大御所と若手俳優陣が好演する心温まる秀作ドラマ「マイ・マザー・フランク」

posterマイ・マザー・フランク

My Mother Frank

(オーストラリア2000年公開、日本未公開/95分/M/コメディ・ドラマ)

監督:マーク・ランプレル
出演:シニード・キューザック/マシュー・ニュートン/サム・ニール/ローズ・バーン

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 アイルランド出身の大女優シニード・キューザックが主演女優として海外から招かれ、“僕の母フランク”という意味の映画のタイトル・ロール、フランク役を演じた作品。フランクの息子で“僕”に当たる本作のもう一人の主人公デイヴィッドにオーストラリアで国民的人気と知名度を誇るTVプレゼンター、バート・ニュートンの実子マシュー・ニュートン(「アリブランディを探して」)、さらに大御所サム・ニール(「ハウス・オブ・ボンド」「リトル・フィッシュ」「デッド・カーム/戦慄の航海」「わが青春の輝き」)や、その後ハリウッドに進出したデビュー当時のローズ・バーン(「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」)などを主要キャラクターに配し、同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では脚本賞と助演男優賞(サム・ニール)候補となり、オーストラリアの3大映画祭であるシドニー映画祭、メルボルン映画祭、ブリスベン映画祭をはじめベルリン映画祭など国内外の映画祭にも出品された。

仲良しの大学生同士のデイヴィッド(マシュー・ニュートン)とジェニー(ローズ・バーン)
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 長女は結婚によって家を出て2児の母となり、長男も大学生となりやっと子育てから解放されたと思った矢先、最愛の夫に先立たれた“専業主婦”に今さら何ができるのかというテーマを主軸に、親子の絆と愛情、友情、そして若者たちの恋愛を描いた非常に心温まるドラマ映画だ。マーク・ランプレル監督自らが手がけ前述の通り豪アカデミー脚本賞候補となった脚本の良さに加え、登場人物全員が魅力的であること、さらにそれぞれの登場人物にバッチリの俳優を起用したキャスティングが本作を生き生きと輝かせている。

 シニード・キューザック(ファースト・ネイムの正確な発音はシネード)は日本ではよほどの映画通が、それも“ジェレミー・アイアンズの妻”として認識している程度だが、本国アイルランド及び英国における女優としての評価は高く、本作でも完璧なまでの説得力を持ってフランク役を演じている。

 フランクの息子デイヴィッド役のマシュー・ニュートンも著名人である父バート・ニュートンの七光りに頼らず頭文字を取ってナイダ(NIDA)と呼ばれるオーストラリアの名門・国立演劇大学卒の実力派だし、デイヴィッドの大学の同級生でデイヴィッドが片想いしているジェニー役ローズ・バーンも本作公開時はまだ新人だったが本作と同じ年に公開された別のオージー映画「ザ・ゴデス・オブ1967」で21歳の若さにしてヴェネツィア国際映画祭主演女優賞に輝いている。フランクとデイヴィッドを取り巻くそのほかのさまざまな登場人物も、例えばサム・ニール演じる、学生に厳しく冷たいモートロック教授役に至るまで魅力的というのは特筆に値する。なお、ニュートンは本作の後も順調に活躍していたが、付き合っていた女優たちに対するDVを筆頭にたびたび暴力事件を起こしたことから業界人から敬遠され、俳優としての今後は前途多難であるのが残念。

 ほかの登場人物も全員が魅力的であることについて、デイヴィッドの親友でジェニーのボーイフレンドのミック、フランクとデイヴィッドの大学の学友ペギー、フランクの娘でデイヴィッドの姉マーガレット、フランクの親友ジーン、フランクが毎週ミサに通う教会の修道女でフランクとも親しいシスター・セバスチャンとシスター・バーナデッドと、前述の主要キャラ4人(フランク、デイヴィッド、モートロック教授、ジェニー)を含むと合計10人が、いずれも1シーンだけでなくいくつものシーンで登場し、それぞれに印象的である。さらに、その10人の中には含まれないチョイ役であるが、大学のレセプショニスト役に「ティム」(79)でメル・ギブソンと、「人生は上々だ!」(94)でラッセル・クロウとの共演歴を持つデボラ・ケネディも出演。

