「ヴェルサイユ展〜王宮の至宝〜」(その5:ポリニャック公爵夫人)

素顔は本当に「天使の顔をした悪魔」だったのか?

 先月ご紹介したランバル公妃のほかに、ルイ16世妃マリー・アントワネットにはその生涯を通じてもうひとり親友がいました。ここに肖像画を掲載のポリニャック公爵夫人です。奇しくもランバル公妃とポリニャック公爵夫人は誕生日も生まれた年も同じで王妃の6歳年上です。

エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン作「ポリニャック公爵夫人ヨランド・マルティーヌ・ガブリエル・ドゥ・ポラストロンの肖像」
versailles1704

 日本では一般にポリニャック“伯”爵夫人として知られており、それは間違いではありません。王妃の威光によって1782年、夫ポリニャック伯爵が初代ポリニャック公爵に陞爵(しょうしゃく)、つまり格上げされたのです。この肖像画が描かれたのと同じ年で、一流の女性画家ヴィジェ・ル・ブランは権勢の絶頂にあったポリニャック公爵夫人の美しさを見事にとらえています。

 マリー・アントワネットが初めてポリニャック伯爵夫人(当時)に出会ったのは王妃となった翌年、まだランバル公妃が王妃の寵愛を独占していた時でした。19歳の王妃は既に2児の母親となっていた25歳のポリニャック夫人のしっとりとした美しさとたたずまいに魅了され、なぜ今までお目にかからなかったのでしょうと本人に尋ねました。すると伯爵夫人は「ヴェルサイユに住めるほどの資産がないからです」と答えました。実際、彼女の実家ポラストロン伯爵家も嫁ぎ先のポリニャック伯爵家も家柄こそ由緒正しかったものの斜陽貴族でした。虚栄心の塊のような廷臣たちに囲まれた宮廷にあって、自分を偽らないその一言に王妃は胸を打たれ、ポリニャック家が抱えていた借金をすべて肩代わりし、さらにこちらも全宮廷人が唖然とするような莫大な下賜金を与えました。こうして「資産がなかった」ポリニャック夫人は一夜にして大資産家となり、晴れてヴェルサイユ宮殿の住人となりました。ついにはランバル公妃が手にしていた女官総監のポストも奪い、後に王妃が出産すると王家の子女の養育係という要職も与えられ、貴族女性にとって最高の栄誉である公爵夫人の称号まで手に入れました。

versailles1704-2鳥かご(18世紀作)

 

 ポリニャック夫人は概ね、例え彼女のことを嫌ってはいても当時の誰からもその憂いある美貌については絶賛されており、後世のどの歴史家もその点は認めつつ、「天使のような顔をして王妃に近付き、自身の一族のために私利私欲を貪った悪魔のような女性」と酷評しています。決定打は、フランス革命の勃発とされるバスティーユ襲撃の直後、王妃を見捨てて真っ先に国外へ亡命した事実にもあります。ランバル公妃が逆に安全な場所から王妃のもとへ戻ったことから、王妃の親友二人が取った行動のコントラストが際立ってしまったことも理由でしょう。でも実のところはどうだったのでしょうか?

 バスティーユ陥落のニュースがその翌日パリからヴェルサイユへ届き、宮殿中が右往左往する中、ポリニャック夫人本人はヴェルサイユに留まりたいと王妃に願い出ています。それを王妃に却下され一刻も早く出発するようにという「命令」を受け、そのさらに翌日に亡命しました。時系列だけを見ると確かに「真っ先に」ではありますが、残っていたら間違いなくランバル公妃同様、命を落としていたはずです(王妃はランバル公妃にも手紙で「戻ってこないように」と言い含めていました)。亡命に当たってポリニャック夫人は、素性を見破られないよう召使に変装しています。王妃、ポリニャック公爵夫人、ランバル公妃の3人は民衆から心底憎悪されており、事態はそれほど深刻だったのです。

扇(1776~1800年作)
versailles1704-3

 やはり歴史本ではあまり触れられないその後ですが、革命勃発から4年後、ポリニャック公爵夫人は亡命先のウィーンで44歳の若さにして急死しました。死因は癌または結核とされていますが、マリー・アントワネットが処刑されてからわずか2カ月後のことでした。最愛の王妃の訃報が、既に病の床に臥せっていたポリニャック夫人の心を打ち砕き、その死を早めたのは間違いないはずですが、彼女のことをあくまでも悪女として読者に印象付けたい歴史家にとっては都合の悪い事実なのであっさり無視されることが多いです。

「ヴェルイサイユ展〜王宮の至宝〜」ブログ記事
その1:太陽王ルイ14世の時代
その2:最愛王ルイ15世の時代
その3:王妃マリー・アントワネットの時代
その4:ランバル公妃
その5:ポリニャック公爵夫人

Versailles: Treasures from the Palace – info

●会場:オーストラリア国立美術館(National Gallery of Australia, Parkes Place, Parkes)●期間:2017年4月17日(月)まで絶賛開催中 ●開館時間(休館日なし):10am-5pm ●料金:大人/入場券$27、プレミアム(土日のみ一般開館1時間前の9pmに入場可能)$56、入場券+カタログ$68、入場券+シャンパン$53、コンセッション/入場券$25、入場券+カタログ$66、入場券+シャンパン$51(※いずれもオーディオ・ガイドは追加$7) ☎ (02)6240-6411 nga.gov.au