
※2025年10月13日更新
「ケニー」
原題:Kenny
(オーストラリア2006年公開、日本未公開/100分/M/モキュメンタリー・ヒューマン・コメディ/DVD、Stan、Amazonプライム、Apple TVで観賞可能なほか、Plexで全編無料配信!→ watch.plex.tv/movie/kenny)
監督:クレイトン・ジェイコブソン
出演:シェイン・ジェイコブソン/イヴ・フォン・ビブラ/ロナルド・ジェイコブソン
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野外フェスをはじめとした大規模な屋外イヴェントがポピュラーなオーストラリアではお馴染みの、移動式の仮設トイレを手配・設置する会社の現場マネジャーである主人公ケニーの姿を描いた2006年公開のヒューマン・コメディ映画。完全フィクションなのだがドキュメンタリーのようにケニー役のシェイン・ジェイコブソンがカメラ目線で語りかける手法もふんだんに取り入れた“モキュメンタリー”で、主演のシェイン・ジェイコブソンが実の兄弟であるクレイトン・ジェイコブソンとともに脚本も手がけ、クレイトンが監督、仮設トイレ業界というユニークな発想の設定もウケ、全豪映画界において最も権威ある第48回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では作品、監督、脚本、編集、主演男優、助演男優賞(ケニーの父親役のロナルド・ジェイコブソン)の主要6部門にノミネイトされ、シェインが見事主演男優賞を受賞した。
ケニー役でAFI賞主演男優賞を受賞したシェイン・ジェイコブソン

それまでスタンドアップ・コメディや法人パーティのMC、はたまた公開録画番組の、それも実際の収録ではなく収録が始まる前に観客を盛り上げるウォーミングアップ担当のMCにラジオの仕事など、地味な活動がメインだったシェイン・ジェイコブソンが36歳にして初めてメインストリームで一躍脚光を浴び、2年後の08年にはスピンオフの連続ドラマ「ケニーズ・ワールド」も製作され、そちらもクレイトン・ジェイコブソン監督の下、シェインがケニー役で出演したほか、シェインはオスカー受賞の「ドライビングMissデイジー」で知られるブルース・ベレスフォード監督の「しあわせの百貨店へようこそ」(2018)やこちらもオスカー女優ケイト・ウィンスレット主演の「リベンジャー 復讐のドレス」(2015)などのオーストラリア映画にも起用され、2019年からは人気の公開オーディション番組「オーストラリアズ・ゴット・タレント」の審査員としてもお馴染み。トイレ業者の役を演じた初主演作「ケニー」によって、まさしく大いに“ウン”が付いたということだろう。

映画の前半では野外ロック・コンサートをはじめとするさまざまなイヴェントに仮設トイレとともに移動するケニーの日常生活が描かれ、興味深いことには代わりはないが、この世に数ある職業の中でも“汚れ役”の最たる仕事に従事するケニーに同情したくなるほど。各イヴェントに際して何台の仮設トイレが必要かといった見積もりの電話では、アルコールはもちろん「スパイシーな料理は会場で販売されますか?」という点も確認し(辛いものを食べるとお腹が“そうなってしまう人”も多いということ)、特に若者の参加者がメインのイヴェント当日は野外フェスにはつきものの酔っ払いも大勢いる中での仕事に加え、やはり悪ノリした酔っ払いに商売道具のトイレを壊されたり、はたまた指輪を便器の中に落としてしまったという女性もいたりして、落とし物に関してまではケニーの仕事の責任外だから「あっそう、お気の毒様」で済ませることも可能なのに、親切にも自らその指輪を汚物の中から見つけてあげたりもする(物語全体のテーマからしてさすがに食事中に観たい映画ではないが、実際に汚物が画面に映り込むシーンは一切ないのでその点はご安心を)。
オーストラリアで最も知名度の高い競馬イヴェント「メルボルン・カップ」で着飾った来場客から文句を言われるケニー。「メルボルン・カップ」については後述の【映画に登場する実在のイヴェントあれこれ(その2)】に説明

