男友達3人の友情は40年後も変わりなく?(映画「パーム・ビーチ」)

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※2024年2月5日更新

パーム・ビーチ

Palm Beach

(オーストラリア2019年公開、日本未公開/98分/M/ヒューマン・コメディ/DVDNetflixApple TVYouTubeムービーGoogleプレイAmazonプライムで観賞可能

監督:レイチェル・ウォード
出演:ブライアン・ブラウン/グレタ・スカッキ/サム・ニール/ジャクリーン・マッケンジー/リチャード・E・グラント

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

「F/X 引き裂かれたトリック」(86)や「カクテル」(88)などでハリウッドでもその名を知られる大御所オージー男優ブライアン・ブラウン(「オーストラリア」「トゥーハンズ銃弾のY字路」「デッドハート」「英雄モラント傷だらけの戦士」)主演、実生活でのブラウンの妻であり監督・女優のレイチェル・ウォードが監督、さらに夫妻の実子でこちらも監督・女優のマティルダ・ブラウンがブライアン・ブラウン演じるフランクの娘役で出演するというオーストラリア映画界の親子3人が携わったヒューマン・コメディ映画。タイトル通りシドニー北郊に実在する高級住宅街パーム・ビーチを筆頭に全編シドニーで撮影が行われ、映画の中で出てくる架空のヒット曲「フィアレス」は本作のためにこちらも大御所オージー・ロック・ミュージシャン、ジェイムズ・レインが書き下ろし自ら歌い、シングルとしてもリリースされた。

実生活でも親友同士だというブライアン・ブラウン(左)とサム・ニールが共演
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 若かりしころ一発ヒット「フィアレス」を放ったこともある架空の4人組オージー・バンド、ザ・パシフィック・サイドバーンズは解散後、ヴォーカルで紅一点のロキシーは若くして他界、3人の男性メンバーはフランク(ブライアン・ブラウン)以外オーストラリア国外在住だが、フランクの73歳のバースデイを祝うために2人とも夫婦そろって、うち1組は一人娘も同伴でフランク夫妻が成人した二人の子供たちと暮らすパーム・ビーチの一軒屋に招かれ数年ぶりに再会、数日をともに過ごすというのがストーリーの大筋だ。亡くなったロキシーの娘で大人になったホリーも付き合っているボーイフレンドとお祝いにやってくる。

フランク(ブライアン・ブラウン)の妻シャーロット役を自然体の演技で好演するグレタ・スカッキ
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 元バンド・メンバーとそれぞれの妻役にオール・スターをそろえ、フランクの妻役にグレタ・スカッキ(「アリブランディを探して」「ハーモニー <1996年版>」)、ほか2組はサム・ニール(「ジュラシック・パーク」「オーメン/最後の闘争<Omen III: The Final Conflict>」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)とジャクリーン・マッケンジー(「ハーモニー <2018年版>」ハーケンクロイツネオナチの刻印)、そして英国から招かれて出演のリチャード・E・グラントとオージー女優ヘザー・ミッチェル(「台風の目」「サンクゴッドヒーメットリズィー」「ミュリエルの結婚」)が夫婦役を演じる。映画よりTVドラマでの活躍の方が目立つヘザー・ミッチェル以外は5人とも、それぞれが出演したハリウッド映画でもヒット作があり海外でもそれなりの知名度を誇る。また、ヘザー・ミッチェルも日米を含み世界85カ国以上でオンエアされたオーストラリアとポーランド合作の人気SF連ドラ「対決スペルバインダー(Spellbinder)」(95)とその続編(97)で主要キャラ、アシュカ役を演じたことで海外でもその名を知られる。なお、英国人俳優リチャード・E・グラントは過去に別のオージー・コメディ映画「キャス&キムデレラ」(12)にも出演したことがある。

