ラッセル・クロウ圧倒的存在感の出世作「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」

romper_stomper_poster1811ハーケンクロイツネオナチの刻印

Romper Stomper

(オーストラリア1992年公開、日本1994年ヴィデオ・ソフト化/94分/R18+/ドラマ)

監督:ジェフリー・ライト
出演:ラッセル・クロウ/ジャクリーン・マッケンジー/ダニエル・ポロック/ダン・ワイリー

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「グラディエーター」(01)でオスカー主演男優賞を受賞することになるラッセル・クロウ(「ブライズ・オブ・クライスト」)が「グラディエーター」の9年前に主演し、ハリウッド進出を果たすきっかけとなった出世作として名高い映画で、シェイクスピア作品の時代設定を現代に置き換えた「マクベス ザ・ギャング・スター(Macbeth)」(06)などのジェフリー・ライトが監督。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では作品、監督、主演男優(クロウ)、助演男優(ネオナチ集団のひとりを演じたダニエル・ポロック)、美術、衣装デザイン、編集賞など主要9部門にノミネイトされ、主演男優、音楽、音響賞の3部門受賞に輝いた。

 アングロ・サクソン系の若いスキンヘッドのオージーたちから成るネオナチのギャング集団とヴェトナム系移民たちの抗争を主軸に描かれるドラマで、撮影は全編メルボルンを含むヴィクトリア州で行われた。いずれもギャング仲間のクロウ、ポロック、そしてジャクリーン・マッケンジー演じる3人の主要キャラ以外では、「ミュリエルの結婚」(94)でヒロイン、ミュリエルの弟ペリー役だったダン・ワイリーがネオナチ集団の一人として登場。2018年には本作の25年後を描いた続編が連続ドラマ化され、映画版と同じジェフリー・ライトが監督、映画版で主要キャラの一人ゲイブを演じたジャクリーン・マッケンジーが同じ役柄で出演している。

左からラッセル・クロウ、ダニエル・ポロック、ジャクリーン・マッケンジー
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 ラッセル・クロウはもともとオーストラリアのお隣ニュー・ジーランド出身だが俳優としての初期の活動の場はもっぱらオーストラリアで、26歳の時の映画初主演作「ザ・クロッシング」(90)で早々に豪アカデミー主演男優賞にノミネイトされ、翌91年にはヒューゴ・ウィーヴィング主演の「プルーフ」でまずは助演男優賞を初受賞、さらに翌92年の本作で念願の主演男優賞受賞という輝かしい経歴を誇る。本作の強烈なインパクトによりオーストラリアでの俳優としての地位を不動のものにし、それがハリウッドへと花開いたわけだ。

 なるほど本作にはクロウの圧倒的な存在感と才能が全編に溢れており、作品自体も圧倒的だ。本作で豪アカデミー音楽賞を受賞したジョン・クリフォード・ホワイト作曲の、ズシンズシンと重くのしかかるような退廃的かつ荒涼としたサウンドトラックも効果的で、ちなみに2018年の連ドラ版もホワイトが音楽を担当した。暴力描写もかなりの迫力で描かれているが、目を背けたくなるような残酷なシーンはそれほどなく、大部分は純然たるドラマ作品である。クロウが演じるのはネオナチのギャング集団のリーダー格ハンドーで、偉そうにリーダーを気取ってはいても一人では何もできない弱い人間かつ負け犬であるハンドーをクロウは見事な説得力を持って体現している。

圧倒的存在感で豪アカデミー主演男優賞受賞のラッセル・クロウ
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 そんなクロウに匹敵する演技を見せるのが、ハンドーのガールフレンド、ゲイブ役のジャクリーン・マッケンジー(2018年版「ハーモニー」)だ。マッケンジーも本作で注目を集め、その後「ディープ・ブルー」(99)などでハリウッドにも進出。演技力もさることながら、本作出演時には既に25歳だったのにティーン・エイジャーかと思うようなあどけない顔立ちだったのが印象的。

ハンドーのガールフレンドとなるゲイブ(ジャクリーン・マッケンジー:左)
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 もう一人、ハンドーのネオナチ仲間でありつつハンドーの彼女ゲイブにほのかな恋心を抱くデイヴィー役のダニエル・ポロックも素晴らしい。ハンドーとは対照的に、デイヴィーは常にハンドーの顔色をうかがい、ややおどおどした青年にも見えるが、ハンドーが実は弱い人間であるのに対し、デイヴィーこそが男らしい強い意志を持っていることが映画の後半で分かるのも興味深い。

