
※2025年11月1日更新
「ペイパーバック・ヒーロー」
原題:Paperback Hero
(オーストラリア1999年公開、日本未公開/96分/M/ロマンティック・コメディ/DVDで観賞可能)
監督:アンソニー・J・ボウマン
出演:クローディア・カーヴァン/ヒュー・ジャックマン/アンジー・ミリケン/アンドリュー・S・ギルバート/ジーニー・ドライナン
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
今や世界的に押しも押されもせぬ大スターとなったオージー男優ヒュー・ジャックマン(「オーストラリア」)の劇場映画2作目として、デビュー作「アースキンヴィル・キングス」と同じ1999年に公開されたオーストラリアのロマンティック・コメディ。日本では劇場公開はおろかDVD化もなく、ジャックマンの日本での人気と知名度と、日本人女性にも十分受け入れられるラブコメであることを踏まえると、せめてDVD化されてもよかっただろうにとその点が残念。公開当時31歳というジャックマンの年齢は銀幕デビューということでは少々遅咲きなようにも思われるが、ジャックマンはそれ以前に大作ミュージカルやテレビドラマで主要キャラクターを演じて俳優としての実績を積み、既に本国オーストラリアではそれなりの知名度があったし、映画デビュー初年度に2本もの主演作が封切られたのだから立派だといえるだろう。
ジャックマンの相手役で対する主演女優には、20年以上の長きにわたり全豪テレビドラマ界で“最も高視聴率を弾き出せる女優”として不動の人気を誇るクローディア・カーヴァン(「ストレンジ・プラネット」「月に願いを」「ザ・ハートブレイク・キッド」)。その異名が示す通り、どちらかというとテレビドラマでの活躍がメインとはいえ、全豪映画界で最も権威あるオーストラリア映画テレビ芸術アカデミー(AACTAの頭文字から“アークタ”と呼ばれる)賞と、名称がAACTA賞に変わる以前の旧オーストラリア映画協会(AFI)賞では1987年に初めて助演女優賞候補となって以来、実に30年以上、ほぼ毎年のようにノミネイトされ(劇場映画部門だけでも主演または助演女優賞候補となったこと過去7回!)、映画部門での受賞経験はないがテレビドラマ部門では現在までに4度主演女優賞受賞に輝いている。本作でも映画界ではまだ新人だったジャックマンより先に名前がクレジットされるトップ・ビリングを飾った。ハリウッドから声がかからなかったはずはないのだが、「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐(Star Wars: Episode III – Revenge of the Sith)」(2005)のソーラ・ナベリー役と、イーサン・ホーク主演の米豪合作SFホラー映画「デイブレーカー(Daybreakers)」(2010)のヒロイン、オードリー役以外、ハリウッドには一切興味を示さず一貫してオーストラリア国内で女優業を続けている(それら2作品のカーヴァン出演のシーンが撮影されたのもオーストラリア)。
ともに主演のヒュー・ジャックマンとクローディア・カーヴァン

タイトルにある“ペイパーバック”とは、英米やオーストラリアにおける薄めの厚紙の表紙に中面もザラザラした安い紙質の本のことで、サイズや装丁は異なるが日本でいうところの文庫本のような存在といえるだろう。本作で登場するように、いわゆるロマンス小説がペイパーバックの代表的なジャンルとして知られる。
ブリスベンとシドニーで撮影が行われた本作、とある田舎町にジャック(ジャックマン)とその親友ヘイミッシュ、そしてヘイミッシュの婚約者ルビー(カーヴァン)という3人の幼馴染がいて、実はジャックはルビーのことが密かに好きで…という分かりやすい展開のラブコメだ。全盛期のメグ・ライアン作品のように洗練されてはいないが、そこがまたオージー映画らしくて好ましい。実際、冒頭の30分は辺鄙な田舎町で生まれ育った3人の素朴な若者たちの物語といったところ。ちなみにジャックマンは本作の翌年に「X-メン」(2000)で華々しくハリウッドに進出、そのさらに翌年にはNYを舞台にしたラブコメ「ニューヨークの恋人(Kate and Leopold)」(2001)でロマンティック・コメディの女王メグ・ライアンの相手役として共演している。
ジャック(ジャックマン)に説得され、本当はジャックが書いたベスト・セラー恋愛小説の作者になりすますルビー(カーヴァン)

