デビュー早々主演男優賞受賞の実力を示したメル・ギブソンの恋愛映画「ティム」

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※2022年7月1日更新

ティム

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(オーストラリア1979年公開、日本ヴィデオ・ソフト化/109分/PG/恋愛ドラマ)

監督:マイケル・ペイト
出演:パイパー・ローリー/メル・ギブソン/アルウィン・カーツ/パット・エヴィソン/デボラ・ケネディ

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 ハリウッド進出を果たす前の、まだデビュー間もないメル・ギブソン(「危険な年」「誓い」)が出世作「マッドマックス」シリーズ1作目と同じ1979年に主演したオーストラリア映画で、タイトル・ロールであるティム役を演じ弱冠23歳にしてオーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)主演男優賞を受賞した作品でもある。オージー女性作家コリーン・マカロー(1937〜2015)が74年に出版した同名小説の映画化で、ハリウッドでも活躍したオージー俳優マイケル・ペイト(1920〜2008)の唯一の監督作品として知られ、全編シドニーで撮影が行われた。同年度豪アカデミー賞ではギブソンだけでなくティムの両親役を演じた2人もそろって助演男女優賞にと全3部門にノミネイトされ、3人全員受賞の快挙を果たした。1996年には米国でもキャンディス・バーゲンとトム・マッカーシー主演により「メアリーとティム(Mary & Tim)」というタイトルでTVドラマ化され、そちらも日本でもDVD化された。

自宅の庭仕事に雇ったものの、発達障害を持つティム(メル・ギブソン)に最初は戸惑うメアリー(パイパー・ローリー)だったが…
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 本作は恋愛映画への出演本数が数えるほどしかないギブソンの数少ない恋愛ドラマだが、通常のラヴ・ロマンスものとは少々異なる。ティムは発達障害を持つ24歳の青年で、そんなティムが母親ほども歳の離れた独身女性メアリーと出会うことによって二人の間に芽生える友情が徐々に男女の愛に変わっていくという、ヒューマン・ドラマにも通じるストーリー展開だ。

親子ほども歳が離れていながら異性として引かれ合っていく二人をメル・ギブソンとパイパー・ローリーが好演
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メアリー(パイパー・ローリー)に誘われての週末の別荘旅行で生まれて初めて砂浜を車で走りはしゃぐティム(メル・ギブソン)
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 相手役のアメリカ人メアリー役に米国から招かれて来豪参加のパイパー・ローリーは、「ハスラー」(61)でのオスカー主演女優賞候補を筆頭に、「キャリー」(76)と本作の後に出演した「愛は静けさの中に(Children of a Lesser God)」(86)でも同助演女優賞にノミネイトされた大御所ハリウッド女優で、実質的な意味での本作のヒロインでもあり、映画の一番最初にギブソンより先に名前がクレジットされる堂々のトップ・ビリングを飾る。オスカー候補作「キャリー」でヒロイン、キャリーの狂信的な母親役を演じた印象が強かったせいか、その後、日豪でも大ヒットした全米の連ドラ「ツイン・ピークス」(90~91)や、オリジナル版「サスペリア」(77)でお馴染みのイタリアン・ホラーの帝王ダリオ・アルジェント監督の「トラウマ/鮮血の叫び」(92)などでも強烈なキャラクターに扮したが、本作では教養ある知的で穏やかなメアリー役を演技派女優の余裕溢れる演技で好演。本作公開時、実年齢は既に47歳だったが、母親のように接するうちにティムの心の琴線に触れ、物語が進むにつれ自らも少女のようにティムに思いを寄せるようになっていく女性の感情の移り変わりを非常に説得力を持って、だがごく自然に見せる。当初メアリー役にはデボラ・カー、ジーン・シモンズ、グレンダ・ジャクソンらが候補になっており、中でもグレンダ・ジャクソンはこの役を演じたがったがスケジュールの都合がつかずパイパー・ローリーが起用された。余談だがメル・ギブソンは本作の5年後、「キャリー」の主演女優でタイトル・ロールのキャリーを演じたシシー・スペイセクともハリウッド映画「ザ・リバー」(84)で共演、「キャリー」で母娘役を演じた女優両方との共演歴があることになる。

