※2023年4月11日更新
「クロコダイル・ダンディー」
Crocodile Dundee
(オーストラリア1986年、日本1987年公開/98分/M/コメディ)
監督:ピーター・フェイマン
出演:ポール・ホーガン/リンダ・コズラウスキー/デイヴィッド・ガルピリル/レジナルド・ヴェルジョンソン/マーク・ブラム
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
「ピクニックatハンギングロック」(75)、「マッドマックス」(79)に続いて世界的な話題と注目を集めたオーストラリア映画で、この3作品の中でも最も“これぞオージー映画!”といったノリから(そのノリは今見るとかなりベタではあるが…)、現在に至るまで国内外を問わず高い知名度を誇るオーストラリア映画のひとつである。なんといっても900万ドル足らずの製作費に対し全米だけで1億7,000万ドル以上の興収を弾き出し、86年度の全米年間興収第2位を記録、同年度米アカデミー賞では脚本賞にノミネイトされ、米ゴールデン・グローブ賞に至ってはミュージカル/コメディ部門の作品、主演男優、助演女優賞(リンダ・コズラウスキー)候補となり、タイトル・ロールの“クロコダイル”ダンディーを演じたポール・ホーガンがまんまと主演男優賞を受賞している。
ワイルドだが心優しく憎めない“クロコダイル”ダンディーことミック(ポール・ホーガン)
本作での共演がきっかけで実生活でも結婚したポール・ホーガンとリンダ・コズラウスキー
興味深いことに、本国オーストラリアでも4,500万ドルもの興収を記録しながら同年度オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)からは丸無視され1部門も候補にすらならなかった。前述の2作品がどちらも作品賞と監督賞を含む主要多部門でAFI賞にノミネイトされていた事実から考察するに、ヨーロッパ映画のような格調高さを持つ文芸作品「ピクニックatハンギングロック」、こちらもハリウッド映画並みのアクション巨編「マッドマックス」と違って、コメディ、しかもそれが世界中でバカ売れしてしまって海外の人々に実際のオージーはみんなポール・ホーガンみたいだと思われてはたまったものじゃない、とAFI会員たちが冷ややかな反応を示したからかもしれない。いずれにせよ最終的には本作の全世界での興収は3億ドルを突破、本作の2年後の88年には続編「クロコダイル・ダンディー2」が、さらに本作から実に15年後の2001年にもシリーズ3作目「クロコダイル・ダンディー in L.A.」が製作された。
ダンディーを取材するためにNYからやってきた新聞記者スー(リンダ・コズラウスキー)を北部準州で出迎える、ダンディーのビジネス・パートナーのウォルター(ジョン・メイロン)
アウトバックで二人だけでキャンプ生活をするうち引かれ合っていくダンディーとスー
ポール・ホーガンは自身の名を冠したお笑いTV番組「ザ・ポール・ホーガン・ショウ」が73年から84年までの10年以上、12シーズンにわたって製作されたことからも分かる通りもともと全豪TV界では国民的な人気を誇るコメディアンで、本作が劇場映画デビュー作となった。本作の全米での成功により一気にハリウッド・スターの仲間入りも果たしたが、本作が公開された年には実年齢47歳だったから海外ではかなり遅咲きだ。映画の中で見せる引き締まった身体つきは若々しいが、カメラ・アングルや表情によっては正直“おじいさん”に見える時もあり、“かっこいいヒーロー”を演じるにはギリギリの年齢だったといえるだろう。
アウトバックの美しい風景描写も見どころ
NYの雑踏で電柱によじのぼり街を見回すダンディー
ホーガンと米国人新聞記者スー役のリンダ・コズラウスキー以外の出演者では、オーストラリアはもとより世界的にも最も有名なアボリジニ俳優と言っても過言ではないデイヴィッド・ガルピリル(「オーストラリア」「デッド・ハート」「少年と海」)がダンディーと顔馴染みのアボリジニ、ネヴィル役で登場するほか、NYのシーンでのリムジンの運転手ガス役に「ダイ・ハード」シリーズ1〜2作でブルース・ウィリス演じる主人公を手助けする巡査部長役でお馴染みの米国人男優レジナルド・ヴェルジョンソンが扮している。また、こちらも米国人男優だが不幸なことに新型コロナウイルスによる肺炎のため2020年3月に死去したマーク・ブラムは本作ではスーの恋人リチャード役、本作の前年の「マドンナのスーザンを探して(Desperately Seeking Susan)」(85)ではロザンナ・アークエット演じたヒロインの裕福な夫役で、両作品ともブラム演じた役柄の設定が似ているのも興味深い(どんな役かは見てのお楽しみ)。
ダンディーと顔馴染みのアボリジニ、ネヴィル役のデイヴィッド・ガルピリル
スーの恋人リチャードを演じたマーク・ブラム
ポスターなどを見ただけである程度事前に予想できることではあるが、はっきりいってストーリーはあってないようなものである。 “クロコダイル”ダンディーが北部準州のアウトバックで、そして後半では場所をNYに移して繰り広げるコメディで、間にオマケのように、本作での共演がきっかけとなり実生活でも結婚したリンダ・コズラウスキー演じる米国人新聞記者スーとのロマンスが描かれるという、ごくごく分かりやすい展開なのだ。脚本を手がけた3人の中にはポール・ホーガン自身も名を連ねており、面白くないわけではないが、世界中の人々が腹を抱えて笑うほどの内容だろうか。劇場公開から30年以上が過ぎた今、「この映画の一体何がそれほど世界的にウケたのだろう?」とある意味キツネにつままれたような気にもさせられる不思議な作品でもある。だがまあ前述の通り本作から唯一のオスカー候補となったのが脚本賞だったから、86年当時、これが抱腹絶倒の面白さとして国を問わず多くの人々に笑いをもたらしたということで、斜に構えず楽しむべきなのだろう。
【セリフにおける英語のヒント】町のならず者たちが夜中、アウトバックに車で乗りつけ銃でカンガルーを撃って楽しむというシーンがあり、木の陰に隠れていたダンディーがカンガルーのぬいぐるみの後ろから銃を操って彼らの車を撃ち、ダンディーがその場にいることを知らなかったその男たちはあたかもカンガルーに逆襲されたと勘違いしてあわてふためく。男たちが逃げ去った後、ダンディーがカンガルーのぬいぐるみに「Good one, Skippy(よくやったぞ、スキッピー)」と言う“スキッピー”は、日本でも吹き替え版が放映されたオーストラリアの人気ファミリー・ドラマ「カンガルー・スキッピー(Skippy, the Bush Kangaroo)」(1968〜70)の主人公であるカンガルーの名前。ちなみに同連ドラはその後20年以上も経って再度続編が製作されたほどで(91〜92)、そちらも日本で吹き替え版がオンエアされた。
STORY
NYの新聞記者スー(リンダ・コズラウスキー)はオーストラリア北部準州のアウトバックにいるという“クロコダイル”ダンディーことミック(ポール・ホーガン)なる男に興味を持ち、実際に彼に会って取材するために恋人をNYに残し単身渡豪する。2泊3日、ミックと二人だけでキャンプしながらアウトバックをあちこち見ていた中、突然ワニに襲われたスーは間一髪のところをミックに助けられる。スーはお礼にミックをNYへ招待、飛行機はもちろん大都会も初めてのミックのとんちんかんな言動を微笑ましく見守るうち、恋人がいながらもスーは徐々にミックに引かれていき…。
「クロコダイル・ダンディー」日本版予告編