心優しい子豚の成長記(映画「ベイブ」)

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Babe

(オーストラリア1995年、日本1996年公開/92分/G/ファミリー)

監督:クリス・ヌーナン
出演:クリスティーン・カヴァナー(声)/ジェイムズ・クロムウェル/マグダ・ズバンスキー/ミリアム・マーゴリーズ(声)/ヒューゴ・ウィーヴィング(声)

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 イギリスの児童文学作家ディック・キング・スミス(1922〜2011)が1983年に発表した児童文学「子ブタシープピッグ(The Sheep-Pig)」を、実写とCGやアニマトロニクス技術を駆使して映像化した豪米合作映画。オージー監督クリス・ヌーナンにとって劇場映画監督デビュー作となり、ヌーナンはその後レネー・ゼルウィガー主演の「ミス・ポター」(06)の監督も手がけた。ファミリー娯楽映画の域を出ない作品だが、さすが「マッドマックス」シリーズの監督としてオーストラリアが世界に誇るジョージ・ミラーのプロデュースとあって、3,000万ドルの製作費に対し全世界での興収2億5,000万ドル突破という爆発的な大ヒットを記録し、同年度米アカデミー賞では作品、監督、助演男優(農場主アーサー役のジェイムズ・クロムウェル)、脚色、美術、編集賞など7部門にノミネイトされ、3年後の98年には続編「ベイブ/都会へ行く(Babe: Pig in the City)」も公開されそちらも大ヒットした。オスカー受賞は視覚効果賞1部門のみだったが米ゴールデン・グローブ賞では見事コメディ/ミュージカル部門の作品賞を受賞、子供騙しではない“一流のファミリー娯楽映画”であることが十分証明された。

ベイブ(声:クリスティーン・カヴァナー)は農場主アーサー(ジェイムズ・クロムウェル)にもらわれ
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 そんな海外での華々しさの反面、主人公ベイブの声を担当したクリスティーン・カヴァナーや農場主アーサー役のヴェテラン俳優ジェイムズ・クロムウェルといった数人のアメリカ人俳優・声優を除くと、プロデューサーのミラーを筆頭にクリス・ヌーナン監督、農場主夫人役のマグダ・ズバンスキー(「キャス&キムデレラ」)、牧羊犬レックスの声を担当したヒューゴ・ウィーヴィング(「リベンジャー 復讐のドレス」「虹蛇と眠る女」「リトル・フィッシュ」「ストレンジ・プラネット」「プリシラ」)などスタッフもキャストも多数のオーストラリア人を起用し、全編オーストラリアで撮影され、オーストラリア国内だけでも3,670万ドルという巨額の興収を弾き出したにもかかわらず、オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)からは丸無視され、1部門も候補にすらならなかったのは意地悪な話である。子供向けの映画だからと軽んじられたこと、アメリカも出資した映画であることなどがAFI賞から敬遠された理由として考えられるが、それにしても…である。

自分が産んだ子犬たちと引き離された牧羊犬フライ(声:ミリアム・マーゴリーズ)をベイブは「ママ」と呼んで慕う
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農場で飼われている動物たち全体のリーダー格の牧羊犬レックス(声:ヒューゴ・ウィーヴィング)
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 そのほかの出演者では、マーティン・スコセッシ監督の映画「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事(The Age of Innocence)」(93)で英アカデミー(BAFTA)助演女優賞に輝いた、イギリス出身で後にオーストラリアに帰化した名脇役女優ミリアム・マーゴリーズがベイブを実の子のように可愛がる牧羊犬フライの声で重要な役どころを演じている。また、こちらは全豪映画界の名脇役女優ケリー・ウォーカー(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」「アリブランディを探して」)がたくさんいる羊たちの中の名もなき1頭の声を担当しているが果たしてどの羊なのかよく分からず、ウォーカーに限らず全豪映画界ではヴェテラン俳優もこういったチョイ役中のチョイ役でも律儀に出演する傾向が強く、ある意味微笑ましい。

