※2023年1月19日更新
「ランタナ」
Lantana
(オーストラリア2001年公開、日本未公開/102分/M/ミステリー・ドラマ)
監督:レイ・ローレンス
出演:アンソニー・ラパーリア/ジェフリー・ラッシュ/バーバラ・ハーシー/レイチェル・ブレイク/ヴィンス・コロシモ
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
全編シドニーで撮影されたミステリー・ドラマで、主人公の刑事リオンをゴールデン・グローブ賞、トニー賞、エミー賞の全米主要3賞受賞の経歴を誇るアンソニー・ラパーリア(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」「アリブランディを探して」)が演じ、本作の5年前のオーストラリア映画「シャイン」(96)で米オスカー主演男優賞を受賞したジェフリー・ラッシュ(「ホールディング・ザ・マンー君を胸に抱いてー」「台風の目」「キャンディ」「ケリー・ザ・ギャング」)、そしてアメリカから招かれて出演のこちらも2度のカンヌ国際映画祭女優賞に輝きオスカー候補歴も持つハリウッド女優バーバラ・ハーシー、そのほかの俳優もハーシー以外は全員、全豪映画TV界のトップ・スターたちを配したオーストラリアのオール・スター・キャスト映画。シドニー映画祭、メルボルン国際映画祭のほか、海外でもトロント国際映画祭など世界各国の映画祭に出品された。
もともとは舞台劇としてシドニーで上演された芝居の映画化で、舞台版と同じ劇作家・脚本家アンドリュー・ボーウェルが映画版の脚本も手がけたほか、サウンドトラックのオリジナル・スコアは自身も全豪ポップス界で大御所的存在のシンガー・ソング・ライター、ポール・ケリーが作曲。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では主要12部門13候補となり(レイチェル・ブレイクとダニエラ・フェリナッキが助演女優賞のカテゴリーでダブル・ノミネイションを受けた)見事、作品、監督、主演男優(ラパーリア)、主演女優(ケリー・アームストロトング)、助演男優(ヴィンス・コロシモ)、助演女優(ブレイク)、脚色賞、と主要賞を完全総ナメの7部門受賞に輝いた(※残念ながら受賞を逸したのは衣装デザイン、音響、編集、作曲、美術賞の5部門)。イギリス出身のオージー監督レイ・ローレンスは本来CM畑出身で、劇場映画は85年の監督デビュー作「ブリス/あの世とこの世とこの野郎(Bliss)」、その実に16年ぶりにメガホンを取った本作、そして2006年の「ジンダバイン」の3本しか監督しておらず、3作品とも高く評価されているのでもったいない話ではある(※3本とも豪アカデミー監督賞にノミネイトされ「ブリス」と本作で同賞受賞)。
主人公リオンとその妻ソーニャ夫婦役のアンソニー・ラパーリアとケリー・アームストロングは本作でそれぞれ豪アカデミー主演男女優賞を受賞
2年前に最愛の一人娘を変質者に殺害された心理カウンセラー、ヴァレリー(バーバラ・ハーシー)は、悲しみを乗り越えて事件のことを綴った著書を出版するが…
いずれの出演者陣も見事な演技を見せるが、女優に関していえばバーバラ・ハーシーが存在感を放つ。オージー・キャストばかりに囲まれた中で唯一“ハリウッドから招かれて撮影参加のオスカー候補女優”としての貫禄もさることながら、男優も含め主要キャラを演じた俳優の中で実年齢は最も年上のハーシーだけが撮影当時既に50代だったにもかかわらず、50過ぎにはとても見えない美貌も共演のオージー女優たちを圧倒して勝っている。
ヴァレリーの夫ジョン役のジェフリー・ラッシュ
リオンと浮気するジェイン役で豪アカデミー助演女優賞受賞のレイチェル・ブレイク
オープニングからいきなり女性と思しき遺体が藪の中にあるというシーンで始まる本作は“サイコ・サスペンス”などと例えられることもあるが、決して怖い映画ではない。全体的に静かな展開の中、不安を煽るような音楽もところどころに出てくるが、よくありがちな観客をビクッと驚かすシーンは一切ない。なのでサイコ・サスペンスもののハラハラドキドキ感が苦手な人も安心して観ることができる。本作と同じ2001年に公開されたデイヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」からサイコでホラーな部分を取り去ったような映画と説明すれば分かりやすいかもしれない。