かつてのバンド仲間とそれぞれの妻たちと73歳のバースデイを祝うフランク(ブライアン・ブラウン:奥)
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 上記6人のヴェテラン男女優たちほどの知名度はないにしても若手カップル、ホリー役のクレア・ヴァン・ダー・ブーム(「パルス」「イーストウエスト101 ①」)はこちらも日本でもオンエアされた全米の人気連ドラ「HAWAII FIVE-O」シリーズの主人公の元妻役が有名だし、ホリーのボーイフレンド、ダグ役のアーロン・ジェフリー(「ワイルドボーイズ」「イーストウエスト101 ③」「ストレンジプラネット」)も、やはり日本でもオンエアされたオーストラリアの連ドラ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」をはじめ、オーストラリア国内では01年から09年まで8シーズン続いた高視聴率の連ドラ「マクレオズ・ドーターズ」にメイン・キャラクターの一人としてレギュラー出演するなど正統派のイケメン男優としてオージー女性たちの間で絶大な人気を博した。

左からブライアン・ブラウン、ジャクリーン・マッケンジー、リチャード・E・グラント
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 そのほかのチョイ役に、シャーロット(グレタ・スカッキ)とリオ(サム・ニール)がショッピング・センターの駐車場で偶然出くわすシャーロットの知人ローナ役にリサ・ヘンズリー(「ペンギンが教えてくれたこと」「月に願いを」「ブライズオブクライスト」)、イヴァ(ヘザー・ミッチェル)の所属タレント事務所のハリー(声のみ)とタクシー運転手の一人二役でフェリックス・ウィリアムソン(「華麗なるギャツビー」「ストレンジプラネット」「サンクゴッドヒーメットリズィー」「ウープウープ」)が登場。また、医師役に中国/マレイシア系オージー女優レネー・リム(「パルス」「イーストウエスト101   」)が扮しており、リムは全豪映画TVドラマ界でコンスタントに活躍している数少ないアジア系女優の一人として知られる。

愛想を尽かされタクシーで去ろうとする妻イヴァ(ヘザー・ミッチェル)に許しを乞うビリー(リチャード・E・グラント)
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 本作は2019年度シドニー映画祭オープニング作品だったものの残念ながら批評家からの評価は高くはなくヒットにもならなかったが、俳優陣は大御所も若手もそれぞれ魅力的なキャラクターに扮し全員が印象に残る演技を見せる。

サム・ニールとクレア・ヴァン・ダー・ブーム
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 バンド解散後のフランクが実業家として成功を収めたことを物語る描写を映画の冒頭部分に集中させ、バンド時代に獲得したゴールド・ディスクが壁に飾られているフランクのプール付きの家は海沿いに建ち船着場に自家用ヨットも擁する大邸宅だし、海外からやってくる2組の元メンバー夫妻には航空券、それもビジネス・クラスを用意、さらに自宅までヘリで迎え、初日のフランクのバースデイ・ランチにはドンペリが箱ごと1ダース運ばれてくる(ドンペリはウェルカム・ドリンクで、それに続くランチの際には今度はヴーヴ・クリコ山積みのショットが)。とはいえ、フランクの家自体は成金趣味からかけ離れた無駄のない温かみのある内装だし、登場人物は誰も気取っておらず服装も全員ほぼ普段着に近い。これがNYやビヴァリー・ヒルズの富裕層を描いたハリウッド映画だったら絶対こうはならなかっただろうし、いかにもイージー・ゴーイングなオージーらしくて好感が持てる。

 好感が持てるといえば俳優たちの中ではフランクの妻ロティことシャーロット役のグレタ・スカッキが圧倒的に光る。イタリア系オーストラリア人スカッキの本作出演時の実年齢は59歳で、59歳というと21世紀の今の世の中、日本の女優もハリウッド女優もまだまだ衰えない美貌を保ち続けることに執念を燃やすものだが、スカッキは顔も体型もある程度ふくよかになってはいるもののごく自然に歳を重ねていて、ハリソン・フォードの相手役を務めたハリウッド映画「推定無罪(Presumed Innocent)」(90)などが記憶に残る、“美人女優”の代名詞だった若いころと比べて、劣化したというよりも歳とともに親しみやすい魅力も重ねていると例えるのがふさわしい。スカッキがかつて美人女優の代名詞だったことについては、92年に世界中で大ヒットしたハリウッド映画「氷の微笑(Basic Instinct)」でシャロン・ストーンが演じた役は最初スカッキにオファーがあった事実からも分かろうというもの(スカッキはオファーを断っている)。

