オーストラリア3都市で繰り広げられる”ハチャメチャ”シェア生活(映画「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラフェル・イン・ヒズ・ハンド」)

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※2023年4月9日更新

ヒーダイドウィズファラフェルインヒズハンド

He Died with a Felafel in His Hand

(オーストラリア2001年公開、日本未公開/107分/MA15+/ブラック・コメディ)

監督:リチャード・ローウェンスタイン
出演:ノア・テイラー/ロマーヌ・ボーランジェ/エミリー・ハミルトン/ソフィー・リー

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 英国出身で幼いころに両親とともにオーストラリアへ移住した作家ジョン・バーミンガムが、1994年に出版した同名ベスト・セラー小説を基にしたオーストラリア映画。オージー・ロック・バンドINXS(インエクセス)全盛期の多数のミュージック・ヴィデオ(MV)を手がけ(U2のMVも何曲か監督)、やはりINXSの故マイケル・ハッチェンス主演の映画「ドッグ・イン・スペース(Dogs in Space)」(86)などで知られる鬼才リチャード・ローウェンスタインが監督。主演にジェフリー・ラッシュが米アカデミー主演男優賞を受賞した「シャイン」(95)で主人公の青年時代役を演じて注目を浴び、その後「トゥームレイダー(Lara Croft: Tomb Raider)」シリーズなどでハリウッドにも進出したノア・テイラー。同年度オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)脚色賞にノミネイトされたほか、世界各国の映画祭に出品され話題を集めた。

作家志望の冴えないダニー役をノア・テイラーが好演
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  ジョン・バーミンガム原作の“半”自伝的小説の映画化となるストーリーはうだつの上がらない作家志望のダニー(ノア・テイラー)が、一緒に住んでいるシェアメイトたちに巻き込まれる騒動を描いたブラック・コメディで、舞台はダニーの引っ越しに伴いブリスベンの一軒家からメルボルンのテラスハウス、そしてシドニーのフラット(※日本でいうマンション)へと3都市に及ぶが、撮影自体はブリスベンとシドニーのみで行われ、メルボルンのシーンはシドニーで撮影された。ちなみにジャパラリア誌上グルメ・コラム「オージー・レシピ」でお馴染みのネヴィちゃんことネヴィル・カー(「ハーモニー <2018年版>」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」「イースト・ウエスト101  」「バッドコップバッドコップ」)も衣装部門に携わり、セット・コスチューマーとして両都市での撮影に参加。ほとんどがこれらの家やフラットの中で起こる室内劇で、映画化の前に舞台化もされていて、なるほど舞台にはピッタリかもしれない。

妖しい魅力を放つアーニャ役にフランスから招かれて出演のロマーヌ・ボーランジェ
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 なんとなく間延びした顔立ちのおかげ(?)か、いわゆるギークっぽい青年役を演じさせたら右に出る者がいないテイラーは、そのルックスも演技も立派な“個性派”としての地位を確立しており、本作でもタバコを口にくわえギターを弾くもののイマイチ冴えない、それでも魅力的なダニー役をごく自然体の演技で好演。

 ダニーのシェアメイト役の主要キャラたちはいずれも20~30代。中でも印象に残るのはトニ・コレットの出世作「ミュリエルの結婚(Muriel’s Wedding)」(94)でミュリエルをいじめるビッチな女友達のリーダー格を演じたソフィー・リー(「タップドッグス」「ザ・キャッスル」)で、主要キャラが全員、最初から最後まで出ずっぱりといった感じの中、リーだけは映画の最後の舞台となるシドニーのシーンで初めて登場するが、ニコール・キッドマンばりの美貌で、顔の骨格が似ているのだろうか、しゃべり方や声の雰囲気までキッドマンに通じるものがある。ほかにもレオナルド・ディカプリオ主演の映画「太陽と月に背いて(Total Eclipse)」(95)に出演したフランス人女優ロマーヌ・ボーランジェ、そして英国人女優エミリー・ハミルトンの二人が海外から招かれて出演、ボーランジェとハミルトンとテイラー演じる3人をめぐる奇妙な三角関係にも注目。

