幼いころから母と海に潜る日々を楽しんだ少女の物語(映画「ブルーバック あの海を見ていた」)

1

ブルーバック あの海を見ていた

原題:Blueback

(オーストラリア2022年、日本2023年公開/1時間42分/PG/ドラマ/Amazonプライム、Googleプレイ、Netflix、Stan、YouTubeムービーで観賞可能)

監督:ロバート・コノリー
出演:ミア・ワシコウスカ/ラダ・ミッチェル/エリック・バナ

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 15歳でデビューし21歳の時にティム・バートン監督の「アリス・イン・ワンダーランド」(2010)のヒロイン、アリス役に抜擢され世界的な話題と注目を集めたオージー女優ミア・ワシコウスカ(「ターニング<監督>」)主演の2022年のオーストラリア映画。全豪文学界で最も権威あるマイルズ・フランクリン賞を4度も受賞し、イギリスのブッカー賞にも2度ノミネイトされたティム・ウィントンが1997年に発表し、日本でも邦訳本が出版された同名短編小説を、エリック・バナ製作・主演の別のオージー映画「渇きと偽り(The Dry)」(2020)のオージー監督ロバート・コノリー(「ターニング」)が映画化、共演にウディ・アレン監督の「メリンダとメリンダ(Melinda and Melinda)」(2004)の主演で知られるラダ・ミッチェルと、「渇きと偽り」でもコノリー監督とタッグを組んだ「ハルク」(2003)の主演男優エリック・バナ(「ディア マイ ファーザー」「キャッスル」)という、やはりハリウッドでもその名を知られる2大オージー俳優共演の下、全編、物語の舞台と同じ西オーストラリア州で撮影が行われた。余談だがアリス(ミア・ワシコウスカ)、メリンダ(ラダ・ミッチェル)、ハルク(エリック・バナ)、といずれもハリウッド映画に主演しただけでなくそれぞれの映画の題名にもなった“タイトル・ロール”を演じた3人の豪華オージー俳優が共演したという意味でも本作は珍しい映画である。カナダのトロント国際映画祭でワールド・プレミアを飾り、米サンダンス映画祭にも出品され、こちらも全豪映画界で最も栄誉ある第13回オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー(AACTAの頭文字から“アークタ”と呼ばれる)賞(旧オーストラリア映画協会賞)ではいずれも受賞を逸したものの助演男優(バナ)、助演女優(ワシコウスカ)、衣装デザイン、作曲賞の4部門にノミネイトされた。

映画は大人になったアビー(ミア・ワシコウスカ)が母と暮らした幼少・青年期の日々を振り返る形で展開する

アビーの幼少期(アリエル・ドノヒュー:右)と青年期の母ドラをラダ・ミッチェルが好演

ドラとアビー母娘の顔馴染みの地元のアワビ漁師マッカ役のエリック・バナ

 ミア・ワシコウスカは本作の“主役”ではあるものの、映画はワシコウスカ演じる大人になった主人公アビーが母との思い出を振り返る形で展開し、アビーの幼少期、そして青年期を演じた2人の女優の見せ場の方がむしろ多いと言っても過言ではなく、それがワシコウスカがAACTA賞において主演ではなく助演女優賞枠で候補になった理由として考えられる。

アビーの青年期役のイルサ・フォグと、アビーの幼馴染みブリッグスの青年期役ペドレア・ジャクソン

映画の中では幼少期のアビー(アリエル・ドノヒュー)も丁寧に描かれる

 前述の通り映画は“アビー目線”で進むが、むしろ本作の真の意味での主役はアビーの幼少期と青年期の母ドラを演じたラダ・ミッチェルといえるかもしれない。生まれ育った地元の海を心から愛し、海の環境保護活動にも熱心で、密猟者たちや“土地開発”という名の下に海とそこで生きる生物を脅かす団体には敢然と立ち向かうドラの姿は、少女時代のアビーには時にやりすぎのようにも見えるが、それでも若くして海にさらわれ行方不明となった愛する父の分まで精一杯の愛情を持って育ててくれたドラはアビーにとってかけがえないのない母親であり、大人になったアビーが海洋生物学者になったのも母から受けた影響が大きい。そんな母ドラをラダ・ミッチェルは好演、親子の愛情が至るところで、それも決してこれみよがしではなくごく自然に描かれる。

