風紀乱れた男子校に赴任してきたゲイの校長は?(連ドラ「ザ・プリンシパル」)

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※2021年11月28日更新

プリンシパル
(連続ドラマ)

The Principal

(オーストラリア2015年TV放映、日本2017年インターネット配信/1話49〜53分・全4話/MA15+/ドラマ/SBSの公式配信サイトSBSオンディマンドで無料配信全話無料観賞可能!sbs.com.au/ondemand/program/the-principal

監督:クリフ・ステンダース
出演:アレックス・ディミトリアデス/エイデン・ヤング/ミラ・フォークス/ロバート・マモーン

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 国営TVラジオ局SBS製作の下、2015年に全豪オンエアされた1話1時間、全4話のオーストラリアの連続ドラマ。タイトルである「ザ・プリンシパル(※本作の場合の意味は“校長”)」が示す通り、シドニー南西にあるという設定の架空の男子校に新たな校長が赴任して早々同校で起こる殺人事件の犯人探しを主軸に、だがしっかりと人間模様を描いたシリアスなドラマとして大きな反響を呼んだ。作品自体のクォリティも高く評価され、同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞TVドラマ部門ではいずれも受賞を逸したとはいえ作品、監督、脚本、助演男優賞(殺害される生徒の弟で同じ高校に通うタレック役のラヘル・ロマーン)の4部門にノミネイトされた。また、オーストラリアのTV作品専門のこちらも権威あるロギー賞では最優秀男優賞(校長役のアレックス・ディミトリアデス)と新人賞(ラヘル・ロマーン)候補となりディミトリアデスが見事受賞した。

主人公である校長マット・バシア役のアレックス・ディミトリアデス
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 本作からさかのぼること17年前、日本でも劇場公開されたオーストラリア映画「ヘッド・オン!」(98)で主人公であるゲイの青年役を演じ絶賛を博したアレックス・ディミトリアデスが、本作では舞台となる男子校に新たに赴任してくるゲイの校長マット・バシア役で主演を務める(※ちなみに実生活でのディミトリアデス本人はストレート)。4話中、マットがゲイだと分かるのは第2話のラスト、つまり物語全体としては“中盤”近くになってからなので、この点に関しての本コラムでの“ネタバレ”を避けるべきかどうか記者なりに悩んだが、やはりマットがゲイであることもこのドラマの重要な要素であるためあえて触れることにした。

 日本でも風紀の乱れた中高というのは存在するが、本作の舞台となる男子校もまさにそんな感じだ。シドニー南西部の主に労働者階級の息子たちが通う公立のボックスデイル・ボーイズ・ハイ・スクールは、いわゆる“ガラの悪い”生徒たちも少なくない。学校敷地内にはいたるところに監視カメラが設置され、日本では考えられないことだが拳銃を携帯した同校担当の女性警察官までいて、生徒たちの家庭環境やバックグラウンドもアングロサクソン系だけでなく中東からの移民家庭のムスリムやアイランダー系、さらにはアフリカからの難民まで多種多様だ。また、日本人には若干奇異に見えるが、男子校なのに本格的な調理実習の授業があるというのは、おそらく大学へ進学する生徒はほとんどおらず、卒業後はレストランなどでシェフ見習いとして働き始める者もいて、高校時代から職業訓練的な授業も重視している事実を物語っているが、調理実習の男性教師が生徒から面と向かって「オカマ(Faggot)」と罵倒されるのは日常茶飯事、教師や職員たちでさえ半ば諦めたような、一種投げやりな態度が感じられる。

 そんな学校に他校から校長として赴任してきたマットは、だが生徒たちに誠意と愛情を持って接する。着任早々、毎朝校門に立ち、登校する生徒一人ひとりに右手を差し出し「おはよう」と声をかける。もちろん、彼と握手などしてくれる生徒はひとりもいない。皆、訝しげにマットをにらむように見て通り過ぎるだけで、中には「てめえは何者なんだよ!?(Who the fu*k are you?!)」と吐き捨てる生徒もいる始末。前述の通りマットがゲイであることはドラマの中盤まで誰にも分からないが、実はマットにはゲイであるだけでなく以前勤めていた学校で、とある女生徒との関係が問題視された過去があった。また、そのこととは無関係なように見える恐ろしい悪夢にうなされることも多い。そんな中、マット着任の2週間後、生徒のひとりが校内で殺害されているのが発見され…。