 男性のシェアメイトでは最初のブリスベンの一軒家にダニーたちと住んでいるマイロ役のダミアン・ウォルシュ・ハウリング(「イースト・ウエスト101 ②」「マクベス ザ・ギャングスター」「ケリー・ザ・ギャング」)の、イケメンなのにおとぼけキャラぶりがそれなりに印象に残る。ウォルシュ・ハウリングはいずれも短編映画だが監督業もこなし、2016年には日本のトヨタ・レクサスが出資・製作した短編映画を監督、同年度シドニー映画祭にも出品された。

英国人女優エミリー・ハミルトンも出演
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 映画のタイトルを直訳すると“彼はファラフェルを手に死んだ”という意味で、ファラフェルはオーストラリア在住の日本人にはお馴染み、中東料理のヒヨコマメのコロッケのことで、通常、ケバブのように野菜やフムスなどのディップとともにピタパンで包んだヴェジタリアン・ラップ・サンドウィッチとしてテイクアウェイ(※テイクアウト)店のメニューで人気の食べ物だ。映画を知らずにタイトルだけ聞くと、単にゴロがよかったから付けたまでで映画の筋書き自体には何の関係もなさそうにも思えるが、実はそのままズバリでオープニングからいきなり“ファラフェルを手に死んだ男”が出てくる。といっても特に過激な暴力描写はないので、あくまでもブラック・コメディとして楽しめる。

ハチャメチャなフラットメイトたち(中央の2人は左がノア・テイラー、右がダミアン・ウォルシュ・ハウリング)
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 大勢の登場人物たちが入り乱れてのドラマだが、ブラック・コメディとあってキャラクターや状況設定はある意味、無茶苦茶。空き部屋がこれ以上なくてリヴィング・ルームにテント持ち込みで住んでいるシェアメイトがいたり、ほとんど英語が話せない日本人の女の子が入居を希望して訪れると、クローゼットを彼女の“部屋”としてあてがったり…。ちなみにこの日本人キャラを演じるタノウエ・サユリさんという女性は、ブリスベン在住の全くの素人女性で、普段は歯科助手として働いていたところを声をかけられての映画デビューという。だが、セリフも出番も少ないことを抜きにしてもなかなかカメラ映えする女性で、素人とは思えないほど“ちゃんと”演技している(タノウエさんの情報は前述のネヴィちゃん提供だが、もし違っていたらタノウエさん、ごめんなさい!)。

 個性豊かなと呼ぶには少々エキセントリックすぎるシェアメイトたち、次から次に巻き起こるハチャメチャ騒動は、実際にはあり得ない設定だが、なぜかそれなりに現実感もあるから不思議。一人暮らしやパートナー、家族と住んでいる人も、この映画を観たら赤の他人とシェアしたくなる? それとも絶対イヤ?

【セリフにおける英語のヒント(その1)ファラフェルの英語の綴りは“Falafel”が一般的だが本作のタイトルのように“Felafel”もあり。

【セリフにおける英語のヒント(その2)ブリスベンの家に入居希望のアーニャ(ロマーヌ・ボーランジェ)が下見に来た際、ヨーロッパ出身でとっさに英語が出てこないアーニャが「この家の冷蔵庫に今まで一度でも肉が入っていたかどうか知りたいわ。私は…何て言うんだったかしら、“肉を食べない人間”なのよ」と言うと、その場に居合わせたシェアメイトたちが「ヴェジョ(Vego)」と呟くのは“ヴェジタリアン(Vegetarian)”を意味するオージー・スラング。さらにフラットメイトの一人が続けて「冷蔵庫にはパウンドケーキとビールとフィッシュ・フィンガーしか入ってないよ」と言う“フィッシュ・フィンガー(Fish Finger)”は、白身魚のフライ、それも手でつまめる小型の棒状のもののことで(フィッシュ・フィンガーのフィンガーはフィンガー・フードからきている)、オーストラリアのどのスーパーにもパン粉が付いた状態の、揚げる(またはオーヴンで加熱する)だけで食べられる冷凍食品として売られている。

STORY
 作家志望のダニー(ノア・テイラー)はシェア生活に恵まれず、実に47回目の引っ越し先であるブリスベンの一軒家に住んでいるが、そこでもやはりシェアメイトたちは一風変わった人間ばかり。そこへ全身黒づくめで妖しい雰囲気を漂わせたアーニャ(ロマーヌ・ボーランジェ)が新たなシェアメイトとして加わり、さらに収拾がつかないほどの騒動が巻き起こり…。

「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラレル・イン・ヒズ・ハンド」予告編

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