
※2025年12月19日更新
「エイミー」
原題:Amy
(アテネ国際映画祭で1997年ワールド・プレミアの後、オーストラリア1998年、日本1999年公開/104分/MA15+/ドラマ/DVDで観賞可能)
監督:ナディア・タス
出演:レイチェル・グリフィス/ベン・メンデルソーン/アラーナ・デ・ローマ/ニック・バーカー/サリヴァン・ステイプルトン
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耳が不自由な8歳の少女エイミーとその母タニヤと、同母子が住む家の近所の住人たちとの触れ合いを通して描かれる心温まるヒューマン・ドラマ。日本でも劇場公開されただけでなく主題歌が学習塾・公文式のCMソングに起用されたことにより日本でもサントラ盤まで発売された珍しいオーストラリア映画で、タイトル・ロールのエイミーを撮影当時、映画の中の設定年齢と同じ8歳だったアラーナ・デ・ローマが、タニヤ役に本作の3年前の「ミュリエルの結婚」(1994)で全豪映画界において最も権威あるオーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)助演女優賞を受賞してハリウッドに進出、本作の翌年の「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ(Hilary and Jackie)」(1998)で米オスカー助演女優賞候補となるレイチェル・グリフィス(「トエンティマン・ブラザーズ」「ハーモニー<1996年版>」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!))が扮し、第40回AFI賞で主演女優賞(グリフィス)と脚本賞にノミネイトされた。オージー女性監督ナディア・タスと、実生活でのタスの夫で本作の脚本と撮影監督を務めたデイヴィッド・パーカーの2人が共同プロデューサーとして11年の構想期間を経て映画化。
タニヤ(レイチェル・グリフィス)とエイミー(アラーナ・デ・ローマ)母子

エイミーは生まれつき耳が不自由なわけではなく、4歳の時に目の前で人気ロック・スターだった最愛の父が感電死するというショックから耳が聞こえなくなり、しゃべることもできなくなってしまうが、物語が進むにつれ、メロディのついた“歌声”なら聞き取れ、自らも歌うことができる事実が分かる。従ってエイミーと“会話”したければ文章にメロディをつければいいわけで、エイミーも歌でそれに答える。歌うシーンでのデ・ローマの歌声が、8歳の少女のそれとは思えないほど上手くて驚き(デ・ローマは本作のほかはディズニー映画「リトル・マーメイド」アニメ版のサントラが再販された際にオーストラリア盤のボーナス・トラックを歌った程度で、大人になってからは歌手としても女優としても大成するには至っていないのが残念)。
アラーナ・デ・ローマ

加えて、エイミーの亡き父でタニヤの夫だったロック・スター、ウィル役に実生活でも全豪音楽界で中堅ミュージシャンのニック・バーカーを起用したのも説得力があり、バーカーはデ・ローマとデュエットした主題歌を含む数曲を本作のために書き下ろし、こちらも映画の中で歌っている。本作では熱狂的な追っかけファンも大勢いるスーパースターとして描かれているが、実際のバーカーは1988年のデビュー以来、シングル1枚とアルバム2枚がかろうじて全豪トップ40入りした程度でオーストラリア人の間での知名度もさほどないものの、現在に至るまで地道に音楽活動を続けている。
スーパースターの妻だったのが一転、亡夫のレコード会社に裏切られウィルが稼いだはずの莫大な印税を一銭ももらえず、エイミーとともに労働者階級の居住区に住むことを余儀なくされたタニヤ役のレイチェル・グリフィスも素晴らしい。家の外では見るからに“強い女”だが、エイミーに対してはちゃんと愛情を注ぐ優しい母親で、この母親と一緒ならエイミーも大丈夫なはず、と見ていて安心できる。
夫亡き後、シングルマザーとして一人娘のエイミーを愛情を持って育てるタニヤ役でAFI賞主演女優賞候補となったレイチェル・グリフィス

タニヤ母子のご近所さんたちも、全員が個性的かつ魅力的で、そのあたりの設定は日本の“下町人情モノ”にも通じる。まずは母子の家の目の前に住む売れないミュージシャンで、エイミーが実は歌声が聞こえることに最初に気づくロバート役のベン・メンデルソーン(「アニマル・キングダム」「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男<Darkest Hour>」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)がタニヤとエイミーに続く準主役級の重要な役どころを演じる。レイチェル・グリフィスとベン・メンデルソーンは本作の前年の別のオージー映画「ハーモニー<1996年版>」で同棲中の恋人同士役で共演歴があり、本作でもお互い徐々に引かれ合っていく男女という役柄をごく自然に演じている。
タニヤとエイミー母子の家の目の前に住む売れないミュージシャン、ロバート(ベン・メンデルソーン)


