※2023年3月20日更新
「ハウス・オブ・ボンド」
(TVドラマ)
House of Bond
(オーストラリア2017年TV放映、日本未公開/前後編149分/M/伝記ドラマ/DVDのほか、Apple TV、Stanで観賞可能)
監督:マーク・ジョフィ
出演:ベン・ミンゲイ/エイドリアン・ピカリング/レイチェル・テイラー/サム・ニール/アン・ルイーズ・ランバート
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アラン・ボンドの名前を知らない人も、オーストラリアに何年か住んでいたらクイーンズランド州ゴールド・コーストにあるボンド大学の存在は知っているだろう。本作は、同大学創立者でもある実在のオーストラリア人実業家アラン・ボンド(1938~2015)の生涯を描いたオーストラリアのTVドラマで、チャンネル・ナイン系列により2017年、前後編の2夜連続で全豪TV放映された。監督は日本でも劇場公開された1996年版「ハーモニー」など全豪映画TV界で活躍するマーク・ジョフィ(「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」)。オーストラリア国内外のさまざまな国や都市が舞台となるが、ロンドンのバッキンガム宮殿での園遊会という設定のシーンはセンテニアル・パークのローズ・ガーデンでといった具体に全編シドニーで撮影された。
名実ともに世界的セレブとなったアラン・ボンド(ベン・ミンゲイ)とアイリーン(エイドリアン・ピカリング)夫妻
ボンド大学の創立者とはいえ、実際のアラン・ボンドは教育とはおよそ無縁の人物で、高校中退、14歳と18歳の時には窃盗容疑による逮捕歴もある。もともとは西オーストラリア州パースのちっぽけな看板業者から成り上がったそんな男が自家用ジェット3機を有する世界でも有数の大資産家となり、そして後に破産宣告して4年間服役するという波乱万丈な生涯を、彼のことを知らない人にもよく理解できるよう、うまく描き出している。
主要各紙から絶賛された一方、ドラマのオンエア直後、ボンドの別れた妻アイリーン本人が、「事実関係が正しくなく、センセイショナルに誇張しているだけ」と不快感を表明した。実際の彼がどんな人物だったかは別として、本作を観る限り非常に利己的で私利私欲のみに生きているような男である。妻にも愛人にもその場しのぎの言葉でどちらも繋ぎとめる。ビジネスにおいても概ね同様の手段でもって成り上がっていくのだ。それなのになぜか憎めない愛すべき男であることも事実で、おそらく天才的に口が達者だっただけでなく、ある種のカリスマ性も持ち合わせていたことは確かだろう。
成功者となったアラン(ベン・ミンゲイ)は妻がいる身でありながら美しいダイアナ(レイチェル・テイラー)に一目惚れし…
そんな本作の主軸となるメイン・キャラクターはベン・ミンゲイ演じるアラン・ボンドとその妻アイリーン(エイドリアン・ピカリング)、そしてアランの愛人ダイアナ・ブリス(レイチェル・テイラー)の3人で、それぞれに扮した俳優3人とも非常に説得力がある。本作の前年、メル・ギブソン監督の米豪合作映画で作品賞、監督賞、主演男優賞を含み米アカデミー賞6部門にノミネイトされた「ハクソー・リッジ」(16)にグリース・ノーラン役で出演していたミンゲイは、実際のボンドが恰幅の良い人物だったため体重を増やして撮影に望んだと見られるが、もとはオーストラリアの名門音大シドニー音楽院でオペラ声楽を修め、舞台ミュージカルでの活躍も多い正統派の美形男優だ。撮影時の実年齢30代半ばにして、10代から60代までのボンドを好演。
妻役のエイドリアン・ピカリング(「キャンディ」)も、お互い17歳でできちゃった結婚した天真爛漫な少女とそれに続く幸せな専業主婦から、夫が成功者となり、そしてその浮気を知るに至って時に狂気をも帯びた憂いある表情を見せるようになるまでに変化していく様は、オージー・オスカー女優ケイト・ブランシェットを彷彿させるほど見事。
ロンドンのバッキンガム宮殿で開催されたエリザベス女王主催の園遊会に招かれたボンド夫妻は、英国人実業家タイニー・ロウランド(サム・ニール:左)と知り合い…
