
※2025年12月19日更新
「ザ・ウォグ・ボーイ」
原題:The Wog Boy
(オーストラリア2000年公開、日本未公開/88分/MA15+/コメディ/DVD、Apple TV、Stan、Foxtel Go、Paramount+、Bingeで観賞可能)
監督:アレクシ・ヴェリス
出演:ニック・ジアノポロス/ヴィンス・コロシモ/ルーシー・ベル/アビ・タッカー/スティーヴン・カリー
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
オーストラリアに住むギリシャ系2世の姿を描いたコメディ映画で、本国オーストラリアでは2000年の封切りと同時に全豪週間興収2週連続第1位を記録、最終的には1,000万ドルを突破する大ヒットとなった。10年後の2010年には続編が、そして実に22年後となる2022年にはシリーズ3作目「ウォグ・ボーイ・フォーエヴァー」まで製作・劇場公開されたほど。
いい歳をして失業保険でのんきに暮らしているスティーヴ(ニック・ジアノポロス)のことを、雇用大臣の下で働くシリア(ルーシー・ベル)は最初、軽蔑していたが…

映画のタイトルにある“ウォグ(wog)”とはイタリア系やギリシャ系移民も多いオージー・イングリッシュならではのスラングで、地中海沿岸諸国や中東出身者に対する蔑称のこと(複数形はウォグズ<wogs>)。自身もギリシャ系移民の家に生まれた主演男優のニック・ジアノポロスは、本作に先駆けること10年以上も前から自分のその生い立ちを逆手に取ったさまざまな“ウォグ”シリーズのコメディを自ら執筆し舞台で演じてきたほか、テレビの分野でも1989年から1992年まで5シーズン続くヒットとなった同様のコメディ・シリーズでも執筆・主演、オーストラリアにおける最も有名な“ウォグ”と言っても過言ではない存在のコメディアンだ。「ザ・ウォグ・ボーイ」も最初は舞台作品として1996年から3年にわたって全豪主要都市で公演されるロング・ラン・ヒットとなり、満を持しての映画化へと至ったというわけだ。
スティーヴ(ニック・ジアノポロス:中央左)は夜な夜な親友フランク(ヴィンス・コロシモ:同右)と遊び歩く毎日


“失業保険で暮らす身でありながら真面目に仕事を探そうともせず悪友と夜な夜なクラブ通いのギリシャ系2世の独身青年”という設定の主人公スティーヴを演じたジアノポロスは、本作撮影時の実年齢36歳。そんな歳までぷらぷらしている人間は実社会にはごまんといるだろうが映画として見る分には完全に“ルーザー”で、ジアノポロス本人も実年齢そのままのルックスだから、例えばこれがアメリカ・ブロードウェイの舞台でのヒット作をハリウッドが映画化していたら、全く別の、もっと若くて新鮮味のある俳優を起用しただろう。結果的には大ヒットとなったので文句を言う筋合いはないが、オージー・コメディアンはどうも劇場映画に主演してこそ一流のエンターテイナーであると、当の本人たちが考えている傾向が少なからずあるのではないだろうかとも思われる。最も有名な例が、全豪テレビ界では既に国民的スター・コメディアンだったポール・ホーガンが47歳にして劇場映画初主演した1986年の「クロコダイル・ダンディー」である。両作品とも文句なしの大ヒットを記録し、やはりどちらもその後、第2、第3弾まで製作・公開されたので前述の通り文句のつけようはないが…。この2作以外にも本コーナーで過去に紹介した映画にカール・バロンが49歳で劇場映画初主演した「マニー・ルイス」(2015)もあり、3作品とも(一応)“イケてる主人公”という設定なのが共通点でもある。
スティーヴの親友フランク(ヴィンス・コロシモ)とシリアの妹アニー(アビ・タッカー)は互いに一目惚れし…

