込まれつつも決して複雑ではない。興味深いことに子供たちの失踪にかかわっているであろう“犯人探し”は、どうでもいいとはいわないが、そこが“見どころ”ではない。パーカー夫妻の夫婦関係や子供たちとの親子関係、夫妻と警察官デイヴィッド・レイとの関係をより深く掘り下げた“ドラマ映画”だ。

無口で内向的なリリーの弟トム(ニコラス・ハミルトン)
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 俳優陣は主要3人の演技力だけで十分文句なしで、特にキッドマンは終始ほとんどノーメイクに近いだけでなく髪も洗いざらしのまま、田舎町の主婦キャサリン役に徹し服装もすべて普段着。本作以前までのキッドマンの映画は“普段着を着てもおしゃれ”な印象が強かったが、本作ではファッションにはさほど目がいかない。それはなにも衣装チームの腕が悪かったからではなくむしろ素晴らしいからで、本作は“衣装で魅せる映画”ではないのだ。というわけで、キッドマンは難しい年ごろの10代の娘と息子を持つ役柄を非常にリアルに体現し、服を着たままだがファインズとの濡れ場や、濡れ場ではないが陰部までさらけ出した全裸シーンもこなす体当たり演技を見せてくれる。ちなみにジャパラリア誌上グルメ・コラム「オージー・レシピ」担当、本職は映画TVドラマの衣装デザイナーのネヴィちゃんことネヴィル・カー(「ハーモニー <2018年版>」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「イースト・ウエスト101  」「バッドコップバッドコップ」)もコスチューム・スーパーヴァイザーとして参加。

失踪したリリーとトムを探している際、突然砂嵐に巻き込まれたキャサリン(ニコール・キッドマン)
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 下着姿で家の中をうろつく娘リリーにうるさく言う、ちょっと気難しそうな町の薬剤師マシュー役のファインズも、そして少々くたびれた独り者の中年警察官デイヴィッド・レイ役のウィーヴィングもとても自然に好演(かつウィーヴィングは後ろ姿だがこちらも全裸シーンありで、50代半ばにしてなおプリッとしたお尻を披露)。マシュー役は当初「プリシラ」(94)のドラァグ・クイーン役でブレイクしたオージー男優ガイ・ピアースが演じることになっていたが(撮影開始前に降板)、完成した映画を観た後は、ガイ・ピアースとニコール・キッドマンの夫婦役ではさっぱりピンとこないのが本音で、ジョセフ・ファインズのキャスティングで正解だったと思える。そのほかの出演者陣ではリリーと関係を持つ町の不良少年スティーヴ役のショーン・キーナン(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」)が、出番こそ多くはないがなかなかのハンサム。

 空撮を多用して壮大なアウトバックを見せる演出も非常に効果的で、まるで3D映画のような立体感が目の覚めるように美しく幻想的な風景描写から感じ取れる。アボリジニの伝承にある虹蛇をストーリーに絡めつつ、誰のせいなのか、それとも誰のせいでもないのか、観る者一人ひとりに答えを委ねる余韻も魅力的だ。

 ところで気になる主要俳優3人の撮影現場での印象はどうだったのだろう? NSW州での撮影の全行程に立ち会ったネヴィちゃんいわく、3人ともいたってフレンドリーで非常にやりやすかったとのこと。ニコール・キッドマンに至っては、クランクアップの日にキャストとスタッフ全員が入るお決まりの記念集合写真撮影の際、「私はネヴィル(ネヴィちゃんの本名)の隣がいいの!」と言い張ったほどネヴィちゃんを気に入ってくれたそう(主演女優なので実際には周囲にうながされ、キッドマンは前列中央に移動せざるを得なかったため、残念ながらネヴィちゃんはオスカー女優の隣で写真に納まることはなかったそうだが)。また、撮影は内陸部の辺鄙な砂漠地帯だったため、現地に滞在中の数週間、スタッフは各自のスマホやラップトップの電源確保に若干苦労したそうで、キッドマンはクランクアップの際に「今後またアウトバックで撮影がある時に活用してね!」という意味でスタッフ全員に外付けバッテリーをプレゼントしてお世話になったスタッフに感謝の気持ちを表してくれたという。

【セリフにおける英語のヒントその1家での朝食のシーンで娘リリー(マディソン・ブラウン)が母キャサリン(ニコール・キッドマン)に、「(気温が)40度以上の日は休校になる決まりだったわよね?」と言うセリフがある。学校をサボりたいがためのジョークではなく、本作のようにオーストラリア内陸部では夏の間に40度超えの日が普通にある。

【セリフにおける英語のヒントその2学校帰りに姉と食べるためのアイス代として父マシュー(ジョセフ・ファインズ)からトム(ニコラス・ハミルトン)が10ドル紙幣をもらい、それをそのまま別の場所にいた姉リリー(マディソン・ブラウン)のところに持っていって渡すと、リリーが「たったそれだけ?」とふてくされたように言うシーンがある。本作公開の2015年当時、オーストラリアのコンビニではいわゆる子供たちに人気の大衆ブランドのアイスなら1本2~3ドルで買えたので、姉弟2人分で10ドルというのは決して異常にケチ臭い額のお小遣いというわけではない。

【セリフにおける英語のヒントその3バーティ(メイン・ワイアット)がデイヴィッド・レイ(ヒューゴ・ウィーヴィング)に「後でフッティを観ないか?」と言うシーンのフッティ(Footy)は、オーストラリアン・フットボールのことを指すオージー・イングリッシュ特有の短縮語で、後で一緒にTV観戦しようと誘ったセリフである。

STORY
 オーストラリア内陸部の砂漠地帯にある小さな町に引っ越してきたキャサリン(ニコール・キッドマン)とマシュー(ジョセフ・ファインズ)夫妻と、夫妻の2人の子供たち。姉のリリー(マディソン・ブラウン)は色気づいてきた年ごろで父マシューはいい顔をせず、弟トム(ニコラス・ハミルトン)は眠れないと夜中にこっそり家を抜け出し散歩に行くのが母キャサリンの心配の種ではあるが、キャサリンは温かい目で家族を見守っている。そんなある夜、リリーとトムが忽然と姿を消してしまい…。

「虹蛇と眠る女」日本版予告編

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