ティムの父親役でオーストラリア・アカデミー助演男優賞を受賞したアルウィン・カーツ
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 メル・ギブソンはハリウッド進出後もっぱらアクションものメインだったため、俳優としては全米でその才能を認められていないが(演技部門ではオスカーに一度もノミネイトすらされていない)、オージー・オスカー女優ケイト・ブランシェットなどを輩出したオーストラリア随一の国立演劇大学(NIDAの頭文字を取って通称ナイダと呼ばれる)で演技を修めており、しっかりとした演技的バックグラウンドを持つ正統派の俳優なのだ。前述の通り本作と、さらに2年後の「誓い」(81)によりオーストラリアではデビュー早々2度も豪アカデミー主演男優賞を受賞するなど早くから演技力を高く評価されていた。

 ともに豪アカデミー助演男女優賞を受賞したティムの両親役のアルウィン・カーツとパット・エヴィソンに加え、ティムの姉ドーニーに扮したデボラ・ケネディ(「しあわせの百貨店へようこそ」「ザ・プリンシパル」「マイ・マザー・フランク」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」「人生は上々だ!」)も、発達障害を持つ弟ティムのことを心からの愛情を持って接する優しい姉役を好演。

両親と姉ドーニー(デボラ・ケネディ)の愛情に包まれて暮らすティム(メル・ギブソン)
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 ティムの場合の発達障害は肉体的には健全だが子供のままある段階で精神的成長が止まってしまった症例で、日常生活や会話に困ることはなく、本作のティムがそうであるように力仕事や単純作業などが主だが成人して仕事を持つこともできる。読み書きもままならず、成人しても“死”が何を意味するかも知らないが、要するにピュアな子供の心を持った大人であり、なので本作でもキザなセリフを吐いたりもしないから、なおさらギリシャ神話の彫刻のような若かりし日のギブソンのハンサムぶりが際立つ。“歳の差”、それも男性ではなく女性のほうがはるかに年上という設定のいわゆる“クーガー恋愛映画”は、経験豊富な女性キャラが年若い男性キャラにお色気で迫る駆け引きを主軸にしたものが多いが、本作ではそんな陳腐なシーンは一切ない。ギブソンとローリーの巧みな演技力は観客にちゃんと感情移入させ、心温まる秀作へと導いている。

【セリフにおける英語のヒント&オージーライフスタイル帰宅した夫ロン(アルウィン・カーツ)と息子ティム(メル・ギブソン)に夕食を出すエム(パット・エヴィソン)が、ロンに「今夜の夕飯は何だい?」と聞かれ、「今日は金曜日だから聞かなくても分かってるでしょ? 金曜日はいつだって…」と答えると同時にロンとティムが「フィッシュ&チップス」と笑いながら声をそろえて言い、実際に用意されていたのはフィッシュ&チップスというのは金曜日に肉を食べないキリスト教徒の習慣からきているもの。ちなみにこのシーンでエムはあらかじめ料理してロンとティムの分を一人前ずつ盛り付けていた2枚の皿にアルミフォイルを被せておいたものをオーヴンから出し、テイブルでアルミフォイルを取り外すが、オーストラリアではこのように出来上がった料理を一定の温度で保温しておく目的でオーヴンが使用されることも。また、このシーンで既にテイブルに置かれているのは日本語でいうスライスされた食パンで(トーストもされていない)、日本人にはディナー時にメイン・ディッシュとともに食べるパンとしては意外だが、当時の質素な食生活のオーストラリアではごく普通でそのほかのオーストラリア映画にも同様の設定が見られる。

【シーンに見るオージーライフスタイル自宅の庭仕事に雇ったティム(メル・ギブソン)にメアリー(パイパー・ローリー)が午前中にお茶とケーキを振る舞うシーンがある。これは英国式のオーストラリアの習慣である“モーニング・ティー”で、時間帯でいうと午前10時から11時の間が一般的。健康志向の人が多い現代オーストラリアではすたれてきた習慣となりつつあるが、託児所や幼稚園・小学校などではいまだにモーニング・ティーの時間があり、保護者はランチ用のお弁当だけでなくモーニング・ティーの際のおやつも毎朝別に用意して子供たちに持たせている。

STORY
 発達障害を持ちながらも一緒に暮らす両親と姉の愛情に包まれた24歳のティム(メル・ギブソン)は、仕事一筋の独身中年アメリカ人女性メアリー(パイパー・ローリー)の家の庭仕事のために雇われ、週に一度メアリーの家に通い始める。読み書きもできないティムに最初は戸惑うメアリーだったが、汚れない心を持つティムに好感を抱き、保護者のような優しい態度で接するうちに二人は友情を深めていき…。

「ティム」の劇場予告編はあいにく見つからなかったが以下TV放映時のCM

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