
※2025年12月19日更新
「ニコール・キッドマン in シャドウ・オブ・ブロンド」
(旧邦題:「世紀末殺人ゲーム」)
(テレビ映画)
原題:Nightmaster
(旧原題:Watch the Shadows Dance)
(オーストラリア1988年テレビ放映、日本ヴィデオ・ソフト化/1時間27分/PG/学園サスペンス/DVDで観賞可能なほかPlexで公式無料配信!→ watch.plex.tv/watch/movie/nightmaster)
監督:マーク・ジョフィ
出演:トム・ジェニングス/ニコール・キッドマン
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
オージー・オスカー女優ニコール・キッドマン(「愛すべき夫妻の秘密<Being the Ricardos>」「めぐりあう時間たち<The Hours>」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)がハリウッド進出を果たす前年の1988年、21歳の時に出演した最後のB級テレビ映画。日本のヴィデオ市場で初めてリリースされた際の邦題は「世紀末殺人ゲーム」だったが、キッドマンが世界的スターとなった後に彼女の名を冠したタイトルに変更し再発売された。本国オーストラリアでの原題も、1988年のオンエア時は「ウォッチ・ザ・シャドウズ・ダンス」だったが、後にDVD化されるに当たって「ナイトマスター」と改題され、上記に掲載のDVDのジャケ写からも分かる通りキッドマンの顔のアップの写真と彼女の名前が大きく掲載された。とはいえキッドマンは本作の主役ではなく準主役である(ソフト化に当たって出演者の中で一番有名な俳優を、主役でないのにあたかも主役のように印象付けて売り上げを伸ばすのは、日本だけではない世界共通の“あるある商法”ということだろう)。監督はテレビ畑での活躍が主だがベン・メンデルソーン主演でトニ・コレットとジャッキー・ウィーヴァー、レイチェル・グリフィスという後に3人ともオスカー候補となるオージー女優共演という豪華キャストの劇場映画「ハーモニー(1996年版)」も監督したことがあるマーク・ジョフィ(「ハウス・オブ・ボンド」「ドリッピング・イン・チョコレート」「ワイルド・ボーイズ」)。本作はオーストラリアとカナダ合作だが、キャストもスタッフもほぼ全員オージーを起用、全編シドニーで撮影された。
主人公の高校生ロビー(トム・ジェニングス)と文学教師のソニア・スペイン(ジョアン・サミュエル)
ジャンルとしては“学園サスペンス”ということになり、ストーリーはペイントガンを使っての真夜中の“戦争ごっこ”に熱中している高校生たちが、次第にシリアスな事件へと巻き込まれていくというもので、近未来のシドニーを舞台にしているところがポイント。機械音声の校内アナウンスが流れたり、学生全員がラップトップを持参して授業に望んだり(ノートタイプの薄型ではなくかなり大きめなのはご愛嬌)、DVDが出てきたりと、現代では当たり前になっている、だが1980年代後半当時にはまだ存在しなかった描写が3つも登場するのは驚きだ(※CDは1982年生まれだがDVDが最初に販売されたのは1996年。また機械音声も電車やバスなどの公共交通機関は別として、校内アナウンスに採用している学校は現代でも皆無に等しいのではないだろうか)。
準主役であるキッドマンは、デビュー当時の彼女が得意としていた“ちょっと勝気だが根は素直で優しい女の子”を、まだあどけなさの残る表情で好演。
女子高生エイミー役のニコール・キッドマン
キッドマン以外の俳優陣で日本人にもお馴染みの顔ぶれはいないが、主人公の高校生ロビーを演じるトム・ジェニングスは本作の3年前、大ヒット・シリーズの3作目「マッドマックス/サンダードーム」(1985)に子供たちの部族のリーダー、スレイク役で出演しており、正統派の美青年でもっと飛躍してもよさそうなものだったが俳優としてのキャリアは1992年を最後に途絶えている。
