※2023年5月19日更新
「誓い」
Gallipoli
(オーストラリア1981年、日本1982年公開/110分/PG/戦争映画)
監督:ピーター・ウィアー
出演:メル・ギブソン/マーク・リー/ビル・ハンター/ビル・カー
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
オーストラリアとニュー・ジーランド(NZ)合同のアンザック軍団(ANZAC = Australian and New Zealand Army Corps)を含む連合軍が第一次世界大戦中の1915年から16年にかけて、オスマン帝国(当時)の首都イスタンブル占領を目的に繰り広げたガリポリの戦いを描いた1981年公開のオーストラリア映画(※ガリポリはトルコにある港町の名称の英語読みで、日本ではガリポリの戦いを指す時以外はトルコ語読みでゲリボルと呼ぶのが一般的)。「ピクニックatハンギングロック」(75)で国際的な注目を集めたピーター・ウィアー監督(「グリーン・カード」「危険な年」)が、こちらも「マッドマックス」(79)の世界的大ヒットによってハリウッド・スターの仲間入りを果たしていたメル・ギブソン(「危険な年」「ティム」)を主人公フランク役に起用して取り組んだ意欲作で、同年度オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)において主要10部門12候補となり、作品、監督、主演男優(ギブソン)、助演男優(ビル・ハンター)、脚本、撮影、編集、音響賞の8部門受賞に輝いた。主演男優賞にはギブソンと並んで本作の実質的な意味での主人公アーチー役のマーク・リーが、さらに助演男優賞にもアーチーの叔父役のビル・カー(「危険な年」)が同時にノミネイトされていたので、本作が受賞を逸したのは衣装デザイン賞と美術賞の2部門だけである。物語の前半の舞台は西オーストラリア州だが撮影はほとんどが南オーストラリア州で行われ、ほか、エジプトのシーンは実際にカイロでの海外ロケを敢行。
マーク・リー(左)とメル・ギブソンがAFI賞主演男優賞に同時ノミネイションを受け、ギブソンが受賞
メル・ギブソンは本作だけでなく、その2年前の映画「ティム」(79)で弱冠23歳の若さにして早々にAFI賞主演男優賞を受賞しており、本作でも相変わらずのハンサムぶりだけでなく2度目の主演男優賞受賞に値する演技を見せる。
主演男優賞こそギブソンにさらわれたとはいえ、マーク・リーはギブソンに一歩も引けを取らず存在感のある演技を見せるが、本作以外はもっぱらTVドラマでの活躍が目立ち、世界的大スターになるには至らなかったのが残念。なお、フランクとアーチーが所属する隊の上官で部下思いの少佐役を演じ助演男優賞を受賞したビル・ハンター(「オーストラリア」「ダンシング・ヒーロー」)は、ともに94年の映画で日米でもヒットした「プリシラ」(※ドラァグ・クイーンたちの旅の助っ人として映画の中盤から登場するボブ役)と「ミュリエルの結婚」(※ミュリエルの父親役)でお馴染み。ほかにもフランクを含む4人組の仲間のうちビリー役のロバート・グラッブは本作の2年前の「わが青春の輝き」(79)で、スノーウィ役のデイヴィッド・アーギューはこちら本作の2年後の「BMXアドベンチャー」(83)でそれぞれAFI賞助演男優賞にノミネイトされた。
出会った当初はライヴァル同士だったフランク(メル・ギブソン:左)とアーチー(マーク・リー)は固い友情で結ばれ…
