実話に基づいた感動のファミリー・ドラマ(映画「ペンギンが教えてくれたこと」)

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※2023年1月6日更新

ペンギンが教えてくれたこと

Penguin Bloom

(カナダ・トロント国際映画祭で2020年にプレミア上映の後、オーストラリア、日本ともに2021年公開/95分/PG/ドラマ)

監督:グレンディン・アイヴィン
出演:ナオミ・ワッツ/アンドリュー・リンカーン/ジャッキー・ウィーヴァー/グリフィン・マレイ・ジョンストン/リーアナ・ウォルスマン

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 日本でも「ペンギンが教えてくれたこと ある一家を救った世界一愛情ぶかい鳥の話」というタイトルで邦訳本が出版された同名ノンフィクションの映画化。シドニー北部ニューポートで夫と3人の息子たちと幸せに暮らしていた女性サムが2013年、家族旅行でタイを訪れた際、見晴らし台の手すりが壊れ転落し、下半身付随になるといういきなりショッキングな始まりで、車椅子生活となったサムとその家族を描いたドラマ映画だ。

ヒロイン、サム役で豪アカデミー主演女優賞候補となったナオミ・ワッツ
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 TVドラマ畑での活躍がメインだが劇場映画では本作以外にヒューゴ・ウィーヴィング主演の「ラスト・ライド〜最後の旅立ち〜」(09)も手がけたグレンディン・アイヴィン監督の下、ヒロイン、サム役に2度のオスカー主演女優賞候補歴を持つイギリス出身のオージー女優ナオミ・ワッツ(「美しい絵の崩壊」「ケリー・ザ・ギャング」「ストレンジ・プラネット」「ブライズ・オブ・クライスト」)、サムの夫キャメロン役にアメリカの人気連続ドラマ「ウォーキング・デッド」シリーズの主人公リック役が有名なイギリス人男優アンドリュー・リンカーン、サムの母親役にこちらも2度のオスカー助演女優賞候補歴を持つヴェテラン・オージー女優ジャッキー・ウィーヴァー(「アニマル・キングダム」「ハーモニー <1996年版>」「ピクニックatハンギングロック」)が扮し、同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞ではいずれも受賞は逸したとはいえ作品、監督、主演女優(ワッツ)、助演女優(ウィーヴァー)、脚色、撮影、美術、作曲賞という主要8部門にノミネイトされた。サムが転落するバルコニーのシーンは実際にタイのプーケットで、それ以外はすべてパーム・ビーチやアヴァロンなどシドニーで撮影された。

下半身付随となったサム(ナオミ・ワッツ)を夫のキャメロン(アンドリュー・リンカーン)は変わらぬ愛情を持って献身的に世話するが…
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 海とマリン・スポーツが大好きだったアクティヴな女性が、いやそうでなくとも健常者が突然、不慮の事故で下半身付随になるという辛さは本人にしか分からないはずだが、その辛さは想像に難くない。映画の前半ではサムがひたすら意気消沈している様子が強調される。夫が愛情を持って献身的に面倒を見てくれても、子供たちが気遣ってくれてもサムが笑顔を取り戻すことはなく、事故に遭う以前は看護師だったサムの親しい元同僚看護師が見舞いに来てくれても居留守を使うありさま。そんなサムに変化が訪れるのは、長男が傷ついたマグパイ(カササギフエガラス)のヒナを自宅に連れ帰って以降。色が黒と白だったため“ペンギン”と長男に名付けられたそのマグパイに対し、当初サムは「傷が治ったら飛び立っていくんだから名前なんか付ける必要もないわ」とそっけない反応だったが、2時間おきに餌を与えなければならないため子供たちが学校に行っている間はサムが餌を与えてくれるよう長男に頼まれ、渋々ベッドから出て車椅子に乗りペンギンの世話をするようになる。次第にペンギンがサムにもよくなつくようになり、また徐々に飛ぶことを覚えていく中、そんなペンギンを見てサムも元気だった以前のように何かやってみたいと思うようになり、カヤックを習い始める。

