NYを舞台にした小粋な大人のラブコメ(映画「グリーン・カード」)

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※2023年5月25日更新

グリーンカード

Green Card

(米NYとLAで1990年公開の後、オーストラリア、日本ともに1991年公開/107分/PG/ロマンティック・コメディ)

監督:ピーター・ウィアー
出演:ジェラール・ドパルデュー/アンディ・マクダウェル/ビビ・ニューワース

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 全編NYを舞台にしたロマンティック・コメディ「グリーン・カード」は、一連のメグ・ライアン作品に負けず劣らず80〜90年代のラブコメ映画の中でも非常に高い人気と知名度を誇り日本でもヒットしたが、本作を観たことがある人でも本作を純然たる“アメリカ映画”だと信じて疑わなかったのではないだろうか。だが実際にはオーストラリア、フランス、アメリカの3カ国合作映画で、オージー俳優はひとりも出演していないが監督、撮影、編集、美術/衣装デザインなどの主要スタッフにオーストラリア人が名を連ねている。同年度米アカデミー脚本賞にノミネイトされたほか、米ゴールデン・グローブ賞ではコメディ/ミュージカル部門において作品、男優(ジェラール・ドパルデュー)、女優賞(アンディ・マクダウェル)の3部門で候補となり、見事作品賞と男優賞を受賞した。

主演のアンディ・マクダウェルとジェラール・ドパルデュー
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 本作が公開されたのは「ピクニックatハンギングロック」(75)の国際的な成功を機にハリウッドに進出したオージー監督ピーター・ウィアー(「危険な年」「誓い」)が爆発的なヒット作を連発していた時期で、「刑事ジョン・ブック 目撃者(Witness)」(85)、「モスキート・コースト」(86)を経て、「いまを生きる(Dead Poet Society)」(89)の翌年に、監督だけでなく脚本とプロデュースもピーター・ウィアーが手がけた小粋な大人のロマンティック・コメディである。

 旬だったのはウィアー監督だけではない。主人公であるフランス人ジョージを演じたジェラール・ドパルデューは当時、本国フランスでは既に大スターだったが本作と同じ1990年に主演したフランス映画「シラノ・ド・ベルジュラック」で初めて米アカデミー主演男優賞にノミネイトされ世界的な注目を集め、「グリーン・カード」が初の本格的な英語作品へのチャレンジとなりハリウッド・スターの仲間入りを果たした。

 ドパルデューの相手役でもうひとりの主人公ブロンティを演じたアンディ・マクダウェルも本作の前年に「セックスと嘘とビデオテープ(Sex, Lies and Videotape)」(89)の主演で大ブレイクしたばかりという新鮮な時期だった。

互いに性格は全く異なるが親友同士のローレン(ビビ・ニューワース:左)とブロンティ(アンディ・マクダウェル)
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 詳しいストーリーはこの画面下のSTORYをご覧いただくとして、ジョージは豪快な美食家という典型的なフランス人、一方のブロンティはこちらも大都会NYにいそうな健康志向のアメリカ人という対照的なキャラクター設定で、ブロンティは最初、自分のマンションで一緒に暮らさなければいけなくなったジョージのやることなすことすべてが気に入らない。ジョージが作曲家だというのもどうせ見え透いた嘘だろうと思っていたが、実は本当にピアノを弾けるだけでなく美しい旋律を奏でる姿を見て以来、徐々に彼に対する考えが変わっていく。粗野な見た目とは裏腹に、とても繊細な心を持つ男性なのではないかと。

 それはジョージも同じで、フランス人には問題外のまずい偽物のコーヒー(デカフェ)を飲み、こちらも自分にとっては鳥の餌(ミューズリー)が好物の、カリカリしてばかりで人生を楽しんでいなさそうなブロンティに女性としての魅力を感じていなかったが、いつもアップにしている髪を下ろすとカールした栗色の髪が彼女の美貌を引き立て、性格も情緒豊かで魅力的な女性だと気づいていく。

