ラッセル・クロウとナオミ・ワッツ若かりし日の名作TVミニ・シリーズ 「ブライズ・オブ・クライスト」

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※2023年5月25日更新

ブライズ・オブ・クライスト
(TVミニ・シリーズ)

Brides of Christ

(オーストラリア1991年TV放映、日本未公開/1話60分・全6話/M15+/ドラマ/DVDオーストラリアの有料動画配信スタン<Stan>で観賞可能なほかABCの公式配信サイトABCアイヴューで無料配信、全話無料観賞可能!→ iview.abc.net.au/show/brides-of-christ

監督:ケン・キャメロン
出演:ブレンダ・フリッカー/サンディ・ゴア/ジョセフィン・バーンズ/ナオミ・ワッツ/ラッセル・クロウ

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 劇場映画ではなくTVの、それもTV映画でもなく連続ドラマなのに、折に触れて記者が何度も何度も繰り返し観る作品がある。オスカー男優ラッセル・クロウ(「人生は上々だ!」「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」)と同候補女優ナオミ・ワッツ(「ペンギンが教えてくれたこと」「美しい絵の崩壊」「ケリー・ザ・ギャング」「ストレンジ・プラネット」)という二大豪華キャストを配した、でも2人ともまだ海外では全く無名だった1991年放映の1話1時間、全6話のTVミニ・シリーズ「ブライズ・オブ・クライスト」だ。英豪そしてアイルランド3カ国出資の下、メイン・キャストの一人にダニエル・デイ・ルイスが米アカデミー主演男優賞を受賞した「マイ・レフト・フット」(89)で主人公の母親役を演じこちらもオスカー助演女優賞に輝いたブレンダ・フリッカーをアイルランドから招き、全豪TVドラマ界のヴェテラン、ケン・キャメロン(「ワイルド・ボーイズ」「シークレット・メンズ・ビジネス」)が監督、民放ではなくオーストラリアの国営TV局ABC製作・放映とあって、格調高い劇場映画に匹敵する完成度のTVドラマに仕上がっている。アメリカのグラミー賞に相当するオーストラリアの権威ある音楽賞として知られる同年度アリア賞最優秀サウンドトラック賞を受賞した美しい旋律の音楽も印象的。

後に固い友情で結ばれるようになるクラスメイトの3人(3人ともフィーチャーされ、中央のナオミ・ワッツは第2話、右端のキム・ウィルソンは第4話のヒロイン役でもあり、左端のメリッサ・トーマスも第6話の準主役としてそれぞれの苦悩が描かれる)
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 物語はオーストラリアの通貨がまだドルではなくポンドだった1960年代、シドニーのとあるカソリック系女子高を舞台に繰り広げられる。寄宿舎もあるが全寮制ではなく自宅から通学している生徒もいる。この設定と“キリストの花嫁たち”という意味のタイトルからも分かるように、主要キャラクターは女性で占められる。いずれも1エピソードだけにゲスト出演するラッセル・クロウなど何人かの男優を除き、教師であるシスター(修道女)役と生徒役のほぼすべての女優陣が全編に登場するが(生徒役は第1話を除く全話に登場)、基本的に1話完結で、どのエピソードから観ても(例えばラッセル・クロウのファンなら彼が出演する第4話だけ観ても)楽しめるようになっている。

寄宿生ローズマリー(キム・ウィルソン)はクラスメイトの兄ドミニク(ラッセル・クロウ)に思いを寄せ…(第4話)
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 特筆事項は主人公が巧みに1話ずつ教師(シスター)、生徒の順に交互に変わり、その都度それぞれの立場での苦悩を描いている点だ。それもよくある陳腐な青春ドラマまたはシスターたちの教師奮闘記ドラマに終わらず各エピソードが非常に深いテーマを持ち、だからといって重いだけのドラマでもなく、心を動かすストーリー展開で観る者をグイグイと引っ張る魅力に溢れている。何が正しいのか間違っているのかの判断を観る者それぞれに委ね考えさせるという点でも見事な脚本だ。

