静かな夜にじっくり観賞したい大人のロマンス(映画「マニー・ルイス」)

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※2022年10月4日更新

マニールイス

Manny Lewis

(オーストラリア2015年公開、日本未公開/89分/M/ロマンティック・コメディ)

監督:アンソニー・ミール
出演:カール・バロン/リーアナ・ウォルスマン/ロイ・ビリング

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 タイトル・ロールであるスタンド・アップ・コメディアン、マニー・ルイス役に、自身もオーストラリア国内で高い人気と知名度を誇るコメディアン、カール・バロンが扮しただけでなく脚本執筆にも名を連ねた、彼の半自叙伝的なストーリーの大人のロマンティック・コメディで、全編シドニー各地で撮影されたオーストラリア映画。ジャパラリアの「オージー・レシピ」でお馴染み、本職は映画やTVドラマの衣装担当のネヴィちゃんことネヴィル・カー(「ハーモニー <2018年版>」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「イースト・ウエスト101  」「バッドコップバッドコップ」)がコスチューム・スーパーヴァイザーを務めた。

人気コメディアン、マニー・ルイス(カール・バロン)は一般人女性であるマリア(リーアナ・ウォルスマン)と知り合い…
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 カール・バロンは自身の名を冠したお笑い系のDVDを過去に何枚もリリースしているが、純然たるドラマ、それも劇場映画の“俳優”としては本作がデビュー作となった。バロン演じるマニーのロマンスの相手マリアであると同時に、マニーがマリアと同一人物だとは知らずに定期的に電話で話す有料テレフォン・セックス・ラインの相手キャロライン役には、「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃(Star Wars Episode II: Attack of the Clones)」(02)でザム・ウェセル役を演じたことが世界中の同シリーズ・ファンの間で記憶に残るオージー女優リーアナ・ウォルスマン(「ペンギンが教えてくれたこと」「アリブランディを探して」)。ウォルスマンはまた、日本でも2018年に地上波でオンエアされたオーストラリアの大人気連続ドラマ・シリーズ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」シーズン1(13)に看守エリカ・デイヴィッドソン役でも出演。

 ほかにはマニーの父親役に、海外でも「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島(The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader)」(10)ののうなしあんよの頭(Chief Dufflepud)役などで知られるヴェテラン男優ロイ・ビリング(「ハウス・オブ・ボンド」「バッドコップバッドコップ」「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)が扮している。

 設定は全く異なるが、ホワキン・フェニックス扮する主人公が、スカーレット・ヨハンソンが声を務めた人口知能型OSに恋をしてしまうハリウッド映画「her/世界でひとつの彼女」(13)をなんとなく彷彿させるストーリーだ。ラブコメなのに淡々としているという点でも共通していて、どちらかというとシリアスなシーンのほうが多いほど。“恋愛ドラマ”というほどシリアスではないというだけで、ラブコメと言い切ってしまうのもこれまたためらわれる、ちょうど中間くらいの映画だと思えば分かりやすいだろう。

二人の背景に見えるシドニー・オペラ・ハウスなどシドニーの名所があちこちに登場するのも見どころ
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 マニーと父親との確執も一応、重要な伏線ではあり、また、マニーと彼のタレント・マネジャーのプライヴェイトでも腹を割った付き合いなども描かれるが、それ以上にマニーとマリア、マニーとキャロラインのシーンが圧倒的多数を占める。カール・バロンはコメディアンなのに黙っていればどこか影のあるマニー役にぴったりだが、本作公開時の49歳というバロンの実年齢は、普通に通りを歩いていても大勢の人々に気づかれるほどの有名人なら黙っていても女性が寄ってきていただろうから、さすがにその歳になるまで恋人ができないというのは設定としてかなり無理があるように思えるものの、実生活でのバロンもなんと独身だから、栄光を手にしながらも孤独なセレブも現にいるということで、バロンはそのあたりを説得力を持って演じている。

