「全体的に歌舞伎の舞台を体感しているような
肌触りがあってもいいんじゃないかと思って」
独占インタヴュー
李相日(リ・サンイル)監督
Lee Sang-il
(Director of the film “Kokuhō”)
「国宝」撮影現場で渡辺謙(左)と打ち合わせする李相日監督(©️Shuichi Yoshida/ASP ©️2025 “Kokuhō” Film Partners/以下同)

全豪主要5都市で開催中の2025年度「日本映画祭」において5都市すべてのオープニング作品に選ばれた新作映画「国宝」。今年5月の仏カンヌ国際映画祭ではなんと異例の6分間にわたるスタンディング・オヴェイションを受け、来年3月開催の米アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも決定。世界中の話題を集めている同映画を手がけた李相日(リ・サンイル)監督のZoom独占インタビューに成功!
映画「国宝」は今年6月の日本での封切りから2カ月後に実写邦画としては日本国内で22年ぶりに興行収入が100億円を突破、その後もロングラン上映が続き11月下旬には「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の173億5,000万円を抜いてこちらも22年ぶりに実写邦画興収歴代1位の記録を塗り替えた。3時間弱という長尺に加え、アクションなどではなく純然たるドラマ映画、さらに現代では日本人でも慣れ親しんでいない人が少なくない歌舞伎の世界が舞台という、興収面の期待値では不利な条件が3つもそろっていた映画がここまで日本で大ヒットした理由は何だったと李監督自身は考えるか、まずは聞いてみた。
「歌舞伎に関しては確かに若い世代ほど馴染みは薄くなっているものですけど、裏を返せばある意味、新しい発見ができる要素もあるというか、関心がないからこそ新しい関心を持つきっかけさえあれば、歌舞伎の世界は非常に広がりと時間的な蓄積があるので、そこに娯楽的にも芸術的にも見いだせるものはたくさんあるという要素があったんじゃないかと。3時間ということもですけど、アクションは確かにないものの、例えばこの作品も実はVFX(※ヴィジュアル・エフェクト)やCGなどはそれなりに使ってはいますが、基本的にはCGを多用したりということはなく、やはり生身の俳優という人間がそれぞれ自身の俳優としての何か大げさに言うと俳優生命を懸けて、自分自身を極限まで追い詰めて演技を披露する、その身体の熱量みたいなものが伝わったんじゃないか。あとは映像を含めて音響等、やはりこれは映画館で観るべき迫力というものをきちんと組み立てることができた。そういった点が評価につながったのかなと思っています」
主人公・喜久雄役の吉沢亮

李監督は、主人公・喜久雄役は吉沢亮でと最初から考えていたとのこと。映画の公式サイトの監督のコメントでも吉沢亮を絶賛しており、彼の何がそこまで監督を引きつけたのだろう?
「言葉で何度も説明してもなかなか的確に伝えられなくて困るんですけど(笑)。彼自身のもちろん外面的な美貌もあるんですけど、それ以上に何か非常に空虚な“空洞”を抱えているような面影、眼差しを持っている人で、追えども追えども掴みきれないようなシルエットを感じさせるところがあるんですよね。それはほかの俳優さんにはない彼独特の性質なので、そういう性質が喜久雄には絶対的に欠かせないと思っていました」
圧巻の舞台シーンも見どころ

オープニング・シーンでは和やかな新年会の最中、幼い喜久雄の目の前で永瀬正敏扮する喜久雄の父が撃たれて命を落とす。そこからして既に歌舞伎の舞台を見るようなドラマティックさを感じさせるが、このシーンの演出も意図してのものだったのだろうか?
「そうですね、全体的にこの3時間の映画が、ひとつの歌舞伎の舞台を体感しているような肌触りがあってもいいんじゃないかと思っていて、あからさまではもちろんないんですけど、(永瀬正敏が)雪の上で倒れるシーンももちろんそうですし、色彩とか美術においても何か舞台を錯覚させるような仕掛けを随所に埋め込んだつもりです。
「国宝」は芥川賞作家・吉田修一のベストセラーが原作で、李監督が吉田作品を映画化するのは「悪人」「怒り」に続き今回が3作目。映画化に当たって原作者からのリクエストのようなものはあったのか?
「特別リクエストというのはなく、ただ僕も吉田さんとはかなり親密に今までもご一緒してきたので今回も脚本開発の時点から吉田さんにいろいろ相談しながらやってきています。『歌舞伎のシーンを見てみたい』っていうのはおっしゃってましたね。映画の中での歌舞伎のシーンがどんなふうになるのかが楽しみだって」
実の兄弟同然のように成長していく少年喜久雄(黒川想矢:上)と少年俊介(越山敬達)

これまでに影響を受けた映画監督はと尋ねると、日本人では今村昌平、黒澤明、溝口健二、海外ではマーティン・スコセッシ、エドワード・ヤン、クリント・イーストウッドの名を挙げ、その中には含まれなかったが「国宝」は市川崑監督が得意とした華麗なる映像美も彷彿させる。オーストラリアで開催の2025年度日本映画祭において「国宝」はシドニーでは当初11月27日から12月1日まで8回の上映予定だったのがあっという間にソールド・アウトとなったことを受け、追加、さらに追加と12月6日まで合計21回へと上映回数を拡大したが、封切り前の11月19日時点で追加上映分も含みすべて完売となり、それだけオーストラリアでも並々ならぬ関心を集めている映画だといえるだろう。
【追記】全豪5都市で開催の2025年度「日本映画祭」において「国宝」が軒並みソールド・アウトとなったことを受け12月11日から24日まで、日本映画祭より多い全豪7州/地域・合計20館での「国宝」上映決定! 内訳はニュー・サウス・ウェールズ州5館(シドニー4館+バイロン・ベイ1館)、首都特別地域キャンベラ1館、ヴィクトリア州7館(メルボルン6館+バララット1館)、クイーンズランド州3館(ブリスベン2館+ゴールド・コースト1館)、西オーストラリア州パース2館、南オーストラリア州アデレード1館、タスマニア州ホバート1館、各都市での上映館などの詳細は「国宝」オーストラリア公式サイト(kokuho.com.au)にて!
Interview & text by Kengo Hasuo
映画「国宝」STORY(※公式サイトより原文まま)
後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄(吉沢亮)は、抗争によって父(永瀬正敏)を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介(横浜流星)と出会う。正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく…。
【ジャパラリア公式YouTubeチャンネル最新投稿】
●シドニー・レストラン取材:居酒屋侍
●シドニー店舗取材:ゲンキ・マート
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