 本作出演時41歳だったアレックス・ディミトリアデスは、その20年以上前の10代のころ、自身がちょっと悪ぶったティーン・エイジャーの役を演じた青春映画「ザ・ハートブレイク・キッド」(93)でいきなり主演デビューし大ブレイク、歌手デビューこそしなかったがアイドル的な人気を博した男優で、その点も踏まえて観ると興味深い。マットはレバノン系の2世という設定だがディミトリアデス本人もギリシャからの移民である両親の下に生まれ、12歳の時に両親が離婚、本作と同じシドニー南西部にある労働者階級が多く住むサバーブ、アールウッドで母親は秘書の仕事をしながら女手一つで3人の子供たちを育て上げたから、本作に対する思い入れも大きかっただろう。「ヘッド・オン!」でアイドルからの脱皮に成功し、演技派男優へと成長したディミトリアデスの説得力ある校長ぶりに注目。

アレックス・ディミトリアデスの説得力ある校長マット役を好演2

 第1話のラストで殺人事件が起こり、2話以降、事件を捜査する刑事として登場し、こちらも重要な役どころを演じるのはカナダ系オージー男優エイデン・ヤング(「イースト・ウエスト101 ③」)。ヤングはハリウッドにも進出しており海外における知名度の点ではディミトリアデス以上だが、活動の拠点はシドニーに置いており、劇場映画だけでなくこうしてオーストラリアの連ドラにも律儀に出演している。本作では冷ややかとも受け取れる落ち着いた口調で、冷静に事件を追う刑事アダム・ビリッチ役を好演。

学校内で起きた殺人事件を捜査する刑事アダム・ビリッチ(エイデン・ヤング)
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 第2話で初めて登場するヤングを除くと、教師や学校職員、生徒、そして何人かの父兄役の俳優たちはほぼ全員1話から4話まで通して出演。女優陣では舞台である男子校の担当警察官ケリー・ノートン役のミラ・フォークス(「ワイルド・ボーイズ」「アニマル・キングダム」)が光る。最初は警官の制服に拳銃を携帯して学校に来ていたが、マットに諭され私服姿で現れるようになり、銃は校内の金庫に預け、警官だからと彼女のことを警戒していた生徒たちの信頼を徐々に得ていく。

学校の担当警察官ケリー・ノートン役のミラ・フォークス
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 生徒役で最も重要な役どころを演じるのは、シリアからの移民を父に持つムスリムの問題児タレック役のラヘル・ロマーン(「パルス」)で、前述の通り本作の俳優の中で唯一、同年度豪アカデミー助演男優賞候補となったことも納得の演技を見せる。第1話のラストで殺害される被害者カリムは同じ学校に通うタレックの兄で、カリムは校内でほかの生徒にドラッグを売ったりしていた事実が後に判明するが、弟であるタレック自身は悪ぶってはいても本来真面目で素直な少年だということが観ている者にも伝わり、校長マットの歩み寄りによってやはり徐々にマットに心を開いていく姿を自然体の演技で演じるロマーンに好感が持てる。

生徒タレック役のラヘル・ロマーン
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 ほかには、学校の事務長ヴァル役でTVドラマだけでなく劇場映画にもよく顔を出すヴェテラン女優デボラ・ケネディ(「マイ・マザー・フランク」「人生は上々だ!」「ティム」)、カリムとタレック兄弟の父親役にマイケル・デンカー(「イースト・ウエスト101 ②)、ムスリムの美しい女性教師ハファ役にアンドレア・デメトリアデス(「パルス」)らが出演しておりそれぞれ印象に残る演技を見せる。そして、「マトリックス」シリーズの2作目と3作目でともに2003年に公開された「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューション」にAK役で出演したロバート・マモーン(イースト・ウエスト101 ③)が毎回のエピソードでマットとヴィデオ・チャットで短い会話を交わす教育省のお偉いさんディーノ役で登場(ヴィデオ・チャットの画面なので画像も乱れがちな中、顔のアップのみ、時間も毎回、数十秒のみなので、ある種の“友情出演”のようなものだろうか)。