本作におけるコメディ・センスそのものは日本人にも十分理解できる。ジアノポロス演じるスティーヴは限りなく三枚目に近いギリギリ二枚目といった役どころで(ジアノポロスはスティーヴの父親、そして母親役も兼ねた1人3役をこなす)、ヴィンス・コロシモ(「華麗なるギャツビー」「テイク・アウェイ」「トエンティマン・ブラザーズ」「ランタナ」)演じるスティーヴの親友フランクはナンパを生きがいにしているようなイケメンという対比も興味深い。ジアノポロス、コロシモともに劇場映画版第3弾まで同じ役柄で続けて出演している。
そのほかの主要キャラでは、スティーヴを目の敵にする雇用大臣レイリーン・ビーグル・ソープ役にジェラルディン・ターナー、レイリーンの下で働く有能なシリア役にオーストラリアにおけるシェイクスピア専門の劇団ベル・シェイクスピアの創始者で自らも高名なシェイクスピア俳優であるジョン・ベルの実子ルーシー・ベル(「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)、シリアの妹でフランクと互いに一目惚れするアニー役にアビ・タッカー、シリアの同僚でシリアに片思いしているネイサン役にスティーヴン・カリー(「テイク・アウェイ」「ザ・キャッスル」)、スティーヴのギリシャ移民仲間テオ役にこちらもギリシャ系オージー男優トニー・ニコラコポロス(「イースト・ウエスト101 ②」「ヘッド・オン!」)、ニックとテオが雇用省を訪れた際に2人を面談するカウンセラー役に俳優であると同時にこちらも人気のオージー・コメディアン、キム・ギンゲル(「マクベス ザ・ギャングスター」「トエンティマン・ブラザーズ」「エイミー」「クライ・イン・ザ・ダーク」)が扮しているほか、メディアに担ぎ上げられたスティーヴがテレビ出演するトーク番組のホストはオーストラリアの有名な人気テレビホスト、ダリン・ヒンチが本人役で登場。また、5スター・ホテルでの晩餐会のシーンで雇用大臣やスティーヴたちと同じテイブルに同席している男性というかなりのチョイ役に、過去に2度、全豪映画界で最も権威あるオーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)助演男優賞にノミネイトされたこともある演技派オージー男優チャールズ‘バット’ティングウェル(「ザ・キャッスル」「英雄モラント/傷だらけの戦士」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が顔を出している。
シリアに片思いしているネイサン(スティーヴン・カリー:右)

スティーヴのギリシャ移民仲間テオ(トニー・ニコラコポロス:右)
全編ヴィクトリア州の州都メルボルン及びその近郊で撮影され、メルボルン屈指の老舗5スター・ホテル、ウィンザーなどメルボルンの名所が随所に出てくるし、日本でもデビューしたデニ・ハインズを筆頭にオージー・ミュージシャンを中心としたサウンドトラック、そして本作から唯一、第42回AFI賞候補となった衣装デザインなど華やかな見せ場も多く、難しく考えずに楽しめるコメディだ。
本作が封切られた2000年、記者はジアノポロスに独占インタヴューしたことがある。映画の中でバカなことばかりやっているキャラとは裏腹に、本人は寡黙とも受け取れるほど落ち着いた知的な話し方だったのが印象に残っている。真偽のほどは分からないが、メルボルンの彼の家には畳張り・障子戸の本格的な茶室を造らせるほど日本のインテリアに凝っていると語っていたこともよく覚えている。障子のことを“シュウジ”と発音したが、それでもそんな日本語まで知っているほどだから、あながち本当に茶室を持っているのかもしれない。日本人としてはそのあたりの事情も踏まえて本作を観賞したら、より身近に感じられ、楽しめるだろう。
【映画の中に出てくる実在のテレビ番組】冒頭の回想シーンで少年時代のニックが観ているテレビ番組は、日本でも吹き替え版が放映されたオーストラリアの人気ファミリー・ドラマでカンガルーのスキッピーが活躍する「カンガルー・スキッピー(Skippy, the Bush Kangaroo)」(1968〜1970)。ちなみに同連ドラはその後20年以上も経って再度続編が製作されたほどで(1991〜1992)、そちらも日本で吹き替え版がオンエアされた。
STORY
ギリシャ系2世のオーストラリア人スティーヴ(ニック・ジアノポロス)は失業保険で暮らす身でありながら、イタリア系2世の親友フランク(ヴィンス・コロシモ)と夜な夜なクラブ通いして遊び明かす毎日。ある日スティーヴの車が雇用大臣レイリーン・ビーグル・ソープ(ジェラルディン・ターナー)の車にぶつかってしまい、スティーヴは大胆にも愛車の修理代をレイリーンに請求、激怒したレイリーンはスティーヴが失業保険で遊び暮らす最低の人間であることを世間に公にし…。
●チャールズ‘バッド’ティングウェル出演のその他のオージー映画:「ジンダバイン」「ザ・ウォグ・ボーイ」「ザ・クラック」「エイミー」「ザ・キャッスル」「クライ・イン・ザ・ダーク」「ウインドライダー」「英雄モラント/傷だらけの戦士」
「ザ・ウォグ・ボーイ」予告編