軽いタッチのラブコメなのでジャックマンもカーヴァンも唸るような演技力を感じさせるわけではないが、カーヴァンは婚約者がありながら徐々にジャックに引かれていくルビーの心の移り変わりを自然体の演技で見せる。前半では服装や仕草などいかにも田舎町のお転婆娘がそのまま大人になったオージー女性といったラフな雰囲気だが後半、舞台がシドニーに変わってのパーティのシーンでは真っ赤なパーティ・ドレスに身を包み、もともと非常に化粧映えする目鼻立ちの整った美人であることが分かる。

対するジャックマンも、例えばパブのカラオケで下手な歌をルビーとデュエットするシーンのジャックの演技は見事に自然、というのも前述の通りジャックマンはもともとミュージカルの舞台経験豊富だから本来は抜群の歌唱力を誇るのだ。

唯一、ジャックの親友でありルビーの婚約者でもあるヘイミッシュ役のアンドリュー・S・ギルバート(「キス・オア・キル」)は、田舎・都市部を問わずオーストラリアのどの町にもいそうなちょっとイケてないごく普通の青年という点では自然なのだが、ジャックマンとカーヴァンが美男美女なせいもあってかその二人を含む三角関係の渦中にいる一人として少々インパクトに欠けるだけでなく、その設定そのものに違和感がある。しかしながら本作で唯一、第41回AFI賞にノミネイトされたのがギルバートの助演男優賞のカテゴリーだったから、そこらへんはあまり斜に構えず楽しむべきなのだろう。ほか、「ミュリエルの結婚」(1994)でヒロイン、ミュリエルの母親役を演じAFI賞助演女優賞にノミネイトされたジーニー・ドライナンが田舎町のレストランのスタッフ、スージー役、アンジー・ミリケン(「デッド・ハート」)がシドニーからやってくる出版社のズィギー役で登場している。さらに、こちらは1シーンだけの、それもチョイ役中のチョイ役にすぎないが、ルビーとジャック、ズィギーがテレビ番組の収録スタジオへ向かう途中、廊下で「あと1分で本番だよ」と声をかける番組スタッフ役に本作と同じ1999年の劇場映画デビュー作「ソフト・フルート」でAFI賞主演男優賞を受賞したラッセル・ダイクストラ(「ディア マイ ファーザー」「ケリー・ザ・ギャング」「ガレージ・デイズ」「ランタナ」)が顔を出している。
前述の通り非常に分かりやすいストーリー展開で、ルビーとジャックの関係がどうなるのかハラハラさせられることもないが、その分、安心して観ていられる素敵な恋物語をご堪能あれ。
【余談】記者はクローディア・カーヴァンに何度か会ったことがある。会ったといってもいずれも映画関係者のパーティだったので、短い会話を交わしただけだが、映画やドラマで見るまま、とてもフレンドリーな女性だった。
【セリフにおける英語のヒント】ルビー(クローディア・カーヴァン)が小型飛行機を操縦していてジャック(ヒュー・ジャックマン)のトラックすれすれの高さでわざと通り過ぎた時、危うく激突かと思ったジャックが「バガー!(Bugger)」と叫ぶ。別のシーンでは天井からの雨漏りの水を受けるために鍋を置いていたルビーが、水が溢れていたのをうっかり忘れて同じく「バガー」と言う。英豪のスラングで前者はFワードに準じる罵り言葉、後者は「しまった」といった軽い意味だが、アメリカではバガーという言葉は一般的ではない。
STORY
オーストラリアの辺鄙な田舎町の大型トラック運転手ジャック(ヒュー・ジャックマン)が書いた恋愛小説が出版されベスト・セラーとなったはいいが、ジャックはロマンス小説の作者が実は男だとバレるのが恥ずかしくて、親友ヘイミッシュ(アンドリュー・S・ギルバート)の婚約者でジャックにとっても幼馴染であるルビー(クローディア・カーヴァン)の名前を作者名として勝手に拝借していた。そこへシドニーから(本当はジャックが書いた)本の出版社のズィギー(アンジー・ミリケン)がやってきて、何も知らないズィギーはルビーに本のプロモーションのためにぜひシドニーへ来るようにと説得し…。
「ペイパーバック・ヒーロー」予告編


