オーストラリア・デイに観たい大作映画「オーストラリア」

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※2021年9月16日更新

オーストラリア

Australia

(オーストラリア2008年、日本2009年公開/165分/M/ロマンス)

監督:バズ・ラーマン
出演:ニコール・キッドマン/ヒュー・ジャックマン/デイヴィッド・ウェナム/ブライアン・ブラウン/ベン・メンデルソーン

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「ロミオ+ジュリエット」(92)、「ムーラン・ルージュ」(01)、「華麗なるギャツビー(The Great Gatsby)」(13)のオージー監督バズ・ラーマンが、「ムーラン・ルージュ」で組んだオージー・オスカー女優ニコール・キッドマン(「LION/ライオン 〜25年目のただいま」「虹蛇と眠る女」「デッド・カーム/戦慄の航海」「BMXアドベンチャー」)を再度ヒロインに、その相手役にこちらも「X-メン」シリーズのオージー・ハリウッド・スター、ヒュー・ジャックマン(「ペイパーバック・ヒーロー」)を起用し、1億3,000万ドルという巨費を投じて全編オーストラリアで撮影されただけでなく、主要キャストはもとより脇役からチョイ役に至るまでほぼ全員オーストラリア人俳優で固めた豪米合作の大作映画。興行収入も2億ドルを突破する大ヒットとなり、ラーマン監督夫人で夫が監督したすべての映画の美術監督を務めているキャサリン・マーティンが本作でも美術監督と衣装デザインを担当、同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では助演男優(少年ナラ役のブランドン・ウォルターズ)、音響、音楽賞など6部門で候補となり、美術、衣装デザイン、視覚効果賞の3部門受賞に輝いたほか、米アカデミー賞でも受賞を逸したがマーティンが本作からの唯一のノミネイションを受けた(衣装デザイン賞)。ちなみにマーティンは「ムーラン・ルージュ」と「華麗なるギャツビー」で2度オスカー受賞(両作品とも美術賞と衣装デザイン賞の2部門を制覇)、本作と「ロミオ+ジュリエット」を含めるとこれまでに合計4回オスカーにノミネイトされている。

ニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマンが初共演
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サラー(ニコール・キッドマン)が実の子のように可愛がるナラ役のブランドン・ウォルターズが本作の出演者の中で唯一、豪アカデミー助演男優賞候補になった
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 2時間半以上という長編で、正直、脚本にあれこれテーマを盛り込みすぎたという感想は否めない。メインはニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマン演じる男女のロマンスということになるが、アクション、アドヴェンチャー、ファンタジー、戦争、人種差別に男女差別…とてんこ盛りのテーマが絡む。映画は第二次世界大戦勃発と同じ1939年に始まり、だが前半はまだ特に戦争の影響を受けない北部準州ダーウィンでストーリーが展開するが、クライマックスとなる旧日本軍によるダーウィン襲撃シーンは、日本軍がダーウィンに上陸するという史実に反する描写をし(歴史上、日本軍は空襲はしたがオーストラリア大陸に上陸はしていない)、日本人観客の反感を買ったことはいうまでもないが、そもそも襲撃シーン自体、果たして必要だったのか、前半のテーマだけで映画を感動的に終えることもできたのではなかっただろうかと思えるのは事実。要するに全体的にやや散漫とした印象を与えてしまっている。昔の大作映画、例えば「風と共に去りぬ(Gone with the Wind)」(39)などは劇場公開時に幕間(休憩時間)があったことから映画自体が幕間を踏まえ物語も前編と後編にはっきり分かれていて、そういった古き佳き時代のハリウッド映画を意識したとも受け取れるが、現代の一般観客に果たしてどこまでラーマン監督のそんな思いが通じたかは疑問である。

ニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマンのロマンティックなラヴ・シーンもあり
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 だが、それを補う魅力に溢れているのもこれまた事実で、2時間半があっという間に過ぎる。主演のキッドマンとジャックマンはもちろん文句なしの演技力で、特に“牛追い”を意味するドローヴァー役のジャックマンの“いい男ぶり”は本作で女性ファンがさらに増えたのもうなずけるほど。当初ドローヴァー役にはラッセル・クロウで話が進んでおり、クロウでもおそらくそれなりにいい映画になっていたはずだが、キッドマン相手に燃えるような恋に落ちる役柄としては、ファンには失礼ながらクロウでは少々“くたびれた感”があったかもしれず、やはりジャックマンで正解だったといえるだろう。

