優しく厳しい大自然の中で少年は…?(映画「少年と海」)

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※2022年12月11日更新

少年と海

Storm Boy

(オーストラリア1976年、日本1977年公開/88分/G/ファミリー)

監督:アンリ・サフラン
出演:グレッグ・ロウ/ピーター・カミンズ/デイヴィッド・ガルピリル

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ピクニックatハンギングロック」(75)と並び海外で注目を集めた最も初期のオーストラリア映画の一つで全編、物語の舞台と同じ南オーストラリア州で撮影が行われた。原作はオーストラリア人児童文学作家コリン・シール(1920〜2006)が1964年に発表した同名小説で、日本でも二見書房より邦訳本が出版された。本作の7年後に劇場公開された、同じく児童文学を基にした別のオージー映画でニコール・キッドマンのデビュー作となる「ブッシュ・クリスマス」(83)のアンリ・サフラン監督の下、映画版は76年末、まず南オーストラリア州で封切られ、翌77年に国内その他の全州・地域、そして日本を含む世界各国で劇場公開され絶賛を博し、現在までに100カ国以上で公開されている。70年代当時、32万ドルという製作費は高くも安くもなくごく普通だが、オーストラリア国内だけで260万ドル以上の興収を弾き出し、当時でこの数字は立派な大ヒット作といえる。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では作品、監督、主演男優(デイヴィッド・ガルピリル)、脚本、音響、美術、衣装デザイン賞の主要7部門にノミネイトされ、見事作品賞に輝いたほか、77年度モスクワ国際映画祭でも児童映画部門グラン・プリを受賞した。本作のリメイク版が「シャイン」(96)で米オスカー主演男優賞を受賞したオージー男優ジェフリー・ラッシュ主演で2019年に劇場公開された。

愛くるしい顔立ちながらキリリとした表情も見せる主人公マイク少年役のグレッグ・ロウ
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 主要登場人物は、人里離れた海辺にポツンと立つ粗末な小屋で暮らす、漁師のトムと10歳になるその息子マイク、やはり海辺で一人ジプシーのようなキャンプ生活を送るアボリジニ男性でマイクの友達となるフィンガーボーン・ビルの3人だけだが、ほか、マイクによくなつく1羽のペリカンが本作では非常に重要な役どころを演じる。嵐で遭難しかけた船に向かってこのペリカンが命綱をくわえて飛んでいき、乗組員を助けるというシーンはさすがにやりすぎではあるものの、子供向けの映画としては十分感動的だし、さらにこのペリカンは映画の中で“生命”を意味する重要な存在でもある。

人嫌いの漁師トムが息子マイクと暮らす海辺の粗末な小屋
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マイク(グレッグ・ロウ)が“ミスター・パーシヴァル”と名付けたペリカンとマイクは心を通わせ…
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 フィンガーボーン・ビル役のデイヴィッド・ガルピリル(「デッド・ハート」)はオーストラリアが生んだ最も有名なアボリジニ俳優で、80年代後半の「クロコダイル・ダンディー」シリーズや、ニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマン主演の「オーストラリア」(08)など海外でも大ヒットを記録したオーストラリア映画にも主要キャラクターの一人として出演、本作を含み豪アカデミー賞には主演3回、助演1回の過去4回ノミネイトされており、うち2度も主演男優賞を受賞した実力の持ち主でもある。

 一方、豪アカデミー賞での主演男優賞のノミネイションはガルピリルにさらわれたとはいえ、本作の真の主役は、映画のタイトルにある通り10歳の“少年”マイク役のグレッグ・ロウだ。笑顔が愛くるしい、かつ真剣な表情の時はキリリとした眉の正統派の美少年で、少年期の微妙な心の移り変わりを等身大の自然な演技により表現している。本作で華々しいデビューを飾りながら、本人に芸能界で生きていく意志がさほどなかったのか、それとも周囲が彼をスターに育て上げられなかったのか、子タレとして数年間のみの俳優活動の後、芸能界から遠ざかった。

 マイクの父トムを演じる性格俳優ピーター・カミンズ(「サンデイ・トゥー・ファー・アウェイ」)も、無骨だが息子思いの優しい父親役を好演。人嫌いで偏屈者のこの父のせいでマイクは家にTVもラジオもないばかりか学校にも行かせてもらっていないため同世代の友達もいないような毎日だが、トムは普通の親子と変わりない愛情を持ってマイクに接しており、学校に行っていないマイクが父との会話の中で、本来過去形で言わなければならない単語を現在形で話すのを優しく指摘するシーンが何度かあり、微笑ましい。

ともにマイクの理解者である父トム(ピーター・カミンズ:左)とフィンガーボーン・ビル(デイヴィッド・ガルピリル)
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 父と子の親子愛、異民族との人種・年齢を超えた友情、そして動物愛を、大自然をバックに描かれるという内容から、オーストラリアでは原作・映画版ともに本作が義務教育課程の教材に用いられることも少なくないというが、大人が観ても十分楽しめるし、観終わった時に心地良い余韻を残してくれる魅力的な作品でもあるから、一度は観ておきたいオージー映画の一つとしておすすめ。

STORY
 南オーストラリア州の人里離れた海辺にひっそりと立つ粗末な小屋で、漁師の父トム(ピーター・カミンズ)と二人で暮らす10歳の少年マイク(グレッグ・ロウ)。トムは息子思いだが人嫌いが高じて半ば世間から隔絶したような生活を送り、マイクを学校へもやらず、町の教師がマイクを通学させるよう説得に訪れても聞く耳を持たない。友達もいないマイクだったが、親を亡くした3羽のペリカンの雛を家に持ち帰り、ペットとして飼い始め…。

「少年と海」予告編

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