映画は西オーストラリア州の田舎で生まれ育った青年アーチー(マーク・リー)が両親や叔父、幼い弟・妹たちと暮らす日常生活に始まり、オーストラリアの砂漠地帯など、厳しい自然ではあっても平和でのどかな様子が前半では強調される。最初は短距離ランナーとしてライヴァル同士だったアーチーとフランク(メル・ギブソン)が、いつしか固い友情で結ばれ、ともに志願兵として入隊し、オーストラリアから遠く離れたエジプトの地へと舞台が変わってもまだ平和で、どちらかというとコメディっぽい要素のほうが濃い。ギブソンとリーが全裸で泳ぐシーンもあるが、セクシーというより水遊びをしてはしゃぐ子供たちのように無邪気に見える。110分の本編中、最初の90分は概ねそんな感じだが、クライマックスに向けて、いよいよガリポリの戦いの激戦ぶりが一挙に描かれる様は圧巻である。前半が面白おかしく描かれているからこそ、ラスト20分のそれまでとは180度異なる緊迫した展開に画面から目が離せなくなる。ウィアー監督の天才的な演出といえ、友情の素晴らしさと戦争の愚かさを、見事なコントラストで描き切っている。ちなみにウィアー監督は本作とその翌年、再度メル・ギブソンを主演に起用した「危険な年」(82)を機にハリウッドに進出、ともにハリソン・フォード主演の「刑事ジョン・ブック 目撃者(Witness)」(85)と「モスキート・コースト」(86)、「いまを生きる(Dead Poets Society)」(89)、「グリーン・カード」(90)、「トゥルーマン・ショー」(98)、「マスター・アンド・コマンダー」(03)、と世界的大ヒット作を次々に連発しただけでなく、いずれの作品も非常に高く評価されており、大御所名監督の地位を築き上げている。
アーチーの叔父役でAFI賞助演男優賞候補となったビル・カー(同賞受賞は本作から同時ノミネイションを受けていたビル・ハンター)は、本作の翌年、本作と同じピーター・ウィアー監督、メル・ギブソン主演の「危険な年」にも出演
映画の後半ではエジプト・ロケを敢行
サウンドトラックに、バロック期のイタリア人作曲家アルビノーニの、悲しくはあるが非常に美しい旋律を誰もが知っている「弦楽とオルガンのためのアダージョ・ト短調」(※この画面一番下にある本作の予告編動画のBGMとして最初から最後まで流れる曲)が、本作のテーマ曲といってもいいほど効果的に使われている。
1915年にアンザック軍団がガリポリに上陸した4月25日がその後アンザック・デイとなった。アンザック・デイというオーストラリアとNZの祝日は知っていても、その由来となった歴史上の一幕を知らない日本人も多いだろう。オーストラリアを知る上で、必ず観ておきたい感動の名作映画だ。
【セリフにおける英語のヒント】パースへ行くつもりのアーチー(マーク・リー)とフランク(メル・ギブソン)だったが、次の列車は2週間待たないと来ないことが分かるとアーチーは「こっちのほうが早い」と言って砂漠のど真ん中を一人スタスタと歩いていく。アーチーを追いかけながら、フランクは「バークとウィルズも同じことを考えてたさ!」と悪態をつく。バークとウィルズは19世紀半ばのオーストラリアに実在した探検家で、彼ら2人が率いてオーストラリア大陸縦断を目指した名高い「バーク・ウィルズ探検隊(Burke and Wills Expedition)」のことを指す。19人の同探検隊のうち、隊長バークと副隊長ウィルズ本人を含む7人が道中で命を落としたことから、フランクは、砂漠を歩いていくなんて、自分たちもバークとウィルズのように野たれ死にするだけさという意味でそう言ったわけだ。
STORY
第一次世界大戦勃発の翌1915年、西オーストラリア州の田舎町に住む青年アーチー(マーク・リー)は短距離走の選手だったが、愛国心からアンザック軍団の志願兵になる。アーチーに短距離走の試合で敗れたフランク(メル・ギブソン)は、戦争に行くなどまっぴらという考えだったが、次第にアーチーと友情を深め、自らも志願兵となる。二人が所属する隊はまずエジプトのカイロへ到着、カイロでは待機状態のため毎日観光客気分で楽しむ二人だったが、いよいよガリポリ半島へと向かうことになり…。
「誓い」予告編