 大学のキャンパス・シーンはシドニー大学、フランクとデイヴィッド親子が暮らす家はかつてドイツ総領事公邸だったエリザベス・ベイにある大邸宅で、と全編シドニーで撮影され、フランクの亡くなった夫がおそらく裕福だったという設定(フランクが乗っている車がベンツであることからも想像できる)は本作のストーリーとは特に関係はないが、学生役の若者も大勢登場し、ともすれば軽くなりがちな現代を舞台にした映画に一種の気品を添えている。やはりフランクが長女と出席する婦人会の野外ランチ・パーティのシーンでは集まった女性たちが全員、日中用の華やかな白のパーティ・ドレスを着ていたりと、若者が主体のキャンパス・シーンとの視覚的コントラストも見事。ちなみに本作の衣装部門にはジャパラリア誌上グルメ・コラム「オージー・レシピ」でお馴染みのネヴィちゃんことネヴィル・カー(2018年版「ハーモニー」「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」)もコスチューム・スタンドバイとして参加している。

 映画のラストに流れるのはシンディ・ローパーの大ヒット曲「トゥルー・カラーズ」をオージー大御所男性ミュージシャン、ジョン・スティーヴンスが歌ったカヴァー・ヴァージョンで、スティーヴンスの味のあるハスキー・ヴォイスがオリジナルに負けず劣らず胸に響き、非常に印象的。笑いと涙を、どちらも過剰になりすぎない程度に絶妙のバランスで盛り込んだ秀作で、ラスト・シーンの後に続くその後の物語を思うと必ずしもハッピー・エンディングではないかもしれないが、人生に行き詰った時、人それぞれ状況は異なれど、本作は生きる勇気を、生きることの素晴らしさを教えてくれる。

【世界中で大ヒットしたオージー・バンドの曲】ファッション・ショウのシーンでバックに流れる歌は1960年代に人気を博したオージー・バンド、ザ・シーカーズの1966年のシングル「ジョージー・ガール」で、同年公開の同名イギリス映画の主題歌にもなり全豪No.1、全英3位、全米ビルボード・チャートでも2位を記録するなど世界規模で大ヒット、現在でもオージーならザ・シーカーズのファンでなくても知っている人がほとんど。

【シーンに見る知っておきたい缶詰の事実】本作で何度か出てくるのが、フランクが捨てずに家のパントリーに置いたままでいた賞味期限切れの缶詰食品がパントリーの中で自然に破裂するシーン。賞味期限が切れた缶詰を置いておくと起こり得るので皆さんもご注意を!

【シニード・キューザックの印象】記者はシドニーのパブで開催された本作のクランクアップ・パーティに参加する機会に恵まれ、そこでアイルランドに帰国する直前のフランク役の主演女優シニード・キューザックと挨拶程度ではあったが短い会話を交わすことができ、とてもフレンドリーな女性だったことを覚えている。パーティが盛り上がってきたころ、自身もほどよくお酒が回っていたであろうキューザックが突然バー・スツールの上に立って、その場にいた本作関係者への感謝のスピーチを始めた。シドニーのパブのバー・スツールは通常の椅子とは違って背が高く安定感も悪いため、周囲にいた何人かがキューザックが転ばないよう彼女の脚を持って支えていた。酒豪が多いアイルランド出身ならではの飾らない性格の女優なんだと改めて分かり、キューザックに対してさらに親近感を感じたものだ。

Story

 フランシス・レジーナ・アイリーン・ナノー・ケネディ(シニード・キューザック)は、その異常に長ったらしいフル・ネイムの頭文字を取って“フランク(FRANK)”と呼ばれている。長女は結婚し、長男デイヴィッド(マシュー・ニュートン)も大学生になった途端に夫に先立たれ、半ば人生の目的を失い無為の日々。そんな母を見かねてデイヴィッドは何か習い事でもするようにとすすめるが、何を思ったかフランクはデイヴィッドと同じ大学に入学し、詩を専攻する。だがモートロック教授(サム・ニール)は主婦の気まぐれ受講と決めつけフランクに冷たい。デイヴィッドはどちらも同じ大学に通う親友ミック(ニコラス・ビショップ)とその彼女ジェニー(ローズ・バーン)と仲がいいが、実は密かにジェニーに片思い。“大学生”となり生き生きとした毎日を送るようになったフランクだが、ある日、自宅のキッチンで足を滑らせて頭を強打、その場に倒れ落ち…。

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