ラッセル・クロウがゲイの青年役に挑んだ話題作「人生は上々だ!」

poster「人生は上々だ!」

The Sum of Us

(オーストラリア1994年公開、日本DVDソフト化/100分/M15+/ゲイ・コメディ・ドラマ)

監督:ケヴィン・ダウリング/ジェフ・バートン
出演:ラッセル・クロウ/ジャック・トンプソン/ジョン・ポルソン/デボラ・ケネディ

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 ラッセル・クロウ(ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印ブライズ・オブ・クライスト」)がハリウッド進出作「クイック&デッド(The Quick and the Dead)」(95)の前年に主演したオーストラリア映画。その後オスカー受賞へと至るクロウの輝かしいヒット作の数々に埋もれて本作自体の知名度は低いが、クロウが説得力あるゲイのキャラクターに挑んだ意欲的な作品として高く評価されている。本作が公開された94年はオーストラリア映画界がかつてないほどの盛り上がりを見せた年でもあり、世界的な人気を博した「プリシラ」と「ミュリエルの結婚」が公開され、うち「プリシラ」もゲイ映画だったこともあってか、非常に派手なこれら2作品を前に、オージー作家デイヴィッド・スティーヴンス作のオフ・ブロードウェイ舞台劇の映画化で“小作”とも呼べる本作の影が薄くなってしまったのは残念。とはいえ同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では作品、助演男優(ジョン・ポルソン)、助演女優(デボラ・ケネディ)、音響、編集賞など6部門にノミネイトされ、脚色賞を受賞、海外の映画祭にも出品され、米クリーヴランド国際映画祭作品賞とモントリオール世界映画祭脚本賞を受賞した。全編シドニーで撮影され、オペラ・ハウスやシドニー湾とシドニー・フェリー、シティに隣接する広大な植物園、さらには同性愛者の祭典として世界的に名高いシドニー・ゲイ&レズビアン・マルディ・グラ最終日パレイドの様子は実際の映像もふんだんに使用されている。

父ハリー(ジャック・トンプソン)は息子ジェフ(ラッセル・クロウ)がゲイであることを最初から受け入れ親子二人、仲良く暮らす
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ラッセル・クロウ(右)の相手役で同年度豪アカデミー助演男優賞候補となったジョン・ポルソン
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ジャック・トンプソンの相手役のデボラ・ケネディも同年度豪アカデミー助演女優賞候補に
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 主要登場人物は、ゲイのジェフ(クロウ)、その父で男やもめのハリー(ジャック・トンプソン)、ジェフが思いを寄せるこちらもゲイのグレッグ(ジョン・ポルソン)、そしてハリーが恋人紹介所を通して知り合う中年女性ジョイス(デボラ・ケネディ)の4人だけ。いかにもオフ・ブロードウェイ舞台劇の映画化っぽいが、つまり、それだけ各登場人物が重要な役どころを演じるわけで、特にクロウとトンプソンはともに主役を分け合う存在でもあり、この2人が映画を観ている者にカメラ目線で語りかける、こちらも舞台劇によく見られる演出のシーンが何度も出てくる。

 上記4人、いずれも好演し、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)」(83)にも出演していた大御所男優ジャック・トンプソン(「オーストラリア」)とこちらもヴェテラン演技派女優デボラ・ケネディ(「マイ・マザー・フランク」「ティム」)に負けず劣らず、ゲイ役のクロウとポルソンも、実生活ではどちらもストレートだが自然な演技を見せる。2人のキス・シーンに、若かりし当時のクロウが全裸シーンで見せるプルンとしたお尻にも注目。ちなみにポルソンはその後、映画並びにTV監督としても才能を発揮、ロバート・デ・ニーロとダコタ・ファニング出演のスリラー「ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ(Hide and Seek)」(05)や本作で共演のラッセル・クロウ主演、ローラ・ダーン共演の「チェイシング/追跡(Tenderness)」(09)ほかを監督している。

ラッセル・クロウ(左)とジョン・ポルソンのキス・シーンにも注目!
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恋人紹介所を通して知り合ったハリーとの関係を応援してくれている娘ジェニー(レベッカ・エルマログロウ)に乙女のようにあれこれ話すジョイス(デボラ・ケネディ)
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 ゲイをテーマにした映画は、かつてはヴィスコンティ作品に代表されるようにもっぱら上流社会の華やかさを背景に描かれていたが、85年にイギリス映画「マイ・ビューティフル・ランドレット」が世界規模で大ヒットして以降、ごく普通の中流階級を舞台にしたものが目立つ。本作も例外ではなく、ジェフは配管工、ハリーはシドニー・フェリーの操縦士、グレッグは植物園のガーデナー、と全員絵に描いたような労働者階級で、逆にそこまでベタな設定の職業の人はかえって身近にいないものだったりするが、演技派俳優たちの説得力ある演技によって違和感なく感情移入させてくれる。