ほかには高校の文学教師で生徒思いのソニア・スペイン役にこちらも「マッドマックス」1作目(1979)でメル・ギブソンの妻役を演じたジョアン・サミュエル。また、元軍人として戦地に赴いたこともある空手指導員で才能溢れるロビーを目にかけ指導熱心だがどこか謎めいたスティーヴ・ベック役のヴィンス・マーティンは、トム・ハンクス主演のハリウッド映画「キャスト・アウェイ」(2000)にパイロット役で出演。ロビーのことを嫌っている男子学生ガイ役のクレイグ・ピアースは俳優としてはパッとしなかったがもともとバズ・ラーマン監督の同級生でラーマン監督の劇場映画デビュー作「ダンシング・ヒーロー」(1992)から最新作の「エルヴィス」(2022)まで、「オーストラリア」を除くすべてのラーマン監督作品(「華麗なるギャツビー」「ムーラン・ルージュ」「ロミオ+ジュリエット」)の共同脚本を手がけ、「ダンシング・ヒーロー」でAFI賞最優秀脚本賞を受賞するなど脚本家として大成。ヴィンス・マーティンもクレイグ・ピアースもトム・ジェニングス同様イケメン。
空手指導員スティーヴ・ベック役のヴィンス・マーティン
なにかとロビー(左)に絡んでくるガイ(クレイグ・ピアース)
もうひとり、今ではすっかり全豪音楽界の大御所ミュージシャンとなった若き日の(といってももともと老け顔だが)ポール・ケリーが劇中、パブで演奏するバンドのヴォーカリストとして登場し、ケリーは俳優として出演しているわけではなく単にパブの舞台で歌うだけなのだが、これが映画の中で何曲も歌う。
B級であることは間違いないが、全豪映画界で最も権威ある第29回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では“テレビ映画部門”の最優秀監督賞候補となり(マーク・ジョフィ監督は本作では受賞できなかったが同じ年に別の作品で“テレビミニ・シリーズ部門”の監督賞にノミネイトされそちらは見事受賞、さらにニコール・キッドマンも別のミニ・シリーズ「ヴェトナム」で同年度AFI賞テレビミニ・シリーズ部門最優秀女優賞を受賞)、決してどうしようもない駄作ではない。ハラハラさせられる展開もちゃんと用意されているし、アクション・シーンも決してチャチではない。ドラッグ絡みの中盤のアクシデントは起承転結の“転”に当たり、発想そのものは悪くないが、普通は警察に直行するだろうというところがそうはならない。ストーリー上、“そうできない理由”は描かれているが説得力が薄い。また、主人公ロビーは空手だけでなく鉄棒に床運動に剣道にキック・ボクシング…といくらなんでもここまで万能にこなせる人間はいないだろうという設定もあり得ないなど、脚本は弱いがもっと肉付けすればテレビ映画としてではなく劇場映画向けにもなり得るストーリーで、学園サスペンスとしてはなかなか上出来な部類だ。
もう一点、興味深いのは、オーストラリアでは大人向けの2時間ドラマではなく高校生の登場人物たちがメインの、10代や若者の視聴者を対象としたテレビ映画の存在自体かなり珍しい。何より本作の翌年、「デッド・カーム/戦慄の航海」でハリウッド進出を果たすニコール・キッドマン最後のB級テレビ映画という意味でも貴重な作品だといえるだろう。本作は公式配信サイトPlexで全編無料配信されているから(こちら!)オージー・オスカー女優キッドマンの若かりし日の姿と演技を見るためにもぜひ一度観賞されたし。
STORY
近未来のシドニー。とあるハイ・スクールの学生でスポーツ万能のロビー(トム・ジェニングス)やエイミー(ニコール・キッドマン)たちの同級生グループは、真夜中に廃墟ビルに集まってペイント・ガンを手に競う戦争ごっこに夢中。毎回勝利を収めるのはロビーだったが、ある夜、ロビーはもう少しで参加者のひとりを高所から突き落としそうになり、皆、遊びのつもりが徐々にシリアスになりすぎていたことに恐れをなす。文学教師のソニア・スペイン(ジョアン・サミュエル)は、ロビーが尊敬する体育教師スティーヴ・ベック(ヴィンス・マーティン)が、実はロビーに悪影響を与えているのではと疑いを抱き…。
●ニコール・キッドマン出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」「虹蛇と眠る女」「オーストラリア」「ムーラン・ルージュ」「ニコール・キッドマンの恋愛天国」「デッド・カーム/戦慄の航海」「ニコール・キッドマン in シャドウ・オブ・ブロンド」「ウインドライダー」「BMXアドベンチャー」「ブッシュ・クリスマス」
※テレビ映画「ニコール・キッドマン in シャドウ・オブ・ブロンド」はPlexで公式無料配信!→ watch.plex.tv/watch/movie/nightmaster)
「ニコール・キッドマン in シャドウ・オブ・ブロンド」予告編