ケニー役のシェイン・ジェイコブソンは21世紀の現代ではまだおじさんの部類にも入らないはずの実年齢30代半ばの若さにして、絵に描いたようなビールっ腹のいかにものオージーのおじさんで、話すのもコテコテのオージー・イングリッシュ、とリアリティはあるが、この映画に、そしてケニーに救いはあるのか?と気の毒になる。
幸いなことに“救い”はちゃんと用意されていた。ケニーがアメリカで開催される“トイレ・エキスポ”に参加するため渡米するのだ。初めて乗る飛行機の機内でちゃっかり女性CAのジャッキーと仲良くなり、現地でデイトまでしちゃう。そうこなくっちゃだ! 大変なのは分かるが汚物まみれの人生だけを見せられてもウンザリなのだ。というわけで、それまでただのおじさんにしか見えなかったケニーは中盤以降、俄然魅力的になる。ジャッキーからホテルの部屋に電話をもらったケニーは、社用でビジネス・クラスでのフライトだったため、ジャッキーが自分のことを金持ちだと勘違いしているのではないかと不安になる。昔ほどではないとはいえ、なんといっても相手は花形職業のCAだ。初めての海外で2日もジャッキーとデイトするわりにはケニーはオクテというか紳士であり、2日目のデイトの最後にジャッキーがそれとなく誘ってきても、翌日また会う約束をしてそのまま彼女をホテルへ送り届けるだけ。うーん、じれったいが、いいヤツじゃないか! 後半はもう、トイレのことなんかどうでもいいから、ジャッキーとどうなるのかだけが気になる映画だ。
ジャッキー役のイヴ・フォン・ビブラは日本人にはほとんど知られていないがもともとは歌手で、1980年代後半にシャントゥージーズというオーストラリアの4人組女声グループのメンバーのひとりとして2枚の全豪トップ10ヒット・シングルと1枚の同トップ10アルバムを放った。本作出演時は40歳という実年齢そのまま、決してすこぶる若いわけではないし、目を見張るような美貌の持ち主というわけでもないが、それが逆にリアリティをもたらし、また、最初からケニーの職業を知りながらもケニーの人間味ある優しい人柄に引かれるジャッキーという女性はそれだけで十分、魅力的だし、そんなジャッキーを自然な演技で好演。イヴ・フォン・ビブラも本作の続編の連ドラ「ケニーズ・ワールド」に同じ役柄で再出演した。
初めて乗った飛行機の機内でケニー(シェイン・ジェイコブソン)はCAのジャッキー(イヴ・フォン・ビブラ)と知り合い渡航先でデイトする

クレイトン・ジェイコブソンは監督だけでなく、ケニーの兄弟デイヴィッド役で俳優としても出演、さらには二人の実の父ロナルド・ジェイコブソンが父親役、そしてクレイトンの息子でシェインの甥に当たるジェシー・ジェイコブソンがケニーの息子役というから、これほどリアリティのあるキャスティングも滅多にないだろう。ロナルド・ジェイコブソンがまたいい味を出していて、どちらも大柄なケニー&デイヴィッド兄弟とは対照的に痩せ型で小うるさく神経質な父親といった役どころが非常に説得力があり、受賞は逸したとはいえ同年度AFI賞助演男優賞候補になったのもうなずける。
ケニーの息子役を演じるのはシェイン・ジェイコブソンの実の甥のジェシー・ジェイコブソン