青年期のアビーが引いてしまうほど環境保護活動に熱心なドラ(ラダ・ミッチェル)

時に親子ゲンカをしてもすぐに仲直りできるドラとアビー(青年期:イルサ・フォグ)

ラダ・ミッチェル

“自然”ということではミア・ワシコウスカも見事。アビーの記憶の中の母ドラは、それはそれは生き生きとしていたものだが、脳卒中で倒れた母の世話をするために久しぶりに故郷に戻ったアビーが再会した、ヴェテラン女優リズ・アレクサンダー演じる老齢期のドラはしゃべれなくなっており、アビーが優しく話しかけても無表情で覇気がない。一人娘としてはやるせない気持ちだろうが、そこで悲しみにふけるのではなく、自分がまだ幼かったころからの母とのキラキラと輝いていた思い出を懐かしく振り返る。ワシコウスカはそんな大人時代のアビーをごく自然体の演技で見せる。

ミア・ワシコウスカ

 ドラとアビー親子が住むのは人里離れた入江の町で、地元のアボリジナルの人々とも親しく交流し、アビーと同じ学校へ通う幼馴染みブリッグスもアボリジナルの男の子、地元のアワビ漁師マッカ(エリック・バナ)やアビーが通う学校のスクール・バスの運転手マーヴ(エディー・バルー)といった気さくな中年男性など、住民同士、誰もが肩を寄せ合って幸せに暮らしている雰囲気が伝わる。

エリック・バナ

 海に潜るのが大好きな母に連れられて、アビーも幼少時代から母と一緒にシュノーケリングを楽しむようになり、二人が潜っているシーンも実に多く出てくる。これがまた素晴らしく、一度もシュノーケリングをやったことがない人が観ても最高に癒され、海中のシーンは当然セリフは一切ないが、何度出てきても飽きさせない。まるで自分まで海に潜っているような、そんな不思議な気持ちにさせてくれる、心温まるドラマとして海に興味がない人にもおすすめの秀作だ。

 ちなみにティム・ウィントンの小説は、日本でも邦訳本が出版されたものだけでも本作以外に「ブレス:呼吸」(2008)があり、やはりこれまでに何作もが映画化されており、同小説もサイモン・ベイカー監督・出演により「ブレス あの波の向こうへ」(2017)という邦題で日本でも公開、さらにこちらは邦訳本も日本公開もなかったがティム・ウィントンの短編小説集を18人の監督が手がけた同名アンソロジー(オムニバス)映画「ターニング」(2013)があり、1話ごとにオスカー女優ケイト・ブランシェットや後年オスカー候補女優となるローズ・バーンらが出演、本作のロバート・コノリーも1話を監督、さらに本作のミア・ワシコウスカが1話で監督デビューを果たした。

STORY
 海洋生物学者アビーは東アフリカ沖の白化が進むサンゴ礁の調査船に乗り込み仲間と船上で寝泊りし、自ら酸素ボンベを背負い潜水調査を行っていた。そんなある日、アビーの母ドラが脳卒中で倒れたという電話が入り、アビーは生まれ育った西オーストラリア州の人里離れた入江である故郷へと戻る。話すことができなくなった母を病院から引き取り海辺に立つ実家で母の世話をするアビーは、環境保護活動家だった母に連れられて幼いころから海に潜ってシュノーケリングを楽しんでいた日々を思い出す。8歳の時に海中で巨大なウエスタン・ブルー・グローパー(※西オーストラリア州からヴィクトリア州の海域のサンゴ礁に生息するベラ科の硬骨魚類)に遭遇し、グローパーは70年近くも同じ場所で生きる長寿の魚であることを母に教わると、遭遇したそのグローパーを“ブルーバック”と名付け、以来ブルーバックもアビーが潜るたびに人懐っこくアビーに近寄ってきていた日々のことを、幼馴染みのアボリジナルの男の子ブリッグスがいて、ドラとアビー親子と顔馴染みの気さくなアワビ漁師マッカ(エリック・バナ)がいた懐かしい少女時代のことを…。

「ブルーバック あの海を見ていた」日本版予告編

「オージー映画でカウチ・ポテト」トップに戻る
oz_movie_top