ニコール・キッドマンがハリウッド進出の前年に出演したコメディ・ドラマ映画「最も危険な悪女(おんな)」

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※2026年1月9日更新

最も危険な悪女(おんな)」

原題:Emerald City
(オーストラリア1988年公開、日本1995年ヴィデオ・ソフト化/1時間32分/M/コメディ・ドラマ/DVD、Foxtel Goで観賞可能なほかABC iviewで無料配信!https://iview.abc.net.au/video/ZX0600A001S00

監督:マイケル・ジェンキンス
出演:ジョン・ハーグリーヴス/ニコール・キッドマン

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 全豪演劇界を代表する劇作家デイヴィッド・ウィリアムソン(1942〜)の最も有名な劇作品のひとつで、1987年にこちらもオーストラリア屈指の劇団シドニー・シアター・カンパニーによりシドニー・オペラ・ハウスで上演された同名舞台劇を映画化、翌1988年に公開されたコメディ・ドラマ。主人公の映画脚本家コリンが後に自分と脚本を共同執筆する相棒となるマイクの恋人と知らずに、またコリン自身にも妻子がいながら一目惚れするヘレン役に、後にオスカー女優となるハリウッド進出前年の21歳のニコール・キッドマン(「愛すべき夫妻の秘密<Being the Ricardos>」「めぐりあう時間たち<The Hours>」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が扮し、物語はコリン夫妻とマイク&ヘレンの2カップルを主軸に描かれる。全豪映画界で最も権威ある第31回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)において主演男優(コリン役のジョン・ハーグリーヴス)、助演女優(キッドマン)、脚色、撮影賞など5部門にノミネイトされ、マイク役のクリス・ヘイウッド(「キスオアキル」「ミュリエルの結婚」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が助演男優賞を受賞した。キッドマンは本作の2年前にAFI賞テレビミニ・シリーズ部門の最優秀女優賞を受賞しているが、劇場映画では本作が初のAFI賞候補となった。映画の中に何度か出てくる業界人の華やかなパーティのシーンはすべてシドニー市街地にある一流の劇場ステイト・シアターで、ほかも全編シドニーで撮影された。

映画脚本家としての再起を図るためにメルボルンからシドニーへ移住するコリン(ジョン・ハーグリーヴス)と妻のケイト(ロビン・ネヴィン)

コリンと共同執筆で脚本を書くことになるマイク(クリス・ヘイウッド)と、コリンがマイクの恋人とは知らず一目惚れするヘレン(ニコール・キッドマン)

 本作は日本では劇場公開されず、オーストラリアに遅れること7年後の1995年にヴィデオ・ソフト化され、その際に付けられた「最も危険な悪女(おんな)」という邦題はキッドマン演じたヘレンのことを指すが、ヘレンは危険でも悪女でもないし、そもそも映画のヒロインでもないからこじつけもはなはだしい。日本発売の2年前の1993年に「冷たい月を抱く女(Malice)」、日本発売と同じ1995年に「誘う女(To Die For)」、とどちらも邦題の最後に“女”が付く、そしてどちらも悪女役を演じたキッドマン主演のヒット映画に便乗しての苦しい邦題だった。本作で恋人同士役のキッドマンとクリス・ヘイウッドは実年齢に20歳近い年の差があり、ヘレンがマイクに囲われている愛人のように見えなくもない描写もあるが、ヘレン自身も報道番組の若手リサーチャーとして業界で真面目に働いているので、その意味でも男を利用してのし上がろうとする悪女では一切ない。

このショットの表情からは悪女っぽく見えなくもないがニコール・キッドマン演じるヘレンは悪女などではない

 邦題は的外れでも、映画自体は小気味良いテンポで進む会話を中心に、上記4人がそれぞれの胸の内を語るモノローグもふんだんに盛り込まれた、いかにも舞台劇を基にしたストーリー展開が楽しめる。主要キャラ4人中、キッドマン以外に日本でも知名度のある俳優はいないが、主人公コリン役のジョン・ハーグリーヴスは映画部門だけでも本作を含みAFI賞に6回ノミネイトされ、本作では受賞を逸したが主演2回、助演1回の実に3度の受賞に輝いた大スターである。実生活ではもともとは異性愛者だったが30代になってから同性愛に目覚め、残念ながらAIDSによる合併症で1996年、50歳の若さで他界した。シドニーで執り行われた彼の葬儀の際、祭壇から霊柩車まで棺を抱えて運んだ数人の中にはハリウッドでもその名を知られるブライアン・ブラウンとサム・ニールがいたことからも、ハーグリーヴスがいかに全豪映画界で多大な敬意を表される俳優だったかが分かる。

パーティで知り合ったマイク(クリス・ヘイウッド:左)に一緒に組んで脚本を書こうと言われたコリン(ジョン・ハーグリーヴス)

 4人以外では、まずコリンの妻ケイトが編集者として働く書籍出版社の上司役に、不朽の名作ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック(The Sound of Music)」(1965)のトラップ家の長男フリードリヒ役で知られる、アメリカ出身だが1980年代以降はオーストラリアを拠点にし米豪二重国籍を持つニコラス・ハモンド(「しあわせの百貨店へようこそ」「レイジインプラシッドレイク」)が、そしてコリンが自身の脚本を売り込もうとするやり手の女性映画プロデューサー、エレイン役には、本作公開の前年にまずシドニー・オペラ・ハウスで舞台劇として上演された際にも同じエレイン役で舞台に立った名舞台女優ルース・クラックネルが扮している。