 本作の特筆事項は若いゲイ2人、中年男女2人、ストレートの父とゲイの息子の親子関係を描いただけでなく、ジェフの祖母、つまりハリーの亡くなった母がレズビアンだったという設定にもある。祖母が女性パートナーと一緒に暮らしていた家に子供時代のジェフが同世代の従兄弟たちとお泊まりに行くシーン、そして高齢化に伴い祖母とパートナーの女性がそれぞれの家族に引き取られ永遠に引き離されるシーンが白黒映像の回想シーンとして入り、それらが非常に効果的。ゲイ、レズ、ストレート、親子…いろんな人間関係が渦巻く中で、結局、愛し合う者同士が一緒にいることが一番幸せ、それさえあれば“人生上々”と呼べるのかもしれない。本作は日本では劇場公開されなかったが、日本でDVD化された際に付けられた、昔の松竹映画を思わせるような邦題もなんとなく分かるような、心温まる秀作だ。

 ちなみにゲイをテーマにしたそのほかのオージー映画に前述の「プリシラ」のほか、実話に基づいたヒューマン・ドラマ「ホールディング・ザ・マンー君を胸に抱いてー」(15)やミステリー・ドラマ「デッド・ユーロップ」(12)などもあり、機会があればそちらも観賞をおすすめ。

【余談】記者はラッセル・クロウと“会った”ことはないが、シドニーの街中で2度“遭遇”したことはあり、一枚だけ、ぼんやりとしか写っていないが記者自身がその際に撮影した証拠写真もありのラッセル・クロウ目撃談を紹介したジャパラリア公式YouTubeチャンネルのその投稿動画はこちら

【セリフにおける英語のヒント】ジェフ(ラッセル・クロウ)が自分の亡くなった祖母、つまりハリー(ジャック・トンプソン)の母親のことを指して“ダイク(dyke)”と例えると、ハリーが「お前のおばあちゃんはダイクではない! レズビアンだ」と怒るシーンがあり(※ダイクもレズビアンも同じ意味だがかつてはダイクは蔑称ととらえられていて、それがハリーが怒った理由)、それに対してジェフが「レズとダイク、どう違うっていうんだよ?(Lez or dyke, what’s the dif?)」と茶化す。“ディフ(dif)”は、“違い”を意味する“ディファレンス(difference)”を短縮したオージー・スラング。また、日本と同じように“レズビアン”を“レズ”と略すのもオージー流といえるかもしれない(※ただ、長年シドニーに住んでいる記者だがオージーの口から“レズ”という短縮語を聞いたことは一度もない)。

【シーンに見るオージー・ライフスタイル】その他のオージー映画にもよく見られるが、父ハリー(ジャック・トンプソン)がディナーを用意し、息子ジェフ(ラッセル・クロウ)と食べるシーンのメインの付け合わせはマッシュポテトとゆでたグリーンピース(ちなみにメインは冷凍のラザニア)、パンは普通の食パンがトーストもされていない状態で出されている。さすがに現在ではディナーで食べるパンが食パンという家庭は少なくなってきているが、現在でも普段の家での肉料理の付け合わせは90年代当時と似たり寄ったりである。

Story

 1990年代前半のシドニー。妻を亡くしたハリー(ジャック・トンプソン)は男手一つで一人息子のジェフ(ラッセル・クロウ)を育て上げ、成人したジェフがゲイだとカミング・アウトしたことも抵抗なく受け入れ、親子二人、仲良く暮らしている。ジェフはゲイ・バーでグレッグ(ジョン・ポルソン)と知り合い、二人は互いに引かれ合う。一方のハリーも恋人紹介所を通して離婚歴のある子持ちの中年女性ジョイス(デボラ・ケネディ)と出会い、こちらもデイトを重ね互いに引かれ会っていくが、大晦日の夜、初めて招かれたハリーの家で、ジョイスは無造作に置かれているゲイ雑誌の存在に気付き、ハリーがジェフはゲイだという事実をジョイスに告げられず黙っていたことにショックを受け…。

「人生は上々だ!」予告編

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