第1話と第6話でヒロインを演じるジョセフィン・バーンズ(左)と、同・第5話のリサ・ヘンズリーは同期の若いシスター役として全話に登場
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 脚本の良さに加え、若手・大御所いずれの女優陣も抜群の演技力なのも本作の魅力だ。教師ではユーモアのセンスもある優しく寛大なマザー(修道院長/校長)役のヴェテラン女優で実生活では「マッドマックス」シリーズのジョージ・ミラー監督の元妻だったサンディ・ゴア(「オーストラリア」「クライ・イン・ザ・ダーク」)を筆頭に、ともに若いシスター役のジョセフィン・バーンズとリサ・ヘンズリー(「ペンギンが教えてくれたこと」「パーム・ビーチ」「月に願いを」)が全話に登場、ゴアとヘンズリーはそれぞれ1エピソードで、バーンズは2エピソードで主人公としてフィーチャーされる。対する生徒ではナオミ・ワッツとキム・ウィルソンがこちらも1エピソードずつでヒロインを演じるほか、早熟な寄宿生バーナデッド役のピッパ・グランディソン(「月に願いを」「ミュリエルの結婚」)などがいずれもフレッシュな魅力を振りまく。また、現状に苦悩するヒロインたちの中で、頑なに古色蒼然とした教会の教えに固執して変化を拒む、ブレンダ・フリッカー演じる厳格なシスター・アグネスの存在が全話のスパイスとなっている点も見逃せない。シスター・アグネスも全話に登場するとはいえあくまでも脇役ながら、アイルランドから招かれて撮影参加のオスカー女優ということで、本作ではブレンダ・フリッカーが堂々のトップ・ビリング(オープニング・クレジットで一番最初に名前がクレジットされること)を飾る。ポンドからドルへと通貨が変わり、ヴェトナム戦争が激化していく時代背景も、変化を求められるカソリック教会を描くドラマを盛り上げる役割を果たしている。

 ほかにも第2話でナオミ・ワッツの母親役として1話だけ登場するアン・テニー(「ザ・キャッスル」「デッド・ハート」)が、娘の揺れる胸中を思いながらも毅然とした態度で離婚・再婚に踏み切る女性を演じ、とても印象的。また、前述の4人のシスターほどの出番も見せ場もないが、若いシスターたちが陰で口うるさいシスター・アグネスの悪口を言っていることも承知の上で寛容な優しいシスター・アトラクタ役にこちらもヴェテラン・オージー女優のメリッサ・ジャファー(「恋に走って」)が扮しており、ジャファーは別のオージー映画「マイ・マザー・フランク」(00)でもシスター役、だがそちらは全く異なるキャラクター設定なのも興味深い。

 一方の男優陣ではラッセル・クロウがもちろん文句なしの存在感を示しているほか、クロウと同じ第4話のみにクロウと同じくキム・ウィルソン演じる寄宿生ローズマリーと絡むグラント(ローズマリーの家に夕食に招待される大学生)役で登場するデイモン・ヘリマン(「キャンディ」)は、話題のタランティーノ監督作品「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19)で実在の殺人犯チャールズ・マンソン役を演じた(ちなみにヘリマンは同じく19年に配信公開された全米の連ドラ「マインドハンター」でもチャールズ・マンソン役で起用されているから、よほどマンソンの雰囲気に近いのだろうか)。

第3話で主人公としてフィーチャーされるマザー・アンブローズ役のサンディ・ゴア(左)と脇役ながら本作に欠かせないキャラクター、シスター・アグネス役のブレンダ・フリッカー
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 海外のカソリック系寄宿女学院というと、日本人である私たちには“名門お嬢様校”というイメージがあるがオーストラリアでは必ずしもそうではなく、本作に出てくる女生徒たちの実家はいわゆるごく普通の中流家庭ばかり。つまり、「ピクニックatハンギングロック」(75)のような耽美的な描写は一切ないのに、それでもやはり校内にチャペルもある石造りの重厚な女子高が舞台で、修道服をまとったシスターがいて、ミサには身分ある男性聖職者が来て、賛美歌にチャペルの鐘の音が優しく流れ…という設定は動かしがたい威厳を放ち、本作を格調高いドラマへと導いている。何度繰り返し観ても飽きない記者強力おすすめの名作なので、皆さんもぜひDVDなどで観賞を!

【余談】記者はラッセル・クロウと“会った”ことはないが、シドニーの街中で2度“遭遇”したことはあり、一枚だけ、ぼんやりとしか写っていないが記者自身がその際に撮影した証拠写真もありのラッセル・クロウ目撃談を紹介したジャパラリア公式YouTubeチャンネルのその投稿動画はこちら

【セリフにおける英語のヒント(その1)第4話でドミニク(ラッセル・クロウ)がローズマリー(キム・ウィルソン)と話していて「俺はブリズィーより先まで行ったことがないんだ(I’ve never been past Brissie)」と言う“ブリズィー”は、クイーンズランド州の州都ブリスベンを短縮したオージー・イングリッシュ。