全豪TV界の人気コメディ女優マグダ・ズバンスキーが農場主夫人エズメ役を好演
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 撮影場所として選ばれたのはシドニーが州都であるニュー・サウス・ウェールズ州内のサウザン・ハイランズにあるロバートソンという村で、都会の喧騒から離れたほのぼのとした雰囲気がリアリティをもたらしつつ、同時に童話の世界のようなファンタジー性も醸し出している。ほとんどの国で12月に公開されたことからあらかじめクリスマスをイメージして作られたようで、クリスマス気分満点の映像と音楽のオープニングや、農場主夫妻の娘夫婦が2人の子供を連れて里帰りし家族そろってクリスマスを祝うシーンも盛り込まれている。ただ、夢を壊すようだが子豚は数日でもあっという間に、まさしくブクブクと成長してしまうため、数カ月に及んだ本作の撮影に当たって“主人公”となるベイブ役の子豚は数百匹以上が用意・使用され、それら数百匹の“演技”にCGとアニマトロニクスによる映像処理が施された。オスカーで視覚効果賞を受賞したのも納得の見事な仕上がりだが、一方で本作における動物キャラはいずれも動物同士の間で人間言葉を話すものの、映像的には極端に手を加えて擬人化せず、それがかえって生き生きとして自然で、擬人化しすぎなかったからこそ登場する動物たちを“人間味”のあるものにしている。

ベイブの才能に気付きベイブを目にかけるようになる農場主アーサー(ジェイムズ・クロムウェル)
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アーサー夫妻の娘婿役で出演の性格俳優ポール・ゴダード(「パルス」「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」)
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牧羊犬コンテストの審査員長役にこちらも性格俳優のマーシャル・ネイピア(「デッド・ハート」)
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 ストーリーは子豚のベイブが牧羊犬ならぬ牧羊豚として成長していく奮闘記ということになるが、昔と違ってスポ根並みの血の滲むような努力をベイブがするわけではない。日本の例えにある信長・秀吉・家康の3タイプの中ではベイブは間違いなく「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」の家康タイプである。ベイブは臆病者ではないが野心家でもなく、いざという時に周囲からの信頼によって周囲の人間(この場合、動物)を動かす。力ずくではなく辛抱強さと心根の優しさで、ついにファーム内の全動物の信頼と愛情を勝ち得ていくベイブの姿は、あくせくとしたストレス社会の現代にこそ求められているものなのかもしれず、これこそが、本作が大ヒットした最大の要因だったのかもしれない。

【シーンに見る時代背景】クリスマスを家族で祝うシーンで娘夫婦から両親であるアーサーとエズメにプレゼントされたのは通称ファクス(FAX)として知られたファクシミリ機器で、アーサーもエズメも訝しそうに受け取る。アーサー夫妻は田舎暮らしでFAXの存在を知らなかったということだが、21世紀の現代ではFAXは前世紀の遺物扱いされ逆の意味で若い世代はもうFAXを知らなかったりもするから1995年公開当時ならではのシーンといえるだろう。

【日本公開時の変更点】ミリアム・フリンが声を担当した主要キャラクターのメスの羊の名前は英語ではマー(Maa)だが日本公開に当たってはおそらく日本人にお馴染みの羊の鳴き声からだろう、メーと変更された。

Story

 養豚場生まれの子豚のベイブ(声:クリスティーン・カヴァナー)は、まだ赤ん坊のころに母豚と引き離され、村のお祭りで“子豚の体重当てコンテスト”の出し物として出品された。ベイブの体重を当てた農場主アーサー・ホゲット(ジェイムズ・クロムウェル)にもらわれたベイブだが、アーサーもその妻エズメ(マグダ・ズバンスキー)もいずれ丸々と太ったベイブを“クリスマスのご馳走”にする程度にしか思っていなかった。人間のアーサーを頂点とするそのファームには、気難しいオスの牧羊犬レックス(声:ヒューゴ・ウィーヴィング)、ベイブを実の息子のように可愛がるメスの牧羊犬フライ(声:ミリアム・マーゴリーズ)、やはりベイブに優しい年老いた羊のメー(声:ミリアム・フリン)、うるさいアヒルのフェルディナンド(声:ダニー・マン)、家畜小屋ではなくホゲット夫妻の家、つまり人間様と同じ屋根の下で飼われていることから気位の高い、その名もダッチェス(公爵夫人)という名の猫(声:ルーシー・テイラー)などさまざまな動物がいた。そんなある日、アーサーはベイブが牧羊犬と同じ才能を見せることに気づき…。

「ベイブ」予告編

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