マニーと父親(ロイ・ビリング)との確執も重要な伏線に
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 一方のリーアナ・ウォルスマンもミシェル・ファイファー似の透明感溢れるエレガントな美貌とごく自然な演技が見事。観客は最初からマリアがテレフォン・セックスのバイトをしているキャロラインであることが分かっているから、マニーが最初のデイトの報告の電話でキャロラリンに「彼女(マリア)がクチャクチャ音を立てて物を食べるのが我慢できない」と言った時のマリアの表情など、ウォルスマンが見せるリアクションが大げさではない自然なものだからこそ笑える。本作の15年前、別のオージー映画「アリブランディを探して」(00)で名門女子高の鼻持ちならないお嬢様役を演じたころには想像もつかなかったほど、しっとりとした大人の魅力を兼ね備えた演技派女優に成長した。

マニーのタレント・マネジャーで公私にわたりマニーの良き理解者であるジミー(ダミアン・ガーヴィー:中央)
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 マニーとマリアは果たして恋に落ちるのか、そしてマニーはキャロラインとマリアが同一人物であることに気づくのか…? ハラハラするような展開ではないが、静かな夜に家でじっくりと観賞したい素敵な作品に仕上がっている。キングス・クロスの裏通りでレストランが立ち並ぶランケリー・プレイスやシドニー・オペラ・ハウスなど、シドニーの有名スポットが随所に出てくるシーンもお楽しみに。

【セリフにおける英語のヒント(その1)キャロラインと初めて電話で話した際、マニーが自分の外見の特徴を説明するくだりで「身長は5フィート7インチ(170cm)、ハゲで、ウィング・ナッツなんだ(I’m 5’7”, bald. I’ve got wing nuts)」と言った“ウィング・ナッツ(wing nuts)”の意味がキャロラインには分からずマニーに聞き返すシーンがある。ウィング・ナッツとは耳が2つある蝶ナットのことで、耳が大きいという意味。蝶ナットの単数系は“ウィング・ナット(wing nut)”でキャロラインは単数系で「ウィング・ナットって?」と聞くが、耳は2つあるのでマニーは複数形で答えた。

【セリフにおける英語のヒント(その2)日中、マリアを自宅に招待したマニーがビスケット菓子を出すと、マリアが「アイスト・ヴォヴォズ大好きなの」と目を輝かせる。アイスト・ヴォヴォズ(Iced VoVos)はティム・タムなどで知られるオーストラリア最大手のビスケット・ブランド、アーノッツが販売している人気商品で、単数系はアイスト・ヴォヴォ(Iced VoVo)。

【セリフにおける英語のヒント(その3)マニーにどこで育ったのかと聞かれてマリアが答えるギンピー(Gympie)は、クイーンズランド州郊外に実在する田舎町。

【セリフにおける英語のヒント(その4)マリアがサルサ仲間の船上パーティにマニーを誘い二人で参加、出された料理を食べているマニーにマリアが料理名をフェジョアーダ(feijoada)だと教える。フェジョアーダはブラジルの国民食ともいわれる煮込み料理。

STORY
 大劇場での公演もソールド・アウトになるほど人気のスタンド・アップ・コメディアン、マニー・ルイス(カール・バロン)は、眼下にオペラ・ハウスとシドニー・ハーバーが広がる高級マンションに住み独身貴族を満喫…してはおらず、私生活では孤独と空虚さを噛み締めていた。ある夜、眠れなかったマニーは半ば暇つぶしに有料テレフォン・セックスの番号に電話をかけ、自らを“トーマス”と名乗り、キャロラインなる女性と話す。セクシー・トークを展開しようとするキャロラインを制し「ただ話したいだけなんだ」と言い、二人は他愛ない会話を交わす。キャロラインは電話を切った後、たまたまTVに映っていたマニーがトーマスであることに気づく。後日、カフェでマニーはマリア(リーアナ・ウォルスマン)という女性と知り合い、彼女の電話番号を聞き出してデイトにこぎつける。デイトから帰った後、マニーは例のテレフォン・セックス・ラインに電話をかけてキャロラインを指名し、マリアとのデイトの報告をするなど、その後もマリアと会い、キャロラインと電話で話すという生活を続ける。マリアとキャロラインが同一人物であることを知らず…。

「マニー・ルイス」予告編

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