 ちなみにジャパラリア誌上グルメ・コラム「オージー・レシピ」でお馴染みのネヴィちゃんことネヴィル・カー(2018年版「ハーモニー」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「イースト・ウエスト101  」「バッドコップバッドコップ」)が本作の衣装部門に携わりコスチューム・スーパーヴァイザーとして撮影に参加しただけでなく、第4話でムスリムの生徒のひとりサミー(ナレク・アーマン)が自宅の自分の部屋からあわただしく荷物をバッグに詰めて家を出ていくシーンで、ベッド脇に置かれた写真立ての中の白黒写真でサミーの亡き父親としてムスリムの服装で写っているのもネヴィちゃん(!)。

 4話だけで完結してしまうのがもったいないほど、脚本の良さに加え魅力的なキャラクターが多く、最初は生徒だけでなく大人である教師や職員たちからもあまり快く思われていなかったマットが、学校の風紀を改善したいと心から強く願い、言葉ではなく行動をもって自身の誠意と熱意が嘘偽りないものであることを周囲も理解していくようになる過程の描写がとてもいい。無意味に話を長引かせる必要はなかっただろうが4話といわずせめて通常の連ドラのように10話くらいあっても観る者を飽きさせずに最後まで引っ張ることができただろうと思わせてくれる、優れたドラマ作品だ。

 本作は“ゲイ映画”では一切ないが、前述の通りマットがゲイであることは非常に重要な意味を持ち、ゲイであることからマットが抱える苦悩なども3話以降、徐々に明らかになる。なお、ゲイをテーマにしたそのほかのオージー映画にいずれも本コーナーで過去に紹介の、冒頭でも触れたアレックス・ディミトリアデス主演のシリアス・ドラマでゲイであることをカミング・アウトしているギリシャ系オージー作家クリストス・チョルカス原作の「ヘッド・オン!」(98)、同じくチョルカス原作のミステリー・ドラマ「デッド・ユーロップ」(12)のほか、日米を含む世界規模でヒットしたヒューゴ・ウィーヴィングとガイ・ピアース出演のコメディ・ドラマ「プリシラ」(94)、実話に基づいたヒューマン・ドラマ「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」(15)、ラッセル・クロウがゲイの青年役に挑んだヒューマン・コメディ「人生は上々だ!」(94)などもあり、機会があればそちらもぜひご観賞を。

【シーンに見るムスリムの習慣】第1話が始まるのはイスラム教の有名なラマダンの時期と重なっており、ラマダン期間中の1カ月間、ムスリムの人々は日の出から日没まで断食することが義務付けられ、ムスリムの生徒たちも学校でランチを食べることができない。調理実習の教室に入ってきた校長マットに生徒タレックが自分が作っている料理を「俺は味見できないんだ」と言ったり、校内の売店でスナック菓子を購入する兄カリムをタレックが止めようとするのはそのため。

【セリフにおける英語のヒント(その1)学校担当の女性警察官ケリーから学校やケリーが勤務する警察署がある地区からは離れたエリアにあるお洒落なワイン・バーに呼び出されて待ち合わせしたマットが、「僕と一緒にいるのを警察の同僚に見られるのを避けたいの?」と尋ねると、ケリーは否定も肯定もせず代わりに「私の同僚は大型スクリーンのない店には来ないと思うわ」と笑いながら答える。オーストラリアのパブでは店内に大型スクリーンを設置してスポーツ中継番組を流し、気取らずに酒を飲みながらラグビーやクリケットなどのスポーツ観戦を楽しめる店も多く、つまりはその手の店は女性にはあまり人気がなく、逆にケリーが待ち合わせ場所として指定したおしゃれなバーには男同士で騒ぎながらビールを飲みたいタイプの客は来ないという意味。

【セリフにおける英語のヒント(その2)マットが毎朝授業前の早い時間に希望者に朝食を振る舞う“ブレックファスト・クラブ”に中東系の食いしん坊の生徒のひとりを誘うと、その生徒が「そこにはマヌーシュはあるんですか?」と尋ねる。“マヌーシュ(manoush)”は中東のピッツァのような食べ物で中東系の人々が朝食として好んで食べることで知られ、シドニーでも中東系のテイクアウェイ(テイクアウト)の店などで売られている。

Story(※本作のストーリーについては上記本文に掲載!)

※連続ドラマプリンシパルはSBSの公式配信サイトSBSオンディマンドで無料配信全話無料観賞可能!→ sbs.com.au/ondemand/program/the-principal

「ザ・プリンシパル」予告編

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