イギリス人青年とオージーお嬢様のハプニング満載ウエディング(映画「ア・フュー・ベスト・メン」)

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※2023年3月28日更新

ア・フュー・ベスト・メン

A Few Best Men

(米ミル・ヴァレー映画祭で2011年にプレミア上映の後、オーストラリア2012年公開、日本未公開/97分/MA15+/コメディ)

監督:ステファン・エリオット
出演:ゼイヴィア・サミュエル/ローラ・ブレント/オリヴィア・ニュートン・ジョン/レベル・ウィルソン/クリス・マーシャル

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 日米を含む世界中でスマッシュ・ヒットを記録したオージー映画「プリシラ」(94)のスフテファン・エリオット監督によるオーストラリアとイギリス合作のコメディ映画で、米ミル・ヴァレー映画祭、伊ローマ映画祭、仏ラルプ・デュエズ国際コメディ映画祭に出品された。「プリシラ」でオーストラリアとアメリカ両国のアカデミー衣装デザイン賞を受賞したリジー・ガーディナーが衣装デザイナーを務め、撮影は前半のそれも最初の部分だけがロンドン、そして物語の大部分を占めるウエディングのシーンはシドニー近郊の観光名所として世界的に名高いブルー・マウンテンズで行われ、ウエディング会場(新婦ミアの実家)として登場する広大な庭を擁する大邸宅イェスター・グレインジは実際に一般のウエディングで使用されている同名実在の建物。

 イギリス人青年という設定の主人公デイヴィッドに「エクリプス/トワイライト・サーガ(The Twilight Saga: Eclipse)」(10)のオージー男優ゼイヴィア・サミュエル(「エルヴィス」「美しい絵の崩壊」)が扮し、デイヴィッドが旅先で出会ったオージー女性ミアと結婚するために、彼の20年来の男友達で結婚式のベスト・マンを務める3人とともにロンドンからシドニーへ飛び、現地で繰り広げられるドタバタ劇を描く。3人の親友役に英国からクリス・マーシャル(「ラブ・アクチュアリー」)と本国では自身の名を冠した人気TVコメディ番組も持っていたケヴィン・ビショップの2人を招き、残りの一人はオージー男優・歌手のティム・ドラクスルが演じた。デイヴィッドの結婚相手ミア役に「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島(The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader)」(10)のローラ・ブレント(「ワイルド・ボーイズ」)、ミアの姉妹役に本作と同じ11年に公開されたハリウッド映画「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」が出世作となり今やハリウッドで引っ張りだこのオージー・コメディ女優レベル・ウィルソン、そして、ミアの父ジムの秘書モーリーン役に本作がデビュー作となったエリザベス・デビッキ(「ブレス あの波の向こうへ」「華麗なるギャツビー」)という豪華キャストが顔をそろえた。

新郎デイヴィッド役のゼイヴィア・サミュエル(右端)とベスト・マン役の3人(左からティム・ドラクスル、ケヴィン・ビショップ、クリス・マーシャル)
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 だがなんといっても本作の最大の話題はオリヴィア・ニュートン・ジョンがミアの母親役で出演しているだけでなく、リリースされた本作のサウンドトラック・アルバムでも10曲以上を歌っていることだろう。実際に映画の中で使われたニュートン・ジョンの曲はほんの1〜2曲だから明らかにニュートン・ジョンのファンをターゲットにしたサントラ盤で、90年代以降の彼女の楽曲には珍しい最新ダンス・アレンジの曲が多数収録された。残念なことに映画もサントラもさしたるヒットにはならず、同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞では作曲賞にノミネイトされたのみに留まったが、6年後の17年には本作の続編「ア・フュー・レス・メン」も製作公開され、サミュエル、マーシャル、ビショップが同じ役柄で主要キャラとして出演しているから、コアなファンにはそれなりに支持されたということなのだろう。ちなみにウエディング・シーンの新婦入場の際にレベル・ウィルソンがヴァイオリンを演奏する隣でハープを弾くのは、本作の音楽を手がけ豪アカデミー作曲賞にノミネイトされたガイ・グロス本人で、グロスは本作のステファン・エリオット監督作品の「プリシラ」でも音楽を担当。またエリオット監督自身も、新郎デイヴィッドとベスト・マン2人の3人がバスルームに閉じこもって羊と格闘中のシーンでバスルームに入ってこようとしたウエディングの招待客で、中からあわてて閉められたドアに挟まれたネクタイをドアの内側からトム(クリス・マーシャル)にハサミで切られてしまう男性役で登場。エリオット監督は自身の監督作品「プリシラ」と、別のオージー映画「ミュリエルの結婚」(94)にもチョイ役で出演している。

新婦ミア(ローラ・ブレント:右端)とその家族(左からミアの姉妹ダフネ役のレベル・ウィルソン、母バーバラ役のオリヴィア・ニュートン・ジョン、父ジム役のジョナサン・ビギンズ)
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 デイヴィッドとベスト・マンの3人の男友達はいずれも典型的な中流階級出身のイギリス人青年であるのに対し、ミアの実父がオーストラリアの上院議員であるためミアの両親はかなりの資産家、結婚式と披露宴が開催されるブルー・マウンテンズにあるミアの実家も大邸宅、というわけで、英豪両者の言動のギャップが笑いのツボということになる。全編に散りばめられたジョークの数々には正直あまりヒネリが感じられず、ストーリー展開そのものにもさして意外性はないものの、その分、安心して観ることができる。