女性ファンのハートをガッチリ掴んだヒュー・ジャックマン
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 英国貴族という役柄のキッドマンはオスカー女優の余裕の演技だけでなく、本作でオーストラリア・アカデミー衣装デザイン賞を受賞したキャサリン・マーティンが手がけた美しい衣装の数々をいつもながら完璧に着こなし、一方でシーンによってはラフな格好もごく自然で目でも十分楽しませてくれる。

豪アカデミー衣装デザイン賞受賞、米オスカーでも同賞にノミネイトされた華やかなファッションも見どころ
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 さらに、「F/X引き裂かれたトリック」(86)のブライアン・ブラウン(「パーム・ビーチ」「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」「英雄モラント傷だらけの戦士」)が悪役キング・カーニー役で、カーニーの手下でもっと陰湿なイヤ〜な悪役ニール・フレッチャー役で「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや「300〈スリーハンドレッド〉」シリーズのデイヴィッド・ウェナム(「LION/ライオン 〜25年目のただいま」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ムーラン・ルージュ」)が、「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃(Star Wars: Episode II Attack of the Clones)」(02)のクリーグ・ラーズ役のジャック・トンプソン(「人生は上々だ!」「英雄モラント傷だらけの戦士」)がアル中だが憎めない会計士フリン役で、「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男(Darkest Hour)」(17)で英国王ジョージ6世に扮したベン・メンデルソーン(「美しい絵の崩壊」「アニマル・キングダム」「シークレット・メンズ・ビジネス」)が実直なダットン大佐役で、ミランダ・オットーの実父で名優のバリー・オットー(「リベンジャー 復讐のドレス」)がオールソップ行政官役で出演、それぞれが印象を残す。そして、オーストラリア映画界のみならず、世界的にも最も有名なアボリジニ俳優と言い切っても過言ではないデイヴィッド・ガルピリル(「クロコダイル・ダンディー」「少年と海」)もナラの祖父で神秘的なアボリジニ、キング・ジョージという重要な役どころで登場。

 男優ではほかにも、日米でもヒットした「プリシラ」(94)や「ミュリエルの結婚」(94)にも主要キャラの一人として出演していた大御所ビル・ハンター(「誓い」)、ほかにもハンサムだった若かりしころ名作オーストラリア映画「ピクニックatハンギングロック」(75)で使用人アルバート役を演じたジョン・ジャラットといったいずれも実力派が脇を固めている。また、「ムーラン・ルージュ」(01)でアルゼンチン・タンゴをバシッと踊るシーンが印象的だったヤセック・コーマン(「ブレス あの波の向こうへ」「イースト・ウエスト101 ③」)は、ラーマン監督作品の常連でもあり、本作ではダーウィンの街のパブのオーナー、アイヴァン役で「ムーラン・ルージュ」の時とは全く違った表情を見せる(※日本では“Jacek”という綴りから彼のファースト・ネイムを“ジャセック”と書かれるが、ポーランド出身のオージーであるためヤセックが正解)。もうひとり、フランク神父役のマシュー・ウィテット(「バッドコップバッドコップ」)も、「ムーラン・ルージュ」(01)のエリック・サティ役で初めてバズ・ラーマン監督に起用されて以来、本作、そして「華麗なるギャツビー」(13)、とヤセック・コーマンと並び3作続けてラーマン監督作品に出演。

