バズ・ラーマン監督の原点ここにあり!(映画「ダンシング・ヒーロー」)

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※2022年10月4日更新

ダンシングヒーロー

Strictly Ballroom

(オーストラリア、日本ともに1992年公開/94分/PG/社交ダンス・コメディ)

監督:バズ・ラーマン
出演:ポール・マーキュリオ/タラ・モーリス/バリー・オットー/ジーヤ・カリディス

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 ハリウッド進出後は手がける映画がことごとく全世界で1億ドル以上の興収を突破する大ヒットを記録し、今やオーストラリアを代表する映画監督のひとりとしての地位を揺るぎないものにしているバズ・ラーマン監督(「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」)の記念すべき劇場映画監督デビュー作としてシドニーとメルボルンで撮影されたオーストラリア映画(※ラーマン監督作品で興収が1億ドルに達しなかったのはデビュー作である本作のみ)。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)において主要12部門13候補となり(助演女優賞枠に主人公スコットの母親役のパット・トムソンと同じくスコットの最初のダンス・パートナー役のジーヤ・カリディスの2人が同時候補に)、作品、監督、助演男優(スコットの父親役のバリー・オットー)、助演女優(パット・トムソン)、脚色、美術、衣装デザイン、編集賞の8部門受賞に輝いた(残念ながら受賞を逸した部門はポール・マーキュリオの主演男優、タラ・モーリスの主演女優、音響、撮影賞)。美術賞を受賞したキャサリン・マーティンは実生活でのラーマン監督夫人で、夫が監督したすべての映画の美術監督を務めており、「ムーラン・ルージュ」と「華麗なるギャツビー」で2度アメリカのオスカー受賞(両作品とも美術賞と衣装デザイン賞の2部門を制覇)、「オーストラリア」「ロミオ+ジュリエット」を含めこれまでに合計4回オスカーにノミネイトされている。本作は海外でもカンヌ映画祭を筆頭に英国アカデミー賞、トロント映画祭、ヴァンクーヴァー映画祭などを受賞、また、受賞こそ逃したものの米ゴールデン・グローブ賞でも作品賞候補となり(ミュージカル/コメディ部門)、これがデビュー作であったラーマン監督にとっては快挙中の快挙といえる。製作費300万ドルというのは92年当時、デビュー作としてはまずまずの予算だっただろうが、オーストラリア国内だけで2,000万ドル、全米でも1,000万ドルを超える興収を弾き出した。

ダンス・パートナーとなるスコット(ポール・マーキュリオ)とフラン(タラ・モーリス)
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 本作とレオナルド・ディカプリオ主演の「ロミオ+ジュリエット」(96)、そしてニコール・キッドマン主演の「ムーラン・ルージュ」(01)の3本を指してバズ・ラーマン監督の“ミュージカル三部作”とも呼ばれている。といっても厳密な意味でのミュージカルは「ムーラン・ルージュ」だけで、本作と「ロミオ〜」は歌でストーリーが綴られるわけではないが、音楽が重要な役割を果たした作品ということになる。特に、れっきとしたダンス映画である本作は、80年代のハリウッド映画「フラッシュダンス」や「フットルース」などにも通じる青春ダンスものでもある。また、同じダンスでも前述の2作があくまでもポップな若者ダンスだった一方、こちらは社交ダンスの世界を舞台にしており、周防正行監督の「Shall we ダンス?」(96)を生むきっかけになった作品とも考えられなくない。

 日本公開時には、本作からさかのぼること7年も前の85年にヒットした荻野目洋子のシングルのタイトルで、92年当時には既にダサいとも受け取られかねない「ダンシング・ヒーロー」を邦題にしたわけだが、あざといまでの青春映画、しかも舞台はあざとさを否応なく盛り上げる社交ダンスの世界とあって、日本の配給会社の思惑は見事成功し、本作は日本でもヒットした。ややこしい話だが荻野目洋子のこの曲自体、洋楽のカヴァーでオリジナル楽曲の原題は「Eat You Up!(イート・ユー・アップ)」、さらにややこしくアンジー・ゴールドによるその原曲が日本でリリースされた際の邦題は「素敵なハイエナジー・ボーイ」。

迫力満点かつ華麗なダンス・シーンも見どころ
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 主演のポール・マーキュリオはもともとオーストラリア随一の現代舞踊団シドニー・ダンス・カンパニーの団員、つまり正真正銘プロのダンサーだったわけで、映画の中のダンス・シーンもすべてマーキュリオ本人が踊っている。女性ファンを魅了するに足る精悍なルックスも手伝い、とても生き生きとした演技を見せる。本作を機に招かれてハリウッドへも進出したが、マーキュリオのその後は痛々しいほどの駄作続きで、ついに本作と肩を並べられるほどの代表作には一本も巡り合えずじまいだ。元ダンサーとは思えないほどヴァージョン・アップしたその後の体型とルックスも痛々しい限り。