【セリフにおける英語のヒント(その2)第4話で会話中に出てくる“ユニ(Uni)”という言葉は“大学(University)”を短縮したオージー・イングリッシュ。

【セリフにおける英語のヒント(その3)第5話でローズマリー(キム・ウィルソン)が赤ん坊に「ほらミック、見てごらん。チョッキーだよ!(Hey, Mick, Look. Chockie!)」と言う“チョッキー”はチョコレートのオージー・イングリッシュ。

【セリフにおける英語のヒント(その4)第6話で性教育の授業中、カソリックの教えでは人工的な何かを使って避妊することは許されないという話題の際、生徒のひとりが「I wondered if getting off at Redfern was a natural method?」と言う。直訳すると「レッドファーンで下車することは自然な方法なんでしょうか?」となる。シドニー西部から電車に乗って“シティ”と呼ばれるシドニー中心街に向かう際、シティ最初のセントラル駅の1駅手前がレッドファーン駅である。つまり、“get off at Redfern”とは性行為に際して男性が絶頂を迎える直前に女性器から自分の男性器を引き抜くという意味のオージー・スラングで、シドニーに行ったことがない(セントラル駅とレッドファーン駅の位置関係を知らない)オージーたちの間でも一般的。

【シーンに見るオージー・ライフスタイル(その1)第4話でローズマリー(キム・ウィルソン)が週末、自宅に戻った際に家で家族と囲む夕飯はチキン・シュニッツェルで、付け合わせはマッシュポテトとゆでたニンジンにグリーンピース、そしてトーストしてもいない普通の食パンが皿に積まれた状態で出されている。この夜は客人を招いてのディナーでもあり現代日本人にとってこのメニューはご馳走には見えないが、当時の一般的なオージーたちの食生活はこの描写の通りごく質素だった。

【シーンに見るオージー・ライフスタイル(その2)第4話でローズマリー(キム・ウィルソン)が同室の寄宿生のLPレコードのジャケットにいたずら書きしてジャケットをビリビリに引き裂くシーンで使われるレコードは、本作の設定と同じ1960年代に爆発的な人気を博したオージー・ミュージシャン、ノーミー・ロウ(Normie Rowe)の1965年のアルバム「A Go-Go」である。一方、第5話で修道院を出て本名のヴェロニカとして新たな生活を始めたシスター・ポール(リサ・ヘンズリー)がボーイフレンドと招かれたディナーの帰りに上機嫌で口ずさむのは、こちらも1960年代に人気を博したオージー・バンド、ザ・シーカーズの1966年のシングル「ジョージー・ガール」で、同年公開の同名イギリス映画の主題歌にもなり全豪No.1、全英3位、全米ビルボード・チャートでも2位を記録するなど世界規模で大ヒット、現在でもオージーならザ・シーカーズのファンでなくても知っている人がほとんど。

【シーンに見るオージー・ライフスタイル(その3)第5話でシスター・ポール(リサ・ヘンズリー)が帰省する長距離列車の中で自分の膝に置いているお菓子の箱は、ティム・タムなどで知られるオーストラリア最大手のビスケット製造会社アーノッツのもの。

STORY
 1960年代シドニー。自分でも説明できない神学への興味から、大学卒業と同時に約束されていた結婚生活へ踏み切ることを潔しとせずに、婚約を破棄してカソリック系女子高の門を叩き修道女兼教師として生きる道を選ぶダイアン(ジョセフィン・バーンズ:第1話)。カソリック教会では許されざる離婚・再婚に踏み切ろうとしている母を持ち思い悩む寄宿生フランセス(ナオミ・ワッツ:第2話)。シスターたちの頂点に立つマザー(修道院長/校長)としての威厳を保ちながらも人間的な弱さを持つ自分に気づき、崩れ落ちそうになるマザー・アンブローズ(サンディ・ゴア:第3話)。クラスメイトの兄ドミニク(ラッセル・クロウ)に思いを寄せ、性の目覚めの中でどんどん自分を見失っていく寄宿生ローズマリー(キム・ウィルソン:第4話)。キリストに生涯を捧げる修道女の身でありながら一人の男性に恋をしてしまったシスター・ポール(リサ・ヘンズリー:第5話)。着実に変わりつつある時代の流れの中で、なおも断固として避妊・中絶を認めないカソリック教会の存在そのものに大きな疑問を抱くシスター・キャサリン(第1話のダイアンと同じジョセフィン・バーンズ:第6話)。

※TVミニシリーズブライズオブクライストはDVDオーストラリアの有料動画配信スタン<Stan>で観賞可能なほかABCの公式配信サイトABCアイヴューで無料配信全話無料観賞可能!→ iview.abc.net.au/show/brides-of-christ

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