世界一有名なキャラクター「デイム・エドナ」逝去/バリー・ハンフリーズ(1934〜2023)

 オーストラリア人コメディアン俳優のバリーハンフリーズが4月22日シドニーのセントヴィンセント病院で家族に見守られる中安らかに息を引き取った。89歳だった。昨年8月に亡くなったオリヴィアニュートンジョンと並びオーストラリア芸能界を代表する大御所中の大御所だったバリーハンフリーズを偲んでハンフリーズと彼が生み出したキャラクターデイムエドナについて紹介したい。

デイム・エドナ・エヴァレッジ
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2バリー・ハンフリーズ

 バリー・ハンフリーズは1934年、メルボルンで生まれた。メルボルン大学で法律と哲学、芸術を学んでいた学生時代からキャンパス内での公演で歌やコメディ・スケッチを自ら書いて演じており、大学卒業後は当時設立してまだ間もなかった劇団メルボルン・シアター・カンパニーに入団した。彼が生み出した女性キャラ、デイム・エドナ・エヴァレッジが初めて登場したのは1955年、つまりハンフリーズがまだ21歳だった時のことで、それが大いにウケ、以降は時にバリー・ハンフリーズとして、そして時にデイム・エドナとして活動するようになった。女装キャラで売れたハンフリーズだが実生活ではストレートで生涯に4度結婚、4人の子供をもうけた。

 一俳優/コメディアンが生み出したキャラ自体が一人歩きする形で有名になった珍しいパターンだといえる。例えば故・志村けんのバカ殿様なども有名なキャラではあるが、あくまでも番組の中のコーナーのひとつとして演じられていただけだったのに対し、デイム・エドナは60年代にはイギリスにも進出し大成功を収めたばかりか、80年代から90年代にかけてはデイム・エドナの名を冠したテレビトーク番組まで持つに至り、番組では最初から最後までデイム・エドナとして番組ゲストにインタヴューしていた。日本でも人気を博したアメリカの連ドラ「アリーmy Love(Ally McBeal)」第5シーズン(2001〜2002)のクレア役をはじめデイム・エドナは世界各国の映画や連ドラにも数知れず出演、アニメなどのキャラを除いて“生身の人間キャラ”としてはイギリスのMr.ビーンと並んで世界一有名だと言っても過言ではないだろう(※デイム・エドナ出演の2012年公開のオーストラリア映画「キャス&キムデレラ」をジャパラリアが紹介したブログ記事はこちら!)。

“デイム”というのは英国に貢献した女性に対し君主である国王や女王から与えられる準貴族(文字通り貴族に準じる位)の称号で、男性の“サー”の女性版である。というわけで、デイム・エドナは「(シドニーが州都である)ニュー・サウス・ウェールズ州ワガ・ワガの小さな町出身のごく平凡な主婦だったのだが、なぜかその後メガ・スターになり、当時の英国君主エリザベス女王からデイムの称号を授与され、女王ともごく親しい友人になった」という。もちろんこれらすべて“自称”なのだが、自身の夫や子供などの“家族構成”を含み、非常に細かいディテイルをテレビに登場するたびに一度も間違えることなく毎回ちゃんと辻褄を合わせたため、単なるキャラにすぎなかったデイム・エドナという女性が、しかもこれほど現実離れした奇抜なルックスであるにもかかわらず次第に現実味を帯び、それが彼女の人気の定着に繋がった。

 準貴族としてのプライドも高く、従って彼女のトーク番組ではどんなに人気のハリウッド・スターもデイム・エドナより格下という扱いを受けたが、これがスターたちにも大ウケ。有名女優のゲストにいきなり「あなた私が誰だか知ってるかしら?」と尋ね、その女優が「ええ」と答えると、「あらそう、悪いけど私はあなたのこと知らないわ」といった具合。全盛期のメル・ギブソンや晩年のチャールトン・ヘストンといった大御所中の大御所まで、普段ヴァラエティ番組には絶対に出ないスターたちもデイム・エドナの番組には喜んで出演し、喜んでデイム・エドナにイジられた。

 天国でバリー・ハンフリーズは、いやデイム・エドナは、昨年相次いで亡くなったエリザベス女王やオリヴィア・ニュートン・ジョンと仲良くお茶を飲んでいることだろう。

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●レストラン取材:スシトレイン・ローズ・ベイ店