独特の映像美と解釈で送る異色作(映画「マクベス ザ・ギャングスター」)

1

poster240

※2023年3月20日更新

マクベス ザギャングスター

Macbeth

(オーストラリア2006年公開、日本2008年DVDソフト化/109分/MA15+/クライム・サスペンス/DVDApple TVGoogle Playで観賞可能

監督:ジェフリー・ライト
出演:サム・ワーシントン/ヴィクトリア・ヒル/ラッキー・ヒューム/ギャリー・スウィート/クレイグ・ストット

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 シェイクスピアの四大悲劇のひとつ「マクベス」を、時代設定を現代のオーストラリアに置き換えて映画化、監督は海外でも注目を集めた92年のオーストラリア映画で主演のラッセル・クロウがハリウッド進出を果たすきっかけとなった「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」のジェフリー・ライト、タイトル・ロールである主人公マクベス役に本作の3年後にジェイムズ・キャメロン監督に見込まれ見事「アバター」(09)の主役の座を射止めることになるサム・ワーシントン(「タップ・ドッグス」)。「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」と同じジョン・クリフォード・ホワイトが音楽を担当し、同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では撮影、音響、作曲賞など5部門にノミネイトされ、美術賞と衣装デザイン賞の2部門受賞に輝いたほか、カナダのトロント国際映画祭にも出品された。

デカダンスな魅力満点の衣装も見どころ(マクベス夫妻役のサム・ワーシントンとヴィクトリア・ヒル)
1

「マクベス」はこれまでに何度となく映画化されてきており、実は日本でも1957年に巨匠・黒澤明監督が設定を日本の戦国時代に置き換えて三船敏郎主演の「蜘蛛巣城(くものすじょう/英題:Throne of Blood)」というタイトルで映画化、独特の世界観を創り出すことに成功しているが、こちらオージー版もなかなかのもの。現代のメルボルンという設定らしいが全編、華麗かつデカダンスな映像美に加え観客に時空の特定を許さないかのごとく、まるでモヤがかかったようなミステリアスな雰囲気に包まれており、映画自体にモヤがかかっているわけではないのでこれは見事な演出。豪アカデミー賞に輝いた美術と衣装も見事で、例えば設定は現代なのにマクベスの屋敷のシャンデリアが電気ではなく本物の蝋燭を何十本も使ったもの、それもバロック以降のきらびやかなクリスタルではなくシェイクスピアが描いた「マクベス」と同じ中世ヨーロッパで使用されていたような黒い鉄製の重々しいシャンデリアだったりするのが非常に効果的。撮影はメルボルンを含むヴィクトリア州で行われ、「マクベス」における重要な“舞台設定”である森のシーンは不朽の名作オーストラリア映画「ピクニックatハンギングロック」(75)で知られるかのハンギング・ロック近郊のマウント・マセドンが選ばれ、この選択も素晴らしい。

 現在では40代後半という実年齢そのままに精悍なルックスのサム・ワーシントンも30歳だった本作公開当時はどちらかというと線の細いナイーヴな雰囲気も併せ持つ青年で、本作ではファッションなども一見すると飄々(ひょうひょう)としたミュージシャン風だったりするのだが、暗黒街の帝王へと上り詰めていく主人公マクベスをしっかりとした存在感を持って体現する。

暗黒街の帝王へと上り詰めていくマクベス(サム・ワーシントン)
2

 一方、作品としての「マクベス」の中でマクベスと並び重要視されるマクベス夫人役のヴィクトリア・ヒルはクライマックスへ向けて精神のバランスを失っていく役柄を文句なしの演技力で見せる。なおヴィクトリア・ヒルはジェフリー・ライト監督とともに本作の脚本も手がけている。

ヴィクトリア・ヒルが野心家のマクベス夫人役を好演
3

 そのほかの出演者も日本人には馴染みが薄いが全豪映画TV界ではほぼオール・スターの豪華キャストが顔をそろえ、マクベスに命を奪われるギャング団のボス(原作ではスコットランド国王)ダンカン役のギャリー・スウィート(「美しい絵の崩壊」)は主に全豪TVドラマ界で活躍し、本作では貫禄ある暗黒街の帝王ぶりだが若かりしころは高視聴率を記録した刑事モノの連ドラなどに主演しオージー女性たちから絶大な人気を集めたハンサムぶりで、92年にはオーストラリアの人気女性誌が企画した“最もセクシーな男性”としてヌード写真を披露したこともあるほど。マクダフ役のラッキー・ヒューム、バンクォー役のスティーヴ・バストーニなども本作に深みをもたらしている。

ギャング団のボス、ダンカン(ギャリー・スウィート)
4

マクダフ役のラッキー・ヒューム(右)も印象に残る演技を見せる
5

 彼らほどの見せ場はないもののロス役にはダミアン・ウォルシュ・ハウリング(「イースト・ウエスト101 ②」「ケリー・ザ・ギャング」「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラフェル・イン・ヒズ・ハンド」)、ダンカンの長男マルカム役に「マトリックス(The Matrix)」(99)のマウス役や「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃(Star Wars: Episode II – Attack of the Clones)」(02)のエラン・セルサバグノ(別名エラン・スリーズバガーノ)役のマット・ドーランが起用されているほか、「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」(15)で主人公のゲイのパートナー役を演じたクレイグ・ストットがバンクォーの息子フリーアンス役で劇場映画デビューを果たした。そして、病に伏せったマクベス夫人を診察する医師役に、俳優であると同時に人気のオージー・コメディアンでもあるキム・ギンゲル(「ザ・ウォグ・ボーイ」「クライ・イン・ザ・ダーク」)が顔を出している。

ギャング団の頂点に上り詰めながらも精神的に追い詰められていくマクベス夫妻
6

 それにしても、本作同様、設定を現代マフィアの抗争に置き換えたレオナルド・ディカプリオ主演版「ロミオ+ジュリエット」(96)のバズ・ラーマン監督といい、どうやらオージー映画人は格調高いシェイクスピア作品の現代アレンジが得意なようだ。こういっては失礼だが、“グダイ・マイト”のイージー・ゴーイングなお国柄を考えると非常に意外な、だが映画ファンにとっては嬉しい発見でもある。

STORY
 メルボルンの暗黒街に君臨するギャング団の幹部マクベス(サム・ワーシントン)は、3人の魔女たちに「いつか権力の座に上り詰めるだろう」と予言される。そんなある週末、マクベスはギャング団のボス、ダンカン(ギャリー・スウィート)と仲間たちを自身の広大な屋敷に泊まりがけで招待し、妻であるマクベス夫人(ヴィクトリア・ヒル)とともにパーティを開いてもてなす。夜も更け、招待客がそれぞれ寝室に退いた時、マクベス夫人はダンカンの寝室に隣接した部屋で待機するダンカンの護衛2人に睡眠薬入りの酒を差し入れ、マクベスに今こそダンカンを殺してギャング団の頂点に立つ絶好のチャンスであるとけしかけ…。

「マクベス ザ・ギャングスター」予告編

「オージー映画でカウチ・ポテト」トップに戻るoz_movie_top