有名バンドを夢見る若者たちのすがすがしさ(映画「ガレージ・デイズ」)

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※2025年11月2日更新

ガレージデイズ

原題:Garage Days

(オーストラリア2002年公開、日本2004年DVD化/1時間45分/MA/青春映画/DVD、Dsney+、YouTubeムービー、Googleプレイ、Amazonプライムで観賞可能)

監督:アレックス・プロヤス
出演:キック・ガリー/ピア・ミランダ/マートン・チョーカシュ/マヤ・スタンジ

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「クロウ/飛翔伝説」(1994)、「ダークシティ」(1998)、「アイ, ロボット」(2004)、「ノウイング」(2009)などの一連のヒット作によってハリウッドでの地位を築き上げているオージー監督アレックス・プロヤスが手がけた2002年のオーストラリア映画。本作の2年前に別のオージー映画「アリブランディを探して」(2000)でそれぞれ等身大の高校生役を演じたキック・ガリーとピア・ミランダが再共演、「アリブランディ〜」同様ここでも恋人同士役かつ同じアマチュア・バンドで活動する仲間同士でもある。ほか「ロード・オブ・ザ・リング」1作目(2001)と3作目(2003)のケレボルン役が海外で知られるマートン・チョーカシュ(「デッドユーロップ」「ディア マイ ファーザー」)がロック界の売れっ子プロデューサー役、さらに上記アマチュア・バンドのマネジャー役でラッセル・ダイクストラ(「ディア マイ ファーザー」「ケリーギャング」「ランタナ」「ペイパーバックヒーロー」)が出演、全編物語の舞台であるニュータウンなどシドニーで撮影(クライマックスの大規模な野外音楽フェスのシーンは1996年から2012年まで続く人気を博した実在のフェス「ホームベイク」で撮影)、翌2003年には米サンダンス映画祭にも出品され、全豪映画界で最も権威ある第44回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)においていずれも受賞は逸したが助演女優(マヤ・スタンジ)、音響、美術賞の3部門にノミネイトされた。本作から演技部門でAFI賞候補となったのはマヤ・スタンジ(「プリンシパル」「美しい絵の崩壊」「ヘッドオン!」)だけだが、前述の「アリブランディを探して」はピア・ミランダの劇場映画デビュー作で、ミランダはAFI賞主演女優賞を受賞、ラッセル・ダイクストラも1999年の劇場映画デビュー作「ソフト・フルート」で早々にAFI賞主演男優賞を受賞した実力派だ。ちなみにピア・ミランダは日本でも地上波でオンエアされたオーストラリアの大人気連続ドラマ・シリーズ「ウェントワース女子刑務所(Wentworth)」シーズン3(2015)に囚人ジョディー役でも出演している。

左からベイス・ギタリストのターニャ(ピア・ミランダ)、ヴォーカルのフレディ(キック・ガリー)、バンド・マネジャーのブルーノ(ラッセル・ダイクストラ)、ドラマーのルーシー(クリス・サドリナ)、ギタリストのジョー(ブレット・スティラー)

ギタリスト、ジョーのガールフレンド、ケイト役で本作出演者の中から唯一AFI賞助演女優賞候補となったマヤ・スタンジ

敏腕プロデューサー、シャド役のマートン・チョーカシュ(右)
 

 ギリシャ系両親の下、エジプトで生まれたプロヤス監督は3歳の時にオーストラリアへ移住、頭文字を取ってアフターズ(AFTRS)と呼ばれるオーストラリアの一流映画学校で学んだ後、当初はミュージック・ヴィデオ(MV)の監督としてキャリアをスタート、早い段階で渡米し、INXS(インエクセス)やクラウデッド・ハウスなど当時一世を風靡したオージー・ロック・バンドのMVを手がけMTVやCM業界で頭角を現していった。1989年の劇場映画監督デビュー作「スピリッツ・オブ・ジ・エア」が1990年度ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で特別賞を受賞するなど高く評価され、1994年の「クロウ」でハリウッド・デビューへと至った。冒頭の監督作品リストからも分かる通りSFやアクションものに強いというイメージがあり、監督自身が脚本も書いた本作は、完全にごく普通のオージーの青年たちを描いた映画ということでかなり異色である。だが遊び心からだろう、主要男性キャラのひとりにつきまとう謎の女がいて、彼にはちゃんと恋人もいるのに毎回、突如何の前触れもなく登場する。彼女は一体何者なのか!? というのも見てのお楽しみである。

