“シドニー版ゴッドファーザー”はビール片手にショーツ姿?「トゥー・ハンズ 銃弾のY字路」

poster「トゥー・ハンズ 銃弾のY字路」
Two Hands

(オーストラリア1999年公開、日本2003年VHSソフト化/103分/MA15+/コメディ・サスペンス)

監督:グレゴール・ジョーダン
出演:ヒース・レジャー/ブライアン・ブラウン/ローズ・バーン/スージー・ポーター/スティーヴ・ル・マーカンド

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 2008年に28歳という若さにして急死したヒース・レジャー(「ケリー・ザ・ギャング」)がまだ無名だった二十歳の時に主演したコメディ・サスペンス。共演に日本でもヒットしたハリウッド映画「F/X 引き裂かれたトリック」(86)などの大御所オージー男優ブライアン・ブラウン(「オーストラリア」)、そしてレジャーの相手役にこちらも本作公開時はレジャー同様、無名だったローズ・バーンが扮している。監督は本作の4年後、再度レジャーを主人公に起用した「ケリー・ザ・ギャング」(03)のグレゴール・ジョーダンで、本作が劇場映画監督デビュー作となった。「ケリー・ザ・ギャング」公開時点ではレジャーがハリウッド・スターの仲間入りを果たしていたためか、本作もオーストラリアに遅れること4年後の03年に日本でVHSソフト化されたが、03年というと既に日本ではDVDが普及していたのでなぜVHSのみのリリースだったのかは不明。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)主要11部門にノミネイトされ見事、作品、監督、脚本、助演男優(ブラウン)、編集賞の5部門受賞に輝いた。残念ながら受賞を逸したのはレジャーの主演男優、映画の中でレジャーの義姉を演じたスージー・ポーターの助演女優、撮影、音楽、衣装デザイン、音響賞だが、レジャーは二十歳にして権威ある同賞初候補となりオーストラリア国内では早くからその才能を認められていたことになる。

ともにまだ無名だったヒース・レジャーとローズ・バーンがフレッシュな魅力を振りまく
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 同い年のレジャーとバーンのその後の出世ぶりについて触れておこう。レジャーは本作と同じ99年公開の「恋のからさわぎ(10 Thing I Hate About You)」でハリウッド・デビュー、世界中で絶賛された「ブロークバック・マウンテン」(05)、米豪両国のアカデミー賞を死後受賞した「ダーク・ナイト(The Dark Knight)」(08)と20代にして演技派としての地位を築き上げていたが、ハリウッド・スターになって以降も前述の「ケリー・ザ・ギャング」だけでなく律儀にオーストラリア映画にも出演していたし、その突然の死は本当に残念である。

ジミー(ヒース・レジャー)はギャング団のボス、パンドー(ブライアン・ブラウン)に現金の運び屋の仕事を持ちかけられ…
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 対するバーンも本作の翌年、日本のRIKIYA(黒川力也)と共演した別のオージー映画「The Goddess of 1967」(00)で盲目のヒロインを演じてヴェネツィア国際映画祭主演女優賞を受賞したことから世界中の注目を集め一気にハリウッドに進出、「X-MEN」シリーズや「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(11)など、シリアスな役もコメディもこなせる女優として大活躍。

田舎からシドニーに遊びに来ていたアレックス(ローズ・バーン)はジミー(ヒース・レジャー)と出会い、二人は引かれ合っていく
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 南半球最大の繁華街キングス・クロスを取り仕切るギャング団と、ひょんなことから彼らに命を狙われる青年ジミー(レジャー)というのが主軸のストーリーなのだが、半分以上はコメディだ。登場人物のうち7人が殺されるものの、殺しのシーン自体は目を覆いたくなるような描き方ではない。そもそもブライアン・ブラウンがギャングのボス、パンドーを演じていて、確かに存在感はあるのだが、オーストラリアの大衆ブランドのビールVB(ヴィクトリア・ビター)片手にショーツ姿で登場し、家では幼い息子にベタベタで一緒に折り紙を折ってあげるほのぼのパパでもあるから、これが“シドニー版ゴッドファーザー”かと思うと拍子抜けする(ちなみにジミーが一人暮らしの部屋で大切にしている戦闘機の模型もVBの缶でできている)。また、ジミーが命を狙われるのも、パンドーから現金の運び屋として託された1万ドルを紛失してしまったからで、1万ドルも大金には違いないが通常、米国のマフィアものだと数百万ドル単位が絡むというのが普通だったりするので、なくした1万ドルをパンドーに返すために銀行強盗までしてしまうという展開も十分コメディ。要するにやや間の抜けた設定が笑いのツボで、レジャーとバーンのフレッシュな魅力とブラウンの安定した演技力によりコメディながら質の高い作品に仕上がっている。