主人公スコットを演じたプロ・ダンサーのポール・マーキュリオ
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 マーキュリオの相手役のタラ・モーリスも本作で華々しい銀幕デビューを飾りながら本作以降は映画での代表作はなく、本作と同じラーマン監督の「ムーラン・ルージュ」の売春婦役や、ヒース・レジャー主演の「キャンディ」でレジャーの相手役を務めたアビー・コーニッシュ扮するヒロインの叔母役といった、それら作品を観た人でもどれがモーリスだったのか分からないような端役も演じているが、歌手としての才能もあり、シンディ・ローパーの大ヒット曲として知られる「タイム・アフター・タイム」をニュー・ジーランド出身のミュージシャン、マーク・ウィリアムズとのデュエットによりカヴァー、本作のサウンドトラックとして使用されている。

最初は冴えないフラン(タラ・モーリス)だったが…
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 サウンドトラックではもう一曲、映画のラストに流れるナンバーで本作の主題歌とも呼べるのは、日本でも「風に舞う恋」という邦題でリリースされたオージー歌手ジョン・ポール・ヤングの1978年の大ヒット「ラヴ・イズ・イン・ジ・エア」を本作のサントラ用に新たにリミックスしたもの。78年のオリジナル版は豪英米3カ国のチャートにトップ10入りしたヤング唯一のインターナショナル・ヒットだったが(豪3位、英5位、米7位)、ヤングは83年を最後に10年近く全豪チャートのトップ10ヒットには恵まれなかった。映画のヒットにより92年ヴァージョンは全豪シングル・チャートでオリジナル版より高い最高2位を記録する大ヒットとなりヤングも一躍表舞台に返り咲いた。

ダンス・コンテストに向け猛特訓するスコットとフラン
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 マーキュリオとモーリス以外の出演者陣では、スコットの両親役に豪アカデミー助演男女優賞にそれぞれ輝いた大御所でミランダ・オットーの実父として知られるバリー・オットー(「リベンジャー 復讐のドレス」「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」)とメリル・ストリープ主演のオージー映画「クライ・イン・ザ・ダーク」にも端役として出演していたパット・トムソンが、ダンス・コンテストの審査委員長役でこちらも大御所ビル・ハンター(「オーストラリア」「ミュリエルの結婚」「プリシラ」「誓い」)が、そして少々ヒステリックだが憎めないスコットの最初のダンス・パートナー、リズ役でジーア・カリディス(「ペンギンが教えてくれたこと」)が脇を固めている。残念ながらパット・トムソンは本作の劇場公開を前に51歳の若さにして癌でこの世を去っている(※本作でのトムソンの豪アカデミー助演女優賞は死後受賞)。

 本作ではバズ・ラーマン監督作品の原点とも呼べる、きらめきたる映像美を存分に楽しませてくれる。スコットとフランがスコットの両親が運営するダンス教室の建物屋上で練習するシーンは、シドニーのキングス・クロスにある有名なコカ・コーラの看板をイメージしたものだと分かるが、セットにしても規模が小さすぎる。だが、それこそがラーマン監督独自の手法で、まるで舞台劇のセットを見るような明らかに現実感のないセットを映画に取り入れることにより、そもそもが現実ではない映画が持つファンタジーの世界に観る者を誘(いざな)う。この手法は「ムーラン・ルージュ」にも見られ、ニコール・キッドマン演じるヒロインの部屋がある建物は最初から誰が見てもセットだと分かるように造られている。

 また、自身も元俳優だったラーマン監督ならではといえるだろうが俳優としては素人にすぎないマーキュリオを含み、全員とても魅力的に見せる点でも見事。映像だけでなく俳優、それも男優または女優のどちらか一方ではなく両方とも輝かせるという点でラーマン監督は天下一品であることを改めて理解することができるだろう。

STORY
 ともに社交ダンスのプロのダンサーだった両親を持ち、自身も次世代の社交ダンス界を担うホープと期待されているスコット(ポール・マーキュリオ)だったが、コンテストでルールを無視して自分のステップで踊ってしまい当然、失格。ダンス・パートナーのリズ(ジーア・カリディス)からも愛想を尽かされてしまう。それでも自分のステップは正しいと信じるスコットの前に、ダンスは全く素人の、見た目も冴えないフラン(タラ・モーリス)が現れ、自分を次のコンテストのダンス・パートナーにしてくれとスコットに頼むが…。

「ダンシング・ヒーロー」予告編

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