デイヴィー役で豪アカデミー助演男優賞候補となったダニエル・ポロック(左)
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 また、上記3人とも映画の中でドラッグをやるが、ポロックは実生活でもヘロイン中毒だったといい、本作の撮影中、本当にゲイブ役のマッケンジーに恋をしてしまい、その恋が報われないことを悟って本作の撮影がすべて終わった直後、走ってくる電車に身を投げて自殺してしまった。まだ23歳の若さだった。もしポロックが、完成した本作がいかに素晴らしいかを自分の目で観ていたら、そして本作によって初めて豪アカデミー助演男優賞にノミネイトされることを知っていたら、ドラッグ中毒も失恋の悲しみも乗り越えられたかもしれないと思うと非常に残念である。

 映画の中盤、デイヴィーはやっと想いが叶ってゲイブと一夜をともにする。激しく求め合った後、ゲイブが「I love you」と言うと、デイヴィーは消え入るような声で「I love you, too」と答える。ポロックがその後辿った運命を考えると非常に刹那的で、ポロックの切ない想いが観る者の胸を打つシーンだ。

【余談】記者はラッセル・クロウと“会った”ことはないが、シドニーの街中で2度“遭遇”したことはある。最初は日中、歩いていて信号待ちをしていたら、記者の真隣にジョギング中の男性が立ったのでふと横顔を見たら「うわあ! この人ラッセル・クロウに似てるなあ」と思った。信号が青になり男性はそのままジョギングを続けたが、屈強なアフリカ系の男性2人が同じくジョギングしながらその男性の後を追った。ボディガードと一緒にジョギングしていたあの男性は、間違いなくクロウ本人だったのだろう。2度目は夜、記者が友人と歩いていた時、奇遇にも最初に遭遇したのと同じ信号の角にあった、とあるポーク・バーガー・ショップのスタンドの外で、おそらくオーダーしたバーガーができるのを通りに立って一人で待っていた男性とすれ違った瞬間、友人と記者は顔を見合わせ「ラッセル・クロウだよね!?」となった。記者と友人は信号が青になって通りを渡ったのだが、「せめて握手してもらおうかなあ」と言う友人と通りの反対側からしばらくその男性を見ていたら、それに気づいたその男性がおもむろにサングラスをかけたのだ。夜だったので、あの状況でサングラスをかけたのは、こちらも間違いなくクロウ本人だったからだと確信している。

【セリフにおける英語のヒント(その1)本作のタイトルの原題“ロンパー・ストンパー(Romper Stomper)”とは、もともとはビーチで砂の城を作る際に使うごく小型のプラスティック製のビーチ・バケツ2つをひっくり返して1個ずつ上部に2個所の穴を開けて紐を通したものの上に乗り、右足のバケツの紐を右手に、左足の紐を左手に持ってパカパカと歩く竹馬の発想にも通じる子供の遊具のことで、スキンヘッドの若者たちがプラットフォーム・シューズと呼ばれる靴底の分厚い靴に金属を付けてジャラジャラ音を鳴らしながら歩くようになったことから転じて、スキンヘッドの若者たちのことをロンパー・ストンパーと呼ぶようになったオージー・イングリッシュ。

【セリフにおける英語のヒント(その2)ゲイブ(ジャクリーン・マッケンジー)が仲間たちのためにパスタ料理を作り、皆が美味しそうに食べるシーンで、ハンドー(ラッセル・クロウ)だけは明らさまに不機嫌で、「イタ公どものクソ飯!(Bloody wog crap!)」と叫んで皿を放り投げるセリフの“ウォグ(wog)”とはイタリア系やギリシャ系移民の多いオージー英語ならではのスラングで、地中海沿岸諸国や中東出身者に対する蔑称。複数形は“ウォグズ(wogs)”。ハンドーはアジア系だけでなくアングロ・サクソン系以外の人種すべてを憎悪しているという意味も含まれる。

Story

 メルボルンのネオナチ若者ギャング集団のリーダー、ハンドー(ラッセル・クロウ)は、仲間のデイヴィー(ダニエル・ポロック)たちとともに夜な夜なヴェトナム系移民をリンチして憂さ晴らしする毎日。アジア人だけでなく富裕層や権力者などに対しても憎しみの感情だけを持ち、ドラッグ、窃盗、暴力漬けの人生もすべて彼らのせいであると信じ込んでいる。やはりドラッグ漬けの少女ゲイブ(ジャクリーン・マッケンジー)も仲間に引き入れるが、ハンドーのガールフレンドとなったゲイブにデイヴィーはほのかな恋心を抱く。そんなある日、ハンドーたちに仲間をリンチされたヴェトナム系集団が、ハンドーたちをはるかに上回る多勢で反撃し…。

「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印」劇場予告編

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