全豪演劇界の名舞台女優ルース・クラックネルが本作の前年の舞台版で演じたのと同じ映画プロデューサー、エレイン役で出演

 余談だが本作は当初、オスカー作品賞と主演女優賞に輝く「ドライビングMissデイジー」(1989)のオージー名監督ブルース・ベレスフォードにオファーがかけられたが、本作の2年前に別の舞台劇をダイアン・キートン、ジェシカ・ラング、シシー・スペイセクという3大オスカー女優共演の下に映画化した「ロンリー・ハート(Crimes of the Heart)」(1986)を手がけたばかりだったベレスフォード監督は立て続けに舞台劇の映画化はやりたくないとオファーを断っている。結果、別のオージー監督マイケル・ジェンキンス(「ハートブレイクキッド」)が起用されたが、ジェンキンス監督作品で海外でも話題を集めた映画はマット・ディロン主演の「レベル・反逆者」(1985)がある程度でほかはもっぱらテレビドラマがメインのため、「ドライビングMissデイジー」が公開されたのは本作の翌年だが、ベレスフォード監督は既に「英雄モラント傷だらけの戦士」(1980)で仏カンヌ映画祭パルム・ドール候補に、ロバート・デュヴァルがオスカー主演男優賞を受賞し作品賞にもノミネイトされた「テンダー・マーシー(Tender Mercies)」(1983)でもオスカー監督賞候補になっていたから、天下のベレスフォードが本作を監督していたら、海外でももっと高く評価される名作になっていたかもしれないと思うと、その点のみ残念ではある。

【映画に登場の実在の映画賞】映画の冒頭に主人公コリンが1981年に「デイズ・オブ・ワイン&ウィットラム」という映画でAFI賞とオージー賞の最優秀脚本賞を受賞したという文字がそれぞれのトロフィーとともに出てくる。上記本文でも触れているAFI賞は全豪映画界で最も権威あるオーストラリア映画協会(Australian FIlm Institute)賞の略で1958年発足という歴史を誇り、2011年にオーストラリア映画テレビ芸術アカデミー(Australian Academy of Cinema and Television Arts)賞に名称が変更(AACTAの頭文字を取って“アークタ賞”と呼ばれる)。一方のオージー賞はオーストラリア人を指すオージー・スラングの“オージー(Aussie)”ではなく、オーストラリアン・ライターズ・ギルド(Australian Writers’ Guild: AWG)が授与する賞で、だがAWG賞ではなくAWGの後にIE(インタラクティヴ・ゲイムズ)を足してAWGIE(オージー)賞と呼ばれ、その名の通り映画やテレビ、ラジオに舞台などの脚本だけでなくゲイム用の脚本までが対象になる。オージー賞も第1回の授賞式が1968年と60年近い歴史がある。

【映画に出てくる実在の地名】コリンとヘレンが互いに好意を抱いていることを知り、いざ一夜をともにしようとなった時に、どちらもシングルではないため当然、ホテルでとなり、コリンが「マンリー、いやアーターモンのホテルはどうだろう?」と言う地名はどちらも実在。マンリーはシドニー北郊にある有名なマンリー・ビーチがあるサバーブで観光客にも人気なことから大小ホテルも多い一方、やはりシドニー北部のアーターモンは閑静な住宅街で駅前商店街もごく小規模なためホテルはほとんどなく、なぜアーターモンがコリンの口から出てきたのか謎。

【映画に出てくる実在のテレビシリーズ】本作のセリフに登場する「ダラス」「マイアミ・ヴァイス」はどちらも実在のアメリカの連ドラのタイトルで、日本でもオンエアされた「ダラス」(1978〜1991)と「特捜刑事マイアミ・バイス」(1984〜1989)のこと。

STORY
 メルボルンで妻子と暮らす映画脚本家コリン(ジョン・ハーグリーヴス)はかつてオーストラリア映画協会賞の脚本賞も受賞したこともある売れっ子だったが最近スランプ気味で、映画の都シドニーでの再起を夢見て、嫌がる妻ケイト(ロビン・ネヴィン)を説得し、2人の子供たちと家族4人でシドニーへ移り住む。コリンはとある業界人のパーティでこちらも野心旺盛な脚本家のマイク(クリス・ヘイウッド)と知り合い、2人はプロデューサーに売り込むための映画の脚本を共同執筆することになる。そのパーティにはマイクの恋人のヘレン(ニコール・キッドマン)も来ていたが、その場にマイクと一緒にいなかったことからコリンはマイクとヘレンが恋人同士だとは知らず、美しいヘレンに一目惚れし…。

●ニコールキッドマン出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「虹蛇と眠る女」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」「ニコール・キッドマンの恋愛天国」「デッド・カーム/戦慄の航海「最も危険な悪女(おんな)」ニコール・キッドマン in シャドウ・オブ・ブロンド」「BMXアドベンチャー」「ブッシュ・クリスマス

クリスヘイウッド出演のその他のオージー映画:「ジンダバイン」「キス・オア・キル」「シャイン」「ミュリエルの結婚「最も危険な悪女(おんな)」英雄モラント/傷だらけの戦士

オーストラリア国内のDVD販売元による「最も危険な悪女」冒頭シーン

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