左からバンド・マネジャーのブルーノ(ラッセル・ダイクストラ)、ヴォーカルのフレディ(キック・ガリー)、ベイス・ギタリストのターニャ(ピア・ミランダ)

左からドラマーのルーシー(クリス・サドリナ)、ギタリストのジョー(ブレット・スティラー)、ヴォーカルのフレディ(キック・ガリー)、ベイス・ギタリストのターニャ(ピア・ミランダ)

 シドニーのニュータウンを舞台に、有名バンドになることを夢見てバンド活動を続ける若い男女たちの姿がユーモラスに、そしてほんのちょっぴりシリアスに描かれる。バンド・メンバー4人とそのマネジャーの主要キャラ5人は全員、ある意味“ゆるい”。こんなんでホントにプロになれるんだろうかという性格&生き方だが、それもプロヤス監督の狙いとして観ると楽しめる。ニュータウン界隈を散策していると、本当にこの映画に出てくる彼らのように楽器を抱えて街を談笑しながら歩く同じような男女のグループとすれ違うことがある。日々のドタバタの中で、時に酒やドラッグに走ったりと夢だけを追っては生きていけない若者たちの姿は、だがそれでもパワーに満ちていてすがすがしい。映画のエンドクレジットはリヴィングとキッチン兼用のワンルームタイプの部屋にマートン・チョーカシュも含む上記主要キャラ全員がまずは一人ずつ登場して最後には全員で踊る様子をカットなしの長回しで収めたミュージック・ヴィデオ風の演出で、最後まで楽しませてくれる。

【映画に見るオージーパブ文化】オーストラリアのパブの多くでは定期的に生バンドのライヴ・パフォーマンスを開催、いずれも無名のロック・バンドではあるが客は自分が飲むドリンク代以外は無料で生演奏を楽しめるようになっている。オーストラリアにもオーディション番組は存在するが、ロック・バンドの場合、ほとんどがまずはパブでのライヴ活動を経て徐々に人気を得てレコード会社の目に留まりデビューするという流れで、有名ロック・バンドを目指すミュージシャンたちにとってパブはその“登竜門”ともいえる。日本の場合、ライヴ・ハウスは会場費がかかるためチケットを有料にするなどバンド・メンバーたちの金銭的負担が強いられるが、オーストラリアではパブ側がバンドにギャラを支払うため、もちろん無名バンドはそれだけでは食べてはいけないが、メジャー・デビューを夢見るミュージシャンたちにとっては日本よりハードルが低いといえ、本作のように無名バンドなのに専属のバンド・マネジャーがいるのはそういったパブでのライヴをアレンジしたり金銭管理をするため。オーストラリアの元首相ポール・キーティング(在任期間:1991〜1996年)が政治家になる前はバンド・マネジャーだったというのは有名な話。

STORY
 シドニーのニュータウン。ロック・スターを夢見て仲間たちと組んだアマチュア・バンドのヴォーカルを務めるフレディ(キック・ガリー)はCDショップの販売員で、同じバンドのベイス・ギタリスト、ターニャ(ピア・ミランダ)と恋人同士。だがフレディはギター担当のジョー(ブレット・スティラー)の彼女ケイト(マヤ・スタンジ)に引かれる。そんなある日、フレディは全豪音楽界の敏腕プロデューサーのシャド(マートン・チョーカシュ)と偶然知り合う機会を得て…。

「ガレージ・デイズ」予告編

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