
※2026年9月22日更新
「デス・イン・ブランズウィック」
原題:Death in Brunswick
(ロンドン映画祭で1990年ワールド・プレミアの後、オーストラリア1991年公開、日本未公開、/1時間49分/M/ブラック・コメディ/Amazonプライム、Foxtelで観賞可能なほか、ABCアイヴューで無料配信!→ iview.abc.net.au/show/death-in-brunswick)
監督:ジョン・ルエイン
出演:サム・ニール/ゾイ・カリディス
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
2026年7月13日に肺炎によりシドニーの病院で家族が見守る中78歳で他界した、オーストラリアのお隣ニュー・ジーランド(NZ)出身の俳優サム・ニール(「ジュラシック・パーク」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が主演したオーストラリアのブラック・コメディ映画。タイトルにある通りヴィクトリア州メルボルンに実在するサバーブ、ブランズウィックを舞台に全編メルボルン及びその周辺で撮影され、全豪映画界で最も権威ある第33回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)においていずれも受賞は逸したが作品、監督、主演男優、脚本、撮影賞の5部門にノミネイトされた。
カール(サム・ニール)は同じナイトクラブで働くバーメイドのソフィー(ゾイ・カリディス)と恋に落ち…

映画の原題はルキノ・ヴィスコンティ監督の不朽の名作映画「ベニスに死す(Death in Venice)」(1971)のタイトルの地名をベニスからブランズウィックに置き換えたもので、それだけなら両者には何の繋がりもないのだが、ニール演じる主人公カールの母親が好きな曲はマーラーの「交響曲第5番」の第4楽章「アダージェット」で、これは「ベニスに死す」のメイン・テーマである。しかも、カールが実際に母親のためにその曲のレコードをかけるシーンで手にしているLPレコードのジャケットはなんと「ベニスに死す」のサウンドトラック盤なのだ。マーラーの「交響曲第5番」なら世界中の名だたる交響楽団がレコーディングしたアルバムが何枚も存在する中、あえて「ベニスに死す」のサントラ盤を使用したのは、何かしらの“オマージュ”でもあるのだろうが、食い入るように本作を観ても両者の関係性は皆無である。そもそも「ベニスに死す」はヨーロッパ上流社会を舞台にした格調高い文芸作品の映画化、本作は現代オーストラリアのごく普通の一般庶民たちが繰り広げるブラック・コメディ小説の映画化である。
誤って同僚を殺害してしまったカールはこともあろうに墓掘人の友人デイヴ(ジョン・クラーク)に助けを求め…

NZ人の父とイギリス人の母の下、アイルランドで生まれたサム・ニールは7歳の時に両親とともにNZに移住、大学時代に演劇に目覚め、まずは舞台で俳優としてのキャリアをスタート、24歳の時にNZのテレビ映画に出演し映画テレビ界に進出、1977年に主演したNZ映画「テロリストたちの夜/自由への挽歌(Sleeping Dogs)」が出世作となり30歳にして頭角を現すようになったから、映画界では少々遅咲きではあるが(ちなみに別のオージー男優ヒュー・ジャックマンも舞台出身で映画デビューは31歳の時)、その直後に拠点をオーストラリアへ移し、ジュディ・デイヴィスの相手役を務めたオージー映画「わが青春の輝き」(1979)でハリウッド映画人の目に留まり、A級ホラー映画「オーメン/最後の闘争(Omen III: The Final Conflict)」(1981)の主役でハリウッド進出、以降、順調にハリウッドのヒット作に出演し、世界的な名声を築き上げた。とはいえ、劇場映画、テレビドラマ合わせ生涯に150本以上の出演作があるニールだが、100%彼が主役という作品は実は数えられるほどしかなく、本作はそんな数少ないニールの主演映画である。例えばどちらもオージー監督フレッド・スケピシの「プレンティ」(1985)とオーストラリア映画「クライ・イン・ザ・ダーク」(1988)ではオスカー女優メリル・ストリープと共演、「クライ・イン・ザ・ダーク」では彼の生涯で唯一のAFI賞主演男優賞を受賞したが、どちらの映画でも実際にはニールはあくまでも主演女優ストリープの“相手役”にすぎない。前述の、ハリウッド進出のきっかけとなった「わが青春の輝き」しかり。彼が出演した映画の中で最大のヒット作である「ジュラシック・パーク」(1993)もニールが主役とは言い切れないストーリーである。脚本選びが下手だったのか、あれだけ世界的に有名な俳優でありながら(日本でも主要各紙が彼の死を報じた)、米アカデミー賞には一度もノミネイトすらされなかった。だが、おそらくニール本人はアーティストとしての俳優ではなく出演依頼がきた仕事をその都度受ける“働く俳優”としての自身の立場に満足していたのではないだろうか、低予算のオージー映画にも晩年まで律儀に出演し続けた。