そのほかの脇役では、ケニーの父親が入院する病院の男性看護師役に、オージー女優ジャッキー・ウィーヴァーが最初の米アカデミー助演女優賞候補となった2010年のオーストラリア映画「アニマル・キングダム」で監督デビューしたデイヴィッド・ミショッドが扮していて、これがなかなかのイケメン。さらにイヴェント客のひとりというチョイ役でダミアン・ウォルシュ・ハウリング(「イースト・ウエスト101 ②」「マクベス ザ・ギャングスター」「ケリー・ザ・ギャング」「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラフェル・イン・ヒズ・ハンド」)も登場。
ケニーとその父、そしてケニーと息子との間柄も、前半では父親からも息子からも自身の仮設トイレ会社の現場マネジャーという汚れ仕事を恥ずべきものと見なされているような半ば冷ややかな親子関係が描かれるが、後半では両者ともにケニーと彼の仕事に対する見方を変える、ちょっぴりジーンとさせられるシーンもある。どんな仕事であっても“職業に貴賎はない”という、当たり前のことだがつい現代人が忘れがちな大切な何かを改めて教えてくれる心温まるヒューマン・コメディとしておすすめ。
【映画に登場する実在のイヴェントあれこれ(その1)】ケニーがアメリカでのトイレ・エキスポに参加した際、華やかかつ広々とした会場で、幼かったころに父親が毎年連れて行ってくれたというロイヤル・メルボルン・ショウを懐かしく思い出すモノローグが入る。正確にはメルボルン・ロイヤル・ショウ(だが本作のように「ロイヤル・メルボルン・ショウ」という名称もまかり通っている)は1848年に始まった大規模な農業祭で、毎年9月にメルボルンで開催。メルボルンが州都であるヴィクトリア州の多数の農家が参加、期間中は連日、動物の品評会や同コンテスト、農作物の展示販売などさまざまな催しが行われ、遊園地のような各種乗り物に子供用福袋の販売もありオージーたちに大人気のファミリー・イヴェントだ。シドニーにも毎年イースターの時期に開催される、規模・内容ともに非常によく似たイヴェント「シドニー・ロイヤル・イースター・ショウ」がある。
【映画に登場する実在のイヴェントあれこれ(その2)】映画のクライマックスに登場する競馬イヴェントは1861年に始まったオーストラリア国内でも最も知名度の高い、毎年11月の第1火曜日にメルボルンで開催される「メルボルン・カップ」。この日はメルボルンが州都であるヴィクトリア州は祝日で、メルボルンの会場だけでなく全国的に、競馬観戦用に着飾った男女(特に女性は帽子のデザインを競い合う)が街中に溢れお祭り騒ぎとなり、その日は仕事というオフィス勤務の人たちも、午後に始まるレイスに合わせて業務終了となり、会社側がアルコール類を含むドリンクや軽食を用意して社員全員、社内のテレビモニターで観戦しながら歓談するという光景も珍しくない。
【映画に登場する実在のイヴェントあれこれ(その3)】映画の中にゲイ・パレイドが出てくるシーンを、世界的に有名な「シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディ・グラ」と勘違いする人もいるだろうが映画の舞台はシドニーではなくメルボルンなので当然マルディ・グラとは別物。だが本作はオーストラリア映画だから「マルディ・グラの国ですよ」とアピールし海外の観客に親近感を持ってもらう意味では効果的な挿入シーンだといえるだろう。
STORY
メルボルンの仮設トイレ会社の現場マネジャー、ケニー(シェイン・ジェイコブソン)は、今日も野外イヴェント会場で仕事。別れた妻は自分の都合で勝手に予定外の日に息子を預けにくるし、実の父のもとを作業着姿で訪れると「汚いから着替えろ」と言われ、やはり仕事帰りに作業服のまま直行した兄弟のバースデイ・パーティでは「場所柄をわきまえろ」と追い返される始末。そんなある日、会社の命を受け米ナッシュヴィルで開催されるトイレ・エキスポに参加することになったケニーは、生まれて初めて乗る飛行機で、フライト中に壊れてしまった機内のトイレを直したことをきっかけに、CAのジャッキー(イヴ・フォン・ビブラ)と仲良くなり、出張先のナッシュヴィルでのデイトにこぎつけ…。
※映画「ケニー」はPlexで全編無料配信!→ watch.plex.tv/movie/kenny
「ケニー」予告編


