村上春樹が邦訳本を手がけた短編小説「足もとに流れる深い川」映画化作品「ジンダバイン」

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※2026年1月8日更新

ジンダバイン

原題:Jindabyne

(オーストラリア2006年公開、日本未公開/123分/M/ドラマ/DVD、Stan、YouTubeムービー、Googleプレイ、Apple TV、Amazonプライムで観賞可能)

監督:レイ・ロウレンス
出演:ローラ・リニー/ガブリエル・バーン/デボラ・リー・ファーネス

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

「ブリス/あの世とこの世とこの野郎」(1985)、「ランタナ」(2001)のオージー監督レイ・ロウレンスの劇場映画3作目として2006年に公開されたオーストラリア映画。原作は米国人作家レイモンド・カーヴァー(1938〜1988)が1975年に発表した短編小説「足もとに流れる深い川(So Much Water So Close to Home)」で、映画は日本未公開だが原作は村上春樹による邦訳本が出されたことで日本でも知られる。同短編小説は本作以前にもロバート・アルトマン監督の1993年公開のハリウッド映画「ショート・カッツ」で一部が使用されている。

 主人公の夫婦役に3度のオスカー候補歴を持つ実力派ハリウッド女優ローラ・リニーと、こちらも世界的な知名度を誇るアイルランド出身のガブリエル・バーンの2人を海外から招き、タイトルにある通りシドニーが州都であるニュー・サウス・ウェールズ州南部のスキー・リゾート地として名高いスノーウィ・マウンテンズに隣接するジンダバインで撮影が行われた。

主人公の夫婦役を演じ、それぞれAFI賞主演男女優賞にノミネイトされたガブリエル・バーンとローラ・リニー
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 全豪映画界で最も権威あるオーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)主要7部門を受賞した「ランタナ」に続くロウレンス監督の作品として大いに期待され、バーンとリニーという海外の2大スターを主役に起用したことも話題を集め、いずれも受賞は逸したものの本作も第48回AFI賞において作品、監督、主演男優(バーン)、主演女優(リニー)、助演女優(デボラ・リー・ファーネス)、脚色、撮影、音響、作曲賞の主要9部門で候補となり、カンヌ映画祭とトロント国際映画祭にも出品された。

 バッキンガム宮殿の王家の馬車の塗装も手がけたという塗装業者の父を持つ、イギリスはロンドン生まれのレイ・ロウレンス監督は11歳の時に家族とともに南オーストラリア州へ移住、学校を出た後はシドニーへ拠点を移し、主にテレビCMの監督として成功を収めた。1985年に「ブリス/あの世とこの世とこの野郎」で劇場映画監督デビュー、16年後の2001年に「ランタナ」、そのさらに5年後の2006年の本作、と劇場映画は3作しか監督していないが3作品ともすべてAFI賞の作品賞と監督賞候補となり「ブリス」と「ランタナ」は両方受賞した。つまり劇場映画でも監督としての実力を十分認められていたからオファーが舞い込んでいたはずだが、短期間で撮れるコマーシャルと違って劇場映画はよっぽど惚れ込んだ企画でないと取り組む気になれないタイプなのかもしれない。

 複数のカップルがそれぞれフィーチャーされ次第に接点を持っていく「ランタナ」と違って、本作でも4組のカップルが登場するものの最初から互いに家族ぐるみの交流があり、なので「ランタナ」にあった謎解きの要素は本作にはないが、非常に完成度の高い人間心理ドラマである。「ランタナ」同様サスペンスの要素もあり、若い女性スーザンの遺体が発見され、実際の殺害シーンは描写されないがスーザンのレイプ殺人犯が誰かは映画を観る者には最初から分かっており、この男も映画の中で何度も出てくるから怖い。