イヤ〜な悪役で登場のデイヴィッド・ウェナム
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 一方、男優と比較してニコール・キッドマン以外の女優陣には大した見せ場はないものの、ブライアン・ブラウン演じるキング・カーニーの妻役にサンディ・ゴア(「ブライズ・オブ・クライスト」)、バリー・オットー演じるオールソップ行政官の妻役にケリー・ウォーカー(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」「ムーラン・ルージュ」「アリブランディを探して」)という大御所女優に加え、カーニー夫妻の娘でデイヴィッド・ウェナム演じるニール・フレッチャーの婚約者キャス役に「マトリックス リローデッド」(03)のマギー役や「真珠の耳飾りの少女(Girl with a Pearl Earring)」(03)のフェルメール夫人役のエッシー・デイヴィスといったいずれも演技派オージー女優たちが作品に深みを持たせている。以上、前述の通りラーマン監督作品では劇場映画監督デビュー作「ダンシング・ヒーロー」と並んでキャスティングに当たっては海外から招かれて参加の俳優は一人もおらず、全員オージー男女優が起用された。アメリカも出資した豪米合作映画なのでアメリカを含む海外でのさらなる観客動員を狙ってアメリカ・サイドが米国人俳優の起用を主張してこなかったはずはなく、特にオスカー女優ニコール・キッドマンの主演は異論の余地がないとはいえキッドマン演じたヒロインはイギリス人という設定、ということはオージー女優でなくともよかったが、オーストラリアを舞台にした「オーストラリア」というタイトルの映画を撮影するに当たって、ラーマン監督のこだわりだけでなく、「オーストラリアには素晴らしい俳優がこんなに大勢いるんですよ」と海外に知らしめたいいうラーマン監督の熱い、そして自分を育ててくれたオーストラリア映画業界とその俳優たちに対する義理堅い思いもあってのことだろう。

左からサンディ・ゴア、ケリー・ウォーカー、エッシー・デイヴィス
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 広大な大自然の描写も素晴らしく、歴史、ロマンス、人種差別や男女差別に人類愛、そして戦争といった多岐にわたるテーマの数々は、散漫ではあってもさまざまな層の観客にアプローチできる本作の魅力のひとつでもある。史実をねじ曲げて日本人を描いたシーンに日本人として言いたいことはあっても、1月26日の建国記念日オーストラリア・デイに観たいそのものズバリの大作映画であることは間違いない。

【余談】実は記者は本作の(実際の撮影ではないが撮影が終わった後の編集段階で)日本兵の声の吹き替えで参加させてもらい、シドニーのレコーディング・スタジオでその他数人の日本人とともに音声収録を体験した。残念ながらラーマン監督はその場には立ち会っておらず、また、完成した映画を観てもお恥ずかしながら自分でもどの声が自分のものか分からないほどの、要するに“効果音”的な使われ方だったが(苦笑)、とてもいい経験になったことは間違いない。

【セリフにおける英語のヒント(その1)パブの入り口に立つアボリジニの男性に、パブの中からオーナーのアイヴァン(ヤセック・コーマン)が「原住民は入店禁止だ!(No boongs in here!)」と叫ぶシーンがある。“ブーングス(boongs)”はオーストラリア先住民であるアボリジニを指しての俗語“原住民”の複数形で(単数形はboong)、当時はパブに入店できないなどさまざまな社会的人種差別を受けていた。

【セリフにおける英語のヒント(その2)ドローヴァー(ヒュー・ジャックマン)の口癖で、その後サラー(ニコール・キッドマン)も使うようになる“クライキー(crikey)”という言葉は、英国でも使われるがオージー英語としても一般的な驚きの感情を表す俗語で、大声で言うと「うわあ!」とか「びっくり!」、呟くように言うと「驚きだぜ」といった表現になる。通常サラーのような上流階級の女性は使わないので、最初はツンとしていたサラーが徐々にオージーたちに溶け込んでいくことを表し微笑ましい。

【セリフにおける英語のヒント(その3)パブに入ったサラー(ニコール・キッドマン)がオーナーのアイヴァン(ヤセック・コーマン)に「女は入っちゃダメだ。女性用のラウンジは隣の部屋だよ(No women. Ladies’ lounge next door)」と言われる。このように当時オーストラリアのパブでは男女別々の部屋で飲まなければならなかった。

Story

 第二次世界大戦勃発数カ月前の1939年、英国貴族アシュレイ卿夫人サラー(ニコール・キッドマン)は、アシュレイ家の所有地であるオーストラリア北部準州の田舎の牧場に行ったまま1年もロンドンに戻らない夫に合流するため渡豪する。ダーウィンに到着したサラーは、夫が事前に手配していた牛追いでその名も“ドローヴァー(牛追い)”(ヒュー・ジャックマン)の案内により所有地への旅に出るが、サラーがオーストラリアに到着する前に夫は何者かに殺害されており…。

「オーストラリア」日本版予告編

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