いろんな意味でイッちゃってるドラッグ・ディーラー、レイ役のスティーヴ・ル・マーカンド
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 また、前述の主要キャラクター全員、とても魅力的だ。新郎新婦役のゼイヴィア・サミュエルとローラ・ブレントはお似合いの美男美女カップル、サミュエルは清潔感ある好青年を、ブレントも透明感のある美貌で汚れない花嫁を体現しているし、男友達の一人を演じるティム・ドラクスルも役柄上はいつも酔っ払っているが正統派のハンサムだ。普段は上品な上院議員夫人である新婦の母親役のニュートン・ジョンも娘の披露宴の最中にコカインを吸ってハイになる憎めないお母さんぶりで、そのほかの出演者も、例えばいろんな意味でイッちゃってるドラッグ・ディーラー、レイ役のスティーヴ・ル・マーカンド(「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」)などそれぞれに印象的な演技を見せる。

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透明感のある美貌が印象的なミア役のローラ・ブレント
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 本作に限らずだが、ウエディングをストーリーのメインに設定したコメディ映画は、観る者をほっこりと優しい気持ちにさせてくれるものだ。

【余談】オリヴィア・ニュートン・ジョンはかつてジャパラリアの誌上独占インタヴューに応じてくれたことがある。バック・ナンバーを引っ張り出してみたら2004年12月号だったから、もうかれこれ一昔前の話だが、シドニーで記者が実際に会ったニュートン・ジョンは当時既に50代半ばながらその美貌と世界中のファンを魅了し続ける笑顔は健在で、受け答えからも聡明なだけでなくとても穏やかかつ優しい人柄が滲み出ていたのが好印象だったことをはっきりと覚えている(取材時の詳しいエピソードなどを紹介したジャパラリア公式YouTubeチャンネルの投稿はこちら!)。

【セリフにおける英語のヒント(その1)マリファナを購入しようと森の中にひっそりと建つおどろおどろしい雰囲気のドラッグ・ディーラーの家に到着したベスト・マンの3人、車を降り玄関に向かって歩くトム(クリス・マーシャル)にグレアム(ケヴィン・ビショップ)が「マジで車から降りるっていうのか! ウルフクリーク観たのかよ?」と言うのは、05年公開のオージー・サイコ・ホラー映画で日本でもDVD化された「ウルフクリーク 猟奇殺人谷」のこと。

【脚本上の間違い?式の後の披露宴でグレアム(ケヴィン・ビショップ)がダフネ(レベル・ウィルソン)と話しているところにトム(クリス・マーシャル)が来て、グレアムが「彼女はミアの姉妹のダフネだよ」と紹介するとトムが「やあ、ドロシー」と名前を間違えるシーンがあるが、全員その前日にミアとその家族と一緒にランチをするシーンで会っているため少なくとも互いの顔を知らなかったはずはなく、改めて紹介するのは不自然。おそらく脚本上のミスと思われる。

【セリフにおける英語のヒント(その2)披露宴を抜け出してトム(クリス・マーシャル)とグレアム(ケヴィン・ビショップ)、そしてミアの母バーバラ(オリヴィア・ニュートン・ジョン)がミアの父ジムの書斎でコカインを吸うシーンがある。バーバラが「次はあなたの番よ」とグレアムに吸うようにすすめるが、グレアムがやんわり断るとバーバラが「ビビってんじゃないわよ(Don’t be such a wuss)」と言う。“ウス(wuss)”とは“臆病者”などという意味のオージー・スラングで、英語圏出身者でもオージー以外にはうまく発音できなかったりするという。ちなみにこのシーンで背景に飾られているいくつかの写真立ては、ジムが政治家(セレブ)であることを意味する小道具で、ミック・ジャガー、ポール・マッカートニー、カイリー・ミノーグらとジムのツーショット合成写真である点にも注目。別のシーンでドアに貼られている男女のポスターはオーストラリアの長寿ドラマ「ネイバーズ」に若かりしころのカイリー・ミノーグとジェイソン・ドノヴァンが出演していた際にドラマの中で二人が結婚したエピソードのもの。

【セリフにおける英語のヒント(その3)ミアの父ジム(ジョナサン・ビギンズ)が大切に飼っている羊のラムジーが行方不明となったことを知ったジムが、ウエディングの招待客の一人に「誰かが俺の羊を盗んだ!」と言うと、相手が「(披露宴の食事の)ケイタリング業者じゃないのか?」と答えて手に持っていた骨付き肉をかじるが、これが仔羊肉であることからのジョーク。

STORY
 南太平洋の島国ツヴァルでのホリデイで出会ったイギリス人青年デイヴィッド(ゼイヴィア・サミュエル)とうら若いオージー女性ミア(ローラ・ブレント)は恋に落ち、結婚を誓い、いったんそれぞれの国へ戻る。デイヴィッドは20年来の男友達3人に自分とミアの結婚式のベスト・マンを務めてくれるよう頼み、こうして4人のイギリス人青年はロンドンからオーストラリアへと飛ぶ。シドニー空港に迎えに来ていたミアとデイヴィッドはそのままミアの車で彼女の実家へと向かうが、男友達3人は先にちょっと寄るところがあると言う。彼らが別の車で向かったのはドラッグ・ディーラー、レイ(スティーヴ・ル・マーカンド)の自宅で、その目的はマリファナを手に入れることだったが…。

「ア・フュー・ベスト・メン」予告編

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