左からアンディ・マクダウェル、ジェラール・ドパルデュー、ビビ・ニューワース
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 2人のほかにはブロンティの親友ローレン役に、日本ではあまり馴染みがないがエミー賞とトニー賞受賞歴を誇る、舞台でも活躍するビビ・ニューワースが扮しており、ニューワースは出ずっぱりというわけでもないのに非常に強い印象を残す。ローレンはいつの時代にもいそうな少々カッとんだ雰囲気の若い独身女性といった役どころだが、NYで生まれ育った生粋のニュー・ヨーカーだというのは関係ないとしても、ブロンティのマンションでジョージ手作りのフランス料理のランチをご馳走してもらったお礼にと2人を招待してのローレンの実家のディナー・パーティのシーンでは、実はド級のお嬢様だったことが分かるのも愉快である。ジョージとブロンティの対比同様、快活で大らかな性格のローレンと、時にやや神経質とも受け取れる物静かなブロンティは対照的で、この2人が親友同士という設定は少々意外ではあるが、ブロンティの両親が週末、突然予告なしにNYのブロンティのマンションを訪れるシーンがあるということはブロンティ自身もNY郊外などに実家があり、ブロンティがローレンに「あなたは私の学生時代からの一番旧い友達」と言うセリフがあるように、ともにNYの名門お嬢様学校で学び、お互い正反対の性格だが仲良くなった学友同士だったと考えれば納得がいく。事実、ローレンがブロンティに電話をかけ実家のディナー・パーティに招待するシーンで、ローレンは「母があなたのことを誘うようにですって」と伝えていて、ブロンティはローレンの両親とも面識がある。

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 NYを舞台にしたロマンティック・コメディとしては、本作の前年にメグ・ライアン主演の「恋人たちの予感(When Harry Met Sally…)」(89)が大ヒットしており、小粋な小作品という点でも両者は共通する部分がある。どちらもウィットに富んだセリフのかけ合い、何気ないNYの街並みや、女性キャラクターたちのファッションなども見どころである。ジョージもブロンティもいわゆるごく普通の“一般人”だが、前述の通りローレンの実家はNYにありながら広い庭付きの一軒家、それも大邸宅で、NYの上流社会の縮図ともいえるようなディナー・パーティのシーンは本作を引き締める効果的なコントラストの役割を果たしている。

 また、本作の場合特に、バックに流れるアイルランド人ミュージシャン、エンヤの楽曲の数々が素晴らしい効果を醸し出している。おそらくアンディ・マクダウェルという女優と、彼女が演じたブロンティという役柄の両方が放つ独特の雰囲気に、当時一世を風靡したエンヤの音楽が最高にマッチしたのだろう。

 大きなクライマックスがあるわけではないが、ジョージとブロンティの関係はどう動いていくのか、エンヤの音楽のように静かに、だが着実に観る者の心をつかんで離さなくするウィアー監督の見事な手法は本作でもいかんなく発揮される。また、今のところ実はこれがウィアー監督が手がけた唯一の恋愛映画という点でも非常に貴重な作品でもあり、ラブコメ好きは必ず観ておきたい名作と言っても過言ではないだろう。

STORY
 環境保護活動に熱心な園芸家のブロンティ(アンディ・マクダウェル)は、NYの街中のマンションの最上階にある一室で、その部屋の入居者専用の屋外テラスに天窓付きの温室を持つことから“グリーン・ハウス”と呼ばれる部屋への入居を夢見ているが、賃貸契約を結ぶに当たっての条件が“落ち着いた既婚者のみ”とあるため、“グリーン・カード(アメリカの永住権)”を欲しがっているフランス人ジョージ(ジェラール・ドパルデュー)を共通の友人に紹介され、初めて会ったその日に紹介の挨拶もそこそこに二人は婚姻登記所へ行き偽装結婚する。晴れてグリーン・ハウスの住人となったブロンティだが、ある日突然移民局から連絡を受ける。理由はグリーン・カード取得を目的とした偽装結婚を取り締まるために、ブロンティとジョージの結婚が偽装でないかどうかを確かめたいというものだった。形だけの結婚式の日にほんの短い時間、最初で最後に会っただけでお互いもう二度と会うこともないと思っていた二人は、こうして移民局との個別面接の日までブロンティのマンションで“お互いを知るための共同生活”を始めることになったが…。

「グリーン・カード」予告編

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