ジミー(ヒース・レジャー:右)の兄でギャング団に殺された男(スティーヴン・ヴィドラー)が弟ジミーの守護霊として何度かおどろおどろしく登場
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ジミーの義姉役で豪アカデミー助演女優賞候補となったスージー・ポーター
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 主要キャラ3人を演じるレジャー、バーン、ブラウンの演技力は申し分なく、そのほかにもジミーの兄で前述のギャング団に殺された男を演じるスティーヴン・ヴィドラーがジミーの守護霊として何度か登場し、コメディ色が強い本作の中でヴィドラーの登場シーンだけは毎回正統派のホラーを踏襲したおどろおどろしい演出で、ストーリーにメリハリを与えている。また、本作で豪アカデミー助演女優賞候補となったスージー・ポーター(「パルス」「リトル・フィッシュ」)は、ジミーの義姉、つまりジミーの殺された兄の妻ディアドレ役で登場、血が繋がってはいないものの義理の弟ジミーのことを大事に思っているディアドレを自然な演技で好演。そしてジミーと一緒に銀行強盗を実行する一味の一人に扮したスティーヴ・ル・マーカンド(「ア・フュー・ベスト・メン」)のおとぼけぶりも笑える。

見た目はいかにも悪そうだがおとぼけぶりに笑えるスティーヴ・ル・マーカンド
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 全編シドニーで撮影され、キングス・クロス、ボンダイ・ビーチ、チャイナタウン、そして今はなきモノレイルといったシドニーの有名スポットが随所に登場するほか、パウダーフィンガーやクラウデッド・ハウスなど人気のオージー・ロック・バンド、同ミュージシャンの曲多数が使用されている点にも注目。

【セリフにおける英語のヒント(その1)キングス・クロスやボンダイ以外にも映画の中に出てくる地名であるボタニー、ウロンゴンや、アレックス(ローズ・バーン)の出身地である田舎町マジー、さらにはジミー(ヒース・レジャー)とアレックスが電話で会う場所を決める際、「チャイナタウンのゴールバーン・ストリート沿いにあるスター・ホテル」と話すパブに至るまで実在(スター・ホテルは2019年現在も健在)。また、ジミーたちが銀行強盗するコモンウェルス銀行はこちらも実在のオーストラリア大手銀行のひとつで、コメディとはいえ銀行強盗されるという設定にコモンウェルス関係者はイメージダウンを恐れなかったのだろうか? ちなみにキングス・クロスが“南半球最大の繁華街”と例えられたのはこの映画が公開された90年代ごろまでで、現在でも飲み屋街であることに変わりはなく風俗店もまだ何軒か残っているがかつての勢いはない。

【セリフにおける英語のヒント(その2)深夜ジミー(ヒース・レジャー)がギャング団に連れ去られる際、その場で泣きじゃくっているアレックス(ローズ・バーン)のもとにパンドー(ブライアン・ブラウン)が歩み寄り、家までのタクシー代として20ドル紙幣を渡すシーンがある。本作公開時、タクシーに乗って20ドルで行ける距離はそれなりになくはなかったが、パンドーはアレックスがどこに住んでいるか知らなかったはずだし、そもそもギャング団のボスなら普通は100ドル札を出すだろうという、ここもジョークのひとつ。

Story

 シドニーの繁華街キングス・クロスにあるストリップ小屋の呼び込みのバイトをしている青年ビリー(ヒース・レジャー)は、仲間の妹で田舎からシドニーに遊びに来たアレックス(ローズ・バーン)と出会い、二人は引かれ合っていく。ある日ビリーは夜のキングス・クロスを取り仕切るギャング団のボス、パンドー(ブライアン・ブラウン)から現金1万ドルの運び屋の仕事を持ちかけられて引き受けるが、途中でその金を盗まれてしまい…。

「トゥー・ハンズ 銃弾のY字路」予告編

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