ロバートと一緒に住んでいる彼の妹でいつもヒステリックなアニー役のスージー・ポーター(「ベター・ザン・セックス」「ウープ・ウープ」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)も、今でこそ落ち着いたクールな女性キャラ役が板につく女優になったが20代だった当時はこういう少々クレイジーでカッ飛んだキャラがハマり役だったし、エイミーと同世代の少年ザックの母親でタニヤと親しくなるサラー役にケリー・アームストロング(「ランタナ」)、サラーの夫でアルコール依存症の暴力亭主ビル役にウィリアム・ザッパ(「デッド・ユーロップ」「ザ・レイジ・イン・プラシッド・レイク」「タップ・ドッグス」「ヘッド・オン!」)が扮している。また、車の整備工の若者2人組のうちウェイン役には後年ハリウッドに進出し「300〈スリーハンドレッド〉〜帝国の進撃〜(300: Rise of an Empire)」(14)で主役の座を射止めることになる、だが本作公開当時はまだ無名に近かったサリヴァン・ステイプルトン(「アニマル・キングダム」)が起用されている点にも注目。ちなみにスージー・ポーターは日本でもオンエアされたオーストラリアの連ドラ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」シーズン6から8(2017〜2021)まで囚人マリー・ウィンター役でレギュラー出演した。
ご近所さん以外のチョイ役では前半の田舎の医師役で名脇役俳優のチャールズ‘バット’ティングウェル(「ザ・キャッスル」「英雄モラント/傷だらけの戦士」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)、タニヤの亡夫ウィルのバンド仲間のひとりに俳優であるだけでなくコメディアンとしても人気のキム・ギンゲル(「マクベス ザ・ギャングスター」「トエンティマン・ブラザーズ」「ザ・ウォグ・ボーイ」「クライ・イン・ザ・ダーク」)が顔を出している。
撮影は全編ヴィクトリア州メルボルンを中心に行われ、メルボルンの有名な街並みがあちこちに出てくる。未亡人となって4年のタニヤとロバートの関係は、もう一歩踏み込んだところまで描かれてもよかっただろうが、まるでエイミーの父が死んだ時と同じような野外ロック・コンサートのクライマックスへと向け映画は盛り上がる。エイミーの耳が聞こえなくなったのは、実は父親が自分の目の前で感電死するのを見たショックからだけではなかったこともクライマックスでは分かる。心を閉ざし、耳を閉ざしたエイミーに、以前と同じように普通に人の話し声が聞こえる日はくるのだろうか。押し付けがましくない感動のラストに、自然な涙が溢れ、そしてじんわりとした温かさが胸の中に広がっていくはず。
【映画に登場する実在のオージー・ブランド】エイミーの家で一緒に遊んでいたザックを夜、仕事帰りのザックの母サラーが迎えに来るシーンでサラーが手にしているビニール袋に記載されているロゴは1972年創業のオーストラリアのチキン専門のファスト・フード・チェイン、レッド・ルースター(Red Rooster)のもので、おそらくザックと食べる夕食として買ってきたのだろう。
STORY
8歳のエイミー(アラーナ・デ・ローマ)は4年前、ロック・スターだった父ウィル(ニック・バーカー)が雨天の野外コンサートの最中、自分の目の前で感電死するのを見たショックから以来、耳が聞こえなくなり、未亡人となった母タニヤ(レイチェル・グリフィス)とともに母の父でスペイン系移民の祖父の田舎のファームで暮らしている。4年前まで普通に会話ができたことからエイミーを障害児専用の学校に入れることを拒むタニヤは、しつこい児童保護団体役員たちにうんざりし、エイミーと長距離バスに乗ってメルボルンへ向かい、労働者階級の居住区で新たな生活を始める。ある日、2人の家の目の前に住む売れないミュージシャン、ロバート(ベン・メンデルソーン)が玄関ポーチでギターの弾き語りをしていると、耳が聞こえないはずのエイミーがなぜか吸い寄せられるようにロバートに近づいていき…。
●ベン・メンデルソーン出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「美しい絵の崩壊」「アニマル・キングダム」「オーストラリア」「サンプル・ピープル」「シークレット・メンズ・ビジネス」「エイミー」「ハーモニー(1996年版)」「泉のセイレーン」「君といた丘」
●レイチェル・グリフィス出演のその他のオージー映画:「ケリー・ザ・ギャング」「トエンティマン・ブラザーズ」「エイミー」「ウープ・ウープ」「ハーモニー(1996年版)」「ミュリエルの結婚」
●スージー・ポーター出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「しあわせの百貨店へようこそ」「パルス」「イースト・ウエスト101 ① ② ③」「リトル・フィッシュ」「タップ・ドッグス」「ベター・ザン・セックス」「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」「エイミー」「ウープ・ウープ」
●チャールズ‘バッド’ティングウェル出演のその他のオージー映画:「ジンダバイン」「ザ・ウォグ・ボーイ」「ザ・クラック」「エイミー」「ザ・キャッスル」「クライ・イン・ザ・ダーク」「ウインドライダー」「英雄モラント/傷だらけの戦士」
「エイミー」予告編