サム・ニール以外に本作で海外でも有名な俳優はいないが、まずニールが恋に落ちるバーメイド、ソフィー役のゾイ・カリディスは、2002年から2023年まで3作続いた大ヒット映画「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング(My Big Fat Greek Wedding)」3作すべてに従姉妹ニッキー役で出演したジーア・カリディスの実姉。ほかにはニールの同僚ムスタファ役にジョージ・ミラー監督とメル・ギブソンの出世作「マッドマックス」(1979)で修理工グリース・ラット役を演じたことが同シリーズのコアなファンの間で知られるニック・ラサウリス(「ザ・ハートブレイク・キッド」)、ニールの友人で墓掘人デイヴの妻役にデボラ・ケネディ(「人生は上々だ!」「ティム」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が扮している。ちなみにラサウリスはもともとジョージ・ミラー監督の学生時代からの友人で、後に脚本家としても才能を開花させ、ミラー監督との共同執筆でシリーズ4作目「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015)と5作目「マッドマックス:フュリオサ」(2024)の脚本を手がけた。
そんな本作、あちこちガタがきている古びた一軒家でだらしなく一人暮らししているバツイチのカールは34歳にもなりながらろくに仕事もせず、いまだに高圧的な母親に逆らえない情けない男である。バツイチを考慮すれば30代のそういう男性がいてもおかしくないかもしれないが、カールを演じたサム・ニールの本作公開時の実年齢は42歳である。実年齢より若くは見えるがニールがこういう設定の主人公を演じるにはギリギリの歳だったといえるだろう。とはいえ、その俳優人生においてどちらかというと“カッチリした役柄”を演じることが多かったサム・ニールの終始ラフな格好での“だらしない青年役”というのもかなり珍しく、母親に頭が上がらず情けないのに魅力的なカールをニールは好演している。魅力的でハンサムな役もこなしていたサム・ニールの貴重な映画としてぜひ観ておくことをおすすめ。
【セリフにおけるオージー・イングリッシュのヒント】ナイトクラブのシェフの仕事を得たカール(サム・ニール)をキッチンへ案内するオーナーのヤニーが位置関係を説明する際に「裏口、冷蔵室、便所はその脇を行ったとこだ(Back door, cool room, dunny’s up the side)」と言うセリフがあり、“ダニー(dunny)”はトイレを意味するオージー・スラング。
【セリフに出てくる実在の人名】ナイトクラブで働き始めたカール(サム・ニール)に、バーメイドのソフィー(ゾイ・カリディス)が彼女の友人がカールのことを「スティングに似ている」と言うシーンのスティングは日本人にもお馴染みのイギリスの大御所ミュージシャン、一方、カールがソフィーを「似ている」と言うのはイタリアの大女優ジーナ・ロロブリジーダ(1927~2023)。
STORY
メルボルンのブランズウィック、ギリシャ人経営のナイトクラブでシェフの仕事を得たカール(サム・ニール)は、同クラブで働くギリシャ系オージーの若いバーメイド、ソフィー(ゾイ・カリディス)と恋に落ちる。カールの同僚でトルコ系のムスタファ(ニック・ラサウリス)はドラッグ・ディーラーでもあり、ある日それがクラブの用心棒にバレてしこたま殴られる。カールが用心棒に密告したと思い込んだムスタファはカールに襲いかかり、カールは誤って手にしていたミート・フォーク(ロースト肉を切り分ける際に肉に刺して固定したりする巨大なフォーク)でムスタファを殺害してしまい…。
●サム・ニール出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「パーム・ビーチ」「ハウス・オブ・ボンド」「リトル・フィッシュ」「マイ・マザー・フランク」「泉のセイレーン」「ピアノ・レッスン」「デス・イン・ブランズウィック」「デッド・カーム/戦慄の航海」「クライ・イン・ザ・ダーク」「わが青春の輝き」
●デボラ・ケネディ出演のその他のオージー映画:(テレビドラマ含む):「しあわせの百貨店へようこそ」「ザ・プリンシパル」「スウィミング・アップストリーム」「マイ・マザー・フランク」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」「人生は上々だ!」「デス・イン・ブランズウィック」「ティム」
「デス・イン・ブランズウィック」予告編


