「(坂本龍一は)僕にとっては“ただの父親”ですので(笑)」
独占インタヴュー
空 音央監督
Neo Sora

近未来の東京の、とある高校を舞台にした2024年公開の映画でヴェネツィア国際映画祭作品賞候補となった「HAPPYEND」が6月に開催された本年度シドニー映画祭公式参加作品として3日にわたって上映された。同映画で長編ドラマ映画デビューを果たした空音央(そら・ねお)監督はシドニー映画祭には来豪参加しなかったが、日本の空監督とZoomを使っての独占インタヴューに成功!
「映画『HAPPYEND』はユウタとコウという2人の高校生たちの友情の物語で、互いの政治観の違いによってその友情に次第に亀裂が生じていくという話です」
Zoom画面越しの空音央監督は穏やかな雰囲気を漂わせ、一つひとつの質問に答えてくれた。空監督の長編ドラマ映画デビュー作「HAPPYEND」は近未来の東京を舞台にしつつも明らかに近未来的な描写は、例えば高層ビルの谷間の上空にニュース速報の文字が映し出されるといった程度でほかは今現在の日本とほとんど変わりない。
「どれほど未来感を出すのかいろいろ悩んだんですけど、昔のSF映画などもそうで、どれだけ頑張って未来を想像しても逆に現代を象徴してしまうようなことがあったりしますので、そこに引っ張られすぎず、本作を観ている間はそれが近未来だということをあまり感じさせないよう意識しました。その中で、パッと雲にネオンサインが現れる時に、『あ、そういえばこれは近未来の話だった』というふうに観客に思い出させる程度で」
映画「HAPPYEND」より

もう一点、近未来という設定では舞台となる高校校舎内のAI機能を伴う監視カメラ導入による“監視社会”で、校則違反者にはその場でAI音声によって“減点”が言い渡され度重なると停学処分になったりと学生一人ひとりが常に見張られているというもの(※上に掲載の写真)。SF作家・眉村卓(まゆむら・たく)の小説を映画化した大林宣彦監督、薬師丸ひろ子主演の1981年公開の「ねらわれた学園」でも校内の秩序を守るためパトロール隊が結成されるという描写があることを指摘してみたところ、空監督が生まれる前の映画だが、空監督は同映画のことを知っていた。
「直接的には影響を受けていないんですけれども、大林宣彦さんの言葉のひとつに『映画はジャーナリズムである』というのがあって、その言葉が妙に自分の中で反響してよく思い出します。事実を描いているわけではないけれども時にはドキュメンタリーよりある種の真実をとらえられるのが映画であると(大林監督は)考えていると思い、それはすごく的を射ているなと思います」
本作に盛り込まれた別の要素は“地震”、そして“人種問題”で、舞台となる高校には在日韓国人に台湾人、アメリカ人などやはり近未来の日本を想像させるような多種多様のバックグラウンドを持つ生徒たちが集っている。
「映画の中では3つの地震をテーマにしています。僕自身の政治性の目覚めが3.11(※2011年の東日本大震災)で、反原発運動に乗じて在日韓国人や中国人に対するヘイト・スピーチがすごくて日本はこんな国だったんだっけと思い、地震と政治の接点を追うようになりました。1923年の関東大震災でも地震の混乱の中で在日外国人の大量虐殺が行われ、近い将来また起こるであろうといわれている大地震の際に同じことが繰り返されないといえるだろうか、日本はどうなっているだろうか、という思いを盛り込んでみました」
主要登場人物はユウタとコウの2人の主人公を含む男子4人、女子2人の高校生で、キャスティングに当たっては6人中4人が本作が劇場映画デビュー作という新人、さらに、撮影時には1人だけ10代だったがそれでも既に高校を卒業していた年齢で(19歳)、ほかの5人は全員20代。そこそこ人気のある10代のアイドルなりを起用して観客動員を狙うのが一般的な昨今の日本の映画界でかなり珍しい。
「単純に僕が日本のアイドル文化を知らないということもあります(笑)。オーディションには既に知名度が高い人もいましたし、現役高校生もいましたが、オーディションで発見したのが、実際の高校生が高校生を演じると自意識が入って、はっちゃけられず抑え気味になってしまう人が多く、20代前半だけどまだ高校時代のことを覚えている年代だと自然に役に入れるという傾向があったということです。あとは単純に(自分と)気が合うかということも(笑)。映画を制作すると長い期間、一緒に仕事しますので」
空監督の実父は2023年に他界した世界的に名高い音楽家・坂本龍一さんで、偉大な父を持ったことについて尋ねてみた。
「よく聞かれるんですけど、僕にとっては“ただの父親”ですので(笑)。どうしても比べられる部分もありますが、まあ、あんまり考えないようにしています」
記者は空監督がまだ5歳だった1996年に坂本龍一さんが来豪した際、坂本龍一さんと、そしてその時はその女性がそうだとは知らなかったが空監督の実母にもシドニーで会ったことがあり、記者はオージー・メディア各社による坂本龍一さんの取材に際し通訳として半日間お二人とご一緒した。そのことを伝えると、とても丁寧に「(父が)お世話になりました」と言ってくれた。30年近くを経て、坂本龍一さんの実子が映画監督になり、取材することになろうとは当然思ってもおらず、記者にとって、とても感慨深い空監督との取材だった(※英語が堪能な坂本龍一さんになぜ通訳が必要だったかなどは、記者がその際のエピソードを紹介したジャパラリア公式YouTubeチャンネルの投稿でチェックを → こちら!)。
Interview and text by Kengo Hasuo
【ジャパラリア公式YouTubeチャンネル最新投稿】
●シドニー・ニュース:「ケリス・ウィン・エヴァンス展」
●シドニー・ニュース:「ヨルングの力〜イルカラ・アート展」
●シドニー・レストラン取材:スシトレイン・ボンダイ・ジャンクション店
(※動画視聴は↓以下の画像ではなく↑上の赤い太字をクリック♪)