むしろ本作のストーリーは卑怯とも受け取れる「マルホランド〜」と比べると、観る者全員に納得・理解させる論理的な展開だ。隣人同士である2組を除きお互い面識もない(はずの)4組の男女カップル8人とゲイの男性1人という9人による大人の愛憎ドラマに重点を置いた物語で、いわゆる一般的な大人のドラマ映画が好きな人こそ興味深く観賞できる秀作である。この9人が徐々に接点を持っていくことになるわけだが、複雑でありながらも分かりやすいストーリー・テリングのおかげでクライマックスの“種明かし”を含み混乱することなく楽しめる。
一人娘を亡くして以来、夫婦の関係がギクシャクしているジョン(ジェフリー・ラッシュ)とヴァレリー(バーバラ・ハーシー)
隣人同士で仲良くしているポーラ(ダニエラ・フェリナッキ:左)とジェイン(レイチェル・ブレイク)だったが…
上記9人のキャラクターとそれぞれの相関図を簡単に説明すると、刑事リオン(アンソニー・ラパーリア)とその妻ソーニャ(ケリー・アームストロング)、ソーニャが心理カウンセリングを受けているのはヴァレリー(バーバラ・ハーシー)でヴァレリーの夫がジョン(ジェフリー・ラッシュ)、リオンが浮気しているのがジェイン(レイチェル・ブレイク)でジェインの別居中の夫はピート(グレン・ロビンス)、ジェインとピート夫妻の隣人夫婦はニック(ヴィンス・コロシモ)とポーラ(ダニエラ・フェリナッキ)、そしてこちらもヴァレリーのカウンセリングを受けているゲイで妻子持ちの男性と性的関係を続けているシングルのパトリック(ピーター・フェルプス)。ちなみにパトリックのその相手の名前は…?
この9人を演じた俳優で前述のラパーリアとラッシュを除き過去に本コラムで紹介の別の作品にも出演しているのはレイチェル・ブレイク(「ブレス あの波の向こうへ」)、ヴィンス・コロシモ(「華麗なるギャツビー」「ザ・ウォグ・ボーイ」)、グレン・ロビンス(「キャス&キムデレラ」「クライ・イン・ザ・ダーク」)、ダニエラ・フェリナッキ(「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「イースト・ウエスト101 ① ② ③」)、ピーター・フェルプス(「ケリー・ザ・ギャング」)の5人。
その9人ほどの見せ場はないが、リオンの良き理解者でもある相棒女性刑事クローディア役のリーア・パーセル(「バッド・コップ、バッド・コップ」)は、日本でもオンエアされたオーストラリアの連続ドラマ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」で2018年のシーズン6から2021年のシーズン8まで登場する主要キャラのひとりである受刑者リタ・コナーズ役が有名で、パーセルは本作のレイ・ローレンス監督の次の映画「ジンダバイン」にも起用された。
色の異なる多数の小花から成り、日本語名を“シチヘンゲ(七変化)”ということからも分かるように開花後にさらに色合いが変化する花ランタナを映画のタイトルにしたのは非常に象徴的である。まるで、愛と欺瞞が複雑に絡み合う中で織りなされていく綴れ織り(タピストリー)のように…。
STORY
ランタナが美しく咲き乱れるシドニー、刑事リオン(アンソニー・ラパーリア)は妻ソーニャ(ケリー・アームストロング)とどちらもティーン・エイジャーの息子2人と暮らす幸せそうな日々の中で、なぜか夫と別居中の人妻ジェイン(レイチェル・ブレイク)との不倫に走る。ソーニャもリオンが何か隠していることを薄々気づき、そのことで悩み夫に内緒で心理カウンセラー、ヴァレリー(バーバラ・ハーシー)のカウンセリングを受けている。ヴァレリーは2年前に当時11歳の一人娘を変質者に殺害されて以来、夫ジョン(ジェフリー・ラッシュ)との間に溝ができてしまっていることを感じている。そんなある夜、帰宅途中のヴァレリーの運転していた車がひとけのない山道でエンスト、道端の公衆電話から自宅のジョン宛に留守番電話のメッセージを残している際中、「ああ、車が近づいてきたわ。手を振って助けを求めるわ」と言って電話を切ったのを最後に、ヴァレリーは失踪してしまい…。
「ランタナ」予告編