“ペンギン”と名付けたマグパイとサムは次第に心を通わせ…
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 ナオミ・ワッツが2度のオスカー候補女優であることを改めて実感させてくれる素晴らしい演技を見せる。本作撮影時、既に50歳を過ぎていたワッツは別のオージー・オスカー女優ニコール・キッドマンの親友でワッツとキッドマンは年齢も1歳しか違わないが、おそらくワッツは一切人工的に顔を“いじっていない”のだろう、超人的な美貌を維持し続けているキッドマンと異なりワッツの顔には結構深いシワが刻まれていたりするが、若いころのワッツと比べて幻滅することはなく、自然に歳を重ねている姿に好感が持てる。ワッツは出演だけでなく本作の5人のプロデューサーのひとりとしても名を連ねており、おそらく原作に惚れ込んでのプロデュース/主演でもあったのだろう。

サムの母親役で豪アカデミー助演女優賞にノミネイトされたジャッキー・ウィーヴァー
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 人間のサムとマグパイのペンギンが心を通わせていくわけだが、あざとさは全くない。ペンギンがサムにとっての唯一の心のよりどころのような存在になることもなく、むしろ徐々に飛べるようになっていくペンギンを見ながら以前のサムが持っていた自立心を自ら思い出していくと例えればいいだろう。

 そのほかの俳優陣も全員素晴らしいが、重要な役どころを演じるという点では夫役のアンドリュー・リンカーンと女の子みたいな可愛らしい顔立ちの長男ノア役のグリフィン・マレイ・ジョンストン、そしてサムのカヤックのインストラクター役のレイチェル・ハウスがとても印象的。

サムの夫キャメロン(アンドリュー・リンカーン)
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サム夫妻の長男ノア(グリフィン・マレイ・ジョンストン)5

サムが心から信頼するようになるカヤックのインストラクター、ゲイ(レイチェル・ハウス)
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 また、サムの妹カイリー役でリーアナ・ウォルスマン(「マニー・ルイス」「アリブランディを探して」)が、かつてのサムの同僚看護師ブロン役でリサ・ヘンズリー(「パーム・ビーチ」「月に願いを」「ブライズ・オブ・クライスト」)が出演している。ウォルスマンは「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃(Star Wars Episode II: Attack of the Clones)」(02)でザム・ウェセル役を演じたことが世界中の同シリーズ・ファンの間で記憶に残るほか、日本でも2018年に地上波でオンエアされたオーストラリアの大人気連続ドラマ・シリーズ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」シーズン1(13)に看守エリカ・デイヴィッドソン役でも出演。

サムの妹カイリー(リーアナ・ウォルスマン)7

サムの元同僚看護師仲間だったブロン(リサ・ヘンズリー)9

 ウォルスマンやヘンズリーと違ってセリフもない端役中の端役、サムが母と妹とランチに出かけた先で偶然出くわすブロンと一緒にいた別の女友達役に、バズ・ラーマン監督の「ダンシング・ヒーロー」(92)で主人公のちょっとヒステリックな最初のダンス・パートナー役を演じたジーア・カリディスも顔を出している。余談ではあるがもうひとり(1羽?)、本作の重要なキャラクターであるペンギン役のマグパイはなんと合計10羽が用意され、それぞれ“名演技”を見せている。

左からリーアナ・ウォルスマン、リサ・ヘンズリー、ジャッキー・ウィーヴァー、ジーア・カリディス、ナオミ・ワッツ
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 前述の通り観る者を無理矢理泣かせるあざとい演出は一切ないのに感動させられる秀作だ。記者の場合、鳥肌が立つほど感動したのはストーリー展開そのものではなく原作と同じ映画の原題「ペンギン・ブルーム」が持つ意味を理解した時。ブルームとはサムたち一家のファミリー・ネイムであり、つまりペンギン・ブルームとはこのマグパイがブルーム家の一員として愛されたことを指し、また、ブルーム(bloom)には“開花”という意味があり、サムが下半身付随の身として生きる第二の人生に希望を見いだしていく姿を表している。

STORY(※本作のストーリーについては上記本文に掲載!)

「ペンギンが教えてくれたこと」予告編

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