4組のカップルの男たちだけで魚釣りキャンプへ出かけ(左からガブリエル・バーン、ステリオス・イアクミス、ジョン・ハワード、サイモン・ストーン)
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AFI賞助演女優賞候補となったデボラ・リー・ファーネス(左)とリーア・パーセル
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 主人公のスチュワート(ガブリエル・バーン)とクレア(ローラ・リニー)夫妻のほかは、4組中、最年長の夫婦で亡くなった娘の忘れ形見である孫娘を引き取って育てているカールとジュード役に「マッドマックス 怒りのデスロード」(2015)と続く「マッドマックスフュリオサ」(2024)で人食い男爵(The People Eater)役を演じたジョン・ハワード(※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)と本作でAFI賞助演女優賞にノミネイトされ実生活では当時ヒュー・ジャックマンの妻だったデボラ・リー・ファーネス(「クライインダーク」)、ロッコとカーメルのカップルのカーメル役に日本でもオンエアされたオーストラリアの連続ドラマ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」で2018年のシーズン6から2021年のシーズン8まで登場する主要キャラのひとりである受刑者リタ・コナーズ役が有名かつ「ランタナ」でもロウレンス監督に起用されていたリーア・パーセル(「バッドコップバッドコップ」)、最年少のビリーとエリッサのカップルのエリッサ役には別のオージー映画「ストレンジプラネット」でナオミ・ワッツとクローディア・カーヴァンの親友役という主要キャラのひとりとして出演したアリス・ガーナーが扮している。そして、スーザンのレイプ犯でセリフこそほとんどないものの何度も登場して強い印象を残すグレゴリー役にはヴェテラン俳優クリス・ヘイウッド(「キスオアキル」「最も危険な悪女<おんな>」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)。それ以外にもチャールズ‘バット’ティングウェル(「キャッスル」「英雄モラント傷だらけの戦士」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)やマックス・カレン(「キスオアキル」「わが青春の輝き」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)といった大御所俳優が脇を固めている。

3度のオスカー候補歴を持つハリウッド女優ローラ・リニー
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 4組のカップルの夫たち4人がそれぞれ男だけで人里離れた山奥の川へ週末の魚釣りキャンプに出かけ、現地で川に浮かぶスーザンの遺体を発見するもすぐに警察に届けずのんびりキャンプを続け、通報したのは町へ戻った日曜の夜遅くだったことから世間の激しい非難を浴びることになる、というのが大筋で、偉大な作家レイモンド・カーヴァーの短編小説そのままの設定だからそこにケチをつけるべきではないのだろうが、大の大人が4人もいて、4人の中で一番若いビリーだけは警察に行くべきだと主張するが3人から拒否され、ビリーもだったら自分ひとりだけでも、とならなかったのは理解に苦しむところ(死因や死亡推定時刻を調べるためにもすぐ通報するのは当たり前)。

 だが、その点を抜きにすると、遺体発見という“事件”だけでなく、夫婦関係や人種問題(殺害されたスーザンはアボリジナル女性だった)、嫁姑問題なども挟みつつ、ガブリエル・バーンとローラ・リニー以外も全員演技派の俳優たちばかりがしっかりと映画を引っ張る。かつてあった町がダム建設に当たり人工湖に沈められてできた現在のジンダバインという、美しい自然ではありながらどこかミステリアスな雰囲気も物語によくマッチしている。

STORY
 魚釣りが趣味のスチュワート(ガブリエル・バーン)は妻クレア(ローラ・リニー)と小学生の一人息子とシドニーが州都であるニュー・サウス・ウェールズ州南部のジンダバインで暮らしている。ある日、スチュワートは夫婦そろって家族ぐるみの付き合いの男友達3人と週末の釣りキャンプへ出かけ、着いて早々、川でアボリジナル女性の変死体を発見するが、携帯電話の電波も届かない山奥にいたため警察に通報するには山を下りなければならず、楽しみにしていたキャンプを中止したくなかった4人は、遺体が流されないよう遺体の片足を釣り糸で河岸に固定して遺体を川に浮かべたままキャンプを続け、やっと通報したのは日曜の夜遅くに町へ戻ってからだった。被害者の遺族を筆頭に、マスコミは遺体を放置してのんきに釣りを楽しんだ4人の非人道的な態度を非難し、近隣の住人にも白い目で見られるだけでなく実際に嫌がらせを受けるようになる。スチュワートとクレアの関係もギクシャクし…。

●ジョンハワード出演のその他のオージー映画:「マッドマックス:フュリオサ」「マッドマックス 怒りのデス・ロード「ジンダバイン」「テイク・アウェイジャパニーズ・ストーリー」「月に願いを」「クライ・イン・ザ・ダーク」「ブッシュクリスマス

クリスヘイウッド出演のその他のオージー映画「ジンダバイン」キス・オア・キル」「シャイン」「ミュリエルの結婚」「最も危険な悪女(おんな)」「英雄モラント/傷だらけの戦士

●チャールズバッドティングウェル出演のその他のオージー映画「ジンダバイン」ザ・ウォグ・ボーイ」「ザ・クラック」「エイミー」「キャッスル」「クライ・イン・ザ・ダーク」「ウインドライダー」「英雄モラント/傷だらけの戦士

●マックスカレン出演のその他のオージー映画:「華麗なるギャツビー」「オーストラリア「ジンダバイン」キス・オア・キル」「わが青春の輝き」「サンデイ・トゥー・ファー・アウェイ

「ジンダバイン」予告編

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