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 若いころのようにサーフィンしてじゃれ合ったり、時には今でもケンカする3人の男たちの40年以上続く友情に、それぞれの妻たちの複雑な思いも交錯しつつ、先ほどのグレタ・スカッキではないがこんなふうに歳を取れたらいいなと心温かくさせてくれるヒューマン・コメディだ。

【セリフにおける英語のヒント(その1)ビリー(リチャード・E・グラント)が元メンバーたちに無断でバンド時代の彼らの唯一のヒット曲「フィアレス」をヨーロッパでオンエアされたCMソングに使い、そのCMを何も知らないビリーの妻イヴァ(ヘザー・ミッチェル)がネット上で見つけ、皆の前で流すシーンがある。その映像を見れば“ダイアパーズ”という言葉の意味が一目瞭然だが、ビリーはこともあろうに大人用の尿漏れパッド(adult diapers)のCMに「フィアレス」を使用したのだ(“diapers”自体は赤ちゃん用も含み“おしめ”全般のことでもあり、単数系のdiaperではなく複数形のdipersが総称として一般的)。

【セリフにおける英語のヒント(その2)美人女優で通してきたイヴァ(ヘザー・ミッチェル)も60歳になり、初めて孫を持つおばあちゃんの役をオファーされ、イヴァが所属タレント事務所のハリーとオンライン通話で話している際、ハリーが「でも君が演じるのはニコールの母親役なんだから悪くない話だよ」と言うシーンがあり、それを聞いていたイヴァの夫ビリー(リチャード・E・グラント)が「彼女(ニコール)はもう50歳だぞ。君が彼女の母親役だなんてあり得ないじゃないか!」と言うニコールとは、本作公開時に50過ぎだったオージー・オスカー女優ニコール・キッドマンを意識したと思われる。

【セリフにおける英語のヒント(その3)イヴァ(ヘザー・ミッチェル)が夫ビリー(リチャード・E・グラント)に愛想を尽かし、荷物をまとめてタクシーを呼ぶがビリーの必死の懇願でビリーを許し、いったん乗り込んだタクシーを降りるとタクシーの運転手が「キャンセル料を払ってほしい」と要求するシーンがある。それに対してビリーが満面の笑みで20ドル紙幣を差し出すと、運転手は「(たった)20ドル? こっちはディー・ワイから来てるんだぜ」と返す。ディー・ワイ(Dee Why)もパーム・ビーチと並んで有名なビーチがあることで知られる実在のエリアで、ディー・ワイからパーム・ビーチまでは20キロ以上離れており、大まかなタクシー料金が計算できるサイトで実際に調べてみたらイヴァが呼んだ早朝料金だとディー・ワイからパーム・ビーチまでは70ドル以上かかるから(※2020年時点)、運転手がふてくされたのも無理はない。

STORY
 1977年に「フィアレス」というタイトルの一発ヒットを放ったこともある4人組オージー・バンド、ザ・パシフィック・サイドバーンズの元メンバー2人は解散後は海外在住だが、バンド・メンバー兼マネジャーだったフランク(ブライアン・ブラウン)の73歳の誕生日を祝うためにそれぞれの妻、うち1組は娘も伴い、また、若くして亡くなった紅一点メンバーの娘で大人になったホリー(クレア・ヴァン・ダー・ブーム)もボーイフレンドのダグ(アーロン・ジェフリー)とともにフランクとその妻ロティことシャーロット(グレタ・スカッキ)がこちらも成人した娘と息子と住むパーム・ビーチの大邸宅に招かれ数日間、滞在する。連日フランクとロティの豪華なもてなしに再会を喜ぶ彼らだったが、ロティはフランクと結婚した後、バンド・メンバーのリオ(サム・ニール)と関係を持った過去があり…。

●サムニール出演のその他のオージー映画(TVドラマ含む):「パーム・ビーチ」ハウス・オブ・ボンド」「リトル・フィッシュ」「マイ・マザー・フランク」「泉のセイレーン」「ピアノ・レッスン」「デッド・カーム/戦慄の航海」「クライ・イン・ザ・ダーク」「わが青春の輝き

「パーム・ビーチ」劇場予告編

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