だが主要キャラ3人の中で、少なくとも外見に関して最も説得力があったのは、ハリウッド映画「トランスフォーマー(Transformers)」(07)のマギー役が有名なダイアナ・ブリス役のレイチェル・テイラー(「しあわせの百貨店へようこそ」)で、実際の本人も知的で上品だったダイアナになりきり、ボンドのことを愛しながらも愛人という立場に悩む役どころをこちらも自然な演技力で表現。本作のオンエア直後、ボンドが他界する3年前の2012年に鬱病により自殺したダイアナの兄弟が、「ダイアナが本作を観たら喜んだだろう」とアイリーンとは真逆のコメントを発表した。
ほかもハリウッドでもお馴染みの大御所サム・ニール(「パーム・ビーチ」「リトル・フィッシュ」「マイ・マザー・フランク」「デッド・カーム/戦慄の航海」「クライ・イン・ザ・ダーク」「わが青春の輝き」)とオーストラリア映画界が誇る不朽の名作「ピクニックatハンギングロック」(75)の美少女ミランダ役が映画ファンの脳裏に鮮明に焼き付いているアン・ルイーズ・ランバートが後編に英国人実業家タイニー・ロウランド夫妻役で出演していたり、こちらも後編にアランの愛人の一人に歌手としても人気のサマンサ・ジェイドが扮していたりと豪華キャストが脇を固めている。世界的な知名度では彼らに劣るものの、成功したアランの事業を支えるピーター・ベックウィズ役のガイトン・グラントリー(「リベンジャー 復讐のドレス」「イースト・ウエスト101 ②」)も印象的な演技を見せる。それ以外では、アイリーンの父親役で海外でも「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島(The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader)」(10)ののうなしあんよの頭(Chief Dufflepud)役などで知られるヴェテラン男優のロイ・ビリング(「マニー・ルイス」「バッド・コップ、バッド・コップ」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)が出演。また、作中アラン・ボンド関連のニュースとして流されるTVのニュース番組には当時の実際の映像を多数使用しており、現在もオーストラリアのTV業界で活躍する大御所アナウンサーたちの若き日の姿を垣間見れる。
なお、本作の衣装デザイナーを務めたのはジャパラリア誌上グルメ・コラム「オージー・レシピ」でお馴染みのネヴィちゃんことネヴィル・カー(「ハーモニー <2018年版>」「パルス」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「イースト・ウエスト101 ② ③」「バッド・コップ、バッド・コップ」)で、1950年代から10年区切りで目まぐるしく変化していった当時のファッションを時代ごとに忠実に再現、ドラマの高評価に貢献している。億万長者アラン・ボンドとその周囲の華やかな世界の人々を描いたドラマながら、ほとんどの衣装はオプ・ショップ、いわゆるサルヴェイション・アーミーなどが運営するセカンドハンド・ショップで調達したといい、例えば実際には80年代当時、巨費を投じて開催されたアランの娘の結婚式のシーンで当の花嫁が着ているウエディング・ドレスは、同ドラマのためにオプ・ショップで大量の服を購入したお礼にと無料で提供された古着のウエディング・ドレスに飾りを施したもので、飾りにかかった費用はわずか$40だったとか。
【セリフにおける英語のヒント(その1)】自宅にかかってきた電話を受けたアイリーン(エイドリン・ピカリング)が、電話の向こうの相手に親しげに「ボブ!」と言ってアラン(ジョン・ミンゲイ)に電話を代わるシーンのボブとは、時のオーストラリア連邦首相ボブ・ホーク(在任期間:1983〜91)のこと。
【セリフにおける英語のヒント(その2)】エリザベス女王のことを英国人が「我々の女王」と言ったセリフに対し、アラン(ジョン・ミンゲイ)が「我々の女王でもあります」と返すシーンがある。オーストラリアは英連邦に属するので国家元首は英国君主であり、アランの言ったことは事実。
STORY
12歳の時に家族とともに英国から西オーストラリア州パースに移住したアラン・ボンド(ベン・ミンゲイ)は少年時代から野心家で、「いつか大金持ちになる」と約束して恋人アイリーン(エイドリアン・ピカリング)と結婚、不動産投資に始まり本当にあれよあれよという間に巨万の富を築いていく。そんなある日、ボンドは美しいダイアナ(レイチェル・テイラー)に一目惚れし…。
「ハウス・オブ・ボンド」予告編